カルデア一行に課せられた任務は周辺の村を巡り、檄文を配れというものだった。要は彼らに叛逆軍の存在を知らせ、可能であれば協力してくれるよう説得しろということだ。無理そうでも臨機応変に対応してくれ、とのこと。
ちなみにカルデアから要求したシャドウボーダーの修理に必要な素材の半分は前払いとして頂いた。その時ゴルドルフが文句を言っていたのはまた別の話。
『一度、こちらに合流してもらえるかな?今手に入れた食料を運んで欲しい。その他、シャドウボーダーを修理する前に、やらなければならない事があるそうだよ』
そしてホームズの案により村に寄った後、一度シャドウボーダーに帰ることになったのだった。
「一つ目の村だ。んじゃ手筈通り、俺以外全員フードを被ってく」
パツシィの指示で全員フードを被る。
「今度はイシュタル神もちゃんと被ってくださいね」
「分かってるわよ!」
「止まれ!何者だ!」
村の入り口の門番に早速声を掛けられる。
「えーと、我々は暴君暗軍たるイヴァン4世に正義を行使するための軍である!こちらには首領より檄文を届けにきた!受け取り、返答を聞かせて欲しい!」
「⋯⋯叛逆軍⋯⋯!」
こちらの言い分を聞いて警戒しているようだった。
「いいだろう、中に入れ!」
すんなり入らせてくれたためこちらも警戒態勢に入る。誠は腰のマシンガンをリロードする。
その村に入ると村長らしきヤガが待っていた。そのヤガにパツシィが説明する。
「⋯⋯という訳で、可能であれば食料と薬品の供給を」
「老いたのか、拐かされたのか。⋯⋯あるいわ、このロシアを取り巻く"何か"のせいなのか。いずれにせよこも3ヶ月、皇帝ツァーリは言葉を発さず、オプリチニキが暴虐が繰り広げられている。この村が被害に遭ってないのは、単純に貧しく、主要な国道からも外れているからだ」
そこで一呼吸置いてヤガは話を続ける。
「だがな、お前たち。それでも皇帝は皇帝だ。我々が日々を営めるのは、あの御方のお陰だ。叛逆軍には協力できない」
この状況で未だに皇帝を支持するなんて見上げる愛国心だ。
「⋯⋯だが、オプリチニキの暴走は恐ろしい。あれはヤガではなく、かつて存在したヒトでもない。皇帝にあの暴威も押し留める気がないなら、我らも自衛するしかない。となれば、気になるのは貴様たちの力量だーーーー」
というわけで村の鍛えているヤガと魔物と殺しなしの勝負をすることになったのだが⋯⋯。
こちらのはポンコツ女神が二人。うっかり力加減を間違えて殺しかねない。
「「どうしてこっちを見るのよ(かしら)!?」」
「立香も何か言ってやってくれ」
「あはは⋯⋯二人ともどこか抜けてる性格だからじゃないかな?」
これには立香も苦笑を漏らす。
ここだけ話、エレちゃんなんてシャドウボーダーの生活中に俺にコーヒーもブチ巻いた回数なんと3回!!!
などと雑談している間に相手の方は準備が完了したようだった。
「じゃあ、みんな峰打ちでよろしく!」
立香の掛け声のより戦闘を始まった。まぁ、戦闘と言ってもこれもまた一方的なわけだが。
立香と誠がガンドで敵の動きを止め女神二人が峰打ちするという戦い方だ。
「本当に一人も殺さなかっただと、だと⋯⋯。そこのフードの二人はもしや⋯⋯サーヴァントか⋯⋯?」
「その通りだ、爺さん」
驚いた顔をした村長が言った内容に誠が肯定する。
「サーヴァントというものの存在は知っておったがここまでとは⋯⋯。よかろうこの村は全面的に叛逆軍に協力する」
食品や薬品などは得られなかったものの、これから訪れる村での話が円滑に進むように手紙を貰った。
その二つの村とも最近はあまり連絡が取れてないらしくカルデア一行は急ぐことにした。
「ひどい⋯⋯!」
マシュが声が荒げる。それもそのはず、その次に行った村が崩壊していたのだ。
「あー、こりゃダメそうだな⋯⋯。次の村に行くことにしよう」
「⋯⋯。あの、生存者を探すべきなのでは?」
パツシィの帰ろうとする腕をマシュが掴んで止める。
「いねぇって、これは」
そう行って立香たちがあたりを見回す。吹雪が吹き荒れ、建物がのほとんど崩壊し見る絶えない状況だ。
「おい名探偵、シャドウボーダーの諸君。そちらから生体探査を頼む」
『シャドウボーダーの探査機能は旧型でね、直接呼びかけた方が早い』
ホームズの返事を聞き皆が生存者を探すため声を上げる。
「了解だ」
「おーい、誰かー!」
立香が思い切り叫ぶ。
「うっ⋯⋯。こ、こっちだ⋯⋯」
近くの崩れた家の瓦礫の下から声が聞こえてきた。
「マスター!」
「大丈夫ですか?」
マシュと立香が駆け寄る。
「ああ⋯⋯気絶していただけだからな⋯⋯」
「一体何が起きたんだ?」
「盗賊だ⋯⋯。こっちも抵抗したんだが⋯⋯。四日間で攻め落とされた⋯⋯くそ。俺の他に生きてる奴はいるか?」
ヤガはパツシィの問いに悔しそうに答える。
「残念ながら、それで、その盗賊連中はどこに向かったんだ?」
「近くの村のどちらかだ」
とすると、次に行く村が襲撃されている可能性がある。
薬品と食料を置いて立香たちは駆け出した。
走ること10分、村のある方角から赤色の狼煙が上がっていた。
「あれは救難用の狼煙だ!」
パツシィが叫ぶ。
「まだ間に合うかも!」
立香がそう言った直後前方から盗賊らしきヤガが走ってくるのが見えた。まるで何かに怯えているかのように。
「どけ!そこをどけええええええ!どかねぇなら殺してやる!」
「エレちゃん、よろしく」
剣も構えて突進してくるが、間髪入れずにエレシュキガルがヤガの足をぶち抜く。
「ぐがっ!」
その場にヤガが倒れこむ。よく見るとそのヤガは右腕がなかった。
恐る恐る誠がヤガに近づき確認するが気を失っていた。
「大量出血でもうじき死ぬだろうな、これは」
「そんな⋯⋯。でも、どうして腕がなかったんだろう」
立香の疑問も最もだ。何せこのロシアにきてみた武器と言えば銃と到底すんなり四肢を切断できるとは思えない剣。
「しかし、よく斬れてんな」
その腕の断面には凹凸がなく一振りで両断されたことがわかる。斬った者は相当な腕前のようだ。
「考えるのもいいですが、今は急ぎましょう先輩!」
「これは⋯⋯。一体、何が⋯⋯?」
それもそのはず、着いた村は盗賊に襲われたなんて面影は全くなく、ヤガたちが普通に生活を営んでいた。
「おお、おお」
そこに村長らきヤガに声をかけられた。
「お前さんたち、カルデアの者か?」
そしてそのヤガから驚かずにはいられない単語が飛び出した。
「え⋯⋯!?」
「カルデア⋯⋯!?」
これには誠たちも驚かずにはいられなかった。
「違うのか?」
「いや⋯⋯そうだが⋯⋯」
「ああ、あの時は大変お世話になりました。あの時はお礼も言えず、まことに申し訳ありません」
そっちの話が全く理解できずパニック状態だ。
「あ、救難信号の狼煙が上がりっぱなしでしたな。おーい、誰かさっさと消しておけー!」
「「「「(紛らわしいわ!!)」」」」
「事情を聴かせてください!!」
マシュがかなり食い気味にヤガに事情を聞こうと迫る。
話を聞くところによると、盗賊が襲ってきた2日目、旧種ヒトの姿をして顔を隠した
「おっと、忘れるところだった。叛逆軍の檄文だ。一応目を通して置いてくれ」
「ああ、なるほど。カルデアとは叛逆軍の⋯⋯。命を救われて断る道理もありません。全面的に協力させていただきます」
「よし。三村の内、二村の協力は取り付けた」
「俺たちは他によるべきところがあるから一旦ここで解散だ、パツシィ」
「げ、俺一人で帰れってのか?マコト」
「パツシィは一人の方が身軽でいいんじゃないか?」
「⋯⋯しょうがねぇ、村長に頼んで、双角馬バイコーンを引っ張ってくるわ。んじゃ、報告は俺に任せろ。砦にはなるべく早く戻ってこいよ」
「了解」
そうして誠たちはシャドウボーダーに向かうのだった。