「どうしたんだ以蔵、賭博で有り金全部溶かした人みたいな顔して」
「……」
「え、何本当に全部使ったのか!?」
今は誠と以蔵は情報収集のためカジノに来ていた。こういう場所の方が情報が多く集まると考えたのだ。この国には娯楽がカジノのくらいにしかないため大勢のヤガで賑わっていた。誠はフードを以蔵は三度笠を深く被り顔を隠しているのだが、訳ありのヤガも少なからずいるためかあまり怪しまれる様子もなかった。
誠は賭博で有り金全部溶かした人のような顔をした以蔵を見て呆れていた。
「いやぁ、最初は勝手がよお分からんで負けっぱなしやったけんど最後の方はちょくちょく勝てよったき大丈夫じゃ!」
「何も大丈夫じゃねえよ!?金にだって限りはあるんだからな!?」
誠は以蔵にツッコミを入れながらバックのジッパーをスライドさせる。
「本当にこれで最後だぞ」
そして、念を押すように一言を放ち、後ろ髪をぽりぽりと掻きながらニヤニヤする以蔵に誠は現金を渡した。誠はニートでダメ男の息子に金を渡している気分になった。
「分かってるとは思うけど、情報収集もちゃんとしろよ?」
「分かっちゅう、分かっちゅう。んじゃまたちょっくと行ってくるきのう」
「はいはい、期待してるからな」
こちらの言い分を全く聞いていない様子の以蔵の背を見ながら誠は全く期待などしていないといった様子でため息を吐いた。
「以蔵連れて来たのは間違いだったか……」
誠は憂鬱な気分になりながらテーブルに向き直り、自分の背と同じくらいの高さまで積まれたチップを見やる。勿論、誠はイカサマなどは一切使っていない。過去に何度か誠は父とカジノに来たことがあったが、その時も誠の父が驚くらいには勝ち続けていた。
「ひょっとして、俺カジノで食ってけるんじゃないか……?」
「次、お客さんの番ですよ」
「あぁ、悪い」
ディーラーの声で気を取り直したように、誠はダイスを振った。
――こうなればとことんやってようじゃないか。
「いやぁ、はっはっはっは!」
カジノを出た誠は上機嫌な様子で高笑いしながら民家の家の屋根の上を駆けていた。
かたや、以蔵の方はというと浮かない顔で誠の右後ろ付いて来ている。
「7割方負けたからってそんな顔をしなくてもいいんじゃないか、以蔵君」
「おまん、ええ加減にせえよ!?なんじゃそのうざったい顔!叩き斬っちゃろうか?!」
おどけた調子で笑いながら煽る誠に腹が立ったのか、以蔵は刀を顕現させる。
「やれるもんならな!」
そういって誠は札束をうちわを代わりにして顔を仰ぐ。すると以蔵はその札束だけを叩き斬った。
「うわっ、割とマジで危ないだろ!?」
「おまんが言うたんじゃろうが!」
「本当にやると思わなかったんだよ!」
誠は宙を舞う真っ二つに両断された多くの紙幣を見上げると同時にその場で立ち止まり4階建ての家の屋上から街を一望する。
城を中心に円形に建てられた民家の数々。
家の前で世間話をする二人の女のヤガ。
明日を生きるために必死に働くヤガ。
路地裏では住む場所も金もないため地べたに横たわっているホームレスのヤガ。
カジノでは買ったり負けたりで一喜一憂するヤガ。
もう後がないのか、真剣な面持ちでダイスを振るヤガ。
どれも外見は違えどやっている事は、彼らはまぎれもなく
――
誠は罪悪感が背を這い登ってくるのを感じた。そのまま押しつぶされしまいそうなくらいだったのだろう。
少し前までの誠なら罪悪感なんて覚えることはなかっただろう。だが、誠はたくさんのヤガの生活を見て新たに思うことがあった。
――
誠自身やるべき事とそれがもたらす影響は考慮していたようだが改めてそれがどのようなことが思い知らされたようだった。
「そげなとこで止まってなんかあったがか?」
以蔵の言葉で自分の世界に入っていた誠は現実に引き戻される。
「いや、なんでもない」
誠は行き場のない罪悪感を紛らわすため先ほどから見下ろしているホームレスらしきヤガ達に手持ちの紙幣をばらまいた。
誠達がカジノで手に入れた情報は有益なものが多かった。
曰く、城内では仮面の音楽家が24時間ずっとピアノを演奏しているのだとか
曰く、ヤガの誰もがイヴァン雷帝の姿さえ見たことがない
曰く、よっぱらって城へ間違えて入ってしまったヤガが庭で人間でもヤガでもない身長5メートルくらいの化け物を見たのだとか
曰く、よく城と街を行き来している人間の神父は辛いものが好きだとか
最後のは余計だがどれも参考になるに値するものだろう。
そして、誠達は今地図と情報の数々を照らし合せて難航していた。
「これ多分、城の中心から生えているわよね、空想樹」
あの人工的なものに生えるという表現を使っていいのかという疑問は今は置いておいて、誠も同じ結論に辿り着いていた。
「魔術で隠蔽してるような感じもなかったから多分じゃなくて絶対だ、エレちゃん」
「それでどうするの?」
腕を組み黙っていた武蔵が口を開く。
武蔵の問いに悩むそぶりをしてから誠は答えた。
「もう行っちゃうか」
「立香達はどうするのかしら!?何のために方針を決めたのかしら!?」
「魔術師の勘ってやつがさ、今行けっていってるんだ。時として事前に決めたルールより勘を信じることも大事なのだよ」
誠の返答に頭を悩ませるエレシュキガル。城に攻め込むということは絶対に敵マスターや敵サーヴァントと戦闘になる。それをエレシュキガルは器具しているのだろう。
以蔵はというと壁にもたれ掛かり黙って話だけを聞いていた。
「それに害木駆除は早くするのに越したことはないだろう?」
2日後
「準備はいいか?」
誠達は攻め込むべくして城門の上に潜入していた。
「儂はとっくに出来ちゅうぜよ」
「以蔵も私も準備万端よ、エレシュキガルさん」
以蔵と武蔵は返答を聞いて腹を括ったようにエレシュキガルは顔を引き締める。
「私もいつでもオーケーなのだわ」
「そんじゃ、行くか」
誠は手からエーテライトを取り出し、試しに近場に展開されている結界に接続する。
――敵の本拠地にしてはえらく薄い結界だな。元々侵入者対策などしていないのか……?
だが誠は細心の注意を払って、城そのものを覆っている結界に接続する。勿論のことだが、是は誠だから出来るのであって、平凡な魔術師では演算処理に失敗して、敵の瞬時に位置がバレてしまうだろう。
誠が何事か詠唱を口にしたかと思うと、一時的に城を覆っている結界の機能が停止する。このサイズになると、誠でもハッキングするのは困難なようだ。
「
「全然人がいないな」
誠が城に入って最初に感じたことそれだった。部屋らしき扉はいくつもあるのに人影の一つも見当たらない。
「それはこっちにとっては好都合だわ、早く行きましょう」
誠が武蔵の言葉に頷き、前を見据えた時だった。
西洋風の城内の雰囲気に似ても似つかないサイレンがけたたましく城内に鳴り響いた。
「これ絶対俺たちのせいだよな?でも結界は無効化したはずだが……」
「私達以外に誰がいるっていうのかしら……」
「そうだな……って後ろだ!」
誠が指をさしてその先には大量のオプリチニキが迫ってきていた。その数100はいるだろうか。
まさしく絶望的な状況だ。ここでオプリチニキの交えていると誰にも気付かれずに玉座に辿りつくのは難しいだろう。
「ここは儂に任せて先に行きや」
その時、一人の人斬りが声を上げた。
「それ完全に死亡フラグだぞ、以蔵!」
その手には一振りの刀が構えられてる。今にも敵陣に一人で攻め込んで行きそうな勢いだ。
「それなら私も残るわ」
かつて天元の花と謳われた剣士が誠の不安を取り除くように名乗りを上げた。
流れるように背に掛けてあった二刀の刀を鞘から引き抜き、二天一流の構えをする。
「ほんなら儂も二刀流でも見せちゃろうか!」
それを見た以蔵も感化されたのか、もう一つの刀を鞘から引き抜き
「囲まれたら背中は任せたわよ、以蔵!」
「そげなこと言われんでも分かっちゅうちや!」
そして一瞬だけ振り向いて、
「誠君とエレシュキガルさんは早く先に行って!」
と言ったかと思うと敵を目掛けて突っ込んで行った。
「行くぞ、エレちゃん!」
そう言って誠は立ち止まるエレシュキガルの肩を叩く。
2人は後ろを振り返ることなく駆け出した。
二人の足止めのおかげで玉座の間まではすんなりと辿り着くことが出来た。
「やっと着いたわね」
そこは今までの場所とは全く違う空気が充満しており、先程までいた城とは全く違う場所のようだった。
まるで現実とは違う世界に隔離されているかのような場所に『
誠はその空間に一歩踏み出しただけで謎のプレッシャーが体に押し寄せてくるかのように感じた。これ以上そこへは踏み入れるなと誰かが警告しているかのようだった。
それまで機械的に動かしていた足を思わず止めてしまった誠だったが、その警告を無視してその空間へと次の一歩を踏み出した。
一歩一歩、足を前に押し出す度に前から謎のプレッシャーが押し寄せてくる。吹雪をなか風上に向かって歩く方が何十倍も歩きやすいとさえ誠は思った。
誠が玉座へと続く階段の1段目へと足をかけた時に一段とプレッシャーが強くなり、その正体が玉座に座っている者から抑えることができずに漏れ出す魔力だということに気がついた。
一段また一段と次の段へ足を踏み出す度にその異常な魔力に呑まれそうなり、誠はたじろいでしまう。
誠はカーテンの向こう側の存在を見据えるが、誠達に気がついていないのだろうか、一向に動く気配すら見せない。
自分のような矮小な存在には構うような時間がないのだろうかと誠は考えると、口の中の唾を一気に飲み込んだ。
ようやくカーテンを超えなければ先へと進めることが出来ない段まで来た時、誠は今までなんとか続けてきた足を前へ踏み出すという運動を止めてしまった。
「どうしたの、マスター?」
それまで黙って誠の後ろにピタリとくっついてきていたエレシュキガルが声を上げた。その様子からするにエレシュキガルはこの場の雰囲気に全く呑まれていないようだった。
「いや、ちょっとな」
誠はエレシュキガルの方を向きそう答えると、すぐさま前を向き直り再びカーテンの向こう側を睨みつける。
誠は息を整えるようにその場で肩にかけた対物ライフルを下ろしてリロードする。
「ここから決める」
誠はそう呟くと、ライフルを構えて僅かに視認できる頭と思わしき部分に銃口を向ける。本来、対戦車などに使うそのライフルの威力は絶大な上に魔力で弄っているためサーヴァントといえど無防備の状態で命中すれば決してタダではすまないだろう。エレシュキガルはその様子を固唾を飲んで見守っている。
――この引き金を引けば全てが終わらせることが出来るかもしれない。だが……。
誠の脳裏をよぎるのはこの街で今を生きているヤガ達の姿だった。
「ちょっと、さっき眠りについたばかりなのだから起こすのはやめてくれないかしら」
次の瞬間、誠の躊躇いを見抜いたように第三者が声がその空間に響いた。
誠は慌てて銃口を声の主に向ける。エレシュキガルもその場で戦闘体制に入り、敵を視認する。
声の主の隣には白髪をなびかせる青年の姿もあった。
「そんな中途半端な覚悟でここまで来たのか?今のお前なら藤丸立香の方が脅威になり得るな」
立香の名前が出て来て誠は顔をこわばらせる。
「安心しろ、ちょっと挨拶して来ただけだ。じきにここにも来るだろう」
「少し声が大きいぞ、君達。彼が起きてしまうぞ、ほら」
いつのまにかそこにいた神父の登場に誠のライフルを握る手が強くなる。それと同時に、カーテンの向こう側から唸り声が聞こえ、その空間の皆がそちらを見やる。
『ソレ』が少し動いたことでカーテンが
その瞬間、誠は見てしまった。『
「それにシナリオ通りに進んでくれないとこちらが困るのでな」
誠は再度、神父の方をみるとそこには先ほどまではいなかった別の化け物が存在していた。
その怪物が何かを叫んだかと思うと誠とエレシュキガルは目の前が真っ白になった。
誠は目を開けるとテーブルに手をつき椅子に座っていた。いや、座らされていたの方が正しいだろう。机の上にはポツンと
「なんだ俺を拷問でもするか?カドック」
3人の中で一番早く口を開いたのは、誠だった。
「そんな事、僕が出来ると思うかい?」
「なら、なんなんだ。俺を見せしめに殺すか?」
「そんな事じゃない、僕は君に少し手助けしてもらいたいんだ」
カドックがそう提案してしばらくの時が流れた。
1分程立っただろうか、ついに誠が口を開いた。
「いいだろう」
「ほ、本当にいいのか?」
誠からの肯定の返事にカドックは驚いた。これから事情をいろいろと説明をしなければとカドックは準備していたのだが、二つ返事でOKが貰えたからだ。
「なんでお前が驚いてんだよ、それにこれはお前の言う証明とやらに関係してるんだろう?」
誠は苦笑しながらそう返した。
「……」
カドックは誠の言葉を黙って聞いている。
「友としてその頼み受けてやろう。ギリギリのところまで手出さずに、お前の言うその証明とやらを見させてもらうよ」
誠はそこまで話すと、一呼吸開けておどけた声音で言葉を続けた。
「それに最近、頭使いすぎて疲れてんだ。俺は誰かに頼まれたり、命令されたりする方が性に合ってる」
誠が最後まで話したのを確認するとカドックが指をパチンと鳴らした。
「ならもう少し彷徨っていてくれ」
すると再び誠の目の前が白く染まっていった。
再び目を開けると誠は神殿のような場所に直立不動に一人突っ立っていた。
――やはりこれはあの怪物の宝具だな、何せよまずは状況確認だな。
誠はそのまま深呼吸しながら魔術回路や刻印に魔力を通わせて身に異常がないことを確認すると、現状を把握するためにその建物を見回ることにした。だが、誠はすぐに自分の行動と運に後悔することになる。
誠は自分が立っていた廊下のような場所から近くに、大きく開けた場所があるのを確認した。中に誰もいないのを確認して勢いよく、誠が飛び出たと同時に別の広間へと通ずる道からこの迷宮を作り出した張本人が出てきたのだ。
「おいおい、マジかよ……」
そこには、体長は5メートルはあるだろう巨体に二つの大きな角を生やし、両手に大きな鎌も持った怪物が誠を一直線に睨み立っていた。
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