誠は今現在危機的状況に陥っていた。
敵サーヴァントとのタイマン状態。相手はバーサーカーなのか対話での説得は絶望的だろう。それに令呪によるサーヴァントの強制転移も不可。
――これ結構詰んでね?
誠がそう思うが後か、バーサーカーが魔力を集中させて地を蹴った。
バーサーカーが広場の端から、何十メートルという距離を数秒で詰めてくる。
誠はそれを瞬時に察知して、身体強化と分割思考の魔術を起動させて、間一髪でバーサーカーの斧の大振りを避ける。
「あっぶねぇ」
誠はバーサーカーの斧が振り下ろされエグりとられた場所を見ながら呟いた。その一撃一撃が秘めた威力は岩盤すら砕きかねない威力である。一発もろに喰らえばゲームオーバーだろう。
誠は分割思考を使い、目の前のバーサーカーの特徴を元に思考を高速化させ脳内の検索エンジンにかけていく。
――名前はアステリオス、別名ミノタウロス
――クラスはバーサーカー
――宝具はこの迷宮のみ
――記憶にあるデータとは容姿が違うが、異聞帯の影響だろう
――次の攻撃は右の大振りからの、足で地を蹴る振動攻撃
その間僅か3秒。
すぐさまバーサーカーの巨体が飛んでくる。続く第二撃第三撃の攻撃が誠を襲う。が、どれも単調な攻撃で得意の分割思考の魔術とエーテライトを鞭のように使い簡単にいなしてしまう。
その後の攻撃も簡単に躱す誠。バーサーカーが地を蹴る瞬間に、誠も地を蹴って斧の大振りを躱す。これの繰り返しだった。
相手の攻撃パターンも完全に記憶し、情報を整理した誠は次はこちらから行くぞと言わんばかりの笑みを浮かべ、銃を手に取り攻撃を開始する。
誠は目の前のバーサーカーの体の動きだけに意識を集中させる。些細な動きまで事細かに。
それを元にバーサーカーの次に取るであろう、あらゆる動きの可能性を完全に
誠が隙をついて、スコープを外したスナイパーライフルでバーサーカーに発砲した。弾丸は真っ直ぐに進み胸に直撃し、大きな血しぶきを上げた。
「アァ……!」
バーサーカーが小さな呻き声を漏らすが、それをもろともしないようにバーサーカーは突っ込んでくる。
「とんだ、体力馬鹿だな……!」
その後も擬似的な未来視で華麗に攻撃を躱しながら、隙をついてライフルで効率よくバーサーカーに発砲していく。この動作を何回何回も繰り返す。普通の魔術師なら体がついて行かず、よくて数分続けるのでやっとだろう。だが誠は今だけでこの状態を20分続けさせている。ライフルも身体強化の魔術も併用しているため、立ったまま打てるとうわけだ。
「攻撃が効いてて安心安心っと!」
それでも衝撃は凄まじいもので、誠はのけぞりそうになる。
「漫画とかでは簡単に目に命中させってけど、簡単にそんなことできるわけねーだろ」
誰でも目玉を攻撃されるのは怖い、化け物でさえ。極力、誠もバーサーカーの目玉を狙うようにしているのだが幾分慣れないことをしている上に手元がぶれて中々思ったところに命中しない。だが相手は5メートルの怪物である。適当に撃ってもどこかには必ず命中する。既にもうバーサーカーの白いたてがみは血で赤く染まり、激しい動きをする度に床に赤い液体が滴り落ちている。
その時、バーサーカーが悲鳴めいた声をあげた。
「アァァァアア!……コロス!」
色濃い怨嗟と憎悪に満ちた声があたりに響く。
どうやら確実にダメージは蓄積されているようだった。
自分の攻撃が一発も当たらないバーサーカーも次第に腹が立ってきたのか、スキルを発動させた。
「コロ……シテ……クッテヤル……!!」
天性の魔――英雄や神が魔獣と堕としたのではなく、怪物として生まれた
バーサーカーは両手の斧を地面に突き刺し、身体中に魔力を集中させる。すると、バーサーカーの体がどんどん肥大化していくではないか。それと同時にバーサーカーの体を縛る拘束具のようなものが増大した筋肉に耐えられず、バリンと音を立てて砕け散る。
誠はバーサーカーの見たことのない挙動に警戒し、今まで以上に距離を取る。
「ハテシナイ『死』!オワリナイ『死』!」
「くそ、なんだこの感じ!」
奇妙な感覚が誠を襲う。
「立ち止まっていても、ずっと走っているような……!無理矢理頭を揺さぶられているような……!」
誠は脳が強く振り回されるような感覚に陥り、次に頭に激痛が走る。
それもそのはず、誠は今脳をフル回転させて魔術を行使しているからだ。あまりの激痛に誠はその場で立ち止まり左手で頭を押さえ右手を地面に手をついてしまう。その時には床に突き立てた斧を再び手に取ったバーサーカーが迫ってきていた。
誠は咄嗟に地面で体を支えている右手で再び魔術を行使する。片手で銃のような形を作り、人差し指の先端から魔術の弾丸のようなものが発射される。
北欧に伝わる魔術の一種――ガンド
使用者によって効果は様々だが、誠のは麻痺させるタイプだった。
弾は一直線に標的に向かっていき、こちらにいざ飛びかからんとするバーサーカーに命中する。
先程までバーサーカーの勢いは殺され、鎖で拘束されたかのようにバーサーカーはその場でビクビクと痙攣している。しかし、このスタンがすぐとける事を知っている誠はスモークグレネードを地面に叩きつけ一目散に逃げ去った。
10分程、全速力で走り逃げた誠は廊下のど真ん中で寝そべっていた。
「頭いってぇ……」
どうやら頭痛はまだ引いていないようだ。
「しかし、これからどうしたものか……」
――銃で発砲してその音の反射で出口を特定しようともしようともしたけど、聴力を最大に強化しても無理だったしなぁ。あいつ倒すまでこの迷宮消えないし、一か八かで殺るしかないか。でも場所分からんしなぁ。
「……ん?」
誠はその時、視界の端にどこまで行っても白色の床と天井と柱しかないこの神殿に本来あるはずのない赤色を確認した。案の定それは血だった。
――量からしてあの怪物か。血の落ちた形状から向かった道の方向はわかるな。
誠はなるべく足音を立てずに血の続いている方に走り出した。
こちらは所変わって立香達。
立香も奇妙な感覚に陥り、それぞれが本領を発揮できずに追い詰められていた。
「くそ、何だよこの感覚は!」
アメリカ西部開拓時代の代表的なガンマン――ビリー・ザ・キッドは悪態をついた。
「あと少し押されれば、悔しいけど、
立香達といち早く合流した幕末の人斬り――岡田以蔵にビリーは問いかけた。
「儂は人斬りじゃ!化け物らぁ斬ったことないき、殺しかたなんち知らんちや!」
以蔵はそう言いながら、バーサーカーの攻撃を避ける。
「……くそ、ごめんマスター……!」
「ビリー!!!」
ビリーにバーサーカーの斧が振り降ろされ、後数センチで当たるかという時、立香達のいる空間に一つの大きな銃声が鳴り響いた。
弾丸はバーサーカーの目の付近に直撃し、途端に顔から血しぶきが上がる。痛みからバーサーカーは斧を手放し、両手で目を押さえながら悶えて始めた。その隙にビリーは落ちてくる斧を躱してバーサーカーから距離を取り、体制を立て直した。
勿論のこと銃を撃ったのは、ビリーではない。
「おっしいな、もうちょい下だったら目のど真ん中直撃してたのにな」
「誠君!」
立香は銃声の聞こえた方を振り返ってその名を読んだ。
「おお、久しぶりだな立香、って以蔵お前生きてたか!?」
「わしゃあ死んじゃあせんわ!」
「どう考えてもあれは死ぬ流れだったのに!?」
割と本気でもう会えないと持っていた誠は以蔵との別れ際の記憶を思い出しながら言った。
バーサーカーはというと痛みが徐々にマシになっていったのか、穴の空いた顔から手を離し再び斧を握ろうとしていた。再び戦闘になると身構えた全員だったが
「……ハライッパイ。アシタニトッテオコウ」
コンセントを抜かれた電化製品のように静かになり、そう呟くと何処かへ消えていった。
頑張り始めてから伸びなくなるのは何故なのか