冥界の女神は元Aチームマスターの夢をみるか   作:Reji

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原作通りに展開するのみ飽きて来たのでアナスタシア編終わったら彷徨海編に飛びます



21.雷帝

誠達が為すべきことを成している時、パツシィとアナスタシアの問答が行われていた。

 

「馬鹿な!なに、考えて、やがる!」

 

突如、パツシィが激怒した。アナスタシアが皇帝(ツァーリ)に叛逆すると言い出したからだ。

 

「正気、テメェは!?」

 

パツシィはその目で雷帝を目にしている。声を荒げるのも無理はない。

 

「私はずっと前から随分と正気よ、ヤガ」

 

だが皇女の声音は冷徹で冷淡だ。

 

「そして、今が千載一遇の好機。カルデアのそのサーヴァント、カドックと私」

 

「……アイツらが、イヴァン雷帝を倒すってのか。あの山を」

 

二人して、遠くに聳え立つ雷帝が眠る宮廷を見た時だった。モスクワ全土が大きく震動した。

 

「な、なんだ!?」

 

「目を醒ましたのよ、皇帝(ツァーリ)が」

 

揺れは次第に大きくなり、ヤガ達の間でパニックを引き起こす。

 

「――夢から醒める。――眠りは終わる。我らの王は夢から生まれし者。覚めれば、塵に還る。皇帝(ツァーリ)に栄光あれ!皇帝(ツァーリ)に栄冠あれ!」

 

逃げ惑うヤガ、倒壊する建物。それに各地で光の粒子となって消えるオプリチニキ。

 

それらによって驚いているのはヤガだけではなかった。

 

 

 

ボーダーにて

 

「ヤガ・モスク内に偏在していた霊基反応、次々と消滅していきます!オプリチニキが消滅しているようです」

 

レーダーを見ながらムニエルが叫んだ。

 

「ヤガ・モスクワで戦えばそうなるさ。雷帝も夢を見てはいられない」

 

そう言うホームズの声は至って冷静だったが、額から少し液体が湧き出ていた。

 

「――――聞いてはいたが、本当にコレが動くのか!?」

 

「あわわ、あれは私の錯覚か、モニターの故障か、ダヴィンチの悪戯か!?」

 

ゴルドルフが驚くのも無理はないだろう。

 

「どうなっているのかねホームズ君!今モニターに写っているアレ――――」

 

スタッフ一同が見ているモニターに映し出されていたのは、モスクワの一部が大きく盛り上がりソレが徐々に正体を露わにしているところだった。

 

 

 

 

 

――――おお。

 

――――おお、おお、おお。

 

我が夢、ここに醒めたり。正しき現実を認識したり。

 

そう、余はまだ夢半ば――――。

 

数多の叛逆者を誅戮し、版図を拡大しなくては!

 

午睡は終わった。

 

余は立ち上がらなくては……立ち上がらなくては!

 

 

突如、そこに姿を現したのは人でもヤガでもない。一言でソレを表すなら『災害』だ。

 

そこに在るだけで吹雪が強さを増し、雪崩れが起きる。

 

闊歩するだけで、天は怯えるように恐怖の闇色の染まり、地は恐れおののきヒビ割れる。

 

その光景はまさに世界の終焉だった。

 

「でけー」

 

「流石にこれは予想外だったわ……」

 

「……魔獣の相手をしたことも、巨人を相手取ったこともあるが……、この規模のものは見たことがない……」

 

「神代にゃあ、巨人種がゴロゴロいたって聞くがなぁ!少なくとも俺のとこじゃ10メートルだった!」

 

「大きさだけで言えば、ティアマト神(母さん)にだって負けてないわね」

 

「だから、あんな山みたいな怪物どうしようもないんだって!」

 

目の前の光景に皆それぞれ率直な感想も漏らす。呆然と立ち尽くす彼らだったが直ぐに目の前の怪物の倒す方法を模索し始める。

 

「そもそもデカすぎて攻撃が出来るかどうか」

 

「それに関しては大丈夫だ」

 

誠が何故かドヤ顔で答えた。

 

「エレちゃんの宝具を使えばな!」

 

誠の作戦はこうだった。エレシュキガルの宝具でモスクワ一帯を冥界化させて、そこに雷帝を落としてなんやかんやするというものだった。

 

「適当すぎない?」

 

「作戦なんて建てても8割上手くいかないからこのくらいでいい」

 

立香のツッコミも最もだが、この男基本脳筋なので意味がない。

 

「話は聞かせてもらった」

 

そこに現れたのは元Aチームで7人のクリプターの内の一人、カドック・ゼムルプス。と突如カルデアに現れて氷漬けにし、閉館まで追い込んだカドックのサーヴァントのアナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ。

 

「……何しにきた?」

 

立香がドスの利いた声で真意を尋ねる。

 

「まだ生きてるなら丁度いい、―――手伝ってくれるんだろう?」

 

「どういうことだ?」

 

「察しが悪いな」

 

「俺たちは利用されたってわけか」

 

ベオウルフが歯切りが悪い感じで呟いた。

 

「そういうことだ、新しいロシアを築くには、アンタ達がやって来た今が好機だった」

 

もとよりカドックはカルデアの戦力が目的だったのだ。

 

「……回りくどいコトをしたものね、素直に言ってくれたら協力したわよ、立香君は」

 

「そら、藤丸立香」

 

カドックは武蔵の呟きを無視して両目で立香を見据えた。直後、大地が大きく震動した。『災害』が近付いて来ている。

 

そして、彼は自嘲気味に皮肉げにこう呟いた。

 

「さぁ、世界を救いに行こうか?」

 

「……分かった」

 

この二人のやり取りを聞き終えた誠はエレシュキガルに宝具を展開を指示した。『災害』すぐそこまで迫って来ている。

 

「地の底まで落として上げるわ!」

 

エレシュキガルが地に発熱神殿・メスラムタエアを突き刺した。するとモスクワを両断するように大地に一つの裂け目が発生した。裂け目は次第に大きくなっていきしまいにソレは地上にあるもの飲み込み大穴へと変貌した。そしてその大穴はイヴァン雷帝をも飲み込んだ。

 

普通なら足をつけていた地がなくなれば地の底に叩きつけられるが、カドック達は気が付くと宙にプカプカと浮いていた。エレシュキガルがこの場にいるサーヴァントとそのマスターに浮游権を与えたのだ。そう、ここはもう冥界なのである。

 

「カドック、魔力を足先に集めて地面をイメージしろ。それで少しは飛べるようになる」

 

カドックは誠のアドバイスを黙って聞き、指示通りにするとすぐにコツを掴みある程度自由に身動きが取れるようになっていた。

 

これはエレシュキガルに色々な権限を与えられた者達限定であって、そうでない者は問答無用に地の底に叩きつけられる。

 

「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!?」

 

宝具に巻き込まれたイヴァン雷帝はズルズルとそこまで滑り落ちた。穴の深さはイヴァン雷帝の高さより少し高いくらいだろうか。頑張れば抜けることができるかもしれない。だが、頭に血の昇ったイヴァン雷帝には見えていない。アナスタシアの姿を見つけ次第こちらに突進してくる。

 

「アナスタシア!アナスタシア!オプリチニキより報告が入った!平和は、幸福は、何もかも嘘だったのか!アナスタシァァアアアアアアァァァ!」

 

だが、その動きを許すような冥界ではない。

 

冥界の防衛機構が熱線を放ち、イヴァン雷帝を焼き尽くす。これだけでは終わらない。

 

「私だけで決めて上げるわ!冥界のガルラ霊よ、立ち並ぶ腐敗の槍よ!あれなる侵入者に我らが冥界の鉄槌を!全員総攻撃――――!」

 

エレシュキガルの一声で冥界に存在する無数のガルラ霊が実体を伴って、イヴァン雷帝に突撃する。

 

「とんでもない、能力だな」

 

カドックがそれに戦慄したように呟いた。

 

「だろ?」

 

それにそう誠がドヤ顔で答えた。

 

これらが冥界ではエレシュキガルには勝てないと言われる所以である。今回の場合は簡易的な冥界で、権限も防衛機構も本物のソレとは比べ物にならない程弱くなっているわけだが。

 

イヴァン雷帝を熱線が焼き尽くし、数多のガルラ霊が突撃が魔力による攻撃をする。戦いは一方的に思われたが、今まで攻撃に呻きながら対応するだけだったイヴァン雷帝に変化が見られた。

 

「許せぬ許せぬ許せぬ許さぬわぁ!!」

 

強大な体の一部の筋肉が隆起し、体を肥大化させていく。

 

「皆、備えろ!!」

 

誰かがそう叫んだが、もう遅い。

 

「『我が旅路に従え獣(ズヴェーリ・クレースニーホッド)』!!!」

 

イヴァン雷帝咆哮する。

 

肥大化させた体を存分に、鼻を大きく振るい上げ、ガルラ霊を蹴散らすとその先から膨大な魔力に満ちた光線を放った。

 

光線はガルラ霊を蹴散らしながら、アナスタシアに向かって一直線に突き進む。

 

「ヴィイ、お願い」

 

アナスタシアが手に持つヴィイと呼ばれる人形を掲げた。

 

「『残光、忌まわしき血の城塞(スーメルキ・クレムリ)』!!」

 

ソレは皇帝(ツァーリ)の血を引く者のみに許された、ロシアのあちこちに点在する城塞の再現。自分達の前に大きな城壁のようなものを作り出す。その壁は極めて堅固かつ壮麗な銀色をしている。

 

途端に光線と壁が激突し、轟音が冥界に轟く。

 

「そっちも大概、壊れ能力だな」

 

それを見た誠が楽しそうにカドックを見た。なんとその強固な壁は光線を相殺してしまったのだ。

 

「こっちも負けるわけにはいかないんでな」

 

カドックが自慢げな顔でそう言った。

 

「な、なんなのだわ!?」

 

エレシュキガルが困惑するのも無理はない。その光線が冥界の防衛機構を破壊したのだ。今もなお、肥大化した体でガルラ霊を壁に押し潰している。ガルラ霊はイヴァン雷帝に向かっていくが、いとも容易く返り討ちに遭っている。

 

「あわわわわわ」

 

予想外の出来事にパニックになるエレシュキガル。そうこうしているとイヴァン雷帝は再度、宝具を使うべく魔力を集中させていた。接近して戦うようにするには何か別のものに気をとらせておく必要があるようだ。然もなくば、今突撃するとガルラ霊のように押し潰されてしまうだろう。

 

「どうやら、次は私の出番見たいね!」

 

破壊の女神が自信満々に呟いた。

 

「不安しかない」

 

「完全に同意するわ」

 

時は来たれり。

 

大気が蠕動する。渦巻く魔力が抑えきれず、冥界すら怯えるように震え始めた。周囲からあらゆる大源(マナ)を奪い尽くすその顕現は、それ自体が災害というほかなかった。

 

宝具を展開しようとしていた雷帝も警戒するように、動きを止める。

 

油断しないはずもない。そこに顕現したるは、女神イシュタルの持つもう一つの宝具。

 

突如、雷鳴轟く雲の中に放り出されたように、冥界を雷が支配する。

 

空気中の魔力も水分も残らず沸騰させて、神代の、かの英雄王さえも圧倒したソレははただ暴虐のままにその地に降り立った。




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