冥界の女神は元Aチームマスターの夢をみるか   作:Reji

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あけおめ
今年は福袋からイリヤが出てなんとも言えない気持ちから始まりました。
皆さんは福袋から何か出ましたか?

(雷帝は強化されているような気がしますが演出上の都合です。)




22.象vs牛

隕石落下(メテオストライク)にも等しい大破壊。

 

輝く空が落ちてくる。美しい光を放つ明けの明星が空を埋め尽くすかの如く、黄金の大蹄は大地と空との間にあるすべてを磨り潰すのであろう。

 

それは女神イシュタルが従える、天の牡牛(グガランナ)

 

かつて、彼女がウルクを破壊するために遣わした最大にして最強の神獣、まさにその姿は山の如し。

 

「完っっっ璧!完璧に成功したわ!今度こそ完璧な使いどころに、完璧な出来よ!」

 

悪魔のような笑い声が冥界に木霊する。

 

「一回目は誰かに盗られて、二回目は壊されても、また作り直せばいいだけよ!!」

 

この女神、前回の件についてこれっぽっちも反省していないように見えるが、なにはともあれ、今のイヴァン雷帝にぶつけるにはもってこいだ。ちなみにグガランナの顕現によって生じるこの雷は、敵味方問わずイシュタル以外に全員にダメージを与えるが、今回は冥界の加護でなんとか防げているようだ。

 

「雷の化身か、面白い」

 

正気を取り戻したイヴァン雷帝が不敵に囁く。

 

「グガランナMk.3やっちゃいなさい!!」

 

金色の巨体がイヴァン雷帝に向かって突撃する。巨体と巨体、山と山が衝突する。

 

吼える雷帝。鼻を振り上げ、天から雷を落とす。

 

それを正面から受け止め、積乱雲を手足のように操り多方面から電撃を放つ天牛。

 

雷は雷帝の皮膚に直撃する――、その余波が無人の建物を吹き飛ばす。

 

そして、雷帝は皮膚の損壊箇所が、巻き戻されるように塞がっていく。

 

轟く雷鳴。蠕動する大気。怯えるように震える大地。今にも空が落ちてくるとも思える、その世界の終焉のような光景を見た者は口を揃えてこう語る。

 

"まさに神話の、創世記の戦いだ"

 

と。

 

グガランナと雷帝のタイマンは続く。

 

グガランナは雷帝の攻撃をものともしない様子で反撃しているが、確実にダメージは蓄積しているだろう。かく言う雷帝の方は、傷ついた箇所は瞬時に修復させグガランナに立ち向かう。

 

「ちょっと、これじゃキリがないじゃない!!!」

 

イシュタルが怒りを露わにする。

 

誠が推測するに、雷帝はグガランナの電撃を吸収しているように思える。もう一つの要因としてはこのグガランナは3基目。所々に模造品のパーツで代用しているため、本来の力を発揮出来ないのかもしれない。

 

だが、グガランナの役割は雷帝を倒すことではない。気を逸らすだけでいいのだ。

 

「ヴィイ、お願い。魔眼起動――疾走せよ、ヴィイ!」

 

「燃ゆる影、裏付きの矢、我が憎悪を受け入れよ! 闇天蝕射(タウロポロス・スキア・セルモクラスィア)!」

 

「ぶっ飛べ!源流闘争(グレンデルバスター)!」

 

アナスタシアとアタランテとベオウルフの宝具が容赦無く雷帝を襲う。が、三人の宝具で受けた傷など何事もなかったように修復されてしまう。

 

「くそ、硬えし再生能力まで持っていやがるとは!」

 

「目潰しにもならないとはな……!」

 

「チッ……!分かっていたが強すぎる……!」

 

カドックが悪態をつく。

 

「後はただ、勝つだけ。なんてことはない。僕はただ、勝つだけだ。なんてことはない!」

 

「落ち着け、カドック」

 

感情を荒ぶらせるカドックに対して、誠は至って冷静だ。

 

「何か策があるのか?」

 

「ない」

 

「……」

 

「そんな白い目で見るなよ、でもなんとかなる気がする」

 

その時だった。この戦場にそのピアノの音が流れ始めたのは。

 

「この音は……この怒りは……やめろ!余の心を縛るな!」

 

その音は命を賭け天才(アマデウス)の領域に到達するのみが弾くこと出来るモノ。天才では踏み入れようとしない、凡人故の感情に寄った音楽。

 

それに技量などは必要ない。必要なのは理不尽への憤怒。それだけだ。

 

『それだ。その姿の君に、技量など必要ない。その理不尽への憤怒を響かせろ。指に叩きつけるがいい。我が同胞よ!』

 

禍々しい姿へと変貌したサリエリの中に残るアマデウスの妄執が愉快に笑う。

 

「やかましい!黙って聞いていろ!私は、我は違う道を行く!」

 

彼が――いや、この世界で彼だけが天才(アマデウス)の闇を知っている。それ故、彼は弾かなければならない。

 

「さあ、聞け皇帝(ツァーリ)!イヴァン雷帝!哀しみのヤガ、怒りのヤガ!」

 

「余の精神に入り込みおって……!」

 

「今の貴様は生きているだけで罪深い……!」

 

この曲には、アヴェンジャー、アントニオ・サリエリ。灰色の男。その人生の全てが詰まっている。だからこそ、心に響く。

 

先程まで瞬時に再生させていた傷も塞がらず、雷帝は音楽を止めるべく宮廷に雷を放った。

 

「醜悪なる芸術め!滅びろ!」

 

轟音と共に宮廷が崩れ落ち、音楽を奏でるサリエリがむき出しになる。トドメを刺さんと鼻を振り上げるが、そこにグガランナが突っ込む。

 

「おのれ、雷の獣如きが余を拒むか!余以外の者が宮殿を守ると言うのか!」

 

そして、再び取っ組み合いになる。

 

「許さんぞ。許さんぞ、不敬どもが……!」

 

怒りをむきだしにした雷帝は大きな牙でグガランナを圧倒しながら鼻を大きく天に掲げた。

 

「我が鮮血に稲妻奔る、天鼻にて嵐を呼ばん!」

 

「まずいわよ、マスター!」

 

天から状況を監視していたイシュタルが最前線で指揮している立香に向かって叫ぶ。

 

「それは神霊の雷撃クラスよ!そんな急造の冥界の加護じゃ耐えきれないわよ!」

 

「言い返したいけど、あれを防ぐのは無理かも!逃げなさいカルデアのマスター!」

 

しかし、サリエリの音楽なしでは勝つことは困難。ようやく掴んだ勝ち筋、逃すわけにはいかない。だが今現在雷帝は嵐を纏い邪魔立てすることは不可能。であるなら、あの雷撃を防ぐしかあるまい。

 

 

 

『諦めるのはまだ早い』

 

突如、響き渡るホームズの声。

 

『今、最後の戦力をそちらに射出する!』

 

 

ならば必要であろう――最強の盾が。

 

 

 

瓦礫を勢いよく跳ね除けやってきたシャドウ・ボーダー。

 

「マシュ!?」

 

そこから弾丸の如く放出されたのは紛れもなく立香の後輩であり最強のサーヴァントのマシュ・キリエライトだった。

 

 

そして彼女は、時間神殿(ソロモン)での出来事を思い出した。

 

己が終わりを実感させる強烈な光と、命がどこにあるのかを報わせた光を。

 

 

――盾を持って、前に出た瞬間。あの時、わたしが前に踏み出せたのは、そうするべきだと感じたから。怖さよりも誇らしさがあって、そして、胸に染み入るような寂しさがあった。たとえ勝利しても、この先の時間に、自分がいることはない。それがちょっと悲しかった。

 

 

――でも今は違う。誇らしさも、そうするべきだという確信もない。わたしは悩んだままで、悲しさより怖さがある。本当に自分が正しいのか。わたしたちの行いは、残酷な勝利宣言ではないのかと。

 

 

「ああ、でも――」

 

 

――怖いから、分からないといって手を話すことは、もっと恥ずべきことだとわかるのです。

 

 

 

ある騎士王は言いました。

 

「貴方と私の信じるものを救いましょう」

 

 

――――この願いが、例え誰かの望まぬ希望だとしても

 

 

ある悲運の王妃は言いました。

 

「愛する人々の世界を救うわ!」

 

 

――――この救いが、例え間違っていたとしても

 

 

ある天才は言いました。

 

「マリアの愛する世界を救おう」

 

 

――――その光が、例え誰かの暗闇だとしても

 

 

ある冥界の女神は言いました。

 

「貴方が安心して死ぬことが出来る、この世界を救うわ」

 

 

――――この行為が、自分達の()()なのだとしたら

 

 

ある抑止の守護者は言いました。

 

「叶うことならその全てを救おう」

 

 

 

そして、運命を背負わされた一人の少女は叫ぶ。

 

「マシュ・キリエライト!先輩との未来を救います!」

 

 

――――是は 『自分』を救う闘いだ

 

 




男主人公って一人称俺だっけ僕だっけ
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