夢を見た。
カルデアのマスターが数多の英霊を引き連れ、おぞましい人類悪と対峙していた。
もちろんその中にはエレシュキガルもいた。
誰かが人理は修復されたから安心しろと自分に告げているのだろうか。
いや、違う。人理焼却は免れたかもしれないが決してこの世界の危機は去っていない。
何せ人理を焼却しようとした者とあの時神と名乗った者は違う。理由は分からないが何かがそう告げている。
自分の使命を再確認する。
――他のAチームマスターの達を止めるのだと。
自分の心にそう強く誓い意識を覚醒させていく。
起きると誠はベッドに寝かされていた。
周りには立香をはじめ、マシュにダヴィンチが誠を囲うように座っていた。何やらマシュの肩に白い犬のような謎の生物が乗っているが誠は気にしないようにした。
「やあ、おはよう。調子はどうだい?」
ダヴィンチにそう言われ、誠はベッドから半身を起き上がらせを体を捻ったり魔術回路を確認するが何の問題もないように思われる。右手の甲には令呪があり自分がエレシュキガルのマスターなのだと実感させる。
「特に問題ない。ダヴィンチちゃんと話すのもずいぶんと久しぶりの気がするな」
ダヴィンチと話すのはもちろんのことだが実際に声を出すこと自体が久しぶりなのだ。何せ一年眠り続けていたのだから。
「状況を整理したいんだけどいいか?ずっと眠っていたせいか少し混乱しているんだ」
もちろんだとも、とダヴィンチちゃんの返事と共に誠は口を開いた。
「人理は修復されたのか?」
静寂。
数秒後、ダヴィンチが口を開いた。
「あぁ、ここにいるカルデアーのマスター藤丸立香君の手によってね」
そう行ってダヴィンチが立香を指差す。指を指され、立香が照れくさいといった表情をする。
「他の藤丸立香の契約していたサーヴァントは?」
「一週間後に国連の査問団が来る。カルデアの新所長も一緒にね。そちらの命令でカルデア所長代理の私以外退去命令が出てみんな座に帰ったよ。おかげでこちらも荷物の整理などで大忙しだ」
査問団。そう聞き誠が顔を強張らせる。いつの時代もそのような集団は怪しいと相場が決まっているのだ。この時点で誠は査問団が黒だと確信した。
「それは大変だな」
「だろう?というわけで私は忙しいから職務に戻るとする。人理修復の資料が読みたければ立香君に案内してもらえばいい。万が一私に用事があるのなら工房に来るといい。後はよろしくね立香君」
「りょ、了解!」
立香は少し緊張しているのだろうかその声は少し戸惑っているようだ。
「初めましてだなカルデアのマスター、藤丸立香。マシュちゃんも久しぶりだな」
「はい、エルトナムさんもお久しぶりです」
「初めまして藤丸立香です。立香でいいですよ」
「了解、俺も誠でいい。後、敬語は堅苦しいから禁止」
「分かり……分かった。それより誠くんはマシュとはもう顔見知りなんだね」
「前は無口で悪く言うと人間味を感じなかったけど今はものすごく生き生きしているな」
「あの時は大変失礼な態度をとってしまい申し分けありませんでした」
と言い頭を下げるマシュに対して誠はそんなに畏まらなくてもと苦笑する。
「早速で悪いが資料室に案内しもらえないか?」
そうして誠たち3人は病室を後にした。
誠は資料室についてからは立香とマシュちゃんと別れ、あの爆発が起こってからの資料や映像を見ている。
第7特異点の絶対魔獣戦線バビロニアの資料を読んでいるのだが立香の行動力に誠は驚かされてばかりいた。
それから、誠はカルデアの事情を知るべくして片っ端から資料を読んだ。これでも記憶力はいい方だ。資料にあったサーヴァントのデータは全て頭に叩き込んだ。
――そろそろダヴィンチちゃんの工房に行くとしようか。エレシュキガルとも話がしたい。
そう思い誠は勢いよく立ち上がり、工房に向かった。
工房に入るとダヴィンチちゃんが出迎えてくれた。
「そろそろ来ると思っていた頃だよ。話があるんだろう?」
そう言われ誠は無言で頷く。
そして誠はあの時に起こった出来事を全て話した。あの神と名乗った者が言っていた異聞帯のことも。
生命には競争があるように、歴史にも勝敗がある
現在とは正しい選択、正しい繁栄による勝者の歴史。これを汎人類史と呼び。
過った選択、過った繁栄による敗者の歴史。
不要なものとして中断され、並行世界論にすら捨てられた行き止まりの人類史
ーーこれを
「実に面白い!私も魔術協会の動向の調査、霊基グラフの隠匿など色々作業したかいがあったというものだよ」
それを聞きダヴィンチは声高らかに笑う。
「話は聞いたわよ、マスター。そういうことなら冥界の女主人の名の下に存分に力を貸してあげるわ!」
奥からエレシュキガルとTHE 探偵というような格好をした男が出て来た。
探偵からも魔力を感じる、サーヴァントなのだろう。
「サーヴァント?」
「そうだとも、真名はシャーロック・ホームズ。以後お見知り置きを」
と軽く会釈する。
「はあ……なーんで自分から出て来てしまうのかな君は。すまない不知火くん。ホームズの事は秘密中の秘密でね。なにしろこの1年。魔術協会への報告書にはホームズのホの字も書いていない。『カルデアに召喚された英霊の中に、シャーロック・ホームズなど存在しない』そういう事にしてあるんだ。万が一の保険というやつだね。まぁ君のいう事が正しければこの半年色々準備したかいがあるというものだよ」
カルデア側も多少はこのまま終わらないという事を予想していたのだ。
「新たな戦力を確認したかっただけだよ。それに誠くんがどのような人物か気になってね」
確かにダヴィンチ、ホームズ、武装化を長らくしていないマシュだけでは戦力不足は否めないだろう。そこに誠とエレシュキガルが出てきたわけだ。
「誠くんの言った事を踏まえてこれからのことを話すけど査問団が来たら君とエレシュキガルはホームズと一緒に地下倉庫に隠れていてもらう。何があるかはその時のお楽しみだ」
「そこに査問団のやつらの検査は?」
「そこは大丈夫。私がいろいろ細工を施しているからね」
「そして時がくれば立香くんとマシュ、スタッフを回収しに行ってもらう。後、この話はここだけ秘密だよ。悟られたらおしまいだからね。立香くんには私がそれとなく説明しておこう。何か質問は?」
カルデア側は敵の戦力は未知数故に一旦逃げるという策に出たのだった。
「特には」
「よろしい」
「ところでレイシフトは使えないけど戦闘プログラムは使えるんだよね?」
資料には戦闘プログラムのことについては触れられていなかった。
「勿論、今すぐ使うかい?」
「お願いする」
誠はなまっている体を動かしたかったし、何よりエレシュキガルの戦闘スタイルを見ておきたいというのもあった。
「改めてよろしく頼むよ、エレシュキガル」
誠はエレシュキガルに方を向き軽く頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いするわ、マスター。上手く私を使いなさい」
そこからの一週間、誠は立香と共に戦闘訓練に明け暮れた。
そして、ついにその日がやって来た。
次でプロローグ終わらせます。