冥界の女神は元Aチームマスターの夢をみるか   作:Reji

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今回ちょっと雑になったかも


プロローグ4

ついにこの日がやって来た。やれる事は全部やった。

 

――――――以上、44名。登録認証 オールクリア。

安全性審査 協会規定 特別免除により、全員のカルデア入館を許可します。

正面ゲート開放。ようこそ、ゴルドルフ・ムジーク様。

並びに、国連審問会の皆様。

当カルデアは 皆様の入館を歓迎します。

 

「いよいよだね……」

 

スタッフ達の間に緊張が走る。

 

「魔術協会から選ばれた新しい所長・・・どんな方なんでしょうか・・・」

 

誠くんはどうせロクでもない奴なんて言っていたけど実際のところはどうなんだろうか。

 

「ゴルドルフ・ムジーク。年齢28歳、男性。錬金術師の大家の嫡子。時計塔での成績は平均クラス。ムジーク家は歴史こそ古いが功績はほとんどない。ただ出来てからが長いので資産が多いという一族だ。要はただの金持ちの坊ちゃんさ」

 

本当にロクでもないやつだったと立香は心の中で苦笑する。

 

「何故そんなやつがカルデアの新所長になったのかは会ってみるまではわからないが、まぁ第三者に促されたんだろう。」

 

「ほーう!ほほーーう!いい!いいではないか!」

 

そんな笑い声が広間に響き渡る。

 

「おいでなすったか。大した胴間声だこと。いいかい、立香くん。基本的には沈黙だぜ?」

 

そのダヴィンチの言葉に無言で頷く。

感情的になるなとは誠くんに耳にたこができるほど言われた。

 

「ほほーう、そこに堂々と立っているのが報告にあったサーヴァントか。いかにもな風体ではないか、あー確かレオナルド・ダ・ヴィンチだったか。使い魔は美しい女の姿をしているに限る!」

 

その言葉がダヴィンチに向けられた物だと分かり、立香はまたも笑いそうになる。

 

「閣下、その発言は少々セクハラかと♡あのサーヴァントは仮にも所長代行。所長不在のままカルデアを1年まとめ上げた人物です。仲良くなった方が特ですわ。まずは世辞から入るべきかと」

 

さらに奥から次はピンクの髪が特徴の女性が出てきた。

 

「ははは、コヤンスカヤ君、そういう事は耳打ちで伝えてくれ給え、耳打ちで!まぁサーヴァントに気を許す私ではない、美女であってもな」

 

どうやらコヤンスカヤという名前らしい。

 

嫌味を言われ続けて数分、またしても奥から神父の格好をした男が出て来た。

 

「ゴルドルフ所長。挨拶はそのあたりで十分じゃないかと。貴方と彼らは『進む者』『去る者』。相互理解は不要です。それと協会の査問団の準備は整いました」

 

「その通りですな、言峰神父。紹介しよう彼は――」

 

ゴルドルフが紹介する前に神父は一歩前に出て頭を下げ自己紹介をした。

 

「お初にお目にかかる。私は言峰綺礼。聖堂協会から査問団顧問として査問が終わるまでの数日間ここに滞在することになった」

 

――聖堂協会

 

立香はその言葉も聞いたことがあった。なんでも聖堂協会の連中は頭のネジが外れたやつしかいないと誠が愚痴っていたのだという。

 

「よろしく、カルデアの諸君。短い期間だが苦楽を共にせんことを」

 

 

 

 

 

 

「・・・まさか、カルデアの謹慎室が独房として使用される日が来るなんて」

 

「ああ、全くだ!こんなことならこっちに予算を割いておくべきだった!」

 

カルデアスタッフの愚痴に便乗してダヴィンチが心底後悔したという風に毒を吐く。

 

立香たちは全員謹慎室に監禁されていた。自由に外に出れるのだが、勝手なことをすれば廊下で待機している兵士に殺されるので監禁というのはあながち間違っていないだろう。

 

暫く、雑談に興じているとドアをノックする音と共に査問団の人の怒鳴り声が響いた。

 

「おい藤丸立香!でろ!」

 

どうやら尋問の時間のようだ。

 

「行っておいで立香くん、まずは相手の出方をみる。くれぐれも下手な発言はしないようにね」

 

「了解、ダヴィンチちゃん」

 

 

 

 

〜6時間後〜

 

6時間も質問責めにされれば流石の立香もクタクタのようだ。

 

「お疲れさま。顔色が悪いわね、ボク」

 

立香は早く横になりたいという一心で謹慎室へ向かっていると、後ろから声を掛けられた。

 

立香が振り向くと、コヤンスカヤが見下すようにこちらを睨んでいた。

 

「こういうオトナの世界の事情は初めて?でも何事も経験、きゃっ!?」

 

コヤンスカヤが話し始めようとした途端に、フォウくんがコヤンスカヤの顔面に突撃したのだ。

 

「フォウ!フォーーウ!キュッ!」

 

「これ貴方の飼い猫?ごめんなさいつい反撃した上に踏んづけてしまったわ」

 

「フォウくんから離れろ!」

 

思わず立香は叫んでしまった。叫ばずにはいられなかった。

 

フォウくんだって共に人理修復を共に成し遂げた仲間だ。

 

「あらワイルド。牙見せちゃって勇ましい」

 

――駄目だ、奴の狙いは俺を怒らせることだ。挑発に乗ってどうする!

 

「でも私に牙剥いたんならそう簡単なら解放しないわよ?そうね、今回は私とお話しするだけで許してあげる」

 

コヤンスカヤはフォウ君を片手で摘み上げて、獲物を狙う蛇のような目で立香を目つめている。

 

「いいだろう」

 

――平常心を保て藤丸立香。

 

 

そう立香は自分に言い聞かせる。

 

「そう、カルデアについてお話ししましょう」

 

そう言うと彼女はカルデアについて話し始めた。

ある程度カルデアについて話すと話題がAチームのメンバーに移った。

 

「貴方にチャンスを横取りされた8人はかわいそうよね〜」

 

立香その言葉に少しカチンときた。

 

「まさか知らないなんてないわよね?君の偉大な先輩たちだも」

 

一人はものすごく知っていて仲もいいと言い出しそうになるのをこらえる。

 

「君は彼らから、活躍の場も、その存在主義も、カルデアの居場所さえ奪ったんだから」

自分は誰かがやらなくちゃいけないのならと仕方なくやっただけだ。

そう言い返すのを我慢する。

 

「おっとそろそろ行かないと、じゃね〜」

それだけ言うとコヤンスカヤは去って行った。

 

部屋に戻ると顔色が悪かったのかマシュに心配されたから、さっきの出来事を話した。するとダヴィンチちゃんが誠くん以外のAチームのことについて教えてもった。そこからはまた雑談に興じた。

 

 

 

 

 

 

 

12月31日

 

ようやく監禁生活が終わる。だがそれと同時に新たな戦いの火蓋が切られる日だ。

 

 

Aチームの解凍でダヴィンチちゃんが帰って来ない。昨夜ゴルドルフさんに呼ばれてかれこれ12時間が経つだろうか。

 

 

すると同時にカルデアの緊急警報がけたたましく鳴り響き始めた。遠くから微かに銃声が聞こえてくる。確認しに行こうにも今は外側から鍵が閉められている。所謂、詰みという状況だ。

 

立香を含め皆焦っている時、突然ドアがひしゃげた。外部から何者かが侵入しようとしているようだった。

 

「マスター!武装許可を!」

 

立香の傍で震えていたマシュが声を上げた。

 

しかし、マシュの体の状況を立香は誰よりも知っている。

 

「駄目だ。マシュの体はもう……」

 

「お願いです先輩!今ここで戦わないとみんなで過ごしたカルデアが壊されてしまう。だから……」

 

マシュと目が合う。眼鏡越しのマシュの瞳は立香を捉えて逃さない。

 

現段階でマシュに頼むしかこの状況を打開することが出来ないのも事実。

 

――令呪によって命ずる!

 

令呪でありったけの魔力と気持ちをマシュに注ぎ込む。

 

「頼む、マシュ!」

 

最も頼りにしている後輩であり、自分のサーヴァントの名を叫ぶ。

 

「はい、マスター!」

 

立香の気持ちに答えるようにマシュが体に魔力を宿して、かつての戦闘の記憶を蘇らせていく。

 

マシュは盾を顕現させ、侵入者に備える。

 

すぐさまドアが破られて、黒ずくめの兵士が入ってくる。

 

数秒お互い睨み合ってかと思えば、兵士がカルデアの生き残りを殲滅すべく突進しながら剣を振り下ろす。

 

「くっ!」

 

マシュが盾でその一撃を防ぐ。が、大きく後ろによろけてしまう。その隙をつかんと兵士が再び剣を構える。

 

その場の皆――マシュさえも駄目だと思った時、その兵士が横から飛来した弾丸によって体が弾け飛んだ。

 

 

 

「すまねぇ、一足遅かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警報が鳴り響くなか、誠たちは立香のいる部屋まで急いでいた。

 

が、敵が多すぎるため苦戦していた。

 

誠は魔術で思考を高速化させ、擬似的な未来視で黒い兵士の動きを予測するが案の定、数が多すぎて体が追いつかない。

 

「リロードが間に合わん、エレちゃんよろしく」

 

誠が魔術によって改造が施された、マシンガンを新たに装填するため一歩下がる。すかさずエレシュキガルが前に出て魔力で生成された槍で一気に薙ぎ払う。

 

リロードが完了した誠が再び前に出て、エーテライト――エルトナム家に伝わる鞭状の擬似神経を、思い切りしならせて兵士に打ち込む。距離が少し開いたところでトドメに弾丸を頭にブチ込む。

 

「マスター、こいつら倒しても倒してもキリがないのだわ!」

 

「迂回していくぞ!」

 

 

誠が立香達の幽閉されている謹慎室まで一直線の道まで辿り着いた時だった、誠は遠目にあの兵士が謹慎室に侵入しているところを視認した。

 

――距離20m

 

誠は瞬時に肩にかけていた、スナイパーライフルを構える。スコープ越しに兵士を確認した瞬間引き金を引く。弾丸は真っ直ぐに兵士の頭に命中しその場で爆散した。

 

誠達は急いで、立香の元を向かった。

 

「すまねぇ、一足遅かった」

 

「いえ全然!戦う前なので助かりました!」

 

マシュが心底安心した様子で誠に頭を下げる。そうは言うが武装化がこたえたのだろうか、息も切れて呼吸をするのがやっとのようだ。

 

「早くここから逃げるぞ」

 

難しいことを考えている時間は今はないので誠が残りのカルデア職員に呼びかける。

 

「逃げるってどこに……?」

 

ムニエルはもう諦めて絶望した瞳で顔をあげる。

 

「格納庫です」

 

「格納庫・・・ああ。山の麓に荷物を下ろす用のドックか!確かにあそこならシェルターになる!助かったぞ!マシュ、藤丸!急いで格納庫へ向かおう!」

 

その一言で生き残りのカルデア職員は僅かに心に希望が生まれたのか、皆その僅かな希望を掴むために顔をあげ座った板者も即座に立ち上がる。

 

「それは……そうですが……」

 

マシュが罰の悪そうな顔をする。

 

「ダヴィンチを放ってなんて行けない。」

 

立香がマシュの気持ちを代弁する。

 

「それなら俺とエレちゃんで向かう。お前たち3人は先に格納庫へ行ってくれ。ホームズも待っている」

 

「そうよ。ダヴィンチのことなら私たちに任せなさい!」

 

 

「ダヴィンチちゃんのこと頼んだよ!」

「はい!頼りにしています」

「お前たちも早く格納庫へ来るんだぞ!」

 

立香達は誠とエレシュキガルに全てを任せて格納庫に向けて全速力で駆け出した。

 

 

「愛されてるなぁ、ダヴィンチちゃん」

「そうね、私たちも責任を持ってダヴィンチを連れて格納庫へ行くわよ」

 

 

 

ダヴィンチは動けなくなったら工房へ待っているように指示されている。そのためには占拠されたカルデアスの前を通らなければ行けない。

 

「エレちゃんあれは」

 

カルデアスの前を通過している時、誠が声を上げた。

 

「どうやらあれが敵の親玉のようね」

 

そこには黒い兵士に命令を下しているコヤンスカヤの姿があった。

誠達は攻撃を仕掛けたいことは山々なのだが今はダヴィンチのもとへ向かうのが優先だ。

 

 

 

 

「ああ、やっと来てくれた!もし、来てくれなかったらどうしようかと思ったよ」

 

ダヴィンチは誠を見るや否や抱きついた。だが中身が中身なだけに素直に喜べない誠であった。

 

「ダヴィンチ!早くしないとここにも敵が来てしまうのだわ!」

 

「おやおや、嫉妬しているのかい?女神様は可愛いなぁ」

 

エレシュキガルの扱いに慣れたダヴィンチは早速、煽る。

 

「べ、別に嫉妬なんかしていないのだわ!」

 

だが、赤面しているのでバレバレである。

 

「ダヴィンチちゃんそろそろ行かないと本当にまずくなる」

 

「わかっているさ。冥界の女神様はからかいがいあってね」

 

「まぁ、それは同感」

 

「そこは否定して欲しいのだわ!?」

 

エレシュキガルの悲鳴を虚空へと消えていった。

 

「もう先に行っているのだわ!」

 

そんなことを言ってエレシュキガルは先行してしまう。いつもは5分以内で戻ってくるが、今回は非常自体につき後を追いかける。

 

――非常自体にそんなやりとりをするなって?それは無理な相談だ。

 

誠がエレちゃんをなだめながら走っていると格納庫についた。

 

「無事だったのですね皆さん!」

 

「あぁ、なんとかな。ね、エレちゃん?」

 

「フンだ!」

 

エレシュキガルはまだそっぽを向いたままだ。だがこれはもう機嫌は直っているけれど今直したらまたからかわれそうだから怒ったふりをしている時にする仕草ということを誠は知っている。

 

「エレシュキガルさんどうかしたのですか?」

 

「マシュちゃんは気にしなくていいよ」

「とはいえ、みんな無事だったのですね!みなさんすごいです!」

 

「いや、無事なのは西側に逃げたスタッフだけだ。東館に逃げたスタッフはみんな氷漬けになっちまった。」

とムニエルが申し訳なさそうに呟く。

 

「そんな?氷漬けだなんて!?もう他に生存者はいないのですか!?」

 

その時、アナウンスが比較的静かな格納庫で再生された。

 

「ひいい…来る、来る…!ああ……あああ…………ああああああ!」

 

誰かの悲鳴のようだ。

 

「間違いありません、生存者です!助けを求める声でした!」

 

「おおい、ホームズが急げって怒鳴ってるぞ!そいつにはもう諦めてもうしかないんだ!」

 

「だそうだ」

 

誠もムニエルの意見に便乗する。

 

「我々に余裕はない。スピーカーの向こうの彼が自力で生き延びることを祈るしかない。それともーーあの何処の誰ともわからない誰かのために、君たちもここに残ると言うのかね?」

 

「それは……」

「……………………」

 

立香とマシュはおし黙る。自分達の生存が一番だということは彼らもよく知っている。だが――。

 

そしてまたしてもアナウンスが鳴り響く。

 

「今日という日からカルデアを栄光に導く男!栄光、そう、栄光!そのはずだったのに・・・・・」

 

この口ぶりからするに新所長だろう。

 

「くそう、今まで何もいいことがなかったのに!」

 

皆、黙ってそれを聞いている。

 

「まだ死にたくない!だって一度も、他人に認められいないんだ!まだ、誰にも愛されていないんだよ・・・!」

 

そのセリフが導火線に火をつけたのかみんなの気持ちが一つになった。

 

「その台詞は、もう裏切れない・・・!」

 

立香がそう小さく呟く。

 

「誠くん、君の力を貸してくれないか?ゴルドルフ新所長を助けたい」

 

「オーケー。だがマシュちゃんと立香はここに残ってもらう。ダヴィンチちゃん行くぞ」

 

流石の誠もここは空気を読んで二つ返事でオッケーする。

 

「頼む、エレちゃんの力が必要だ」

 

「そ、そう?なら仕方ないわね!」 

 

「そういうことだムニエル、あと少しだけホームズに待つように伝えてくれ!すぐ戻る!」

 

 

そうして誠たちは格納庫を後にしゴルドルフのところへ向かった。




次で絶対プロローグ終わらせます。

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