アナウンスが発信された地点を逆探知したので場所はすぐに分かった。
「ヒュウ!大した悪あがきだ、まだ生きているとはね、Mr.ゴルドルフ!」
「な!?貴様はキャスター!それに……貴様はAチームの誠・エルトナム!?お前一体今までどこに隠れていた!それに、き、貴様、ななな、何をしに来たのだ!?」
確かにさっきまでひどく邪険に扱っていたカルデアの連中が助けに来るなど想像もしなかったのかゴルドルフはパニック状態にあるようだ。
「信じられないかもしれないが、あんたを助けに来たのさ。礼を言うなら立香に言ってくれ。それとエルトナムではなくシリウスだ」
「まぁ、君がそんな殊勝な態度に出る事は十中八九ないだろうけどね!」
とダヴィンチちゃんが付け加える。
敵の黒い兵士が前から6体後ろから2体近づいて来る。
「エレちゃん、ダヴィンチちゃん前のやつを頼む!後ろは任せろ!」
そう言うと誠は後ろから近づいて来る殺戮兵器と対峙する。
腰に下げているマシンガンを構えて、兵士の脳天めがけて銃弾をブチ込む。アトラス院仕込みの魔術で強化していることもあって、兵士は簡単に爆散する。
――体感こいつらには強い奴と弱い奴がいる気がするが特に今気にする事ではないだろう。
どうやらエレちゃん達の方も終わったようだ。
「ぬうう、余計なことを・・・!貴様ら、今ので私を助けたつもりか!?いや、そもそも私は完全なる被害者だ!カルデアなんぞ、やはり解体されれば良かったのだ!」
「ゴルドルフ、愚痴を言うのはいいがダラダラしてたら敵に囲まれて死んじまうぞ」
一言二言話しているうちにも際限なく敵はこちらに押し寄せてくる。
「わ、分かっておる!ひと段落ついたら今回の件について説明してもらうからな!」
――ひと段落つけばいいんだがな。
「ふぅ、ふぅ、ほふぅ・・・!こんな雪山にきてマラソンとはな・・・!ふっ、先ほどまで孤軍奮闘していた私を!少しも労わんとはなっ!とはっ!ふはぁ!」
どうやらゴルドルフは動けるデブのようだ。
先ほど、ゴルドルフのもたらした情報によるとあの黒い兵士はオプリチニキと言って人間を苦しめる為に編成された部隊らしい。
「マスター!」
「分かってる!」
前から魔力の気配を感じ一行は足を止める。
いきなり止まったことによりゴルドルフが転んだが誰も気にしてはいない。いや、気にする余裕などない。
そこにはコヤンスカヤが立っていたのだから。
「性格の悪い女狐だな」
「はーい、そこ聞こえてるゾ♡」
ゴルドルフはコヤンスカヤを見て怯えている。カルデアの件で何から何まで利用されたと慣ればトラウマになるのは必然だろう。
「あら、よく見ればあなた誠くんじゃない。サーヴァントまで従えちゃって♡死んだと思ったらそっち側についたのね?私人間は大好きだから、あなたさえ良ければこっち側につくことで命だけは助けてあげてもいいわよ?」
「そしたら俺にも異聞帯とやらとサーヴァント、プレゼントってか?だがもう異聞帯は残っていないだろう?」
「あら、あなた随分と鋭いわね、なおさら生かしておくわけにはいかないわね」
「適当だ。過大評価はよしてくれないか?」
許してくれる様子もないので誠達は無言で戦闘態勢に入る。
「あら、あなた達本当に勝てると思っているの?」
「何?」
誠が訝しげに声を上げる。
「こっちには無敵の皇女様がいるのよ?」
その時、特別大きい魔力の気配を感じた。
その者は霊体化していたのかいきなり目の前に現れた。
「皇帝の威光に従わない者には死を。裏切り者には粛清を。ヴィイ、私が願います。私が呪います。邪眼を開きなさい、ヴィイ!」
そのサーヴァントがそう叫ぶとあたりの体感温度が10度は下がった気がした。
「あれは東館を氷付けにした魔女だ!もう、おしまいだぁ。そこの金髪の英霊とダヴィンチ君では絶対敵わない!ぐはっ!」
誠はゴルドルフを峰打ちで黙らせると、思考を高速化し考える。
――確かにエレちゃんは一対一の戦闘では能力を発揮できないがダヴィンチちゃんがいるし逃げるくらいはできるはずだ。
「ダヴィンチちゃん策は?」
誠は目で無敵の皇女と言われたサーヴァントを瞳で捉えたまま口を動かす。
「相手が油断してくれたりしたら楽だったのだが、サーヴァント2騎いるだけあってそうでもないらしい。腰に対霊体閃光弾をつけてある。一瞬でいいから相手の意表をつけばここから勝機はある」
誠はちょうど二人にちょうど聞こえるくらいの声量で作戦を提示する。
「エレちゃんの宝具を使う。いきなり今立っている場所が冥界になったら流石のあいつらも驚くだろう。隙をついて俺たち4人は権能で上に飛んで逃げる。ダヴィンチちゃんはゴルドルフを回収よろしく」
「えぇ…気絶させたのは君だろう?と言いたいところだが今回は君の指示を聞いてやろう。なんたって天才だからね」
ダヴィンチが得意げな声を出し、調子を整える。
「エレちゃん、合図したらに宝具お願い」
「分かったのだわ」
多分これが最初で最期のチャンスだ。誠たちの間に緊張が走る。
「そこ3人で何こそこそ話しているのかしら?そっちの英霊も大したことなさそうだしもう降参した方がいいんじゃない?」
「そっくりそのままその台詞返してやろうか?性悪女」
「強がりかしら?汎人類史ごときのサーヴァントが異聞帯のサーヴァントに――――」
相手が舐めきっているその時がタイミングだ。
「今だ、エレちゃん!」
「あなた達全員冥界まで連れて行ってあげる!」
その手に持つのは発熱神殿メスラムタエア。
「天に絶海、地に監獄。我が昂とこそ冥府の怒り!出でよ、発熱神殿!」
大気が揺れ、地が裂ける。
「これが私の『
地殻変動で山をも崩壊させるアースインパクト。あたり一体の地形が冥界になる。衝撃でオプリチニキをも吹き飛ばす。
「神霊を召喚していたなんて想定外だったわ……!」
これにはコヤンスカヤも驚いているようだ。
「今だダヴィンチちゃん!」
「はいよ!」
敵に向かってダヴィンチちゃんが対霊体閃光弾投げつける。
「冥界の女主人の名の下に汝らに冥界の加護があらんことを!」
エレちゃんがそう告げると俺たちの体が宙に浮く。
パニックになっているコヤンスカヤ達をよそに誠たちはその場を後にした。
走っている途中ゴルドルフも目を覚ました。
「ここが格納庫か!資料で見るより広いではないか!」
「感想は後、あのコンテナに走る!後ろから冷気が迫ってきているぞ!」
「おーい、こっちだ!早く来ーい!」
ムニエルが半身を出して叫んでいる。
「後一歩と言うところで私たちの勝ちさ!殿は私が務めよう」
この時背中に寒気が走った。
誠は、なんとも言えない不快な気配を感じ取り、懐から俺の銃を取り出しその得体の知れない何かに突きつけるがーーー
「貴様は、あと一歩足りなかった。」
ダヴィンチの心臓部をその者の手が貫通する。
「グハっ・・・・・!」
「失礼。隙だらけだったのでね。手癖で心臓を貫いてしまった」
その声の主を俺は知っていた。
「言峰綺礼か、貴様…何故生きている?あの日俺の目の前でお前は確かに死んだはずだが」
誠はエージェントをしている最中に彼を殺したことがあるのだ。
「そうだとも。確かに私は貴様に一度殺されたことがある。この身体が覚えている」
そう言って神父は弱者を見る目で誠を見つめる。
言われたことは最後までやり遂げる性分の誠は自分の
誠が怒りと弾を込めて、引き金を引く。
「なら、もう一度ここで死ね」
その弾は神父の頭に直撃したかとそう思われたのだがーーーーー
「危ないじゃないか。そんなもの人に向けたら」
神父は弾丸を軽々と右手で蚊でも潰すように握り潰した。
誠はこの時、確信した。
――いやこいつは人ではない。ダヴィンチちゃんの霊格にも傷をつけるどころか壊してしまっている。
――間違いない。
――サーヴァントだ。
しかし何故ーーーーー。
「ぐーーーこのぉ・・・!」
「ほう、大した胆力だ。腕を抜かず、逆に背中で私を押しとどめるとは」
だが今はそんなことを考えている場合ではないようだ。
ダヴィンチの稼いでくれている時間を無駄する誠ではない。
ダヴィンチが最後の力を振り絞ってトランクのようなものを誠に投げる。
「それを立香くんに渡してくれ!」
誠はこれが何か知っている。
これは彼と縁を結んだ全てのサーヴァントの霊基が保存されているものだ。いわばこれは彼の旅の全てといっても過言ではない。
「さあ、急ぎたまえ誠くん。君がこのエセ神父とどういう関係かは知らないが今は逃げる時だろう?」
「短い間だったがありがとう――――万能の天才」
「ああ、さらばだ誠・エルトナム・シリウス!これは私個人の頼みだがあの子達はまだ弱い。だから守ってやってくれ」
――ああ、お安い御用だ。
「エレちゃんは別れの挨拶しなくてよかったのか?」
「別れの挨拶は余計に悲しくなるからもうしないと決めているのだわ……」
「そっか……」
ダヴィンチちゃんを背に走りコンテナに飛び乗る。
「誠・エルトナム・シリウス、エレシュキガル、ゴルドルフ・ムジーク 以上3名コンテナに収容しました!これで最後です!」
「3名?ダヴィンチ氏は?」
「分かっているのだろう、名探偵。少しは察しろ」
「おっとこれは失敬」
この会話を聞き内容を理解したマシュが泣き崩れ、立香が俯きながら涙をこぼす。
「ええい!泣くな!あのサーヴァントは所長代行として殉職した!いっちょ前にな!」
「後は我々が生き残るだけだ諸君。諸君衝撃に備えたまえ」
そう言うとホームズは倉庫とコンテナをつないであるパイプを外した。
「気圧変化による障害は対処済みだ!安心して6000メートルの滑空を楽しみたまえ!」
「「「「「「「「な、なんだってーーーー!!!!!」」」」」」」」
コンテナに乗っている人たちの心が一つになった瞬間だった。
20秒くらいジョットコースター状態が続いている時のことだ。
コンテナに強い衝撃が走る。
「ななな、なんだ今のーー!回ってるぞ、コンテナが回ってる!」
カルデアからの狙撃だ。後2、3発食らえばコンテナが崩壊するだろう。
「どうすんだよ!名探偵!」
「安心したまえ!コンテナなんてただのガワだよ、ガワ!」
誠の叫びに応えるようにすぐ側から、もう聞くことがない筈の声が聞こえる。
「私たちは生き延びるとも!だってこんなこともあろうかと半年かけて改造してきたのだらね!」
次の瞬間、コンテナが変形して巨大な装甲車へと変貌していた。
「これは映画か!」
そして、そこには2回りも3回りも小さいダヴィンチちゃんがいた。
「やぁ!おはよう、こんにちはカルデアの諸君!初めまして、と言うべきかな?私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。親しみを込めてダヴィンチちゃんと呼んでくれても構わないよ?」
「「「「「「「なーーーー、何がどうなってるんだ!?」」」」」」」
またしてもみんなの心が一つになった瞬間だった。
――要約するとこれはダヴィンチちゃんのスペアボディでこの俺たちが乗っている虚数潜航艇シャドウ・ボーダーのナビをするために作られた人工サーヴァントらしい。
エレちゃんなんて大号泣している。
――それはそうとこのペーパームーンってどっかで見た気がするんだよなぁ。
誠は頭を手で支えて、過去の記憶を呼び覚ます。ふと、アトラス院時代の出来事が脳裏を過る。
誠は確かにコレを知っている。アトラス院時代、この製作者の工房に入った時に設計図をチラッと見ていたのだ。
だが誠がソレを思い出す前にまたも異変が起こった。
「……ん?待て。なんだあれは?」
ふと、誰かが声を漏らした。
隕石のようなものが地球に降り注いでいた。
『通達する。我々は、全人類に通達する』
『この惑星はこれより、古く新しい世界に生まれ変わる。人類の文明は正しくなかった。我々の成長は正解ではなかった。よって、私は決断した』
『これまでの人類史ーーー汎人類に叛逆すると』
『空想の根は落ちた。創造の樹は地に満ちた』
『我が名はヴォーダイム。キリシュタリア・ヴォーダイム』
『ーーーーこの歴史は、我々が引き継ごう』
――やはりあいつがリーダーか。
「Aチームのリーダー、私が保護してやろうとした若造が、偉そうに・・・!」
ゴルドルフが、怒りで机を叩く。
『はーい、こちら一人でボーダーの全機能を統括しているダヴィンチちゃん⭐︎早速だがまたもや問題発生だ。2000メートル先を見てごらん?』
そこにはあのカルデアを襲撃した黒い兵士ーーオプリチニキが海岸線を埋め尽くしていた。打開は絶望的だろう。
「ダヴィンチ。ペーパームーンの使用許可を。アトラス院からの使用許可は出ていないが、私はあれの使い方を熟知している。何せ彼らの本拠地で直接、その極秘マニュアルも見たのだからね」
「構わん、名探偵。許可なら俺が出す。これでも院内ではそこそこ結果は残してる」
「了解した」
誠の暴論を流して、ダヴィンチがホームズに質問する。
『実際のところ成功率はどのくらい?』
「成功率は3割以下、おまけに何処に出るか分からない。だがこの先を考えるなら使用することをお勧めする。今後、我々があの連中と戦うために」
――ふと立香と目が会う。
二人は顔を見合わせニヤリと笑う。
「「やるしかない(だろ!!)でしょ!!」」
『了解した。虚数観測機ペーパームーン、展開。シャドウ・ボーダー外部装甲に倫理術式展開。実数空間における存在証明、着脱。未来予測・20秒後に境界面を仮設証明。時空摩擦減圧、0.6秒で緩和。』
『ーーーー緊急工程、全て良し。いいぞ、ホームズ!処女航海に出発だ!』
この戦いは長い旅になるだろう。
――――そうこれは未来を取り戻す物語である。
そんななことよりお気に入り210件ありがと奈須!
もっと評価投票してくれてもよくって(ボソッ モチベのためにもオナシャスセンセンシャル
序章終わるまではハイペースで書きましたがこの小説はプロットもなければ書き溜めもないので次回からは亀投稿になります。そんなんでもいいよって人いたら引き続き温かい目で見守ってくれたら幸いです。
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