家に帰ると前世の嫁を名乗る女の子が居た【完結】   作:トマトルテ
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3話:あなたを愛しています

 

 最近、友人(太郎)の様子がおかしい。

 

 何かを悩む様に考え込むことが増えたし、遊びに誘っても来なくなった。

 聞いてもいつも誤魔化すし、絶対に真っすぐに家に帰る。

 前ならば、ノリ良く遊びについてきていた太郎がだ。

 

 おかしい。これは明らかに何か問題があったに違いない。

 なので、俺は太郎の友人として問題を突き止めるために学校帰りのあいつをつけることにした。

 

 校門を出た太郎は、人目を避けるように人の少ない公園へと向かっていく。

 その姿に俺は、間違いなくあいつは何か人に知られたくないことをしていると確信する。

 黄昏時に人気の居ない公園……下手をするとドラッグの売人と会っているのかもしれない。

 

 その場合は友人として殴ってでも止めてやらないといけないと、俺の拳に自然と力が籠る。だが、太郎が公園に着いた時に俺は、ドラッグの売人なんて目じゃない程に恐ろしいものを目にすることになった。

 

「ごめん、待ったか、美衣?」

「……ううん。…私も今来たところだから」

「そっか。それじゃあ、帰ろうか」

「…ねえ、手を繋ごうよ…太郎」

「え? あ、ああ…いいぞ」

 

 俺の目に映るのは、花のような笑顔を咲かせたTHE大和撫子といった感じの美少女。

 そして、その笑顔の全ては1ミリたりとも逸れることなく、太郎に向いていた。

 

「ふふふ…私は今とっても幸せだよ…」

「あー……まあ、俺も幸せだよ」

 

 彼女と仲良く手を繋いで帰るあいつを見て、俺は善意が裏切られる瞬間を知った。

 

 

 

 

 

「チクショォオオオッ!! リア充は滅びやがれーッ!!」

 

 美衣との帰り道。

 突如として血を吐くような叫びが聞こえてきたので、慌てて俺は振り返る。

 しかし、叫び声の主は既にこの場から去っていたのか見えない。

 

「何だったんだ一体…? というか、どこかで聞いたことのある声だったような」

「……計画通り」

「ん? 何か言ったか美衣?」

「…何でもないよ、太郎」

 

 美衣が何かを呟いたような気がするが、どうも俺の気のせいだったらしい。

 

「……太郎の友達に私達の姿を見せつけて…逃げられないように外堀から埋めようだなんて、これっぽっちも思ってないから…」

 

 何か背筋が冷たくなるような呟きを聞いたような気がするが、気のせいだろう。

 気のせいだと言ったら気のせいだ。

 美衣は優しくて健気な女の子なんだから、嘘をつくはずがない。そう信じている。

 

「そ、そう言えば、今日の晩御飯は何なんだ?」

「…今日は麻婆豆腐だよ」

「麻婆豆腐か……実は俺、辛いものは少し苦手――」

「…大丈夫。ずっと前から(・・・・・・)知ってるから…ちゃんと甘口だよ」

「そ、そっか。そう言えばカレーの時もちゃんと甘口にしてくれていたよな」

 

 ずっと前から。その言葉差すものは前世のことだろう。

 美衣と暮らし始めてから結構な時間が経ったが、未だに俺は前世(それ)を思い出せない。

 

「…………」

「…どうしたの太郎? 急に黙り込んで」

「ああ…いや……自分でもよく分からないんだ」

 

 急に黙り込んだ俺を心配して、美衣が上目遣いで見つめてくる。

 そこに打算などない。ただ、純粋に愛している人間への思いやりだけがある。

 まあ、純粋過ぎて偶に暴走しそうだと思う時もあるんだが。

 

「……自分でも分からない?」

「なんだかな。モヤモヤとした感情があるんだけど、その正体が分からないんだ」

 

 でも、最近ではそんな彼女の瞳を見る度に、訳の分からない感情が溢れ出す。

 苛立ちと似ているかもしれない。でも、その本質は違う気がするし。

 何より、なぜ苛立っているのかがまるで分からない。

 美衣に対してなにかしら不満を抱いているという訳ではないと思う。

 

「まあ、美味いものを食べれば忘れるか。美衣、よろしく頼むな」

「……うん。元気が出るように(・・・・・・・・)料理をするから」

 

 だから俺は気楽に話しを切る。

 それが、とんでもないことを起こす引き金になるとも気づかずに。

 

 

 

 

 

「……太郎…ちょっと来てくれる?」

「ん? ああ、今行く」

 

 美衣が料理を作っているのを待ちながら、リビングでテレビを見ていると不意に呼び出される。

 何か問題があったのかとソファーから腰を上げて、すぐにキッチンへと向かう。

 

「……私も食べたけど…太郎にも味見をして欲しいの」

 

 告げられた内容は特に問題のないものだった。

 料理を作っている以上は何ら不思議な言葉じゃない。

 だが、しかし。問題は美衣の格好にあった。

 

「み、美衣…! そ、その恰好は…?」

「…裸エプロン…好きだよね…?」

「確かに好きだけど! 好きだけど!」

 

 そう。美衣の服装が裸エプロンであったのだ。

 普段は大和撫子といった感じの美衣の、過激な姿は破壊力が抜群だ。

 しかも、俺の性癖を抑えているのか、エプロンの端を恥ずかしそうに引っ張っている姿が更にグッドだ。

 

「て、そういうことじゃない! なんで急にそんなことをしたんだ!?」

「……なんだかモヤモヤするって言ってたから…」

「もしかして、俺を元気づけようとしてくれたのか?」

「…うん。前も(・・)元気の無い時はよくこうしてた…」

 

 コクンと頷く美衣の姿に、思わず頭を抱えてしまう。

 取り敢えず裸エプロンになれば元気になるって、どんだけ単純なんだろうか前世の俺は。

 いや、確かに俺も色々な所が元気が出ているので、人のことは言えないんだが。

 

「…どう? モヤモヤは晴れた…?」

「正直、美衣の裸エプロンの衝撃が強すぎてよく分からん。まあ、元気は出たけどさ。……それにしても前もか。前世の俺が羨ましいよ(・・・・・)

「……もしかして」

 

 目の前の魅力的過ぎる料理をつまみ食いしないように、必死に心を抑えて冗談を言う。

 しかし、美衣の方はそんな俺の何気ない言葉に何かを見出したのか、小さな口を開く。

 

「…太郎―――前世の自分に嫉妬してる…?」

「…え? そんなことは……」

 

 言われた瞬間に頭は何を言っているのだと反論を開始する。

 自分で自分に嫉妬なんてするわけがないだろうと。

 

 だが、心は言われた瞬間に納得をみせる。

 他の男に美衣の笑顔が向いていたという事実に、自分は嫉妬していたのだと。

 

「ああ……そうかもしれない」

 

 一度自覚してしまえば腑に落ちるのは早かった。

 俺は前世のことを思い出せていない。

 それは、今の俺にとっては前世の自分は別人ということだ。

 

「嫉妬してたんだろうな、俺。自分のことだって言うのに」

 

 自分で言っていて恥ずかしくなってきたので、ごまかすように頭をボリボリと掻く。

 

「…ふふ。うれしい」

「嬉しい? 何でそう思うんだ?」

 

 しかし、どういうわけか美衣はそんな俺の様子に嬉しそうに笑う。

 一体何が彼女の琴線に触れたのかと首を傾げながら尋ねる。

 そして、彼女の答えを聞いて一気に赤面してしまうのだった。

 

「…だって…嫉妬するってことは…美衣のことを誰にも取られたくないってことだよね…?」

「え…あ、あー……」

 

 図星だった。何の言い訳もできない程に答えを言い当てられてしまった。

 そうだ。嫉妬というものはどうでもいい人間に抱かない。

 美衣が好きだから。彼女のことを独占したいと思っているから。

 

 前世の自分にすら嫉妬の心を抱いてしまったのだ。

 

「そうだな……誰にも取られたくないんだ。ごめんな、束縛するみたいで」

「…ううん…嫉妬なんて誰だってするものだよ。美衣だって太郎が他の女の子の話をしてたら…………うん」

「み、美衣? 手が尋常じゃないほど震えているから、取り敢えず包丁を降ろそうか。……本当にお願いします。色んな意味で怖いんです」

 

 俺が他の女の子の話をしている姿を想像したのか、目から光を消す美衣。

 手にした包丁が向かう先が分からないので、優しく彼女の手を抑える。

 

「……ごめんなさい。ちょっとボーっとしてた」

「大丈夫。大丈夫。俺は美衣の前で他の女の子の話なんかしないから」

「…うん…ありがとう」

 

 目に光を取り戻し、少し安心した表情を見せる美衣。

 その姿に胸を撫で下ろしながらも、俺は前世はひょっとすると無理心中で死んだのかもしれないと思うのだった。

 

「それじゃあ、話を元に戻そうか。その…俺が前世の自分に嫉妬するのは…美衣のことが、す、好きだからだと思う。いや、好きなんだ」

「……うん」

 

 好きというたった2文字を言うのに、これほどまでに勇気が居るのかと口にしながら思う。

 だが、言ったかいはあった。美衣のこんなにも可愛らしい顔が見れたのだから。

 無表情の顔を真っ赤に染めながらも、潤んだ瞳で精一杯に俺を見つめてくれる。

 これは癖になるかもしれない。というか、既に虜になった気がしないでもない。

 

「だからさ……君と最初に会った日に言われた『好き』という言葉に返事をしたい」

 

 初めて、まあ、前世があればそうではないかもしれないが。

 とにかく、最初に美衣に会った時に待ってもらっていた返事を、今なら返せる気がする。

 

「長いようで、短い期間だけど、一緒に君と過ごして君を知った。まだ、とてもじゃないけど君の全てを知ったとは言えないと思う。それでも、今から言う言葉に嘘なんかないし、これからずっと先も変わらないと思う」

 

 スーッと、大きく息を吸い込み一世一代の告白を始める。

 

「未だに前世のこととかは分からない。

 でも、今ここに居る俺は美衣のことが大好きだと断言できる。

 ……それじゃあ、ダメかな?」

 

 前世の記憶なんて蘇らないし、美衣のことを一緒に添い遂げた女性とも思えない。

 彼女と一緒に居ればいつだって緊張してしまうし、新鮮なトキメキを感じる。

 美衣と夫婦だったなんて、間違っても言えない。

 でも、美衣が大好きだとは胸を張って言えるし、ずっと一緒に居たいとも断言できる。

 ああ、そうだ。愛しているんだ。どうしようもない程に。

 

 前世の嫁を名乗るこの不思議な女の子を。

 

「……ずっと」

「うん」

「…ずっと…待ってた……もう一度好きって言って貰える日を」

 

 美衣の瞳から音もなく涙がこぼれ落ちる。

 慌てて、指でそれを拭おうとするが、その手を彼女の白く細い手に掴まれてしまう。

 そして、涙を拭くためではなく、頬ずりをするのに使われてしまう。

 彼女の温もりと柔らかさが肌を通して直に伝わってきて、思わず唾を飲み込む。

 

「美衣?」

「…嬉しい…大好きな人に…好きって言って貰えるのは…嬉しくて気持ちがいい」

 

 何となくおかしいような気もするが、とても幸せそうな表情をしているので大丈夫だろう。

 息はやたらと荒く、肌は艶めかしいピンク色に紅潮し、目は必要以上に潤んでいるけど大丈夫。

 な、わけが無いので、心配して口を開く。

 

「み、美衣? 大丈夫――」

「……ダメ。もう…我慢できない…!」

 

 だが、その次の瞬間に俺は美衣に信じられない力で押し倒されていた。

 そして、美衣は裸エプロンという官能的な姿で俺の上にのしかかってくる。

 訳が分からない。なぜ、こんな状況になってしまったのかと現実逃避気味に、目を美衣から逸らす。すると、床に明らかに怪しいピンク色のビンが転がっているのを見つける。

 

「なぁ、美衣。もしかして、料理に何か入れた?」

「……元気が出る(・・・・・)薬」

「そうかぁ、元気が出る薬かぁ。それで、味見とかもした?」

「…料理を作るんだから当然」

 

 見ている方が焼けるほどの熱い視線を俺に送りながらも、律儀に応えてくれる美衣。

 なるほど、元気(意味深)が出る薬か。

 そうだよなぁ……俺を元気づけようとしてくれたんだもんな。

 

「えーっと、そのだ。幾ら、告白したからと言っても早くないかな? もう少し段階をさ?」

「……今まで散々待たせたんだから遅いぐらい。……それにもう同居もしてるんだよ?」

 

 俺の反論を正論で叩き潰してきながら、美衣は俺の服を慣れた手つきで脱がしてくる。

 なるほど、これが逆レというものか。と、1人納得しながらもさらに反論を続ける。

 

「いや、まだ俺達は学生だし……」

「…ねえ、美衣のことを愛してる?」

「ああ、もちろんだ」

「……じゃあ、問題ないね」

 

 愛し合っているからセーフと言ってくる美衣に、俺も何も言えなくなってしまう。

 いや、ここでまだ反論したら愛してないみたいじゃん。

 だから、俺は全てを諦めて受け入れることにする。

 

「その……初めてだから優しくしてくれ」

「…大丈夫。…太郎の気持ちのいい所は全部知っているから」

 

 拝啓、お父さんお母さん。俺は今日、大人の階段を昇ります。

 

 




そう言えば終わらせてなかったなと思って完結させました。
もしかしたら前世での死因を書くかもしれませんが、取り敢えず終わりです。
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