なんかハッピーエンドしか許されない主人公に転生したようです。   作:あぽくりふ

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・オリトくん
オリジナル系キリト。 闇堕ち主人公。見た目は黒金木をイメージしたら大体合ってる。二つ名は【剣聖】、【死神】、【葬儀屋】、【首狩り】など。


※オリジナル設定注意



02/錬鉄

 

 

 

 

「すまん、壊れた」

「へぇ……いくつ?」

「五本」

 

瞬間、俺の腹に爪先が突き刺さる。無論痛みはない。アンチクリミナルコード適用圏内であるからだ。しかしそれはそれとして息苦しい。げほげほと咳き込めば、額に青筋を浮かべた少女が俺を見て口の端を痙攣させる。

 

「もう一度言ってご覧なさい」

「……ご、五本」

「五本。五本ねぇ。一つ聞きたいんだけどさ、先週あたしがあんたに渡した剣は何本だったっけ?」

「……五本です」

「ほほー。つまりあんたは全部折ったと。ナメてんの?」

 

不味い。これはマジでブチキレる五秒前だ。

長年の付き合いから本気で怒っている事を悟ると、俺は一切の抵抗を止めて両手を上げる。

 

「すまない、俺が悪かった。許してくれ」

「………………………………ちっ」

 

冷や汗が頰を伝う。だがどうやら話は聞いてくれるらしい。自分が正解の選択肢を選んだことを悟りながら、三十秒前の俺に感謝した。

 

「ほら、早く入んなさいよ。新調するんでしょ」

 

扉を開きながら、リズベットはその桃色の()()()()()()を揺らして振り返ると睨みつける。俺は慌てて後を追うのだった。

 

 

 

 

「バッカじゃないの?」

 

俺が剣を折った経緯を告げると、彼女は生ゴミでも見るかのような目をこちらに向けて来る。何も言い返せない。

 

「あのさ、あんたこの前も同じように折ったよね。で、何て言ったっけ」

「……気を付ける、と」

「だよね。言ったよね。それで気をつけた結果がこれなの?」

 

真ん中からぽっきりと折れている五本の剣を指して、リズベットは溜息を吐いた。

 

「いや……本当に申し訳ない」

「謝って済むならポリスメンはいらないの。あたしが見たいのは誠意。ねぇ、本当に“気を付けた”結果がこれなのかしら」

 

そっと視線を逸らした。

 

「何というか、その。戦ってると色々考えなくなって……」

「……この、戦闘狂」

 

戦闘狂ではない。必要があるからやっているだけだ。

だが馬鹿正直にそう答えれば火に油を注ぐ結果となるのは明らかだ。故に無言で返した。

 

「はぁ……なんかもう、馬鹿らしくなってきたわ。というか、昔っからこうだったし。改善された試しがないし。元から期待なんて全くしてなかったけどこうも綺麗に折られるとむしろ清々しいわね」

「それはどうも」

「皮肉よこのバカ。死んじゃえ」

 

鉄屑が投げられる。額にヒットしたそれを受け止めた。

 

「ま、いいわ。とりあえずそこで試作品68号を振ってみなさい。どうせレベル上がってるんでしょ」

「三つほど上がったな」

「……結構なハイスピードね。そこも変わらずってわけ」

 

呆れた風に声を上げるリズベットが見る中、置かれていた鞘もない剣を掴み取る。そして二、三回振って重心を確かめると、本格的に素振りに入った。

 

ただ素振り、とは言っても決まった型のようなものは無い。むしろ素人がそんなものを生半可に覚えようとすれば逆効果だろう。故に実戦で覚えた、そして洗練化された動きを無造作に繋げていく。暫くそうして振っていると敵の輪郭が見えてきた。俺より強く、そして俺と同じ戦闘スタイルの男。虚像の男の打ち込みは速く、正確だ。それを完全に受け流しながら反撃(カウンター)を狙う。

斬り上げ、下げ、袈裟斬りと見せかけて回し蹴りを放つ。避けられる。笑う男は神速の刺突を放った。【閃光】すら越える速度の刺突だ。だが意図的に作った隙に放たれた刺突など怖くも何とも無い。当然のように巻き込みながら受け流す。受け流された先から斬撃が撃ち込まれる。それは此方も同じだ。斬撃の受け流しと、受け流した先からの反撃が延々と繰り返される。それはある種の流れになる。流れは加速していく。限界を超え、あらゆる技術を用いた剣技の応酬は──

 

「はいストップ」

 

パン、と手が叩かれた音で我に返った。ゆっくりと剣を下ろして呼吸を整える。感嘆半分、呆れ半分の調子でリズベットが言った。

 

「全く、あんたが伊達に【剣聖】だなんて呼ばれてないってのはよくわかったわよ。まるで演舞ね。途中からこっちの事なんて忘れてたでしょ?」

「いや、まあ……」

「別に今のは怒りゃしないわよ。大体成長具合もわかったしね」

 

レベルが上がれば、当然ながら筋力も変わってくる。リズベットはそれを確かめていたのだ。ぶつぶつと呟きながらメモに書き殴っていく。

 

「んー……グリップをもう少し長めで、刃は厚くしてもいいかも。いや、抑えないとそもそも片手剣の枠から出ちゃうか」

「両手剣とかは止めてくれよ」

「わかってるわよ」

 

そうして暫く試行錯誤していたが、ようやくある程度目処が立ったらしく、彼女は顔を上げる。

 

「種別は片手剣、本数は五。ほかに指定は?」

「出来るだけ高性能、ただしワンオフではなく同一のものを五本」

「いつも通りって事ね。全く、高性能の量産品とか無茶言ってくれるわ」

 

そう言って立ち上がり、奥の工房へと向かう。俺はこれまたいつものように外に出ようと立ち上がるが、そこで声をかけられた。

 

「あんた、暇なの?」

「まあそうだが」

「あっそ。じゃあ、ちょっと見て行きなさいよ」

 

眉を顰める。リズベットは鼻を鳴らした。

 

「自分の武器の作り方くらい知ってなさいよ」

「……了解」

 

俺は彼女の後を追って、工房へ踏み入るのだった。

 

 

 

リズベットの工房に入るのは初となるが、想像以上に散らかっていた。だが当の本人は道具の位置を完全に把握しているらしい。無造作に火箸を掴むと、既に火の入っていた炉に突っ込んでオレンジとも白ともつかない色の塊を引きずり出した。

 

──鉄である。

 

既に延ばされたインゴットは棒状となっており、今にも熔け落ちてしまいそうなほど熱されている。50かそこらの層で発掘できる良質な鉄鉱石に現在の最前線で入手可能な火龍の真結晶を用いることで叩き上げられる鋼鉄は圧巻の一言に尽きる。それを2ポンドのハンマーを用いて叩き上げていくリズベットは、真剣ながらも実に楽しげに見えた。

 

「あんた、刀と剣の違いって知ってる?」

「……形の違い、とか」

「馬鹿みたいな答えね」

 

あってるけど。

そう返すと、彼女は鼻を鳴らした。あってるならいいじゃないかとも思うが、確かに馬鹿みたいな答えなので思案する。

 

「刀は、鋭い」

「ふぅん。剣は?」

「あれは斬るというより、叩き潰すに近い。だから両手剣は好きじゃない」

「へぇ、案外わかってるじゃないの」

 

そう言って笑った。俺は鍛冶場の暑さに眉を顰める。

 

「そうよ。だからあんたの片手剣は西洋剣じゃない。どちらかというと日本刀に近い片刃のそれ。手作業(マニュアル)で鍛えてる私からしたら天と地の差ね」

「……マニュアル?」

 

お前そんな事も知らないのか、と言いたげに睨み付けられる。

 

「あのねぇ。武器鍛冶師(ブラックスミス)やってるプレイヤーがどいつもこいつもこんな事してると思ってんの? 自分で言うのもあれだけどね、マニュアルにしてるのなんて私くらいのもんよ」

はあ、とだけ返す。何もかも初耳の話だった。というか、

 

「じゃあ、なんでマニュアルでやってるんだ」

「……少しは自分で考えなさいよ」

 

そう言うと、リズベットは背を向けて作業に集中し始める。少し考えた後に口を開こうとすると、ぶっきらぼうに告げられた。

 

「集中するから、ちょっと出ていきなさい」

「……了解」

 

開きかけた口を閉じて、俺は鉄を鍛える音の響く鍛冶場から外へ出るのだった。

 

 

 

 

 

───私とあいつの付き合いは、20層くらいから続いている。おおよそ一年と少し前の事だ。よく晴れた……と言っても再現された気候だが、青空だったのをよく覚えている。

 

その頃の私は鍛冶師(スミス)としては駆け出しで、レベルも攻略組からは程遠く、まあ言ってしまえば序盤は助けを信じて引きこもっていた奴だったのだ。だが半年も経てば諦めもつく。ぼちぼち多くのプレイヤー達が動き出すのと機を同じくしてレベリングに励み──しかし最前線で戦う根性もなく、結局前線の支援にも繋がる職人系スキルを取得したのだ。

 

とは言え、その頃の私は初心者だ。この強気な性格も相俟って、教えてくれるようなプレイヤーもいない。故にほとんど全てが自力で読み解いたものだ。しかし一人でできることには限度というものがある。案の定私は鍛治師として低迷した。なけなしの金をはたいて露天商をやっても、質の悪い剣など誰も買うはずがない。

無論、マニュアルなんぞではなく適当に叩いてガチャのように武器が吐き出されるシステムを採用すれば多少は売れたことだろう。だが自他共に認める頑固さゆえに、私はどれだけ売れなくてもマニュアルで鉄を鍛つことをやめなかった。NPCの工房に住み込み、いっそご飯を買う金がなくなろうと続けてやると考えていたのだ。

……まあ、他人に頼れないぼっちの意地のようなものだ。心は折れそうになるが結局意地が勝つ。

 

そんな生活を続けていたわけなのだが。ある日──とある少年が私の店を訪れたのだ。

 

そいつはまるで喪服のような黒い外套を羽織った、底の見えない闇のような目をしたやつだった。一言で言えば陰気なやつ。だが剣を見る目は何処か真剣で、私の見る前でそいつはこう言ったのだ。

 

『もうちょっと、刃を短く出来ないか?』

 

それはもう口論になった。その頃の私にはそのプレイヤーにあった武器を見立てるような目はない。文句をつけてきた少年に突っかかり、路上で大喧嘩して──しかし結局売れた。

 

そして、そいつは三日後に現れた。前の武器は折れた、と言って。当然私はキレた。

 

馴れ初めはそんなものだ。私が鍛えて、あいつが折って、調整して。それを何度も何度も繰り返して、私は工房を持つにまで至った。

そして──あいつは、結局最初から最後まで単独(ソロ)で戦い続けて。いつの間にか【剣聖】とまで呼ばれるようになった。

 

ただ、それだけの話。浮いた話など一つもない。私はあいつの剣を作るだけ。あいつの為に、剣を作るだけ。

 

「うん、まあ……悪くないかな」

 

そう一人呟く。黒金の刃は炎によって美しく照り映える。合計で三本、まあ短時間にしてはよくやった方だと言えるだろう。

 

頷くと、私はそれらをストレージに放り込んで外へ出る。夕陽が眩く、思わず目を細めていると声を掛けられた。

 

「終わったのか」

「っ……あんたねぇ、気配消すのやめなさいよ」

 

昏い瞳をした少年は微かに笑った。こいつは何も変わらない。私の剣を買って、戦って、そして必ず帰ってくる。

 

「キリト、少し素振りしてみなさい」

 

代金は後払いだ。気に入らなければ金は払わなくていい。頷いた少年が剣を手に取る。

 

瞬間、剣閃が空を裂いた。

それは単純に速いだけではない。動きに無駄がないのだ。一切の無駄を削ぎ落とし、完成された剣はステータス上の速度以上に“疾い”。人体関節の各部を完全に制御し、まさしく体術として極みに至った剣術は神速へと至る。仮想体(アバター)を完全に制御する驚異的な体術練度がそこに在った。

それは天賦の剣ではない。老成した剣だ。初めから完成していたのではなく、最終的に完結した剣。幼さを残すその顔とは対照的な剣にはぞっとするような魅力すらある。

「こんなもんだな」

「文句は?」

「ない。完璧だ」

 

鍛治師冥利に尽きるとはこの事だ。ほう、と息を吐いて請求すべき金に頭を回し始める──。

 

 

「それにしても……あの頃に比べて随分と成長したな、リズ」

 

 

声が、出なかった。

あんまりにあんまりな不意打ちに、酸欠の金魚のように口を開閉させてしまう。最初に自分の剣を買ったこと。最初に褒めてくれたこと。あの頃というのがいつを指しているのかはわからない。だが、どうしようもない歓喜が胸を突いた。

 

「……あっ、そ。褒めるくらいなら金寄越しなさいよ」

 

そっぽを向いて悪態を吐く。斜陽が目を焼いた。

 

私が鍛える。あいつが使う。ただ、それだけの話だ。

 

 






〉マニュアル
あの違う世界創る系男子のカヤバーンがまさか武器をただのガチャにするわけないよな!という発想から生まれたオリジナル設定。プレイヤースキルに依存するがSAO的には今更の話。ドロップアイテムに負けるプレイヤーメイド品とか有り得ないよね、っていう。

・リズベット
頑固親父系女子。特定条件下でルートが開発される。作者の趣味によりポニテになっていたり。淫ピでポニテで強気とか最強だと思うの 。
なお、普通にアスナとの付き合いはある模様。仲が良いかは別。
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