なんかハッピーエンドしか許されない主人公に転生したようです。 作:あぽくりふ
あのガキが、俺を庇った時。自分でも嫌になるほど動揺してしまった。
何も似ていないのに。何もかも違うのに。何故か、『彼女』と重なってしまって。
──腸が煮えくり返るほど、自分に腹が立った。
「立てるか、ユイ」
「は、はい……多少なら」
弱々しいが、心意で力場を作って立っていることを認めて手を離す。流石にラスボスを前に、ガキ一人を庇って戦えるほど余裕はない。こうして空中で足場を作って跳んだり跳ねたりしているだけでも精神力がガリガリ削られているのを理解する。心意は無敵ではない。
だが──そろそろ、慣れてきた。
「行くぞ、ヒースクリフ」
空中において戦場は三次元だ。あらゆる角度からの攻撃に注意しなければならず、それは地上戦の常識から乖離している。魔王の動きは明らかに鈍い。そもそもアインクラッドは空中戦を想定したゲームではない。
……ただ撃ち下ろすだけじゃあ芸がないぜ、魔王サマ。
「
エンチャントを爆発に変換し、空中で得た推進力。不規則な三次元軌道を描いて急速上昇し、足場を作り蹴り上げ、死角を叩き斬る。《神聖剣》の弱点は一方向に特化した防御であるということ。地上戦ならばまだしも、こうなれば好き放題に攻撃は通る。
「くっ──《
空間が歪む。崩壊していた100層が揺らぎ、紅玉宮がその姿を取り戻していく。同時にヒースクリフが転移。なるほど、空間そのものに干渉するスキルか……強すぎだろ。弱体化前提という話にも納得が行く。
「とりあえず、それ潰さなきゃな」
「出来る、ものなら──!」
だが近接戦においては使わない。恐らくある程度の
「ちィ……!」
「焦りが見えるぜ、魔王さんよ」
煽る。だが余裕があるわけでは決してない。むしろ薄氷の上を渡っている気分だ。レベルドレインにこちらの剣技を封じてくるチート技、あれがある限り決定打に欠けるのは間違いないからだ。消耗戦は明らかに不利。どうにかしてあのスキルを剥がす必要があるが──。
「……ああ、なるほど」
視界の端に表示されたメッセージを見て、全てを理解した。そのままメインウィンドウを開き──やめた。面倒だ。手を翳し、呟く。
「《
システムコマンドそのものへの接続。出来ると思った。否、出来ると確信していた。これが心意の基礎にして極意。疑わないこと。文句は言わせない。元より、チートはお互い様だろうヒースクリフ──!
「《
その一瞬の隙に魔王は権能を発動させていた。空間が歪む。致命的な場所へ転送される予兆。だが、それは。
「
予兆ごと、その
「………なん、だと?」
「《罠術》。なんとも癪に障るが、まあそれを止められるのはこれっぽかったからな。無効化させて貰った」
「
魔王が歯噛みする。復讐者は嘲笑する。
「ユニークスキルは全部で十。いや、《神聖剣》を除いて九つ。その一つ一つが、お前の権能を封じる為に存在している……違うか?」
「君は──何処まで──」
「出せよ、残り八つ……!」
「──私の計画を破綻させるつもりだ……!」
手を振るう。《
迎撃可能剣技検索──該当無し/検索結果更新/該当一件。
──《
「
それらが射出される直前、その悉くが叩き落とされる。ユニークスキル《手裏剣術》。投擲した剣が分裂しながら飛翔、相殺した。粉砕される権能。解除すると同時に心意で手元に呼び戻す。空間を引き裂いて手中に収まった。
……自動発動した《剣技剥奪》により《手裏剣術》が奪われる。ここから先は、半ば使い捨てになるということだ。封印解除に心意は使わない。元より使いこなせないスキルなど、奴の権能を相殺できれば十分。
「継承条件を無視している、のか……!? いや違う!
それは驚愕だった。畏怖だった。肯定しよう。今の俺は──
「ユニークスキルの重複所持は、可能だ。所詮はただのエクストラスキルの一つ。共有は出来なくても独占は出来る。あいつを殺した直後に《罠術》を継承したことで、それは確信に変わった」
「ありえない……既に重複所持をしていたなど、私が見落とすはずが……!」
すぐに
──何者かが、意図的に情報を操作していなければ、という但し書きがつくが。
「ユイ、お前が──!」
「私はプレイヤーの味方ですよ、お父様」
顔が歪んだ。計画は滅茶苦茶だ。想定外の変数から全ての計画が崩れていく。あの場面で正体が露呈することも、《二刀流》の正規所有者でない存在と戦うことも、未だ始末出来ていないことも、何もかも。
「キリトくん……いや、桐ヶ谷和人! 君は、あまりに危険過ぎる!」
「はン──今更の話をするなよ、茅場晶彦ォ!」
ゆらり、と剣を構える。こちらを明確に敵視した魔王の権能、それにより展開される無数の透明な障壁。ひとつひとつが絶望的な強度と厚さを誇りながら顕現する。《暗黒剣》のエンチャントを付与しようとあれを穿つことは出来まい。
……だが、このユニークスキルの前ではいかなる防御も無為となる。剣気が満ちた。
「
三秒ごとに総体力と同量の障壁を展開する権能が、居合抜刀に叩き斬られそのまま停止した。堪らず魔王が後退する。ただ同時に、その右手に握られた剣が振るわれた。
「くッ──《
極光が収束する。再度の殲滅技が、しかし変則的に形を変えて放たれた。全方位に放った聖剣の白。
「
停止した《抜刀術》をパージ。換装した《気功術》の無敵化によって、抜ける。同時にこの身を侵食しようとしていた《
ただ──間合いは開いた。聖剣の
「
言われなくとも、と返された気がした。
継承条件──クリア。剣技継承可能。
「
「使えるな、これ……
ユニークスキル《錬金術》。《弓術》実行前に黒剣を弓へと変性させたのはこの固有剣技だ。その黒剣を更に別の形状へと変える。
「《無限槍》……行くぞ、サチ」
剣から弓へ、そして槍へ。別物となった得物を引き絞り狙う。間合いは無限、彼我の距離は強制的に零となる。
──誰かが、傍らで微笑んだ。そんな気がした。
「
回避不可能な一撃が魔王の胸を穿つ。葬槍による一撃は隠されていた
瞬間。ぎろりと、魔王の瞳が俺を見据えた。《無限槍》、《錬金術》が続け様に封印される。ただ、そこ止まりだった。こう何度も喰らえば理解する。《剣技剥奪》の発動条件のひとつは「視界の範囲内に存在すること」。脱ぎ捨てた黒い
それで、十分だった。ストレージから引き抜いたもう一振の剣を構え、疾駆する。
「借りるぞ、ユウキ……!」
英雄の力を、この一瞬だけこの身に宿す──!
「
倍加した手数。超高速で閃く連撃。凌がんとする盾を叩き落として《
権能は封じた。だが、まだ残っている。揺らぐ聖剣。歯を剥いて笑う。最後に換装したのは、《暗黒剣》。左手の剣を投げ捨て、右の
最後の心意はここに。意志を叩き込んで制限されていた《暗黒剣》のアクセルを踏み抜く。HPのリソースの全てをくれてやる──!
至近距離で、対極の力が弾け飛んだ。
「
「
鍔迫り合いの状況から激突する白と黒。風景がモノクロとなり、コマ送りとなり、その中で互いだけを認識しながら吼える。どちらも互いを認められない。存在を許さない。ああ、そう考えれば似た者同士か。ふざけた話だ。
──軋む。
全身が軋む。本来、この出力は
……本来、俺はここで死ぬべきだった。
《魔王ヒースクリフ》の戦い方を引き出すだけ引き出して、死ぬ。それが
していた、つもりだった。
俺は死に場所を探していた。実際死にたいと思い、願っていた。だが気付いた。気付かない振りをしていたものに気付いてしまった。
頼れ、と誰かに胸を叩かれた。
悔いるな、と誰かに背を押された。
救いたい、と誰かに願われた。
見て見ぬふりしていたもの。絆されていく自分が怖かった。彼女を忘れてしまうようで、許せなかった。忘却の果てにこの憎悪が薄れることを恐れていた。
ああ、そうだ。俺は、あいつがいない現実でも生きていたいと──いつしか、思うようになってしまっていたんだ。
歯を噛み締める。それでいいのだと、優しく囁かれた。そんな気がした。
「茅場、晶彦」
聞こえはしないだろう。だが、音も光も消えた世界で、壮年の男と睨み合いながら口を開く。
「俺はあんたを許さない」
当然だ。しかし──。
「でも、あんたの善性を信じることにするよ」
かつて人間だった亡霊が瞠目する。それが、最後に見た景色だった。
互いに崩壊していく
……結局相討ちという形でしか魔王を殺せないのが俺らしい。諸共に死ね。剣が限界を迎え、自壊を始め、そして──。
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『……認めたくはないが、嗚呼。全く以て認める気は起きないが、しょうがない』
『君の勝ちだ。キリトくん』
──ゲームはクリアされました。
全プレイヤーのログアウトを順次行います。
暫く、お待ちください──。
>>ユニークスキル
《魔王ヒースクリフ》の打倒の為に作られたスキル。それぞれが権能を破壊する機能を持つ。要は、ソードアート・オンラインはRPGだという話。
>>キリト
チートや!こんなんチーターや!