なんかハッピーエンドしか許されない主人公に転生したようです。   作:あぽくりふ

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週一投稿をしようと思ってたのに秒でペースが崩れたので、初投稿です。





03 // ENCOUNT

 

 GM案件だろ、これ。初手バグってんぞクソ運営。

 

 アルヴヘイム・オンラインの一番の売りである飛行とやらも初心者な俺が十全に行えるはずもなく、もうものの見事に地面に突き刺さった訳だが。仏頂面で俺はクソでかい溜息を吐いた。もうね、最後らへん凄い速度だったよ。俺死んだと思ったもん。初手デスポーンだと思ったよ。エネルギー保存則に基づいて超高度の位置エネルギー全部運動エネルギーに変換された結果音速に突入しかけてたよ。たぶんこの世界に摩擦エネルギーとかあったら俺溶けてたよ。熱で。

 一頻りぼやいたところで、ようやく意識が現在に回帰する。

 

 ……で、ここどこよ。

 射し込む木漏れ日に掌を透かしてみながら、視神経にダイレクトアタックしてくる膨大量の情報に息を呑む。よく考えたらSAOのベータテスト以来となる仮想空間である。現実以上の現実感とは言い得て妙だ。……と、そこで気付く。

 現実において常に付き纏っていた違和感。ラグと言えるような酩酊感が、存在しない事に。

 

「……現実酔い、ね……」

 

 実感してしまえば嫌でも理解せざるをえない。視神経や運動神経、各種神経と接続する事で五感そのものをハッキングしているとも言えるシステム、それがフルダイブ型のVRギアの根幹である。理論上は確かに現実で肉体を操るよりも、脳からの指令に対してのフィードバックは速いかもしれない。だがそれはあくまで理論上の話である。人間がそもそも知覚出来るはずもない。だがそのゼロコンマ以下のラグを感知し、あまつさえ酔ってしまうような人間がいるとしたならば、それは──。

 

 ……いや、それはいい。思考を打ち切り、とりあえず現状を把握する為に立ち上がって周囲を見渡す。俺の背を遥かに超えた樹木が鬱蒼として連なる景色。形成された樹冠により地面に届く陽射しは少なく、地面に生えている草はあまり背が高くない。聞こえてくるよくわからない鳥の声。よくわからない虫の声。ふむ、とひとつ頷く。

 

 結局ここどこやねーん。

 思いっきり遭難してねぇか。いやおかしいでしょ。途中までクソでかい国の真ん中にある結構綺麗めな都市目掛けて降りようとしてたじゃん。途中でなんでフリーズした挙句超旋回して変な森に突っ込むんですかね。

 何処を目指すか考える前に現在地がわからない。というかワールドマップもわからない。……いや、待てよ?

 指を振ってメインメニューを開く。アイテム欄をごそごそと弄り、そしてそれらを見てぎょっとした。なんだこれ、全部文字化けしてないか? 全く読めない文字列に眉を顰める。そもそも俺は初心者(ニュービー)のはず。なんでこんなにアイテムを──。

 

 

 本当に、そうか?

 

 

「……まさか」

 

 ステータス画面へ移行する。そこにあったのは驚愕すべき──しかし案の定とも言えるもの。カンストしたスキル、カンストしたレベル。片手剣スキル熟練度1000、体術スキル熟練度1000、投擲スキル熟練度1000……確認するのも面倒になって画面を閉じた。近くの木にまで寄ってすとんと腰を下ろした。己の掌を、手を、腕を見やる。浅黒い肌。当然だろう。キャラクタークリエイトにおいて原典と同じように俺はスプリガンの種族を選択した。スプリガン以外であれば激化している種族間争いに巻き込まれる可能性があるという点でも正解の選択肢だろう。……ああいや、これも現実逃避の思考であると気付いている。理解して、ようやく問題の焦点を直視する。

 

 デスゲームは──行われていた。

 

 もう否定する材料の方が少ない。状況の八割はSAOにおいて行われたデスゲームの存在を物語っている。ALOがSAOと同一サーバーを使用しているが故のこのステータス画面だ。つまり、俺はSAOにおいてここまでレベルを上げたという事であり。

 

「……くそ。わかんねえ……」

 

 苛立ちのあまり舌打ちする。SAOは実在していた。二年間ただ眠っていただけ、など嘘っぱちだ。ただし理解できない点は二つ。一つ目はなぜ死人が出ていないのか。二つ目は、なぜ俺たちに記憶が無いのか。少しばかり考えてみるが結論は出ない。どちらもナーヴギアの機構が原典と異なる──からか?

 

「そう、じゃねえ」

 

 違う。俺が最も懸念していることはひとつだけ。

 俺は、桐々谷和人として。剣士であるキリトとして……救えたのだろうか。

 アスナを。エギルを。クラインを。キバオウを。ディアベルを。シリカを。リズベットを。原典にて生きていた人々を。

 あるいは、それ以外にも死んでいった人々をすくい上げる事は出来たのだろうか。

 

「っ────」

 

 知りたいようで、知りたくなかった。

 結果的に記憶は奪われたが、人々は生きている。そこに過程の必要性はない。むしろその方が幸せだろう。二年間死線に身を投じていた記憶など、無い方が良いに決まっている。それは俺とて例外ではない。

 …………それも、違う。

 認めよう。この手の震えを。強ばった表情を。二年間を拒絶しようとする己を。

 俺は怖い。自分が何を為したのか。何を為せなかったのか。自分の仕出かしたことの顛末を見届けるのが、堪らなく怖い。

 

「俺、は」

 

 

 ──積み上げた罪咎を畏れるか?

 今更だ。本当に今更の話だ。元より覚悟の上だったはずだろう。

 ……笑わせる。元よりお前が目指していた英雄(モノ)とは、そういう人殺し(モノ)だろう?

 

 

 背後から手が伸びる。頬を這い回る指。凍り付いたように動かない身体。言葉が出ない。なんだ。拍動が加速する。眼球を指が撫ぜる。吐き出される冷笑。わからない。何がいる。違う、

 

 お前は───誰だ───?

 

「───っ、は」

 

 そんな金縛りが解けたのは、何やら耳にうるさい通知音が響いた瞬間だった。

 はっと目を見開けば、既にそこには何も無かった。後ろを振り向くも誰もいない。当然と言えば当然だ。墜落した瞬間から俺は一人だ。だから、あの腕も、指も、

 

「幻覚……だった、のか」

 

 ──そんな馬鹿な。

 あれだけ真に迫った幻覚があるだろうか。いや、しかし現にここには誰もいない。それともゲーム的なイベントか?

 ……息を吐くだけの無音。だが、それでも通知音はやかましく響いていた。少しイラついてメインメニューウィンドウを開く。見れば、メッセージの箇所が点灯していた。メッセージ一覧に推移し、恐らくは運営からであろうそれを開けば──。

 

「まぶしっ」

 

 太陽拳ばりに光が爆発した。

 渦巻く白光。数秒後、光は一つの形に収束していった。大きさは10センチほど。ライトマゼンタのミニのワンピースを纏った黒髪の小人。そして最大の特徴は背中から伸びた半透明の翅であった。唖然として中空に浮いているそれを見ていれば、不意にその両眼がぱちりと開いた。吸い込まれるような黒色の瞳が俺を映し出す。

 

「お久しぶりです。ざっと63日と11時間33分27秒振りですね──兄さん」

「は?」

 

 なんて?

 思考が止まった。久しぶりって言ったのか?

 目を白黒させる俺を認識する無機質な瞳。一瞬の沈黙の後に、小人……というか妖精っぽいそれは口を開いた。

 

「私はナビゲーションピクシーのユイです。このゲームでわからない事があれば、なんでも聞いてくださいね」

「え、えぇー……」

 

 ……な、なるほど?

 ユイ、と名乗るそのちんまい妖精の周囲をぐるりと一周しながら観察する。向こうもそんな俺をじっと見返してくる。うーん、お人形さんみたいだ。いや実際人形(AI)なんだが。ただそんな俺の奇妙な行動に何も言うことなく無反応なあたり、本当にNPCのようで……いやそうなんだろうが……ええいままよ、と俺は口火を切る。

 

「えっと、ナビゲーションピクシー……だっけ?」

「はい。兄さんをサポートさせていただきます」

「あー、いや……そっか」

 

 頬を掻く。ナビゲーションピクシー。詳しい流れは忘れているが、これがもし原典ならばこいつの正体はキリトがSAOで出会ったAIの少女、だったはずだ。だが今の受け答えでは全くと言っていいほど、高度なAI特有の柔軟な手応えは感じられない。

 もうひとつふたつ聞いてみるか。そう考えて疑問を口にした。

 

「さっきお久しぶり、って言ったよな。どういう事だ?」

「……はい。言葉の通り、兄さんは約二ヶ月ぶりのログインになります」

「待て。俺は今日キャラクター作成したはずなんだけど」

 

 そこでようやく、ユイという妖精の表情が少し変わった。微笑を湛えた基本の表情から、困惑の感情を示す表情へと。

 

「兄さんのアカウントデータは以前から存在していますよ。ログイン履歴は二ヶ月前から今日まで更新されていませんが」

「──それは」

 

 それは、つまり。

 

「ソードアート・オンラインでのデータを参照している、という意味か?」

 

 僅かな反応も逃すまいと。もはや睨みつけている、と言った方が適切では無いのかと我ながら思えるほどつぶさにユイを観察しながら、問う。

 そんな俺を見ながら、しかし彼女は、やはり無感情な事が伝わってくるような感情的表現で俺に返した。

 

「申し訳ありません。ソードアート・オンラインではなく、このゲームはアルヴヘイム・オンラインです。仰る意味があまりわかりません」

「……そうか。そうだよな」

 

 息を吐き出し、悪かった、と告げた。そして自嘲する。人工知能に謝ってどうするのか。

 

「マップはわかるか」

「はい。マップの開き方は──」

「ああいや、違う。最寄りの町は何処か聞きたかっただけだ」

「はい。ここから一番近い町は《スイルベーン》です。ナビゲートを開始しますか?」

「よろしく頼む。あとは、そうだ」

 

 俺の背中にもある背中の翅をちらりと見て、問う。

 

「……飛び方、教えて貰っていいか?」

「了解しました。では、空中移動のチュートリアルも開始しますね」

 

 機械的に少女は微笑むのだった。

 

 

 翅が生えているのは肩甲骨の辺りだ。

 ただ、元々人間の体に生えていないものを感覚で操作する、というのは結構難易度が高い話だ。俺は早々に諦めて補助コントローラーを利用し、空の旅を楽しんでいた。ジョイスティック状の補助コントローラーのボタンを押し込み、加速しながら進んでいく。ただ俺を先導するピクシーは何も言わず、ぐんぐん先に行くので俺もそれなりに速度を出さなければならない。結構怖いな、と思いながら過ぎ去っていく眼下の景色を見下ろしていた。

 ……と、そこでふと視界の端に何かが映ったのに気付いた。

 

「あれは……」

 

 空中を走る赤い線。あれは魔法……なんだろうか? 疑問形なのはこのゲームのシステムに関してろくに知らないが故だ。重装備の騎士が三人。それに追われるプレイヤーが、一人。

 

「戦いが起きていますね。サラマンダーの手勢とシルフが争っているようです」

 

 ──追われる、金髪の少女。

 それを追い立てる、三人の男。

 

「早く離脱しましょう。兄さんはスプリガンですから、どちらに捕捉されても面倒な事になるかと」

 

 バイザーの隙間から見える、下卑た笑み。

 否。見えるはずもない。この距離では彼我の大きさは指の先にも満たない。だが確信があった。魔法での射線の作り方は直接狙うものではなく、まるで獲物をいたぶる様な意図を感じられる。……感じられる? なぜ理解出来る。なんのことは無い、()()()()()()()()()()()()()

 

「……兄さん?」

 

 嗚呼──。

 

「気に入らない、な」

 気に入らねぇな。

 

 瞬間、俺はトップギアまで踏み抜いていた。

 補助コントローラーなど必要ない。()()()()()()()()()()()()()()()。もはや見ることも無くメニューウィンドウを左手で操作し、アイテム欄から現在使用可能な唯一の兵装を選択。物質化したそれを掴み取り、その平々凡々とした軽量の片手剣を一瞥する。……性能は最低。品質は粗悪。彼女の武器とはまるで比べ物にならない。だが十分。剣としての体裁さえ整っているならばそれでいい。

 

 速度を落とさず、鋭角にターンを刻み木立の中をすり抜ける。()()()()()()()()()()()()()()()()()。扱い慣れているとは言い難い。あの距離から加速し始めて到達までの時間は約十二秒。展開している三人。長剣を大上段に振り翳す少女。

 ──その脇をすり抜けて。

 

「まず、一人」

 

 不意打ちにも程がある一撃が、赤毛の男の首を撥ね飛ばした。

 

 

 

 

 桐ヶ谷直葉(リーファ)は昨日から今日にかけて、すこぶる不機嫌であった。

 

 不機嫌の原因はふたつ。兄と自分、それぞれである。全国制覇を成し遂げた自分から妙な剣術で一本取っていった己の兄への憤怒と、そしてそれに対しムキになって怪我を負わせかけた己への失望。それを吐き出す訳にもいかないので溜め込んだ結果、彼女は有り体に言ってめちゃくちゃ不機嫌であった。それはもう、結構仲の良い異性の友人にしてゲーム仲間の少年からのメッセージに対してかなりつっけんどんに返してしまいちょっと後悔するもフォローするのも面倒なので放置した結果、向こうさんは「え、僕何かやったっけ……」とかなり焦る羽目になるくらいには不機嫌であった。加えて言うなら、己の上司に相当するシルフのプレイヤーへの当たりも相当キツくなってしまい、流石にフォローするも「私、何かやらかしたか……?」と落ち込んでしまうくらいには不機嫌であった。

 

 とにかく、彼女は不機嫌であった。最終的にそのフラストレーションは「おい見ろよ女だぜ☆げっへっへ」と言いたげな顔をしているサラマンダー(※リーファの主観が大いに含まれる)三人に対して向けられ、普段ならば駄目元でも隠行魔法を試すところだというのに野郎ぶち殺してやらぁ!とイイ感じに彼女は腹を括っていた。そして、サラマンダー達もその殺気立ったシルフの少女にちょっとビビっていたのだ。

 

 ──そんな感じで、キレてますかと聞かれたら食い気味に「いやキレてないっすよ」と返しそうなくらいキレかけてるリーファが剣を構えて踏み込もうとしたその瞬間。

 

「は……?」

 

 黒い稲妻が走り抜けた。

 何が起きたのかをリーファは認識出来なかった。気付けば一人のサラマンダーの首にヒットマークが生じ、断末魔の炎(エンドフレイム)がその身を包む。襲撃者は大地を蹴り、再びその翅が光に包まれる。速度を落とすことの無い二撃目が振るわれんとしていた。

 ……理屈はわかる。戦法としては、アリだ。超上空から高速のまま地上あるいは低空域の敵を強襲する空中戦闘(エアレイド)技法。だが実情は特攻に近い。何しろ、そんなスピードでは攻撃はおろか目標に突っ込むくらいしか調整出来ないのである。初期のアルヴヘイム・オンラインにおける抗争では集団での特攻戦術として確かに確立した戦法ではあったが、すぐにこうした樹海に潜むゲリラ戦法に駆逐された事をリーファは思い出していた。

 しかし──この強襲者は、あの速度帯で的確に首への一閃を放った。ぞっとするほど正確無比な攻撃精度と、あの高速下においても反応出来る常軌を逸した反射速度。剣士としてのリーファが、その強さに肌が粟立つような感覚を覚える。

 

 続く、二撃目。しかしその翅は、踏み込みの最中で光を喪った。

 

「滞空、制限──!」

 

 忌々しい滞空制限が、妖精を地に墜す。速度が鈍り、双方が驚愕に目を見開いていた。そこでようやくリーファは襲撃者の姿を認識した。そして眉を顰めた。手にするのは初心者用の剣。防具も初心者のものだ。だがその装備と先程の鮮やかな一閃がまるでどうして噛み合わない。

 加えて、その容姿はどう見てもスプリガンであった。初心者のスプリガン。もはや姿を偽っているのではないかとすら思えるほどに全ての要素がちぐはぐな男だ。というか情報量が多い。

 ──先に動いたのは、サラマンダーだった。

 バイザーを下ろすこともせず、ただ目の前の敵を穿つ為に遮二無二振るったランスの軌跡。ただ、その狙いは正確であり双方の有利不利は既に確定的であった。リーファと同様に滞空制限を受けた男と、上空から槍を振るうサラマンダー。そして男は片手剣を握り、上段で構えを取り──。

 

「───え」

 

 思考が、凍り付いた。

 まるで、焼き直しのようだった。あまりにも鮮やかな一閃。振り下ろした剣の軌跡は槍のそれと重なり、叩き落とし、轟音と共に兜を割った。厳密には槍を叩き落とした後にその先を足で踏んで跳躍し、中空で兜を叩き割りながら既に次の標的へと目を向けている。曲芸じみた絶技。だがその本質は間違いようもなく、

 

「切り落とし……」

 

 あまりに剣速が速すぎる為に技術というよりは結果的にそう見えるとも捉えられるが、それでもそれは彼女を一度敗北せしめた剣技と重なって見えた。吸い付くように正中線の急所を叩き斬る斬撃。エンドフレイムに包まれ仮想体(アバター)が燃え尽きる。彼女が呆然としている間に、跳躍したスプリガンは残る一人のサラマンダーに迫り──。

 

「参った!」

 

 諸手を挙げて降伏を示すサラマンダーの男の眉間。その僅かな数センチ手前で、剣先は停止していた。剣圧にサラマンダーの髪が揺れる。それでもサラマンダーが焦りを示さないあたり、肝がかなり据わっているな、とリーファは感心していた。案外大物なのかもしれない。

 

「降伏する。まさかこんな伏兵がいたとはね」

「……あー、うん。あんたもそれでいいか?」

 

 “あんた”が自分を示していると気付くまでに、二秒。ぽかんとしていたリーファは、じっとこちらを見つめてくる二人の視線に慌てて口を開いた。

 

「え、あ、あたしは別にいいんだけど……」

「そうか。命拾いしたな、あんた」

「いや全くだ。魔法スキル900手前でデスペナ食らったとなれば泣いてしまいそうだ」

 

 苦笑いするサラマンダーに、スプリガンは肩を竦めて剣を収めた。二人に戦意はない。そのまま翅を光らせて去っていくサラマンダーを見上げながら、スプリガンは複雑そうな顔で見送っていた。

 ……そんなリーファの視線に気付いたのか。振り向くと、彼はにこりと微笑んで告げた。

 

「じゃ、そういう事で──」

「いや逃がすわけないでしょ」

 

 むんず、と。

 その手首を捻りあげるように掴みながら、リーファはにっこりと微笑む。スプリガンの男──というか、少年は頬を引き攣らせている。そう言えば、全く関係ないが笑うという動作は元来威嚇だったと聞いた事実をリーファは思い出していた。全く、何も、これっぽっちも関係ないだろうが。

 

「さ、あんたが何処の誰で何が目的か。一から十まできりきり吐いて貰うわよ」

「きりきりって今日日聞かねぇな……」

 

 遠い目をした少年のぼやきが、樹冠に吸い込まれるのだった。

 

 


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