なんかハッピーエンドしか許されない主人公に転生したようです。 作:あぽくりふ
凡人は天才にはなれない。だから積み上げるしかない。その上に俺は立っている。立って必死に背伸びをしてみる。
死線を越えてゆらゆらと。まるでそれはジェンガか積み木か。咎か罪か。今日もまた何かを積み上げる。積んだ後にはたと気付いた。
積み上げた髑髏は、彼女の顔で笑っていた。
──剣閃が舞う。
一撃、二撃三撃四撃──連続し都合十連撃。三秒の内に吐き出された斬閃はそのいずれもがクリティカルとして扱われる。轟音と共に振り下ろされる大太刀を軽くステップで回避し、尚も張り付いて切り刻む。感情を滲ませることも無く斬り捨てる。
まるで暴風だった。黒い嵐だった。SAOというゲームにおいてスタミナという概念は存在しない。あるのはHPと空腹、そして本人の精神力だけだ。故に理論上は延々と走り続けられ、延々と剣を振るい続けられ、そして無制限に戦うことだって可能だろう。
だがそれは机上の空論だ。人間の精神力にも限界がある。デスゲームである以上、戦闘という行為は著しく精神的な負荷がかかる。緻密に精密に、それでおいてリアルタイムに情報を更新しながら戦況を把握し、己の立ち位置を制御して攻撃を行う。要は酷く疲れるのだ。故にその精神疲労を管理する為にもプレイヤーはパーティーを組む。多少経験値減少があろうとパーティーを組まない理由には決してならない。ソロでの戦闘行動による疲弊と天秤にかければ、答えは明らかだという事だ。それでもなおソロで迷宮区に挑む輩がいれば、それはただの自殺志願者か余程の大間抜け。
──だが、キリトだけは例外である。
無理な話ではない。不可能な話でもない。ただ、その少年はその方が効率がいいから、という理由で単身迷宮区に潜る。その在り方はもはや常に自死を図るに近いが、しかし彼はこうして生きている。数百数千数万の死線を越えて立っている。同じ話だ。常と同じように敵を斬る。当然、余計な行動を挟む理由は無い。回避は最小限に、攻撃回数は最大に。クリティカルを出す為にも敵の真正面から切り結ぶ方が都合がいい。それもすぐ目の前の位置が。
結果──キリトはフロアボスと単身で真正面から殺し合う形となる。
手の込んだ自殺だ、と見た者は思うだろう。フロアボスの攻撃はそれだけ苛烈だ。モンスターの攻撃力にソードスキルを乗せ、更にその威容に見合う攻撃範囲で以てプレイヤーを殲滅せんと得物が振るわれるのだ。それだけで心が折れてもおかしくないと思えるほどに、巨大な異形の威圧感は凄まじい。
「水平斬り──唐竹割り──溜めて、振り下ろし」
呟きながら剣士は回避する。回避の動作がそのまま攻撃に繋がる。次へ次へと最適化しながら繋げていく。故に速い。判断にタイムラグが無く、あらゆる動作が完全に繋がっている。巨躯を誇るMobを相手に翻弄する様は、まるでお伽噺の英雄のように見える。だが、お伽噺にしては些か殺気が強過ぎる。これは正しくデスゲームなのだ。AIが思考を巡らせ、一歩間違えれば命が消し飛ぶ領域で人間がステップを刻む。そんな矮小で貧弱な人間を見下ろしながら、Mobに組み込まれた高度人工知能はその命を奪う為の戦術を確立する。
フロアボス──《ナラカ・ザ・パニッシャー》という名を持つモンスターが六メートルは優に超える大太刀を構えた。その一挙手一投足だけで、巨大質量の移動により旋風が巻き起こる。大気に巻き込まれ剣士の黒髪が揺れる。揺れた拍子に奈落の底のような眼が顕になった。その眼窩では無感情に戦闘機構が稼働している。経験に基づく直感、理論に基づく思考の二つから結論が弾き出される。
挙動から三手先までを
ソードスキルは放たれた。生まれるのは剣技後の硬直。それはフロアボスとて例外には入らない。
踏み込む。岩の武士より一瞬疾く。
「ここか」
瞬間、残光を引きながら黒剣が鮮やかな軌跡を描いた。
見る者が見れば直ぐに理解出来る軌跡。片手剣四連撃《バーチカルスクエア》──完全な隙に叩き込まれたソードスキルは全てがクリティカル扱いとなる──により、《ナラカ・ザ・パニッシャー》は僅かに怯む。蓄積された怯み値の発露だ。その隙を逃す訳が無い。更に前へ。
──SKILL CONNECT//《スネークバイト》
ソードスキルを滅多に使わない少年は躊躇い無く解禁する。既に彼はこの敵に対し見切りを付けていた。得るものなど何も無い。あるのは作業感だけ。故に、より効率良く体力を削れる選択肢を取るだけだ。
そこで止まる。如何にキリトとて、システムレベルの干渉を弾くような能力など持っているはずが無い。全身を鉄の重さをした真綿で包まれるような倦怠感が包む中、ぎらつく瞳で《ナラカ・ザ・パニッシャー》が再起動を果たす。
「っ、キリト──!?」
ディアベルが声を荒げる。
「大丈夫ですよ、あの程度」
そんな声に言葉を飲み込んだ。横にいるのは【閃光】のアスナだった。指揮官としても非常に優秀な彼女は今回ではヒースクリフに代わり全体の作戦指揮を取っている。恐らくは経験を積ませるためか。豊かな栗色の髪を揺らしながら、白いギルド制服に身を包む少女はキリトを見ている。
「ほら──」
そして。まるで吸い付くかのように、いつの間にか空中に投擲していた剣は彼の左手に収まった。
《SYSTEM ALERT // Abnormal Equipment:CODE 41──》
「
視界が歪む。耳を劈くような
──弾かれたように硬直は解除された。闇より暗き瞳が猛然と《ナラカ・ザ・パニッシャー》を見据える。地を蹴る剣士は軽々と宙を舞った。同じ身体能力があったとしても間違いなくやろうとは思わない軽業。スキル補正無しで少年は二メートル近く跳躍し、高速で薙ぐ刀を回避する。回避どころか、それに剣を無理やり突き立てる事で逆に運動エネルギーを掠め取った。散る火花、軋む剣身。あまりに乱暴な使い方に剣は悲鳴を上げるが、リズベット工房謹製の黒鉄は果たして耐え切った。肉体の回転を完全に制御する。まるで悪魔の翼のように空中で外套が翻る。
剣閃軌道、確定。既に未来演算は終了している。艶やかだが無機質な灰色の鎧兜に覆われるボスの顔面、その目前で黒剣が弾けた。
『Gru──uuuuoOooOOOOO!?』
悲鳴。苦鳴、と言い換えてもいい。
その瞳が悠然と物語っていた。
「──総員ソードスキル発動準備! この機を逃さないで!」
真っ先に反応したのは、やはりアスナだった。慌てて片手槍、そして片手斧を主軸にした陣が投擲系統の
そんな押し付けがましい信頼と共に、一応はプレイヤー達も配慮したであろう遠距離ソードスキルが一斉に放たれる。その様は壮観であり、煌めくヒットエフェクトにボスが彩られるのを背にしてキリトが戦線を離脱する。それとすれ違いざまに片手剣や両手剣を手にした攻略組のプレイヤー達がボスへ殺到していく。それを茫洋とした瞳で眺めながら、キリトは静かに納剣した。
「……いいの?」
「終わったも同然だからな」
既に彼の興味はフロアボスから逸れている。視線が向かう先は大階段の先。来たる61層に意識は向けられている。きっと彼は真っ先にフィールドボスを撃破し、そのまま足を止めることなく迷宮区に突入するつもりなのだろう。クエストを進めることも無く、ただ攻略会議が開かれるまでレベリングを続けるだけだ。
常の通りの姿。いや、いつからかこれが普通になっていた。誰もが畏怖し、尊敬し、そして蔑む存在になっていた。一体いつからなのか。
……語るまでもない。アスナは目を伏せる。かつてはこうでは無かった。こんなに人間味の無い少年では無かった。希望を宿し、夢を抱き、こんな世界でも強く在れる剣士だったはずだ。彼女を皮肉るような口振りをしながらも敬意を持って接し、突き放すかのような言動をしながらも真摯に応じる姿は、ちょくちょく衝突することこそあったものの非常に好意的だった。……語弊を恐れずに言えば、アスナは惹かれていたのだ。
それがどうして、こうなったのか。
「キリト、くん──」
弱々しい声が漏れる。伏せられていた視線が黒い剣士の背に移り、そして。
蠱惑的に笑う誰かの顔に、目を見開いた。
「え?」
瞬きする。無論、彼女とキリトの間にプレイヤーなどいるはずもない。見回してもそんな人影など無い。幻視か、或いは妄想か──アスナはこめかみを揉んだ。精神的に疲れているのかもしれない。だが奇妙なことに、その幻視で見たプレイヤーの顔に覚えなどない。幻ならば本人の記憶から参照するのではないだろうか。
そう、覚えなどない。ある筈がない。黒いセミロングの髪に泣きぼくろを持つ、銀の短槍を背負う少女なんて──アスナは見た事も無かったのだから。
『キリト』
耳元で其は囁いた。甘えるように、謳うように、呪うように。
『愛してる』
今日のオリジナル設定
>>剣技強制排出
インチキ。修正はよ。スキル硬直を含めてソードスキルと括るシステム上の扱いを利用した曲芸。二刀流スキル、或いは同じく装備スロット拡張効果を持つユニークスキル以外は両手に装備をしてしまった時点でソードスキル使用不可となるため、状態を上書きすることでスキル硬直を何処かに消し飛ばしてしまうヒースクリフもびっくりなシステム外スキル(?)。
問題点は一つ。そもそも硬直してしまえば剣を装備するなんて芸当は出来ないということ。オリトはそれを剣を真上にぶん投げて予測位置に落下してくるよう調整する、という意味不明な行為で解決した。剣でお手玉をするな。
ちなみにオリトはソードスキルを使わない変人だが、それは対聖騎士(魔王)用に鍛えてるだけなので面倒になったらちょくちょく使う模様。でもスキル硬直が嫌い。ソロだとその隙に奇襲されたら致命的だからね、しょうがないね。