星ヲ撒ク者ドモ   作:眼珠天蚕

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Drastic My Soul - Part 5

 ◆ ◆ ◆

 

 蒼治達が斥候任務を初めて暫く時間が経過して。都市(まち)を覆うプロアニエス山脈の影が徐々に晴れてゆく、正午近くの時間帯に差し掛かった頃…。

 蒼治達の乗るものとは全く別の車両が、瓦解した街並みを疾駆していた。

 車両は蒼治達のものと似た人員輸送用の装甲車であるが、デザインやカラーリングは異なる。何より、装甲のみならず車両のいかなる場所の表面にもビッシリと刻まれた魔術篆刻(カーヴィング)が、アルカインテールの市軍警察のものより実戦的で高価な車種である事を物語っている。

 そして何より特徴的なのは、車両側面の市街戦向け迷彩模様に()もれるように張り付けられた、地球圏治安監視集団(エグリゴリ)のマークである。――そう、これは"パープルコート"の車両なのだ。

 "パープルコート"の装甲車は、瓦礫を踏みつけて土煙は上げるものの、何一つ音を立てない。徹底的した無音の魔化(エンチャント)を施しているようである。

 この車両の人員収納スペースには、暗緑色の軍服を身につけた戦闘員たちが十数名、肩身を寄せ合って座り込んで居る。実戦に(おもむ)くが故に、紫色に染められた礼服のコートは身につけていない。

 彼らの中には緊張した面もちでジッと黙しているものの数名いたが、それは極少数派だ。大半の人員達は、無音の魔化を良いことに、下卑た話題を語り合ってはゲラゲラと下品な笑い声を上げていた。

 その中でも最も騒がしいのは、人員収納スペースの戦闘に座り込んだ、巨躯の厳つい男。アルカインテール駐留の"パープルコート"の中佐、ゼオギルド・グラーフ・ラングファーである。

 彼は隣に緊張した様子で座り込むオオカミ顔の下士官の肩をガッシリと抱えながら、掘りの深い顔をニンマリとした嫌らしい笑みで歪めながら、騒ぐ。

 「なぁ、オルトロン(オオカミ顔の下士官の名前である)。クモの糸ってよぉ、スゲェ強度があるじゃん? あれってなんでだか知ってっか?」

 「は、はい…。掛かった獲物が暴れても壊れないように…ですよね?」

 「そうそう! 大当たりだ!

 あれってよ、束ねると同じ太さの鋼鉄線より何十倍も強いだってな!

 …まぁ、それはそれとして。おれが言いてぇのは、つまりクモの糸ってのは、攻撃のためであって、防御だの警戒のためのものじゃねーってことなんだよ。

 それと比較するとな、今、オレ達を囲んでるこの"糸"は、クモの糸の真逆の役割を担ってるってぇことになるワケだよ」

 「我々を囲んでる…"糸"、でありますか? そんなものが、どこに…」

 尋ねようと言葉を口にするものの、その結びが口から飛び出すより前に、ゼオギルドの固めた拳がオルトロンの軍帽をかぶった脳天にガツンと突き刺さる。星が飛び散りそうな強烈な一撃を不意に喰らったオルトロンは、「ぎゃうっ」と尻尾を踏まれた子犬のような間抜けな声を上げながら、思わず瞼をギュッと閉じる。

 そんなか弱いオルトロンの有様を「ハッ」と鼻で笑ったゼオギルドは、叱りつけた子供を宥めるように、軍帽の上からポンポンポン、と掌で頭を軽く叩く。

 「おいおいおい、オルトロン君よー。お前さー、一応精霊魔術技官で大尉殿だろー?

 魔術体系は違えども、術式って根っこは一緒なんだからよー、この程度の方術結界くらい感じ取れよなー。

 これが"女神戦争"地域の最前線で、魂魄作用系のトラップ結界だったら、お前とその部下は一瞬で無駄死にだってぇの」

 「え…、け、結界ですか…!?

 そんなもの、どこに…」

 慌ててキョロキョロと視界を巡らせるオルトロンに、ゼオギルドは再び鉄拳を叩き落とす。「ぐぎゃんっ」と叫んだオルトロンは、鉄拳の勢いで舌を噛んでしまったらしく、長い舌を出して炎症を冷ますように息を吐く。その様子に、今度はゼオギルドのみならず、ゼオギルド直属の部下達もゲラゲラと下卑た笑いを漏らす。

 「ホントに感知できねーのか? オオカミ面してるくせに、鼻の効かねーヤツだなぁ。

 とは言ってもよ、この結界は実際、相当緻密で上等な技術で出来てやがるからな。ちょっと腕に覚えがある程度の魔術師じゃあ、何も感じねぇだろうよ」

 そしてゼオギルドは、見えない糸を絡め取るように、白い手袋に包まれた太い人差し指を立ててクルクルと回す。

 「もう十数分も前からだな。ここら辺一帯に、息を吹きかけただけでも千切れそうなくらいに細くて弱い糸状の感知用結界が、ウジャウジャと張り巡らされてやがる。

 まぁ、糸って形容はしたがよ、形而下的に言やぁ、忍者ってヤツが使うアラーム…えーとなんだっけ…そう、鳴子(なるこ)だ! アレに近いな。この結界の中じゃあ、ネズミどころかムシケラ程度のモノが動いても、術者にゃその存在を検知するだろうよ」

 「そ、そんな代物が!? 形而上相を視認してみましたが、私には全く認識できませんでした…! 流石は、"術式暴君"の異名を持つゼオギルド中佐、お見事です…!

 それにしても、そんな高等な結界の中を、いくら魔化(エンチャント)による迷彩済だからといって、こんな速度で車両を驀進させては、術者に検知されてしまうのでは…?」

 この疑問を口にし終えた途端、オルトロンは3度目の鉄拳を頭上に喰らう。そしてゼオギルドは、ハァー、と深い溜息を吐きながらやるせなく首を左右に振ると、呆れたように両手を上げる。

 「お前なー、オレがこんなに余裕ブッこいてる時点で察しろよ。

 勿論、オレが結界の作用を中和する術式を展開して、検知されないようにしてるに決まってンだろーが。そうじゃなきゃ、こんなにヘラヘラしてられっかよ。

 それによぉ…お前、オレのこと"術式暴君"とか言いやがったが、それ、褒め言葉じゃねーからな?」

 「も、申し訳ありません、中佐…」

 オルトロンはヒリヒリする頭をうなだれて、謝罪を口にする。

 「それにしても中佐、こんな上等な結界を設置したのは、一体どこの勢力なのでしょうか?

 能力の傾向から鑑みて、『冥骸』でしょうかね…?」

 「いーや」

 オルトロンの意見を、ゼオギルドは即座に否定する。

 「こいつは、避難民(マチネズミ)どもの仕業…もっと言やぁ、昨日乱入してきやがったユーテリアのガキどもの仕業だろうよ。

 ヤツら、自分たちの外部通信が傍受されてる事を承知してただろうからな。オレ達がコトを起こすだろうと予測した上で、自分たちに火の粉が飛ばんで来ないように…飛んできたとしたら、ソッコーで逃げられるように、この仕掛けを設置したんだろうさ。

 こんな技術が市軍警察どもにあるなら、この約1ヶ月間、もっとうまく立ち振る舞ってただろうからな。こいつぁ、昨日のガキどもの仕業と見て間違いねぇぜ」

 「聞きしに勝るユーテリア、という所ですかね…」

 オルトロンが感心したように語ると、珍しくゼオギルドも顎に手を置いて深く頷き、「全くだぜ」と同意してみせる。

 「飛行戦艦を素手でブッ叩くようなヤツらだからな、ハンパねぇ力を持ってるのは確かだろうよ」

 しかし直後、ギラリと獣のような獰猛な笑みを浮かべると、炎を息を吐くような凄んだ声を漏らす。

 「そうは言っても、ガキはガキだ。

 (タマ)ぁ賭けたやり取りの経験じゃ、オレ達の方が断然上だ。

 どう足掻こうと、この糸を潜るみてぇに無駄だって足蹴にしてやった上で、こっちの思惑の舞台に引きずり上げてやるぜ…!」

 

 ゼオギルド達を乗せた装甲車は、それから暫し驀進を続けると…。やがて、瓦解した街中にポッカリと開いた穴のようなトンネルの前に到着する。

 このトンネルこそ、アルカインテールの地下居住区である"ホール"への入り口である。都市にはこのようなトンネルが優に百を超える数で存在しているワケだが、その中でゼオギルドがこのトンネルを選んだのは無作為と云うわけではなく、キチンとした理由がある。

 もしもこの場に星撒部の一同が居れば、彼らは「あっ」と気付いたかも知れない。

 そう、ここは昨日、蘇芳たちに連れられて逃走した入り口なのだ。

 装甲車が人員収納スペースのハッチを開くと、"パープルコート"の人員がゾロゾロと流れ出す。そのうち、ゼオギルドは最後尾であったが、2列に並んで待つ部下達の間をオルトロン大尉を連れて悠々と歩いた先頭に立つと、腕を振って"着いてこい"と指示する。

 一同がトンネルの目の前で集合すると、ゼオギルドは掌を立てて"全体止まれ"と指示。"休め"の体勢で待機する部下達を後目(しりめ)に、ゼオギルドはしゃがみ込むと、白い手袋に包まれた右手で、大小の瓦礫でゴツゴツザラザラとした瓦解した路面を撫でると、心底愉しげにニヤニヤとした笑みを浮かべながら独りごちる。

 「いやぁ~、やっぱり戦場(シャバ)は良いよなぁ~!

 二酸化炭素の籠もる狭ッ苦しい士官室に押し込められてるとよ、なーんの刺激もなくて身体が鈍っちまって仕方ねぇんだよ。

 それもこれも、前任のボケ中佐殿がマヌケな殉職しやがった所為で、オレが中佐職に就くハメになったのが原因なんだよなぁ。あのクソボケ中佐、今頃地獄でヒィヒィ喚き回ってりゃ、良い気味なんだがよ」

 「ゼオギルド中佐、ファイナー中佐のことをそう(さげす)むのは…その…宜しくないと思いますよ…?

 ファイナー中佐は、我らを庇って殉職なさったワケですから…」

 オルトロンがゼオギルドに気圧されながらも、すかさず反論を口にする。

 ファイナーというのは、元ゼオギルドの上司である中佐だ。彼が存命の頃、ゼオギルドは少佐職にあり、現場での指揮および対応を担うのを主な職務としていた。交戦を好むゼオギルドは当時の立場にひどく満足しており、彼の無骨なる直属の部下以外の隊員が目を覆いたくなるような凄惨にして多大な戦果を上げていたものだった。

 しかし、とある作戦において前線近くにて指揮を執ることになったファイナー中佐は、『冥骸』の策略に陥れられ、部下の大部分に痛手を負う大敗を喫する。この時、ファイナー中佐は自責の念からか、自ら殿(しんがり)を勤めて部下達の撤退を援助したのだが、その結果帰らぬ人となったのである。

 オルトロン大尉はその時の戦いで、九死に一生を得た隊員の一人であり、亡きファイナー中佐に対して未だに敬意を払っている。

 しかし…ゼオギルドは「ハッ!」と鼻で笑い、文字通り唾棄して見せる。吐いた唾は、まるで亡きファイナー中佐の顔にでも吐きつけたような凶悪さである。

 「自分でヘマって、自分で死んでやがるんだからよ、世話ねぇってンだよ。おまけに、あいつの抱えてた面倒事一式、全部オレにおっ被せやがってよ! おかげでオレぁ、ここントコ一週間ほど、部屋に籠もりっぱなしの、欠伸が出るような指揮三昧だったっての!

 生きてる頃から、ヤレお前はやり過ぎだとか、ヤレ部下の礼節を整えろだ、うるせーンで気に食わなかったンだよなぁ! 死んでくれたことだけは、清々してよかったがな!」

 「で、ですからゼオギルド中佐、殉職者を悪し様に言うのは、軍規違反にもなりますから…その辺で…!」

 オルトロン大尉は憤り半分、ビビり半分でオオカミ面を冷たい汗でダラダラと濡らしながら訴えると。ゼオギルドは、「ふぅー」と長い息を吐いて落ち着く素振りを見せる。

 「まっ、ここでガミガミ言ったところで、一利にもならねーのは確かだな。

 んじゃ、ちゃっちゃと仕事に取りかかるとするかよ」

 そう言い捨てると、ゼオギルドは一度立ち上がり、左手を覆う手袋を乱暴に外し、瓦礫が(うずたか)く積もる路面に投げ捨てる。露わになった、殴り馴れをした無骨な掌――その甲には、ガラス玉に似た体組織が、摩天楼の合間に伸び始めた陽光を反射して輝いている。

 ゼオギルドは、この掌の五指をピンと広げて路面に置くと。

 「(フン)ッ!」

 鋭い掛け声を摩天楼に響かせると共に、大地を握り込むように五指に力を込めた――その直後。甲のガラス玉様の体組織に異変が生じる。

 ジュワリッ…ガラス玉の表面から、濡れたスポンジを握り込んだように、水が溢れ出す。水はそのままゼオギルドの無骨な手の甲を流れ、土埃と瓦礫に満ちた路面へと零れ落ちて、周囲を黒っぽい染み状に濡らす。

 染みはジワジワと範囲を拡大させつつ、いびつな楕円を描きながらトンネルの入り口の方へと延びてゆく。この現象はゼオギルドが意図的に操作しているワケではなく、トンネルに向かう緩やかな傾斜に導かれた極々自然な水流の動作に過ぎない。

 やがて、染みがトンネルに達した頃のこと。トンネルを下るのは染みではなく、チョロチョロと音を立てる、雪解け水のような水流となっていた。

 ――そう、ゼオギルドのガラス玉状の体組織から生じる水の量は、時間と共に増加しているのだ。

 その証拠に、ガラス玉状の体組織から噴出する水は、今では軽く蛇口を捻った程度の流量へと変化している。

 「ン~、ンン~、ンンンン~」

 陽気で調子っぱずれな鼻歌を口ずさみながら、徐々に水量を増やしてゆくゼオギルド。その隣でオルトロン大尉がおずおずと口を挟む。

 「あの…中佐。ちょっと悠長過ぎではありませんか…?」

 オルトロンは知っている。"術式暴君"と呼ばれるゼオギルドが操る現象が、この程度の大人しいものなどでは決してないということを。

 対してゼオギルドは、ニヤリと意地悪げに笑って、悠々と答える。

 「まぁまぁ、久しぶりの現地任務なんだからよ。ちったぁ情緒深く楽しませろっての。

 てめぇに心配されるまでもなく、やる事ぁちゃんとやるからよ。ホラ…ホラ…ホラよっ!」

 語尾に行くに連れて、語気が強くなるゼオギルドの言葉。それに呼応するように、ガラス玉状の体組織から噴出水の量が激変する。シュワワワ…という涼やかな程度の水音が、ジャブジャブと言う強い音へ…さらにはゴボッゴボッと噴水のような勢いで、大量の水が溢れ出す。

 トンネルへと流れ込む水の量は今や、幅は狭いものの急流の川と呼べるような有様である。

 激しい水の流れが、人工照明で満ちるトンネルの奥深くへと消えて行くのを眺めていたゼオギルドは、厚い唇をペロリと一舐めして独りごちる。

 「さぁて、避難民(マチネズミ)ども、一網打尽に釣り上げやるぜ…!

 釣りって言っても、糸と針でやるんじゃなくて、水で追い立ててやるんだけどな!」

 

 さて、トンネルの奥に向けて水を流し込むゼオギルドの狙いとは何か。――ゼオギルドは水に、2つの役割を背負わせて、避難民の炙り出しを実現しようとしているのである。

 1つ目の役割、それは避難民たちを存在を検知する神経の働きをさせることだ。

 トンネルの奥、ひいては"ホール"に潜んでいるはずの避難民たちを探し出す最も単純な方法は、"ホール"に向けて探索隊を派遣することである。実際に"パープルコート"は、この試みを何度か実践しているが、今まで功を奏して来なかったのは、トンネル内にやたらと仕掛けられた認識発狂結界のためである。避難民たち自身も解除のことを考えずに仕掛けたその結界は、無闇やたらに難解な術式構成を持っており、まともに解除するには相当な時間と労力を要する。かと言って、結界を無視しようとすれば、認識機構がただちに発狂し、前進することが出来なくなってしまう。これは生物だけでなく、機械だろうが暫定精霊(スペクター)だろうが、"認識"という事象処理能力を持つ存在ならば同じことが言える。

 これらの厄介な結界をうまくやり過ごして、トンネルの最奥、"ホール"に潜む避難民を検出する方法はないか。そこでゼオギルドは、一計を講じた。

 結界が認識機構に作用するのならば、認識機構を持たない存在を用いてトンネル内を探索すればよい。

 そこでゼオギルドが思い当たったのが、水、である。水は勿論、認識機構など持たない物質である。重力に引かれるがまま、高きから低きへと単純に流れるだけの存在だ。その性質が、今回の作戦に適合したのである。"ホール"に続くトンネルに流し込めば、自然の摂理に従って下へ下へと流れ行き、最後には必ず"ホール"に行き当たるのだから。

 そしてゼオギルドは、水が"ホール"に行き当たったかどうかを定期的に検知すれば良い。全く以て単純で、労力の掛からない手段である。

 また、ゼオギルドが水に負わせた2つ目の役割。それは、避難民たちを地上に引きずり出す"災厄"と為すことである。

 水が"ホール"に行き当たったならば、ゼオギルドは"ホール"の水源を目指して水を動かす。そして、水源と合流した時点で、ゼオギルドは魔力を注ぎ込み、水をまるごと莫大な数量の暫定精霊(スペクター)へと変化。"ホール"内を走り回らせて避難民の探索を行い、避難民を見つけ次第彼らを襲撃して、"ホール"から無理矢理追い出すつもりなのである。

 

 この凶悪な計画の実現を胸を躍らせて待ち焦がれながら、ゼオギルドは鼻歌を口ずさみ続け、水が"ホール"へと至るのを待ち続ける――。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 一方。蘇芳が指揮をとる"ホール"では。

 ゼオギルドの計画など露ほども認識できるはずもなく。移動準備がほぼ終了したのと、時間帯が丁度良いことも相まって、昼食の準備に取りかかっていた。

 とは言え、大半の物資や器具は車両に詰め込んだので、いつもより質素な献立だ。予め炊いていたお米と、こまれた予め準備していた数種の具材を用いて、ひたすらにおにぎりを作っているのである。

 紫とレナ、そしてロイのユーテリア勢も、市軍警察が主導している昼食準備に荷担し、3人並んで作業を進めていたが…。

 「ちょっ…なにそれっ!? バレーボールっ!? いや、バスケットボールのつもりなの、それ…っ!」

 腹を抱えて爆笑し、作業の手を止めてしまっているのは、レナである。荒い過ぎの涙がジワリと滲む視線で彼女が眺めているのは、ロイの手元である。

 そこには、掌サイズを遙かに越えた、ひどく大きくて(いびつ)な球形をしたご飯の塊があった。

 レナの大爆笑に、ロイは顔をムスッとさせ、竜尾を不機嫌げにビタンッ! と大地に打ち付けると、唇を尖らせて語る。

 「…なんだよ、文句あンのかよ。

 だから初めに言っただろーが、オレはこういうの苦手だって。それでも手伝ってやってンだからよ、文句言うなよな」

 「いや、文句っつーかさ…ヒャハハ! どこをどーすりゃ、おにぎりがそんなサイズになるってンだよーっ!

 不器用とかそういうレベルじゃないだろーっ!」

 レナに笑い転げられながらも、ロイは作業の手を止めず、さらにご飯を手にとって巨大なライスボールにあてがって体積を増大させると。ロイを挟んでレナと反対側に作業する紫に視線を向ける。

 「おい、紫。この失礼すぎるセンパイに、なんか毒吐いてやってくれよ。

 ムカついて、作業に集中出来ねえっての」

 ところが、紫の方はと言えば、笑い転げることはないもの、ロイに対する反応が非常に淡白である。ひどく鋭く細めた目つきで淡々とおにぎりを作りながら、「あっそ」と一言漏らすだけだ。

 紫のこの態度は今に始まったことではない。おにぎり作りが始まった時点からすでに、彼女の態度はこんな感じであった。

 「…なぁ、紫。ひょっとして、機嫌(わり)ぃのか?」

 ロイが尋ねると、紫はジロリと視線を走らせたかと思うと、プイッと顔を背ける。

 「何でも良いでしょ。ほっといてよ」

 「…何でも良いって言われてもよ、そんな態度で隣に居られたら、嫌でも気になるっての…」

 更にライスボールにご飯を重ねつつ、ロイがブチブチと呟くが。紫はやはり、ロイの意志に応えることなく、淡々とおにぎりを作り続けるのであった。

 ――大雑把な性格のロイは、絶対に知る由もない。先刻、ビルの屋上で寝っ転がっていた時に、訪ねてきた紫の機嫌を損ねてからというもの、その尾が今尚根深く引いている…と云う、繊細な事実を。

 その気の回らない朴念仁気質が、紫の不機嫌さに更なる拍車をかけていることも、理解できるワケがない。

 故にロイは、不可解な少女の機微に対して、ひたすらに居心地の悪さを感じ続け、そして首を捻ることしか出来ないのであった。

 「…ワケ分かんねーなぁ…」

 ロイが溜息混じりに呟きながら、ライスボールに更なるご飯を加えようと腕を伸ばした、その時。

 「おい、そこ! 一体、何を作ってるんだ!!」

 鋭い女性の声と共に、足早にロイの方へと近寄る足音。それらの音声の主は、料理が得意な女性士官、竹囃(たけばやし)珠姫(たまき)である。

 珠姫はご飯へ至る直前のロイの手をガッシリと掴むと、ギョッとした(てい)でロイの左手の上に乗る巨大なライスボールを眺める。

 「神聖と表現しても過言ではない、重要なる食料を(もてあそ)ぶとは…! しかも、こんな忙しい時分に…!

 社会的責任感の薄い学生の身分とは言え、恥を知れ、恥をっ!」

 真っ赤に燃えるような勢いで(まなこ)を怒らせて睨みつける珠姫に、ロイは慌てて反論する。

 「いや、遊んでねーよ! おにぎり作ってるだけだっつーの!」

 「お、おにぎり…!? そ、その…無様で、無駄に体積のある物体が、おにぎりだと言うのか…?」

 珠姫が呆けた様子で聞き返していた、その時。たまたま暇を持て余してフラフラ歩き回っていた子供の一団がロイの近くを通り過ぎようとして、その巨大なライスボールを認識。一同は一斉に目を丸くしたかと思うと、半分は「すっげ~…」と関心したように呟き、もう半分は「なんだよあれ! おにぎり!? おにぎりなのあれ!? ウッソだろおい!」等と喚きながらゲラゲラ笑い転げるのだった。

 勿論、この時もレナはずーっと腹を抱えてゲラゲラゲラゲラと笑いっぱなしである。

 四方八方から響いてくる笑い声で、さすがに居心地の悪さを感じたロイは、むくれたような、それでいて恥ずかしがっているような表情を作り、どもり気味におずおずと語る。

 「…仕方ねーだろ、料理なんて普段やらねーし…こういう細かい手作業ってのは、得意じゃねーんだよ…」

 「いや…細かい手作業というほどのものではないだろう…いやいや、そもそも、得意不得意の以前の問題ではないか…。お前は、"程度"という言葉を知らんのか…」

 「こ、これでも一生懸命やってンだからよ! そんな変な目で見ないでくれよ…なんつーか、胸が苦しくなってくるぜ…」

 「…胸が苦しいのは、こっちの方よ…」

 ポツリ、と漏らした紫の台詞が誰の耳にも入らなかったのは、幸いと言うべきか不幸と言うべきだろうか。

 

 …と、まぁ、星撒部に限らず、"ホール"の各所では人々による軋轢は生じているものの、その様子は概ね牧歌的と表現出来るよう。実際、危急の事態に晒されながらも、殴り合いにまで発展するような険悪な雰囲気は"ホール"のどこを探しても見られない。

 そんな穏やかな雰囲気ゆえに、誰もが油断していたのだ、と言うことも出来なくはない。だが、仮に彼らがピリピリと張りつめていたとしても、今芽吹こうとしている"災厄"の種に気付くことはできなかったであろう。

 

 蘇芳が指揮する避難民たちが集合している箇所から、随分と距離が離れたところにある、地上から続くトンネルの出口において…。初めはポタポタ、と滴程度に――徐々にチョロチョロとした雪解け水程度から、最後はジャバジャバとプールの出水口のように派手な音を立てて、水流が侵入してきていた。

 この水流は勿論、地上のゼオギルドが左手から作り出したものである。

 水は誰にも知られることなく、ジワジワと"ホール"の路面を流れ、草木の生い茂る土壌へと広がると。そのまま自然の摂理のままに、土壌の内部へと侵入してゆく。

 "ホール"の土壌は、そのまま大地につながっているワケではない。地下十数メートルのところに設置されている排水路を通り、浄水施設へと向かうのだ。本来ならば、そのまま魔術的浄化を受けた水は"ホール"内を循環し、人工の雨の元となるのである。

 しかし、ゼオギルドが生み出した水の一滴が、土壌をユルリと突き抜けて、ポタリと排水路に至った瞬間。排水路を満たしていた水が、水面の揺らめきをピタリと止めた。その後、ポタポタポタ、といくつもの水滴が落下してくるにつれて、今度は水面がザワザワとさざ波立つ。水滴の落下による波面が生じているというより、地震にでも遭ったかのような振動によって突き動かされているような様子だ。

 やがて、水がジョロロロ、と糸を引くような有様で土壌から排水路へと流れ込むようになった、その時――。

 

 「繋がったぜ…!」

 地上にて、ゼオギルドが大声を上げると、ギラリと剣呑な笑みを掘りの深い顔に刻む。

 「そ、それでは早速…!」

 声を受けたオルトロン大尉が素早く手を伸ばし、ゼオギルドが生み出す水流の中へ毛深い手を突っ込もうとした…が。

 「おいおい、待てよ待てよ、せっかちなヤツだな、おい!」

 ゼオギルドは小さく鋭く諫めて、オルトロンの動きを止める。

 「"ホール"の水の流れとは繋がったが、避難民(マチネズミ)がいるかどうか、まだ探してねーよ。

 さぁて、ちょっくら見てみるぜ…お祭り騒ぎは、その後までとっておけよ」

 ゼオギルドは分厚い唇を一舐めしてから、左手のガラス玉状の体組織に対して魔力を集中。するとガラス玉状の組織がボンヤリと青白く輝いたかと思うと、同様の輝きを持つ可視化した術式の大群が沸き上がり、水の中へと次々に溶け込んでゆく。

 

 ゼオギルドの作り出した術式は、光速で水流内を伝搬し、"ホール"の地下排水路を満たす水へと至る。

 すると、光の差さぬ排水路の中で、水がボンヤリと青白い魔力励起光を放ったかと思うと、まるで氷柱(つらら)が逆さに延びるように、いくつもの細い円錐状となってニュルニュルと土壌へ昇って行く。

 肥沃な土と草木の根をかき分けて地上へと這い出た水の群は、各所で小さな小さな水たまりを作ると、そのままユルユルと立体的な形状を(かたど)り始める。こうして出来上がったのは…赤ん坊の掌程度の大きさを持つ、カタツムリ状の暫定精霊(スペクター)である。

 通称『ビホルダー』と呼ばれる彼らは、触覚に相当する視覚期間をニュウッと伸ばし、草むらからギリギリ顔を出す程度まで至らせると。そのまま、周辺の状況を視認する。

 彼らの視覚情報は、水を通じてゼオギルドへと全て流れ込む。いくつも視覚が脳に直接流れ込むため、彼の視覚は万華鏡の中のごとく混沌とした様相を呈している。これがあまり慣れぬ術者であれば、脳の感覚負荷過多によって頭痛およびひどい嘔吐感を覚えたことであろう。しかし、実戦において暫定精霊(スペクター)の多数の使用経験を持つ彼にとっては、この程度の情報整理は朝飯前である。

 そしてゼオギルドは、万華鏡のごとく展開された視覚の中のいくつかに、避難民たちの集団の姿を認める。

 一方で、避難民たちは――百戦錬磨の軍警察官も、星撒部のロイも紫も、見られていることに全く気付かない。そもそも、仮にここに魔術に長けた蒼治が居たとしても、『ビホルダー』の存在には気付けなかったかもしれない。『ビホルダー』は暫定精霊(スペクター)であるとは言え、実物のカタツムリと同様に、さほど存在感を持ち合わせていないのだから。

 だから彼らは、多少の緊張感が混じるものの、賑やかな牧歌的な時間を無邪気に過ごし続けるのであった。

 

 そんな避難民の姿を認識したゼオギルドの顔が、白痴なヒツジの群れを見つけたオオカミのごとく、張り付けた笑みをますます凄絶に歪める。

 

 =====

 

 「おっしゃあっ、居たぁっ! 居た居た居たぁっ! 避難民(マチネズミ)ども、見~っけっ!」

 待望のカブトムシを見つけ出した幼子のようにはしゃいだゼオギルドは、首だけをグルリと回して背後に並ぶ部下達を見つけると、手袋に包まれたままの右手を大きく振って、集合の指示を出す。

 「てめぇら、ホラ、やるぞやるぞ!

 一斉に、盛大に! やるぞやるぞ!」

 興奮し切った号令を耳にしたゼオギルド直属の武骨でガラの悪い部下達は、一斉に小走りでゼオギルドの作り出した川へと駆け寄る。

 ゼオギルドの隣にいたオルトロンは、いざという時に至って緊張したのか困惑したのか、キョロキョロと周囲を見回すばかりだ。しかしようやく思い直して、ゼオギルドの川へと向き直った…直後、駆け寄ってきた部下に強かにぶつかり、無様に地に転んでしまう。

 「退けよっ、ノロマッ!」

 そう唾棄するゼオギルド直属の部下は、オルトロンより組織的地位は低いはずであるが、一片の気遣いも含まぬ激しいばかりの叱責をぶつけるのであった。

 オルトロンがモゾモゾと立ち上がろうとしながらも、次々に駆け抜けてゆく部下の脚に翻弄されて、なかなかうまく動けないでいる一方で。川にたどり着いた部下達は、次々と利き手を水の中へと突っ込んでゆく。そして、眼を閉じたり、眉根に皺を寄せたりして魔力を集中させると、練り上げた術式を水の流れの中へと解放する。

 数瞬後、水は励起光を放つ術式で満たされて、(まばゆ)いまでの青白い輝きを放つようになる。化学的には単なる水のはずが、見た目では怪しげで如何にも有害な工業廃水の様を呈している。

 ゼオギルドの部下が全員、水の中に手を入れた頃。オルトロンが、ようやく彼自身の部下に手を貸してもらいながら体勢を立て直し、ヨロヨロと川へと近寄って毛深い手を輝く水の中に入れた。

 するとオルトロンのすぐ隣に居た、顔面を縦断する派手な切り傷をつけた厳つい面持ちのゼオギルド直属の部下が、下卑た意地の悪い笑いを浮かべてバカにする。

 「オレ達の術式は暴れん坊ですからねぇ、手を食いちぎられないで下さいよ、大尉殿」

 「…私だって魔術技官です。心得てますよ」

 ムスッとしながらも、律儀に真面目な返答をするオルトロンの有様には、彼の部下も苦笑を浮かべずにはいられない様子であった。

 …さて、人員輸送車の運転手以外が全員、水の中に手を突っ込んで術式を流し込む作業に従事するようになると。ズラッと一列に並んだ部下達を壮観そうに眺めたゼオギルドは、「ヒャハッ!」と一騒ぎしてから、号令をかける。

 「さぁ、てめぇら! 暴れるぞ、いや…"暴れさせる"ぞ!

 さぁ、次々に作れよ、作れ作れ…! てめぇらの、最高に危ねぇ"形"をよぉっ!」

 

 輝く水は迅速にトンネルを下り、数分の過程を経て、蘇芳たちが潜む"ホール"にダバダバと流れ込む。

 しかし避難民たちは、全く気付く気配がない。彼らの人種の中には、聴覚に優れた者も居るかもしれないが、彼らとて目の前のことに集中するばかりなのか、それとも水が異変の鍵となるなど考えも及ばないためか、水音が聴覚に入り込んでいても気に留める様子はない。

 しかし――流れ込んだ術式が、"ホール"の土壌下の排水路に至り、一気に効果を発揮した瞬間――ポォンッ! と激しい音を立てて、遠方の排水口の金属蓋が跳ね飛んだ音には、さすがに眉をひそめて怪訝な顔をする。

 「…なんか、変な音がしたぞ…? 遠くで…何かが跳ね飛んだ音が…」

 排水口の金属蓋が跳ね飛ぶ現象は、トンネルの出口から次第に避難民たちの拠点へと向かって行く。やがて、高層ビル並の高さまで噴出する水と、それに持ち上げられて宙を舞う金属蓋の有様が目視できるようになると、避難民の間でざわめきが波紋のように広がり出す。そして軍警察官は、即座に指揮官である蘇芳の元へ報告しに駆ける。

 「…ああ、オレにも見えてるよ。

 まさか、これが"パープルコート"どもの、」

 語り終えるより早く。金属蓋が跳ね飛ぶ現象が避難民たちが潜む繁華街まで到達。ポォンッ! ポォンッ! と鼓膜をつんざく高音を奏でながら、高い水の噴出と、金属蓋が宙に舞う光景がそこかしこで見られるようになる。

 この異変を前に、星撒部たち(と、ユーテリアの学生のレナ)も当然、反応しないワケがない。

 「おい、なんだってんだよ、これ!? 何が起きてるってんだ!?」

 「考えるまでもねーだろ、尻尾つきの後輩ちゃんよっ!

 "パープルコート"どもが、やらかしに来たんだろうがっ!」

 ロイの驚愕混じりの疑問にレナが噛みつくように答えた、その直後。

 ザアァァァ…という、強い波が押し寄せるような水音が、周囲から発生したかと思うと。拠点の外縁の方から、人々の悲鳴が上がる。

 「バケモノッ!」

 悲鳴に混じって、その言葉がロイの耳に届いた、その瞬間。彼は手にしていた巨大なライスボールを隣の紫に手渡した。

 「え、あ、何よ、いきなり!?

 わたしはまだ、アンタのこと…!」

 「とにかく、預かっててくれよっ!

 ちょっと、様子見て来るっ!」

 狼狽(うろた)える紫を後目(しりめ)に、ロイは一目散に悲鳴が上がる方へと駆け出す。

 途中、ロイは逆方向に逃れてくる人波とかち合い、うまく前進できなくなってしまう。そこでロイはダンッと大地を蹴って人の頭より遙かに高い位置まで跳び上がると共に、背中から黒い繊維状の奔流を出現させて竜翼を具現化。翼膜を大きく広げて滑空しながら、上空から周囲の様子を見回して――目を開き、息を呑む。

 「おいおい…なんだってんだよ、こいつぁ…!」

 ギリリと歯噛みする隙間から、狼狽の混じった言葉の炎を吐き出す。

 

 ロイが金色の瞳に映した光景――それは、土壌を崩壊させながら地下から沸き上がり、街の中へと流れ込む大量の水である。

 その流れ込む水は、単なる液体ではない。先刻誰が叫んだ「バケモノッ」と言う言葉に相応しい存在となっていた。

 即ち――大量の水は、単なる津波となっているのではない。1つ1つが不雑な形状をした立体になっている。それらは、細部のディテールこそ液体的にぼんやりとしているものの、何を象っているのかは十分に理解出来る。鎧兜を着込んだ戦士や、力強い四肢で大地に爪を立てる魔獣、そして渦巻く水がそのまま痩躯の亜人になったものなどだ。彼らの体を構築する水は青白い魔力励起光を放っているために、まるで濃い水色の水飴で形成された飴細工のようにも見える。ただし、爛々(らんらん)と輝く真紅の瞳が、彼らが単なる置物ではなく、殺意を持つ意識体であることを一目瞭然としている。

 彼らの正体とは、一体何か。…それは単純明白である、ゼオギルドらの魔力によって具現化した、水霊系の攻撃用暫定精霊(スペクター)である。

 ギィオオオッ! 水にそぐわぬ低く鈍い叫び声を上げながら、手にした武器を振るったり、剥き出しの牙をガチガチ云わせながら避難民たちを襲撃する、暫定精霊(スペクター)ども。そんな光景を、"暴走君"とまで称される熱血漢であるロイが、ただ上空から見下ろせるワケがなかった。

 「何してやがるンだよ、この危険どもっ!」

 今や口腔内の歯並びをすっかりと鋭い牙へと変じたロイは、鋭く怒声を上げながら、雷光のように一直線に着地。凶悪な水の精霊達の前に立ちはだかり、身構える。

 「てめぇら、蒼治が言ってた"パープルコート"の奴らだろうが…!

 オレが居るからにゃ、好き勝手にはさせねぜっ!」

 轟雷のごとく叫んだ、直後。ロイの体は漆黒の繊維状の魔力に包まれたかと思うと…魔力が一気に霧散した後に現れたのは、長い竜角に、漆黒の竜拳に竜脚を露わにした、賢竜(ワイズ・ドラゴン)の戦闘態勢を整えたロイの姿である。

 「不良軍人どもに、この街に住む皆の希望を、ぶち壊させやしねぇっ!」

 叫びとともにロイはヒュッと鋭く呼気すると。口の手前に六芒星型の魔力陣を展開し、それに向けて強烈な息吹を発射。魔力陣を通り抜けた息吹は、一気に体積を増すとともに煌めく純白の吹雪となって、水霊達に激突。群れの一画を、氷のオブジェと化す。

 先手を打ったロイは、鉤爪の延びた親指で自身の胸を指し示して、威圧の言葉を水霊どもに叩きつける。

 「オレが相手だ、掛かって来いよ、水どもっ!」

 

 同時刻――。

 水霊の真紅の眼を通して、威勢の良いロイの姿を認めたゼオギルドは、ニイィッと思い切り口角を釣り上げて、獣のように凄絶に嗤った。

 「ようこそ、おいでませ、賢竜(ワイズ・ドラゴン)のクソガキ!

 さぁて、派手に遊ぼうじゃねぇかっ!」

 

 こうして、アルカインテールにおける最終決戦の火蓋が落とされた。

 

  - To Be Continued -

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