星ヲ撒ク者ドモ   作:眼珠天蚕

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War In The Dance Floor - Part 5

 ◆ ◆ ◆

 

 さて、避難民たちの車列の最後尾に視線を向けると――そこに広がる光景は、先頭とは真逆とも言えるほどに、"秩序"という言葉が相応しい。

 とは言え、動きがないワケではない。むしろ、先頭部よりも激しい動きが目立つ。網膜を()くような鮮やかに過ぎる真紅の斬撃が宙を過ぎり、木の幹を炭化させながら派手に両断すると、木々に捕まった車両ごと地面に落下させる。ズズゥンッ! と大地を揺るがすような轟音と共に、もうもうたる土煙が上がる。

 「なんだ、クソッ!」

 「これでもう、3本目かよ…ッ!」

 「なんて野郎どもだ…! ただの市軍警察官(アヒル)どもじゃねぇぞ!」

 煙の内外でそのように毒づくのは、"パープルコート"の隊員達だ。彼らは全く以て"秩序"という言葉は似合わないほど混乱し切っており、吹き出した冷や汗を撒き散らしながら無駄に首を振って視線を動かしている。

 その一方で…ザッザッザッザッ! と統制の取れた疾走の足音が響いたと思いきや――土煙の中から次々と現れる、機銃を構えた市軍警察の衛戦部の隊員達。

 彼らの目には緊張の光が見え隠れしてはいるものの、怯懦の感情は全く見受けられない。そして敵たる"パープルコート"を視認すると、戸惑うことなく銃口を向けて、即座に射撃。彼らの手足や機銃を撃ち抜き、命を奪うことはしないが無力化する。

 しかし、基本的に練度が高い"パープルコート"達。市軍警察官の奇襲を受け、多少狼狽しても即座に体勢を立て直し、反撃して来る者も居る。そんな者達を真っ向に相手にする市軍警察官は、練度の低さから直ぐに苦戦を強いられるが。

 そこで土煙の中から新たな人影が1つ、颯爽と登場する。軍服ではなく学生服に身を包み、肩から無反動砲を下げ、手には小型拳銃を握りしめた少女――ユーテリア学生のレナ・ウォルスキーである。

 「せやあぁっ!」

 疾風のように現れたレナは"パープルコート"の顔面へと跳んで両膝をぶつけると、そのまま倒れ込みつつ肩に拳銃を一発ブチ込む。"パープルコート"隊員の体内に潜り込んだ術式弾丸は即座に効力を発行、神経を軽く焼き焦がす電流をビリビリビリッと流し、痛みに呻く暇も与えずに悶絶させる。

 その後もレナは即座に立ち上がると、洗練された体術で健在な"パープルコート"隊員を蹴り倒し、投げ飛ばし、撃ち抜く。地球圏の守護者を名乗る者達を相手に圧倒してみせるその動きは、まるで激流だ――滑らかに流れゆく柔らかさと、岩をも削るような荒々しさとを併せ持っている。

 そんなレナの姿は、"英雄の卵"というよりも、戦士を導く戦乙女そのものだ。

 しかし、そんな彼女も万能というワケではない。

 「レナさんッ! 上ッ!」

 市軍警察官の1人が叫んだ、その時。林立する木々の枝から飛び降りてきた、1人の"パープルコート"隊員が現れる。機銃を背に担いだ代わりに、両手にナイフを手にした彼は、肉体を強化・変質させる魔化(エンチャント)を施しているようだ。紫色に染まった、筋肉を岩石のように異様に盛り上げた巨躯で、レナの体に刃を突き立てようと落下してくる。

 レナはチラリと視線を上に向けたが、それ以上の対応はしなかった。いや、"出来なかった"のだ。というのも、彼女は別の"パープルコート"隊員と拮抗状態にあり、手が離せないからだ。

 このままレナは、無惨にも凶刃の前に倒れてしまうのか…と思いきや。彼女は全く焦ることなく、目の前の敵に集中をし続ける。まるで、頭上の相手など全くの脅威として見ていないように。

 その姿に少なからず苛立ちを覚えた頭上の相手は、こめかみに青筋を浮き上がらせ、威圧するかのように叫びを上げようと、歯が延びて牙と化した口腔を開き――。

 叫ぶより先に、まるでコマ切れのフィルムをつなぎ合わせたような感じで、いきなり吹っ飛んだ。

 この現象に、レナはニヤリと笑い、彼女と拮抗状態にある"パープルコート"隊員はゾッと顔色を青くする。

 直後、青く染まった顔色は頭上から踏みつけられ、地面に盛大にめり込む。一見すると死んでしまったのではないか、と思うほどの凄絶な有様ではあるが、ピクピクと体が痙攣しているところを見ると、とりあえずは命に別状はなさそうだ。

 一瞬にしてレナの窮地を救った"彼"は、倒れた"パープルコート"隊員の隣にスタッと清々しく着地する。その彼をみたレナは、笑いをそのまま歪めて、ちょっと不機嫌そうな表情を作る。

 「木を切り倒すだけだってのに、随分と時間が掛かったじゃねーか。

 アンタの鉤爪なら楽勝だって言ってたくせによ、『暴走君』」

 「悪ぃ、悪ぃ。野暮用が出来てよ、十人ばかしブッ倒してきたンだよ」

 レナとは反対に、特にムッとした表情を作っていないどころか、バツの悪そうな笑みを作って答えるのは、星撒部において『暴走君』と呼ばれる名人物、ロイ・ファーブニルである。

 「まっ、結果オーライだから許してやるよ。

 グズグズしてると、前のヤツらがこっちに来ちまうからな」

 レナは再びニヤリと笑みを浮かべると、周囲で油断なく状況確認している市軍警察官達に向けて、右手を高く差し上げながら叫ぶ。

 「よーっし! ここはこれでクリアだぜ!

 ここの守備は、車に乗ってた奴らに任せて! さっさと次の車両、解放しに行くぜ!」

 これに対して衛戦部の隊員達は、静かに同僚同士で視線を交わして頷くと、並んで走り出したレナとロイの後を、2列の隊列を組んで整然と追いかける。

 

 トンネルから地上に出てからと言うもの、異様な木々の急襲によって混乱の渦に叩き込まれて右往左往しているばかりの印象がある市軍警察官たちであったが。車列最後尾に居た彼らの有様は、一味違う。

 とは言え、トンネルから出たての頃は彼らとて狼狽するばかりで、職業軍人の名が泣くような取り乱しようであった。

 そんな彼らの背筋を正し、凛然たる勇気を取り戻させたのが、ロイとレナである。

 彼ら2人は同じ学校に所属しているとは言え、さほど接点があったワケではない。それでも混沌とした戦場の中、互いに為すべき事、補い合う事を把握し、一瞬たりともたたらを踏む事なく、迅速に状況を打開してきた。

 賢竜(ワイズ・ドラゴン)たるロイはその手足を禍々しいほど鋭い鉤爪を備えた竜脚と化し、木々をブッた斬り、枝に捕らえられた車両を解放。そしてすかさずに炎や雷撃の竜息吹(ドラゴンブレス)を幹の内部に叩き込み、枝葉を消し炭に変えて車内の人々を解放する。

 一方でレナは、手にした機銃と体術を駆使し、"パープルコート"の連中を打倒してゆく。将来を地球圏治安監視集団(エグリゴリ)での人命救助に当てたいと考えている彼女であるが、陸戦部隊に所属しても遜色ないほどに戦闘能力が高い。魔法技術は蒼治には及ばないし、接近戦闘もロイには及ばないものの、地の利や好機を巧みに味方につける戦い方は見事なものである。

 この2人の戦いぶりに魅せられた市軍警察の衛戦部の隊員達は、彼らに付いてゆくことで折れた心を取り戻したのである。年下の学生達に統率を預けていることになるが、それについて彼らは決して恥じてなどいない。死が直ぐ隣り合わせになっている戦場においては、老いも若きも関係ない。生き残れる力を持つ者こそが尊ばれて当然なのだ。そして現に、2人の学生に率いられることで、彼らは命を拾うだけでなく、仲間の救助まで実現している。

 こうして、ロイとレナを中心にした秩序が出来上がり、"パープルコート"と互角以上に渡り合っているのだ。

 

 ロイとレナに率いられた一団は疾風のように前進し、最後尾から4両目の車両の元に到達する。

 今回の車両は、ねじくれた枝にほぼ真っ直ぐに貫かれ、まるで丸焼きにされているブタのように屋根を逆さにしてブラ下がっている。避難民たちは人員収納スペースに押し込まれているが、窓がないために中の様子は分からない。しかし、高密度の葉や小枝に絡め取られて、身動きが出来ない状態に陥っていることだろう。

 「そんじゃ、またちょっくら行ってくるぜ!」

 ロイは車両を見るなりそう言い残すと、漆黒の竜脚で大地を蹴り、一気に数メートルの高度を跳躍。車両が捕まっている枝のところまで到達すると、そのまま右脚を半月を描くようにグルンッ! と回転させる。同時に、足先から飛び出した五指の鉤爪が空を裂いて鋭い衝撃の刃を作り出すと、ねじくれた木の枝に激突。ギャリギャリギャリッ! と耳障りな音を立てて、術式によって硬度が強化された樹皮が惨たらしくささくれながら深々と切り刻まれ――遂には、自重と車両の重量に負けて、メキメキボギンッ! と折れ曲がって落下する。

 (ドン)ッ! 大地を揺るがす轟音と共に、車両を絡めた大樹の枝が地面に激突する。車内からは人々の悲鳴が漏れるが、皮肉にも彼らを絡め取る枝葉がクッションになり、怪我をした者は居ないだろう。

 一方、車外では激突と共にもうもうたる土煙が衝撃的な烈風と共に爆発的に噴き上がり、異様のを土色の帳で覆う。

 この盛大な事象もさることながら、これを引き起こしたのがたった一撃の蹴りであることに、練度が高いはずの"パープルコート"も驚きの色を隠せない。

 この隙を見逃すレナではない。即座に、背後で隊列を組んでいる衛戦部の戦士達に合図すると、土煙に紛れて迅速かつ静かに散開。呆然とする"パープルコート"の隊員たちに魔化(エンチャント)された弾丸を浴びせ、次々に無力化してゆく。

 所々で響く銃声に"パープルコート"隊員達が次第に我を取り戻し、慌てて対応に回ろうとするが、時すでに遅しだ。

 「何をのほほんと呆けてンだよ、不良軍人ども!」

 土煙の中から"パープルコート"隊員の眼前に現れたレナは、思い切り顎を蹴り上げて一発で意識を奪い去ると。再び土煙の中に紛れながら、周囲の"パープルコート"達を次々と体術で叩きのめしてゆく。

 (よっしゃ、今回もいい調子だな!)

 流れるように事がうまく運んで行く様子に、レナは思わず口角を釣り上げてみせる。

 一方でロイは、車両に潜り込んだ大枝を排除すべく、切断した切り口と対峙すると、大きく息を吸い込む。炎と雷を混合し、出力を調整した竜息吹(ドラゴンブレス)を用いて、車内の人々を傷つけずに枝葉だけを消し炭にするつもりだ。

 吸い込む息を止め、胸を大きく膨らませたロイは、そのまま体内で生成した魔力を吐き出そうと、反った体を振り下げようとした――。

 

 ――その時だ。

 (ゴウ)ッ! 大気を盛大に切り裂く轟音が、ロイの耳に入る。何事かと視線を向けたロイ――竜息吹(ドラゴンブレス)を吐き出すことも忘れ、ポカンと大口を開いて煙のような術式を吐き出してしまう。

 何せ、眼前に巨大な――ロイの身長をスッポリと覆ってなお余りあるような断面積を誇る、金属の柱が砲撃のような勢いで迫っていたのだから。

 

 ゴギィンッ!

 金属同士が激しく激突した時のような、強烈な衝突音。そして、土煙を一気に振り散らすような突風。

 一気に晴れ渡った視界に、驚愕を禁じ得ないレナは、音のした方へと首を回すと。

 「ちょっ、ロイッ!」

 思わず、悲鳴が口を吐いて出る。

 彼女の視界に映ったのは、長大な金属柱に激突し、まるで丸めた紙屑のように宙を舞って吹き飛ぶロイの姿だ。

 こうして集中が途切れたレナに、"パープルコート"の隊員が好機とばかりに攻撃をしかけてくるが。彼女は苦々しい表情を作ったまま敵に向き直り、体術と機銃掃射で彼らを一蹴する。それから改めて、体ごとロイの方に向き直って、吹き飛んでゆく彼の姿を見やる。

 (もしかして――死にやしてないだろうけどよ、気絶しちまってるンじゃ――!)

 レナがゾワリと総毛立ってロイを見送っていたが、間もなく彼女の不安が杞憂であったことが分かる。ロイが背中から黒々とした竜翼を広げて羽ばたき、空中での姿勢を制御してみせたのだ。

 「なんだ、脅かしやがって…」

 思わず言葉を口に出しながら安堵するレナであったが、彼女の胸中は直ちに晴れ渡ったワケではない。むしろ、(イヤ)なざわつきが水に落とした絵の具の滴のように広がって行く。

 枝葉を取り除く作業の最中でも、奇襲に(うま)く対応していたはずのロイが、あんな巨大な攻撃をどうしてまんまと食らってしまったのか。そもそも、あの巨大な金属柱はどこから飛んで来たと言うのか?

 これまでは、地球圏治安監視集団(エグリゴリ)の一員というだけあって練度は高いものの、魔術を使えるゴロツキの集まりといった感が強かった"パープルコート"の兵力であったが…その中に、何かとんでもない隠し玉が潜んでいるのではないか?

 そんな不安のさざ波に翻弄されている中…彼女の(イヤ)な予感は、不幸にも、的中してしまう。

 空中で体勢を立て直したロイが、竜翼を大きく羽ばたかせてこちらへと帰還しに向かい始めた、その途端。なにやらキラリと銀色に輝く物体が、異形の林の中からロイを目掛けて飛び出してきた――と思いきや、銀色が急激に体積を膨張。巨大な半月上の金属塊と化すと、ギロチンのようにロイの体に叩き込まれる。

 「!!」

 声にならない悲鳴をあげたのは、レナだけではない。彼女の周囲で状況を鎮圧しつつあった市軍警察官達も、この光景を目にして足を止め、顔色を青くする。

 驚愕と不安の入り交じった視線に見守られる中、ロイは奇襲をうまく裁けずに金属塊をまともに食らい、黒い流星のように異形の林の中へと降下してゆく。

 (やべぇ! あいつ、助けてやらねぇと!)

 本日の混戦が始まってから今までというもの、時には背中を合わせるほどにごく身近に共闘してきた、相棒と評しても何の抵抗も感じない存在。そんなロイが一気に窮地に陥ったのを見て、レナは人情的にも、市軍警察を指揮する身としても焦燥に駆られる。

 これまで市軍警察の連中に指揮を出してきたのは、レナばかりであった。が、それはロイという強力な後ろ盾があってこそだ。それ失うことは、文字通り利き腕を失うに等しい危機である。

 周囲の軍警察官達にも声をかけて、ロイの元へと馳せ参じようとするレナであるが…そこを、土煙という邪魔立てが無くなった"パープルコート"達が、ここぞとばかりに押し寄せて反撃を加えてくる。

 (クソ…! こっちはこっちで、手一杯になっちまうか…!)

 ロイの元へ駆けつけたい気持ちは膨らんでゆくものの、レナはギリリと歯噛みをして衝動を噛み殺し、必死に冷静さを取り戻す。そして、後ろ髪を引く懸念を振り切るようにロイから視線をプイッと逸らすと、ありったけの声を張り上げて市軍警察達に指示を与える。

 「あいつなら、すぐ帰ってくる!

 それまでのちょっとの辛抱だ! まずは、不良(パープルコート)どもをブッ倒すぜ!」

 語り終えるが早いか、自ら"パープルコート"の人波の中へと突進してゆく。迷いを見せては、折角ここまで盛り立てて来た志気に関わる。鉄は熱い内に打たなくては。

 レナの目論見は幸いにも功を奏し、市軍警察官はロイのことを一旦意識の外へと追いやると、目の前に迫る窮地の打開へと駆け出す。

 こうして、ほぼ小細工の無い正面きっての衝突が始まる。

 体術と機銃を振り回して獅子奮迅するレナは、胸中でポツリとこんなこと呟く。

 (そうだよな、『暴走君』。

 1年坊主のくせして、学園内で滅茶苦茶な伝説を打ち立てて来たアンタのことだ。

 例え相手が"士師"だろうが『現女神』だろうが、笑いながら帰ってくるんだよな…!)

 

 ――そして、銀色の奇襲によって吹き飛ばされた、当のロイは。

 巨大なギロチンのような一撃は彼の首筋を狙っていたが、すんでのところで竜翼で頭部をかばったものの、強大な重量と衝撃によってゴギンッ! と吹き飛ばされ、異形の林の樹幹の中へガサガサと突入した。

 固く鋭いタケ科の葉が竜鱗をゴワゴワと撫でる中、ロイは翼をたたんで両手足と尻尾で(もっ)て周囲の枝葉を捕まえながらブレーキング。そしてなんとか体勢を立て直すと、屈み込むような格好で林の中へ着地する。

 直後、ロイはすぐに頭上に視線を向けると、牙を剥き出しにしながら金色の瞳に怒りの炎を灯す。

 ("あの野郎"――! いきなりブチかましてくれやがって――!)

 ロイは突如登場した銀色の存在を"あの野郎"と称する。――そう、あの金属塊を出現させた存在の正体は、人類(ヒト)だ!

 ロイが密な葉に覆われた樹幹を()めつけていると。樹幹が激しくガサガサッ! を立てて揺れ動き――。

 「ヒャッハァッ!」

 樹幹の中を降下して出現した"あの野郎"は、狂気じみた高いテンションで叫び声を上げながら、ロイの頭上めがけて飛び込んで来る。

 

 突如として姿を表した"あの野郎"――その正体は、着込んだ軍服の上からでも鍛え抜かれた筋骨隆々の肉体が見て取れる巨漢。厳つい顔を子供ように興奮の色に染める彼こそ、アルカインテール駐留の地球圏治安監視集団(エグリゴリ)で中佐を勤める、ゼオギルド・グラーフ・ラングファーである。

 彼の両手足の先は、手袋にも靴にも覆われていない。蹴り殴り慣れたゴツゴツとした素手素足の甲の中央には、水晶玉のようにも見える特徴的な器官が露わになっており、人目を引く。

 

 「てンめぇッ!」

 ロイはこめかみに青筋を立てながら、漆黒の竜拳をギリリと握りしめ、ゼオギルドの足先めがけて放つ。拳は途中で紅蓮の炎をまとい、ゼオギルドを迎撃するばかりか、燃やし尽くすそうと試みる。

 一方ゼオギルドはグルリと宙で体を回転させと、左拳を握りしめてロイの炎拳へと叩きつける。途中、拳の甲に埋め込まれた水晶玉が眩い青に輝くと、その周囲から渦巻く水流が出現。拳は水の塊となって、炎拳と激突する。

 (ゴウ)ッ! 激しい炎が水を[[rb:炙>あぶ]り、一気に水蒸気爆発が起こる。真っ白い蒸気の帳が烈風と共に2人の男の体を激しく撫でて去る。

 帳が消滅した後に露わになったのは、今や炎も水もまとわぬ拳を突き合わせて対峙すると、ロイとゼオギルドだ。

 次の瞬間、ロイが体を沈めると、ゼオギルドの懐に潜り込もうとする。肘を突き出して、ゼオギルドの鳩尾周辺を狙う魂胆だ。

 対するゼオギルドは、ダンッ! と右足で大地を激しく蹴りつける。転瞬、ロイの眼前の地面がゴボッと音を立てて盛り上がると、鈍い錐のような形状をした岩盤が隆起。ロイの顔面めがけて先端を突きつけてくる。

 「!!」

 ロイは獣じみた反射神経で反応、両足だけでなく尻尾をも使って後ろに跳び退(すさ)り、この奇襲をなんとか回避する。

 しかし、ゼオギルドは黙ってロイを見逃さない。巨躯に見合わぬような軽やかで素早い動きで岩盤の脇をすり抜け、未だ宙に浮くロイに追いすがると。左脚を烈風の勢いで蹴り出し、ロイの胴体を狙う。

 ロイはとっさに両腕を交差させてゼオギルドの蹴撃を防御した――が、インパクトの瞬間、ロイの眼が驚愕に見開かれる。突然、ゼオギルドの素足からゴリゴリゴリ、と音を立てながら芽吹くように金属の塊が出現。そのまま体積を急増させて巨大な刃を形成すると、ロイを腕ごと叩き斬らんばかりの勢いで激突したのだ。

 ロイの両腕は漆黒の竜鱗に覆われており、金属にも引けを取らない強度を誇っている。しかしそれでも、ゼオギルドの重い金属の一撃は竜鱗をメキメキと引き剥がし、柔らかな皮膚を露出させた上で深々とした裂傷を刻みつけたのだ。

 肉ばかりか、骨までへし折られたような衝撃がロイを襲い、彼の体は砲弾のように激しく吹っ飛んでねじくれた木の幹に強かに叩きつけられる。

 「グハ…ッ!」

 血の混じった呼気を吐き出すも束の間、口元を汚した真紅を乱暴に拭う。

 「てンめぇ…ッ!」

 憤怒で爛々と輝く瞳を上げて、ゼオギルドを睨みつけんとした、その矢先。その相手が、ほんの少し手を伸ばせば届かんばかりの距離にまで肉薄していた! ロイは思わず勢いのみ、目を丸くする。

 ゼオギルドは接近の勢いのまま、腰だめに構えていた右拳を突き出す。瞬間、彼の右腕がゴウゴウと燃え盛る炎に包まれる。逃げ場のないロイを殴りつけるだけでなく、消し炭にするつもりだ。

 対するロイは、素早くヒュッと息を吸い込み、そしてガァッ! と叫びながら呼気。すると、微細な氷の結晶がキラめく吹雪の竜息吹(ドラゴン・ブレス)となり、ゼオギルドの体を包み込む。

 「おおおっ!?」

 一歩踏み込むほどの短時間の間に出現した盛大の吹雪の奔流に、今度はゼオギルドが驚愕する番である。なんとか横っ跳びに回避をするものの、炎に包まれた右腕が吹雪の奔流をまともに食らってしまった。吹雪の中から抜き出した時には、右腕を包む炎は完全に消え去っていただけでなく、腕自体がガッチリとした氷の結晶に閉じこめられている。

 こうしてロイは、ゼオギルドとの距離を稼ぐだけでなく、攻め込む隙さえも得たのであるが…彼の脚が動かなかったのは、激突の衝撃が未だ体に残っているためだ。竜息吹(ドラゴン・ブレス)も無茶を通して発現させたものだったので、呼吸も激しく乱れている。酸素を求めて暴れ回る肺になされるがまま、大きく肩で息をして呼吸を整えようとする。

 対してゼオギルドは、凍結した右腕を目にしてあんぐりと口を開けていたが。すぐにギラリと猛獣の笑みを浮かべ、筋骨隆々の腕に力を込める。すると氷の結晶は、ビキビキッ! と痛々しい音を立てて破砕される。

 自由を得たゼオギルドは、腕の具合を確かめるように手を握っては開く動作を繰り返していたが。やがて、肩を揺らしてクックック…と嗤い出し、ついには背を仰け反らせて「ギャーハッハッハッ!」と爆笑する。

 「いやぁー、スゲェスゲェ! ホントにスゲェ! 映像で見るのと、実際に()り合うのじゃ、段違いだぜ!

 面白ぇガキだとは思ってたがよ! こんなに楽しませてくれるたぁ、正直思わなかったぜ!」

 ゼオギルドは厚い唇から唾を飛ばし、バンバン! と拍手しながら饒舌に、そして上機嫌に喋る。

 普段のロイならば、この隙に付け込んで奇襲の一つも仕掛けているところだ。しかし、未だ調子が戻らない彼は、下手に仕掛けて返り討ちに合う可能性を嫌い、呼吸を整えることを優先することにした。

 そのためにロイは時間稼ぎも兼ねて、ゼオギルドのお喋りに付き合ってみせる。

 「そりゃどーも、"エグリゴリ"のおっさん。

 だけどよ、オレとしちゃあ、アンタの方がよっぽど面白い魔術(ちから)を持ってると思うぜ。

 賢竜(ワイズ・ドラゴン)でも()ぇのに、体中から火だの水だの金属だの岩盤だの出しやがって。

 ここら一帯の林を作ったのも、アンタの仕業だろ?」

 「ああ、その通りさ!

 "コイツ"のお陰でな、オレは戦場でやりたい放題なのさ!」

 ゼオギルドは両の拳と足をガツンッ! と合わせて見せる。すると、両手足の甲に埋め込まれた水晶玉様の器官が、それぞれ別の色に輝いて存在を主張する。左手は青、右手は赤、左足は黄、そして右足は茶色である。

 ゼオギルドのこんな大仰な動作を見せつけられなくとも、ロイは交戦の最中でこれらの器官の存在と動作をしっかりと見知っていた。そればかりが、これらの器官の正体や効能についても把握している。

 「それ、"行玉"ってヤツだろ?

 アンタ、五行体系の魔術師なんだな。今時分に、珍しいな」

 するとゼオギルドは厳つい顔を不格好な花のようにパッと輝かせて、「ハッ!」と笑う。

 「へぇー! テメェ、暴れっぷりから脳筋だと思ってたんだけどよ、意外と物知りなんだな!

 そうさ! オレは生粋の地球人だからよ、生粋の地球生まれの魔術体系を扱ってンのさ!」

 五行とは、『混沌の曙(カオティック・ドーン)』より遙か昔から、地球の極東地域で体系化された魔法技術および理論である。形而下の事象を火、水、土、金、木の五つの基底因子の関係によって説明づけると共に、それらを制御して万物を自在に操ることを目的としたものだ。

 五行は長らく(まじな)いの類としてのみ扱われてきたが、『混沌の曙(カオティック・ドーン)』によって魔法がもたらされた黎明期には、魔法現象を制御する体系の1つとして地球人の注目を浴びていた。しかしながら現在では、利便性や汎用性等の観点から、さほど支持を受けてはいない。

 そして"行玉"とは、五行体系において、魔力を増幅させる為の装置である。哲学的に魔力に好影響を与えるとされる水晶玉を模した、有機体で出来た球体だ。有機体として生物体を使用することで効果が高まることが知られており、黎明期には倫理的観点から食用肉を用いて生成されていた。しかし、倫理観よりも魔法科学の発展に理性の天秤が傾いた者達は、野生動物から次第に人体へと生成材料を変えてゆく。そして遂には、生きたままの人体で作り出すこと――即ち、術者自身の肉体の一部を変質させることで、最大限の効果を得ることに成功した。故に、五行体系の魔術師はゼオギルドのように、手足の一部を行玉と成すしていることが常である。

 「行玉ってよ、確か1つについて1属性が対応してるんだよな?」

 ロイが続けて問うと、ゼオギルドは律儀なのか余裕なのか、ニヤリと凄絶な笑みを浮かべたまま耳を傾けている。

 「アンタにゃ、4つしか見当たらないけどよ…もう一個って、どこにあるんだ?

 その軍帽の中に在ったりして?」

 ロイがゼオギルドの被る軍帽を指差す。するとゼオギルドは、ブンブンと掌を左右に振りながら、ゲラゲラと笑って否定する。

 「それじゃ、カッパみてぇじゃねぇか!

 …まぁ、頭に着けるような間抜けも、実際にゃ居るけどよ。オレ様はンな間抜けな姿はゴメンだからな。

 最後の一個は、ココに作ったのさ」

 言いながらゼオギルドは軍服のボタンを乱暴に外し、ガバッと胸板を露わにする。鋼のように鍛え込まれた筋肉に覆われたその中央に、緑色の光をたたえる行玉が存在している。

 ゼオギルドはそれをコンコンと叩いて見せる。

 「理論的にゃ、頭につける方が他の行玉との干渉やら何やらの影響が小さくて済むらしいけどよ。

 オレとしちゃあ、見た目もあるけどよ、機能性の面でもこっちの方が都合良いのさ。

 なんか、ガキ向け番組のヒーローっぽくてカッコ良いだろ?」

 「オレはテレビなんざあんまり見ねーからな、なんとも言えねーな。

 だけどよ、これだけは言わせてもらうぜ。全ッ然ヒーローってガラじゃねぇよ、アンタはさ」

 憎まれ口を叩きながら、ロイはニヤリと笑ってみせる。

 ――呼吸は、整った。

 「ガラだとかそうじゃねぇとか関係ねーよ。

 この現実世界じゃ、強くて勝つ奴こそが、ヒー…」

 上機嫌に語る、ゼオギルドの言葉がふいに途切れる。ロイが前振りなどなく、無言で一気に距離を詰めて、ゼオギルドの懐に飛び込んだのだ。

 「そんならよ…っ!」

 途切れたゼオギルドの言葉に返事をしながら、ロイは身を低くして飛び込んだ格好のまま転身し、ゼオギルドの足を蹴りと尾で刈る。

 「ぬおっ!?」

 声を上げて宙に浮き上がる、ゼオギルド。そこへロイが烈風の勢いで立ち上がる。

 「オレの方がヒーローって事になるなッ!」

 叫びながらロイは、宙に浮くゼオギルドの顔面めがけて、思い切り蹴りを放つ。

 鉤爪を備えた竜の足が、ゼオギルドの驚愕に染まった顔面に吸い込まれる――と、その直前。ゼオギルドがニヤァッと笑みを浮かべたと同時に、ロイの蹴りを掴むと、クルリと体を回して逆立ちするように体勢を立て直す。

 「バァーカッ! それで奇襲のつもりかよッ!」

 そのままゼオギルドは空中へと飛び上がり、クルリと体を回転させると。左脚を突き出し、踵落としをする格好でロイの頭上へと落下する。

 半歩距離をとってゼオギルドの攻撃を回避しにかかるロイであったが、その目論見は即座に崩れてしまう。ぜおぎるどの左足の行玉が黄色の閃光を灯したと思うと、巨大な金属塊を作り出したのだ。ゼオギルドの踵より早くロイの頭上へと伸びた金属塊は、彼の頭を、全身を押し潰しにかかる。

 目論見が崩れたロイだが、慌てふためくことはない。すぐに足を止めると、右拳を握って業火を灯すと、落下してくる巨大な金属塊に激突させる。

 ガァンッ! と金属が打ち震える音。そして、ジュウゥッ! と金属が灼熱する騒音。

 一見、位置関係的にも重量的にもロイに部が悪いように見える。しかし、それでも足を止めて撃ち合いをしたのには、ロイなりの算段がある。

 (火剋金…五行体系じゃ、火は金に勝るからなッ!

 一気に溶融してやるぜッ!)

 実際、ロイの業火の拳が突き刺さった金属塊は、真っ赤に輝いてグニャリと歪み、ポタポタと灼熱の滴を零し始めている。このまま、ロイの算段に沿って、撃ち合いはロイに軍配があがる…かと思いきや。

 (バァーカッ! 火剋金ってのは確かにあるがよ…!

 こういうのもあるんだよっ!)

 「金侮火ッ!」

 ゼオギルドは絶叫と共に、脚に全力を込めて振り下ろす。と、金属塊は溶融し切らぬうちにロイの体を、その巨大な重量と体積で以て押し潰してしまう。

 五行においては、火は金に()つとされる。しかし、金が十分に強ければ、火を侮り逆に打ち剋ってしまう。それが、相侮と呼ばれる関係だ。

 メキィッ! 痛々しい音は、ロイの骨が軋む音か。岩盤に悲鳴を上げる音か。どちらにせよ、ロイの奇襲が失敗し、大きなダメージを負ったのには変わらないようだ。

 しかし、ゼオギルドはここで満足しない。残虐な笑みを浮かべながら、青の輝きが行玉に灯る左手で金属塊に触れると、金属塊の表面にブワリと汗を掻くように大量の水滴が現れる。五行で言う、金生水の様相だ。

 この水滴で刃を作り出したゼオギルドは、金属表面を高速で伝わせ、下敷きになっているロイにダメ押しを与えようとする。

 ――しかし、ロイは為すがままにされるようなタマではない。

 (ドウ)ッ! 大気を引き裂く轟音が響き、金属塊を伝って天へと上る大電流が生じる。その衝撃で金属塊はボンッ! と音を立てて天空へと打ち上げられる。

 そしてゼオギルドの眼前に立ち上がったのは、叩き潰されていたロイだ。やはりダメージは大きく、体の至るところには打撲の内出血が目立ち、口元には吐血の筋が見える。

 それでもロイはボロボロの体勢を感じさせない、力強く素早い動きで鉤爪のギラつく脚を振り、斬撃と化した蹴りを放つ。

 ゼオギルドは素早くバックステップ、蹴りの回避を試みる。しかし、ロイの斬撃の蹴りは帯電した烈風の刃を纏っており、脚より遙かに長いリーチを持つ。ゼオギルドの腹部に一直線の深い傷がザックリと走り、鮮血がパッと宙を舞う。

 「ぐぅっ!」

 苦悶に顔を歪める、ゼオギルド。その隙にロイは追いすがり、固めた拳でゼオギルドの顔面を殴りに向かう。

 一方、ゼオギルドは顔面を防御する素振りを見せない。黒い疾風のような拳撃を、冷や汗の噴き出す(くび)を動かしてかわす。…しかし、ロイの激しい拳風は回避しきれず、ゼオギルドの頬に痛々しい擦過傷が刻まれ、ジワリと血液の鮮紅が浮かび上がる。

 ロイは拳撃を回避されたことも構わず、更に肉薄。今度は膝を突き出して、ゼオギルドの腹部の裂傷に追撃を与えようと試みる。

 無防備に吸い込まれる、膝。ゼオギルドは窮地に陥った…かに見えたが、彼の顔が、ニヤリと歪む。その不気味で凄絶な表情に、ロイの背筋にゾクリと冷たいものが走る。

 ゼオギルドの腹部の裂傷は今、(ツル)とも極細い樹幹とも見えるような植物で覆われ、止血と共に防御が施されている。これは、ゼオギルドの胸板に埋め込まれた木行の行玉の効果によるものだ。

 傷口を覆った植物は、強靱で柔軟な蔓を更に延ばし、ロイの膝を絡めとる。まるで強力なバネに突っ込んだように勢いが殺がれたロイは、脚を回して蔓を解こうとするが…蔓は更なる成長と急激に遂げながら、ロイの体を這い上がってくる。

 「な、な、な…ッ!?」

 極数瞬の間に、蔓によって体の大半を覆われたロイは、そのまま体をグググッと持ち上げられてしまう。まだ若干動ける手足をバタバタと暴れさせて逃れようとするが、蔓は柔軟に力吸収するばかりで、引きちぎれやしない。

 とうとうゼオギルドの頭より高く持ち上げられてしまった、ロイ。それを見上げるゼオギルドは、腹部から伸びた蔓をガッシリと掴むと、ブチブチと引きちぎった。その直後、右手の行玉が真っ赤に輝いたかと思うと、蔓が激しく発火。そのまま導火線を思わせる有様で蔓を伝ってロイの身体へと向かってゆく。――そして。

 「じゃあなッ!」

 ゼオギルドがおどけ半分で敬礼をしてみせた、その直後。炎がロイに到達すると、彼の身体を縛る蔓が爆発的に発火――いや、"爆発的"ではない、実際に爆発したのだ。

 五行における木生火の概念により、ゼオギルドの炎は強烈な爆炎と化して、ロイの身体を襲ったのである。

 全身を縛る蔓が一気に焼失したことで、自由を得たロイ。しかし、爆発の瞬間に吹き飛ぶことが叶わなかった彼は、衝撃のほぼ100パーセントを全身に受けてしまった。激しく揺さぶられた内臓の損傷は相当なものであろう、自由落下するロイの身体はダラリと脱力し、ピクリとも動かない。

 この無惨な有様を目にしたゼオギルドは、獰猛で残虐な笑みをギラリと浮かべて、ゲラゲラと大笑い。

 「どーよッ! 火を吹いて回るドラゴンが、火を食らってブッ斃れるってのは! シャレが利いてるだろぉ!?」

 更にゼオギルドは拳を固め、落ちてくるロイの頭部にダメ押しの一撃を与えようとする。

 ――しかしロイは、これほどの損傷を身に受けても、意識を失っていなかった。そして実際には、身体の力すらも失っていなかった。

 ズンッ! 風を切り、大地を削る鋭い音。突如として鼓膜を振るわせたその音の正体は何事かと、ゼオギルドが視線を投げる。それは、ロイの尾が落雷のように大地に一直線に突き立った音だ。

 この音にほんの一瞬、気を奪われたゼオギルド。その隙にロイは尾に一気に力を込めて落下速度を速めると、ゼオギルドの顔面に己の額をガツンとブチ当てる。

 「ブッ…!」

 鼻血を吹いてよろめくゼオギルドに、ロイが逆に拳を頬に見舞ってやる。頬肉が大きく歪んだゼオギルドは、巨躯を弾丸のように吹き飛ばされながら飛び、背後数メートルの地点に直立する樹幹に強かに激突する。

 ここが、絶好の反撃の機会! ロイは衝撃の抜けない全身に鞭打って駆け出すが…ふらついた脚がもつれて、あやうく倒れそうになる。なんとかこらえて歩みを止めたが…その僅かな間に、彼の好機は足早に去ってしまった。

 ゼオギルドは早くも体勢を立て直し、血の混じった唾をブッ! と吐き出して、ニカニカ笑いながらこちらを()めつけていたのだ。

 「ホント面白ぇわ、お前!

 地球圏治安監視集団(エグリゴリ)に入って初めてだぜ、お前みてぇな強者(てき)を相手にするのは、よぉっ!」

 「そりゃ良かったな…だけどよ…ッ!」

 ロイは返答しながら、今度は脚がもつれぬよう気合いを込め、力強く大地を蹴ってゼオギルドのへと突撃する。

 「直ぐに面白ぇってより、やらなきゃ良かったって後悔させてやるよ!」

 「そうかよッ、ンじゃやってみろってンだッ!」

 ゼオギルドもまた大地を蹴ると、竜と五行遣いは互いに魔術をまとわせた拳を打ち合わせ、激闘を再開する。

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