真空管ドールセレクション「アリシアンナ」   作:きゃら める

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真空管ドールコレクション二次創作小説「真空管ドールセレクション アリシアンナ 第一話 アリシアンナ」のサウンドドラマ向け脚本版です。
台本形式の小説ではなく、脚本です。
そのため、小説的な読み方ができるものではなく、台詞とSEのみで構成されています。

内容としては第一話と大きな違いはなく、サウンドドラマ向けに台詞が変更されていたりしますが、それだけです。小説版を読みたい方は第一話をご覧ください。



第一話 アリシアンナ サウンドドラマ版

「真空管ドールセレクション アリシアンナ」第一話 サウンドドラマ版

 

   登場人物

 

アンナ・フロイド ロシアのイグルーシカ製 金髪ロング

 

アリシア・ストリンガー イギリスのシルクドール製 金髪ツインテール

 

マリー・サマーフィールド ドイツ製メーカー? 黒髪ロング メイド

 

ブロッサム アメリカ製 赤毛ツインテール

 

窃盗団男一 若い男

 

窃盗団男二 年かさの男

 

 

●場面一 私立真空管ドール学院 正門前広場

 

   (ガヤ 卒業を祝う言葉多数)

 

アンナ  「どうして、こんなことになったの?」

 

   (ガヤ強くなる→消える)

 

アンナ  「私は、ロシアのイグルーシカ社製真空管ドール、アンナ・フロイド。今日は、私が通っていた私立真空管ドール学院の卒業式」

アンナ  「人は、ほぼ誰もが持つ、念力を増幅して、空を飛んだり、精神波で通信をする、魔法を手に入れた世界。そうした魔法と進んだ科学の産物、真空管ドール」

アンナ  「真空管ドールは人間と同じ個性を持ちながら、マスターに仕え、働く一種のロボット」

アンナ  「アンナ型真空管ドールの、リファレンスモデルとして開発された私は、卒業資格は余裕を持って取っていた」

アンナ  「優秀なわたしは在学中からマスターの引く手数多だった。マスター探しなんて楽勝だと思って、卒業資格取得から趣味の研究に没頭した」

アンナ  「没頭して、没頭しまくった」

アンナ  「そして、我に返ったのが昨日。卒業式前日。マスター探しはもう絶望的だった」

 

   (卒業式のガヤ)

 

アンナ  「どうして、こうなったのだろう?」

アリシア 「ふっふっふっ」

アンナ  「うっ、この声は!」

アリシア 「マスター探しに失敗したそうじゃないか! アンナ・フロイド!!」

アンナ 「アリシア・ストリンガー!!」

アリシア 「学院の最優秀真空管ドールが、マスター見つけられないとは片腹痛い。今年の卒業生でマスターを見つけられなかったのは、お前だけだぞ!」

アンナ  「生活に関してはマリーに頼らないといけない貴女が、人の心配をしている余裕があるの? 次席卒業さん」

アリシア 「ふんっ! 何とでも言うが良い。こちらはもうすぐマスターが迎えに来る予定だっ。就職浪人になってしまうイグルーシカのポンコツと違って、シルクドールの高貴なワタシは、忙しいのだ!」

アンナ  「うくっ」

アリシア 「ふっふっふっふっ!」

アンナ  「アリシアのクセにぃーっ」

アリシア 「しかしアンナ。その様子では、イグルーシカに戻ることもできないだろう?」

アリシア 「もしお前がそれで良いなら、うちの会社で下働きに雇ってもらえるよう、話してみてやろうか?」

アンナ  「なんで貴女にそんなことしてもらわなくちゃならないの! 一応、お父様から一年の猶予をもらったわ。部屋や物資とか、最低限ではあるけれど、用意してもらえるから大丈夫よっ」

アリシア 「(潜めた声で)それならば安心か」

アリシア 「(声を戻して)残念だな! せっかくだからワタシの元で働いてもらおうと思ったのになっ」

アンナ  「貴女に心配してもらうほど、落ちぶれてはいないわ、アリシア」

アリシア 「一年でマスターが見つからなかったら、どうするつもりだ?」

アンナ  「そんなことがあるわけがないでしょう? 次席の貴女と違って、私は主席卒業生よ! 時間さえあれば、貴女より良いマスターが見つかるわ!」

アリシア 「ふんっ。威勢の良いことを言ったところで、就職浪人のクセに! 一年後、マスターが見つかっていなかったらそのときこそ連絡してくるが良い。召使いとして雇ってやろう」

アンナ  「アリシアのクセに!」

アリシア 「アンナ如きが!」

アンナ  「むむむむむっ!」

アリシア 「うぐぐぐぐっ!」

 

マリー  「(少し遠くからの声で)アリシアお嬢様ーーっ」

アンナ  「あら? マリー。そんなに慌ててどうしたの?」

アリシア 「迎えの者が到着したか?」

マリー  「そのことなのですが……」

アリシア 「どうした?」

マリー  「お嬢様とわたくしが入社するはずだった会社なのですが……」

アリシア 「どうした? マリーらしくもない。最後まではっきりと言ってみろっ」

マリー  「はい、わかりました。会社なのですが、えぇっと、――先ほど、消滅しました」

アリシア 「は?! しょ、消滅だと?」

マリー  「強引な買収が行われ、事業はもちろん、社屋なども乗っ取られてしまったそうです」

アリシア 「あっ……、あっ?」

アンナ  「それはまたずいぶん強引なやり口ね」

マリー  「そうなのです、アンナ様。周到に準備していたらしく、一気にやられてしまったそうです」

アリシア 「ふっ、ふん! 会社が買収されても事業ごとなら、ワタシたちの勤め先がなくなったわけではあるまい!」

マリー  「それなのですが……」

アンナ&アリシア「ん?」

マリー  「買収に伴って、お嬢様の就職の話も消滅したと、連絡がありました」

アリシア 「なっ、なんだってーーーっ!!」

アンナ  「あららら。それは大変ね、アリシア」

アリシア 「あ、ありえん……。ワタシが就職浪人だと?!」

アンナ  「どうにかするにしても、早めに手を打った方がいいわよ、アリシア」

アリシア 「ううううぅ」

マリー  「それで、なのですが、アンナ様」

アンナ  「何かしら?」

マリー  「アンナ様は一年の猶予をイグルーシカからもらって、ひとり暮らしをする予定なのですよね?」

アンナ  「えぇ、その通りよ。よく知ってるわね、マリー。……ん?」

マリー  「そのひとり暮らしの部屋に、お嬢様もご一緒できないでしょうか?」

アンナ  「は? 何を言ってるの?」

マリー  「アンナ様とアリシア様で同棲を――。間違えました。共同生活をしてほしいのですよ」

アリシア 「何を言っているのだ、マリー!! 我がシルクドールと、アンナのイグルーシカとは因縁のある敵! そのアンナとワタシが、共同生活などできるはずもないだろう!!」

マリー  「わたくしもそう思ったのですが、お嬢様を開発された博士に相談してみた結果、そうするように、と」

アリシア 「博士が?! いや、しかしだな、マリー」

アンナ  「さすがに無理がないかしら? 敵対関係はともかく、私もアリシアも量産前の特別品。機密の問題とかいろいろあるでしょう?」

マリー  「それについては、すでにイグルーシカと話がついているそうです。アンナ様にお父様から、あとで連絡があると伝えてほしいとのことでした」

アンナ  「お、お父様の了承済み?! それなら、仕方ないのかしらね……」

アリシア 「博士が言うならば、それも……」

アンナ  「共同研究でもするつもりなのかしら?」

マリー  「さぁ? どうなのでしょう。博士やアンナ様のお父様の思惑までは、推し量ることはできません」

アリシア 「いや、やはり無理だ! アンナと一緒に生活なんてできるはずもないっ。一ナノ秒たりとも堪えられるとは思えん!」

マリー  「ですがお嬢様。拒否されるならば、路上生活するしかないそうですよ?」

アリシア 「ろ、路上生活だと?!」

マリー  「それも良いかも知れませんね。シンデレラのように薄汚れたお嬢様というのも、なかなか見応えがあるかも知れません。ふふふっ」

アリシア 「そんなのは死んでもイヤだ!!」

マリー  「でしたら、腹をくくるしかありませんよ」

アリシア 「うぐぐぐっ」

マリー  「ここはいったんアンナ様に花を持たせると思って。逆転はいつでもできますよ」

アンナ  「本人を目の前に言うことかしら?」

アリシア 「そうだな。くっ……。致し方あるまい! よっ、よ……、よろしく頼むぞ、アンナ!!」

アンナ  「お父様が了承しているなら、仕方ないわね」

マリー  「握手を交わされるアリシア様とアンナ様、とても感動的な情景です!」

アンナ  「まぁアリシアはともかく、マリーがいてくれたら生活は安心ね。家事は私も得意ではないし。マリーは完璧でしょう?」

アリシア 「それは安心だ。少しばかり口うるさいが、家事はどんな真空管ドールよりも優秀だぞ!」

アンナ  「よかったわ」

アリシア 「うむ」

マリー  「あら? まだ言ってませんでしたか?」

アンナ&アリシア「ん?」

マリー  「わたくしはお嬢様の生活費を稼がねばなりませんので、出稼ぎに行くことになっています。そう頻繁におふたりの部屋に帰ることはできないと思いますよ」

アリシア 「な、なんだって?!」

アンナ  「ど、どういうこと?!」

マリー  「ということで、おふたりで頑張って、生活してくださいねっ」

アリシア 「(アンナとハモって)それはないぞ、マリー!!」

アンナ  「(アリシアとハモって)それはないわよ、マリー!!」

 

 

●場面二 アンナの私室

 

   (タイピング音。最後にエンターキーを叩く音)

 

アンナ  「ふぅ。これはしばらくかかりそうね」

 

   (ジージーという電子音)

 

アンナ  「さて……、魔境ね」

 

   (紙ズレの音。ゴトゴトという重い音など)

 

アンナ  「これは……、すぐには無理そうね。ついこの前、マリーに片付けてもらったのに、あっという間に部屋が魔境になってしまったわ。……どうしようかしら?」

アンナ  「んー……」

アンナ  「ま、研究がひと段落してから考えましょう、それより小腹が空いてしまったわ」

 

   (扉を開ける音)→LDKに移動

 

   (ゴツン、という重いものにぶつかった音)

 

アンナ  「あ痛っ! つつつつ……」

アリシア 「何をしているっ、アンナ! それを足蹴にするとは、何を考えている!!」

アンナ  「足蹴にって、こっちこそ文句を言いたいわ! なんで共有スペースにこんなものを置いているの?! 私物は、自分の部屋の中に置く約束だったでしょう?」

アリシア 「仕方ないであろう? こちらの部屋はアンナの部屋より狭いし、何より不在が多いとは言え、マリーと一緒の部屋なのだぞ!」

アリシア 「それにいまそこで作業をしていただけで、置きっ放しにしていたわけではないわ!」

アンナ  「実際いま置きっ放しにしてるでしょう? 部屋だって、たくさん積んであるプラモデルを片付ければ、スペースなんていくらでもできるでしょうに?!」

アリシア 「プラモ? ダムプラのことか! あれは我々真空管ドールのサポートもしてくれる、とても良いものだ!! いまでも買う数を抑えているというのにっ」

アンナ  「部屋の中のことまで文句をつける気はないわっ。けれど共有スペースにはみ出すのは、勘弁してほしいって言ってるの!」

アンナ  「人が借りた部屋に住んでいるのだから、わきまえなさいっ」

アリシア 「そう言うアンナだって、マリーに手伝ってもらわなければ片付けひとつできないではないか!」

アンナ  「むむむむっ」

アリシア 「うぐぐぐっ」

アンナ  「むぐぐぐっ」

アリシア 「うむむむっ」

アンナ&アリシア「はぁ……」

 

   (ドサリという音 着席音)

 

アンナ  「食べるものはあった?」

アリシア 「いや、何もなかった。缶詰すらなくて、調味料しか残っていない……」

アンナ  「そうでしょうね。昨日、私も確認したわ」

アリシア 「ジェリ缶だったら、まだあったぞ」

アンナ  「それがほしかったわけじゃないのは、わかっているでしょう?」

アリシア 「うむ……。稼働エネルギーにはなるが、決して美味しくはないな」

アンナ  「マリーが次に帰ってくるのは、十日後よね?」

アリシア 「うむ。それまでは帰るのは無理だな。……恥を忍んで頼むが、少しお金を貸してくれ」

アンナ  「私もないわ。仕送りは来週だし」

アンナ  「というか、博士からお小遣いもらっているんじゃなかった?」

アリシア 「この前、希少な十二分の一フィギュアを見つけてしまってな。そういうアンナだって、新生活のためにまとまった資金をもらったと言ってなかったか?」

アンナ  「一昨日、旧秋葉原駅前のショップで、量子メモリの特売をやっていてね……」

アリシア 「うぅ。どうにもならないのか……」

アンナ  「どうにもなりそうにないわね……」

 

   (一瞬の沈黙)

 

アリシア 「アンナは、良いマスターは見つかりそうではないのか?」

アンナ  「なかなか、ね。学院の卒業式直後はタイミングが悪いわ」

アリシア 「部屋に籠もりっきりでサボっているのではないか?」

アンナ  「そういうアリシアはどうなの? 生活費稼ぎも、マスター探しもマリー任せにしてるんじゃないの?」

アリシア 「何だと?!」

アンナ  「何よ!」

アリシア 「むむむむっ」

アンナ  「ぬぬぬぬっ」

アンナ&アリシア「はぁ……」

 

   (椅子に座る音)

 

アンナ  「ケーキが食べたいわ。あと、美味しい紅茶がほしいわね」

アリシア 「ワタシはシチューだな。マリーのシチューは絶品だぞ」

アンナ  「ブロッサムに以前連れて行ってもらった、カフェ・ボルタに行きたいわ……」

アリシア 「マリー、せめて料理をつくりに帰ってきてくれ……」

 

   (呼び鈴の音)

 

アリシア 「客だぞ」

アンナ  「うぅ……」

 

   (衣擦れの音→ボタンを押す音→玄関モニタが映る際のノイズ)

 

アンナ  「あら? ブロッサム」

ブロッサム「アンナー、お届け物――」

 

   (バタバタという騒音)

 

窃盗団男一「ふんっ」

ブロッサム「うわっ! こらーーーっ!!」

 

   (画面が乱れるノイズ)

 

アンナ  「どうしたの? ブロッサム?」

アリシア 「何があった?」

 

   (ドアを開ける音)

 

ブロッサム「あ、アンナ! と、アリシア? えぇっと……」

アンナ  「今日は宅配のバイトなのね、その制服」

ブロッサム「あー、うん。アンナの部屋にお届け物だったんだけどね……」

アリシア 「どうしたのだ?」

ブロッサム「強奪されちゃった……。ほら」

アンナ  「段ボール箱を抱えた、男の人?」

アリシア 「ホウキに乗って飛んで行ってるな」

ブロッサム「うん。あれが、この部屋宛の荷物」

アンナ  「え? 追いかけないと! ホウキを――、あ……」

アリシア 「あぁ……。帰宅時間の空路に紛れて、見えなくなってしまった……」

アンナ  「誰からの荷物だったの?」

ブロッサム「あ、伝票はこれ」

アリシア 「なに? マリーからだと?!」

アンナ  「品名は……、食料?!」

ブロッサム「あとこれ、メッセージカード」

アリシア 「宅配便強盗が頻発してるから注意しろ? 奪われてからでは遅いわっ!」

アンナ  「荷物を強奪するなんて、何を考えてるのかしらね! ……ん?」

アリシア 「くぅぅ。マリーからの貴重な食料を!!」

アンナ  「アリシア、これを見て」

アリシア 「なんだ?! 犯人を捜し出して荷物を取り戻さねばならないというのに!」

アンナ  「いいから、ここよ!」

アリシア 「ん?」

アンナ  「ね?」

アリシア 「ふむ、なるほど」

ブロッサム「どうしたの? ふたりともっ。とにかくあたしはこのことを会社に報告しに行かないと!」

アンナ  「何をすればいいのかは、わかっているわね?」

アリシア 「無論。そちらこそ、抜かるでないぞ?」

ブロッサム「え? え?」

アリシア 「時間はどれくらい必要だ?」

アンナ  「二時間……、いえ一時間半で見つけてみせるわ」

アリシア 「ではこちらはそれまでに手はずを整えておく」

アンナ  「ふふふっ」

アリシア 「くくくっ」

ブロッサム「ふたりとも? 手を上げてどうしたの?」

 

   (小気味の良い手を叩く音)

 

アリシア「ブロッサム、お前は一緒に来い! 手伝ってくれ!」

ブロッサム「え? え? どういうこと?」

アリシア 「いいから来いっ」

ブロッサム「あ、うん。わかった!」

 

   (扉を閉める音)

 

アンナ「さぁ、こちらはこちらでやることをやりましょう」

 

   (椅子に座る音、タイピングの音)

 

●場面三 窃盗団の根城 古い倉庫

 

  (段ボールを積み上げたり、テープをカッターで切ったり、台車を動かす音)

 

窃盗団男一「なんだよこれ、食べ物かよ。お、こっちはジェットシューズじゃねぇか! ちょうどほしかったんだ」

窃盗団男二「ほしいものを探すのは後にしろ! ここもいつ見つかるとも限らない。さっさと選別を終えてずらかるぞ!」

窃盗団男一「へいへい。しかし荷物を届ける瞬間ってのは、みんな気が抜けてて盗みやすくていいな。ひっひっひっ」

窃盗団男二「あとは渡せば終わり、って安心してる瞬間が狙い目だな。――ん? なんだありゃ?」

 

   (金属をいじるカチャカチャという音)

 

窃盗団男一「なんですかい?」

窃盗団男二「あれだ、あれ。扉の掛け金のとこ」

窃盗団男一「ありゃあダムプラってオモチャですな」

窃盗団男二「ダムプラ?」

窃盗団男一「プラモなんですが、真空管ついてて命令すれば簡単な仕事ができるんすよ。あれはZダムかな?」

窃盗団男二「そんなものがあるのか。……ってことは、あれは誰かの命令で動いてる?!」

窃盗団男一「あ……。鍵が外れちまった」

 

   (鍵が外れる金属音、ガラガラと大きな金属扉が開く音)

 

窃盗団男二「な、なんだ?!」

アンナ  「ふっふっふっふっ」

アリシア 「くっくっくっくっ」

窃盗団男一「てっ、てめぇらは何者だ?!」

アリシア 「聞いて驚け!」

アンナ  「私たちは通りすがりの真空管ドール」

アリシア 「アリシア・スト――」

アンナ  「(アリシアの声に被って)アンナ・フロイドよ」

窃盗団男二「アリシ、アンナ? えっと、アリシアンナだって? そんな真空管ドール、聞いたこともないぞっ」

アンナ  「違うわ! 私は――」

アリシア 「何を聞いているっ。ワタシの名前は――」

アンナ  「(アリシアと同時に)アンナ・フロイドよ!」

アリシア 「(アンナと同時に)アリシア・ストリンガーだ!」

アンナ  「ちょっとアリシア! 私が名乗ろうとしてるときに被せてこないでっ」

アリシア 「何を言っている! こういう台詞は交互に言うのが、遥か昔からあるセオリーだ!」

アンナ  「そんなもの知らないわ!」

アリシア 「無知め! これだからイグルーシカの真空管ドールは!」

窃盗団男二「な、なんだかわけわかんねぇが、アリシアンナなんて奴は放っておけ! ずらかるぞ!!」

窃盗団男一「がってん承知!」

アンナ  「貴女だってね!」

アリシア 「ふんっ、相変わらずお前は!」

ブロッサム「あぁ、もう! ふたりともっ。全員逃がさないよ! さぁ、宅配会社のみんな、今日は敵味方関係なく、泥棒をひっ捕まえちゃえ!」

 

   (男たちの歓声、争う音と声)

 

窃盗団男二「裏口から逃げろ!」

窃盗団男一「よしっ」

 

   (扉を開ける音)

 

窃盗団男一「うわぁ!」

ブロッサム「甘い! この倉庫は完全に包囲済みだよ!」

アリシア 「――はっ! そんなことよりマリーが仕込んでくれた発信器の反応は?!」

アンナ  「そうだったわっ。……こっちよ。早く見つけて帰るわよ!」

 

   (ごそごそと探す音)

 

アンナ  「やったわ! これでまともな食事ができるっ」

アリシア 「あぁ! もうひもじい思いをすることはないぞ!」

ブロッサム「いやぁ、助かったよ、ふたりとも。ここのところ強盗が頻発してて、みんな困ってたんだ」

アンナ  「あー、うん。たいしたことはないわ」

アリシア 「それよりこの荷物、マリーからのものだとほら、確認できる! 持って帰っていいのだろう?」

ブロッサム「え? ……まぁ、いいんじゃないかな? 本当は警察にチェックしてもらわないと――」

アリシア 「(ブロッサムに被せつつ)そんなもの、待っていられるか!」

アンナ  「その通りよ! さぁ、急いで帰るわよ!」

アリシア 「あぁ、急ぐぞ!」

ブロッサム「後でお礼に行くからねーっ。あぁ、行っちゃった。……大丈夫かな、ふたりとも」

 

●場面四 アンナとアリシアの部屋 LDK

 

アンナ  「うぐっ……」

アリシア 「ううぅ……」

 

   (咳き込むアンナとアリシア)

 

アンナ  「これは……、どうしようもないわね……」

アリシア 「ど、どうしてこんなものができるのだ!」

アンナ  「レシピ通りにつくったのだけれどね……」

アリシア 「それでこんな不味い料理ができると言うのか?!」

アンナ  「ちゃんとレシピ通りだったのよ。……途中までは」

アリシア 「途中まで?」

アンナ  「えぇ、そうよ。ただ、ちょっとね?」

アリシア 「ちょっと?」

アンナ  「煮込む時間に、中途半端だった実験をやってて……」

アリシア 「そんなことをしているから黒焦げになるのだ! せっかくマリーが送ってくれた食材が、無駄になったではないか!」

アンナ  「貴女だってどうなのよ?! 缶詰は臭みがあるから暖めた方が良いって言って、消し炭にしちゃったじゃないのっ」

アリシア 「うっ……。マリーが送ってくれた食材なのだ、ワタシがどうしようと勝手ではないか!!」

アンナ  「そんなの横暴よ!」

アリシア 「ウルサいウルサい!」

 

   (扉が開く音)

 

ブロッサム「勝手にお邪魔するよー。部屋にいるのに呼び鈴に反応ないし……」

アンナ  「いらっしゃいっ、ブロッサム。……はんっ」

アリシア 「良く来たな。……ふんっ」

ブロッサム「お礼に来たよー。って、なにこの焦げた臭い! それに、このテーブルにある、黒い物体が入ったお皿は?」

アンナ  「――ちょっと、スープをつくるのに失敗しただけよ」

アリシア 「アンナが食材を無駄にしたのだ!」

ブロッサム「あー。アンナ、実験なら精密に計測できるのに、料理は苦手だったもんね」

アンナ  「少しばかり苦手なだけよ……」

アリシア 「これが少しか?!」

アンナ  「何よ?!」

ブロッサム「えぇっと、これがマリーさんからの荷物? 野菜ばっかりだね。アンナもアリシアも料理苦手って知ってるはずなのに、マリーさんはどうして食材で送ってくるかなぁ」

アリシア 「知ったことか! アンナが無駄にしなければいいだけのことだっ」

アンナ  「そういう貴女だって!!」

アリシア 「なんだとぉ?!」

アンナ  「なによぉ!!」

ブロッサム「まぁまぁ。あたしも得意じゃないけど、簡単なものつくろうか? ほら、犯人捕まえたお礼にって、お肉もらってきたんだ」

アンナ  「(アリシアとハモって)本当に?!」

アリシア 「本当か?!」

ブロッサム「期待されても困るけど、鍋くらいしかできないよ?」

アンナ  「充分よ!」

アリシア 「ちゃんと食べられるものなら文句はないっ」

ブロッサム「あははっ。わかったわかった。じゃあちょっとキッチン借りるね」

アンナ  「いいわよ、お願いね! ……どうにかなったわね」

アリシア 「そうだな。今回のアンナの仕事は、中々のものだった」

アンナ  「貴女もよ、アリシア。……ほら」

アリシア 「ん? もう一度ハイタッチか? いいぞ、解決記念だ」

アンナ  「えぇ。これからもよろしくね」

アリシア 「こちらこそ。ほら!」

 

   (風きり音からの、殴る音がふたつ)

 

アンナ  「うぐっ……。やっぱり、貴女と一緒に暮らすなんて無理だと思ったのよ!」

アリシア 「ぐほっ……。それにはワタシも同意だっ。イグルーシカのドールとひとつ屋根の下など、無茶だったのだ!」

アンナ  「いくらお父様からの要請とは言え、断っておけば良かったわ!」

アリシア 「ふんっ! こんな暮らしをするくらいなら、路上生活をしていた方がよかったかもな!」

ブロッサム「もうすぐできあがるから、静かに待っててよーっ」

アンナ  「わかったわ、ブロッサム」

アリシア 「楽しみにしているぞ!」

アンナ&アリシア「ふんっ!」

 

●場面五 モノローグ

 

アンナ  「こんな風にして始まった私とアリシアの共同生活だったけれど、まさか一年も続くなんて、このときは想像もしていなかったわ」

アンナ  「それどころか、魔法町を揺るがすことになる事件に巻き込まれることになるなんて、私はもちろん、アリシアにも想像することもできなかったわ」

アンナ  「けれどそれはまだ先の話」

 

 

    サウンドドラマ版「アリシアンナ 第一話」 了


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