直死のヒーロー志望   作:sakumakasumi

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1話

雄英高校入試当日。

両儀織と黒桐鮮菜の二人が揃って受験するこの高校は偏差値79、ヒーロー科の倍率に関しては300倍という難関超エリート校である。

織は普通の学校のモノより一回りデカイ雄英高校の校門の前に立っていた。

周囲は大量の受験者で溢れ返っていて、かなり騒々しい。この大半は将来ヒーローになることを夢見てこの門を潜るのだろうが、正式に入学を認められるのはホンの一部で、それ以外は涙を流す結果になるのだろう。 

その様子をぼんやりと眺めながらゆっくりと、織は別段急ぐ訳でもなく、いつも通りの流麗な足取りで門を潜った。

 

「やあ、織。おはよう」

「コクトーか…おはよう」

「懐かしい呼び方だね、それ」

「そうか?」

 

うん、と鮮菜は頷いた。

織が彼女を呼ぶとき、鮮菜とコクトーという二通りがあるのだが、織は鮮菜という呼び方をよく使う。なぜか、コクトーという響きはあまり好きではないらしい。…その理由は織にもわからないが。

そんな会話の空白に生まれた疑問の途中、鮮菜は思い出したように手を叩いた。

 

「ほら。そろそろ時間みたいだよ?行こう」

「ああ、そういやそうだったな。いいよな、お前は。筆記で終わりなんて」

「織はヒーロー科を受けるんだから、しょうがないよ」

 

そもそも、織は他の人間とは違い、ヒーローになるという強い意思を持ってこの場に居るわけではない。

なんとなく、鮮菜が雄英に行くと知って、特に行きたい高校があるわけでもない織はのこのことついてきたのだ。だが、二年間の間昏睡状態にあった織ではさすがに勉強面で不安が残る。だから実技を重要視されるであろうヒーロー科を選んだのだから。

尤も、鮮菜はそんな事実など全く知らないのだが。

 

**

 

――ああ、夢を見ているのか

僕、緑谷出久は目の前のあり得ない光景を前にそう思うしかなかった。

着物に赤の革ジャンを羽織るという、なかなか見ない組み合わせの服に身を包んだ少年が、3ポイントの仮想敵に向かって駆ける。人間離れした速度で肉薄し、手に持ったナイフで仮想敵の装甲を斬りつける。当然、入試用に設定されているとはいえその固さはナイフの一振りでキズをつけれるわけがない。だというのに、仮想敵の装甲にまるで豆腐を斬るかのようにスンナリとナイフの刃が通る。

…これで何度目だろうか。先程から彼はこれをずっと繰り返している。

それに引き換え、僕は…。

 

「いや…まだ諦めちゃダメだ!まずは1ポイント…!」

 

瞬間、空気が揺れた。

 

**

 

「いくらなんでもデカ過ぎだ。限度を知らないのか、ここは」

 

ビルの高さを軽く越えるソレは、ゼロポイントの仮想敵、つまり倒したところでなんの意味もない嫌がらせ要素のようなものだ。こんなもの、誰もわざわざ壊しにいかないだろう。オレだってやらない。

 

「――ポイントは十分稼いだ、撤収だな」

 

来た道を辿って撤退を始める。仮想敵はスピードは無いが、ソレを補う歩幅がある。歩いていては追い付かないから、もちろん走って、だ。

その時、二つの影が網膜に映りこんだ。

一人は、大型の仮想敵を前に尻餅をついたそばかすが特徴の男、もう一人は瓦礫で足を挟まれている丸顔の女。

 

「チッ、面倒な――」

 

他の受験者たちは身の安全を優先して早々に避難している。男の方は今にも逃げだすことができそうだが、女の方はどう考えてもヤバい。

オレは踵を返して女の方に向かう。だがオレも怪我なんざしたくないやるなら手短に、終わらせる。

瓦礫をナイフで殺し、斬って女を引きずって脱出させる。

別に、人助けの精神なんかじゃない、ただの気まぐれだ。

 

「あ、ありがとう…」

「例を言うぐらいなら最初からドジるな」

 

今度こそ、撤退しようとしたその時だ。物凄い勢いで、何かが打ち上げられた。目で追えるギリギリの速さのそれは、徐々に勢いを失い、丁度仮想敵の頭部付近まで到達した。

 

「デトロイト――」

 

それは、力強い言葉だった。心の奥底から漏れでたその声を、オレはしっかりと聞いた。

打ち上げられたのは、先程の男だった。オレたちが危険にさらされていると感じたのだろう。

その自己犠牲にはヒーローを志す彼にとっては考えるよりも先に体が動くレベルの、条件反射のようなものかもしれない。

だが、

あの腰を抜かしていた男が。

あの全く動けていなかった男が。

恐らく、先程まで一番非力で、臆病者だったであろうあの男が。

この場の誰よりも、一番ヒーローらしい。

拳を振りかぶり、敵に向う。そして彼はこう叫んだ。

 

「スマァァァァアアアッシュ――!!!!」

 

すさまじい衝撃波を伴ったその一振りは、大型仮想敵をガラクタにした。

 

ソレを見ていたオレは久し振りに嗤っていた。

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