ゲゲゲの鬼太郎 アイドルマスター百物語   作:鈴神

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本日より、6期鬼太郎は新章開幕。
名無し編最終話でねこ娘があんなことになってしまいましたが、
本作のねこ娘は当初の「ねこ姐さん」キャラで行く方針です。

今後もゲゲマスをよろしくお願いします。


エヴリデイナイトメア 赤い血染めのリボンは永遠に…… ③

 

「まさか、加蓮ちゃんまでこんな目に遭うなんて……」

 

「ちょうど……入れ違いだったみたいだね」

 

 リハーサルの最中に倒れた加蓮を乗せた救急車が、市民ホールを出て行く。その様子を、美穂と小梅は不安そうな表情を浮かべながら見送っていた。その隣には、同様の表情を浮かべた凛と奈緒の姿もあった。

 

「加蓮の首筋にあった傷跡からは、妖怪が持つ毒素……『妖毒』が感じ取れた。小梅が見たという、二人の被害者の首についていた傷跡も同じだろう」

 

「確定じゃな。一連の事件は、間違いなく妖怪が関わっておる」

 

 現場に居合わせた鬼太郎の妖怪アンテナが反応したことに加え、加蓮の傷跡から『妖毒』が感知されたのだ。一連の騒動に妖怪が関わっていることは、疑いようも無かった。

 

「しかし、まさか僕達が来たタイミングで、加蓮が襲われるとは……」

 

「一足遅かったことが、悔やまれるのう……」

 

 鬼太郎と目玉おやじもまた、加蓮がこのような目に遭ったことについて、やり切れない思いだった。もう少し到着するのが早ければ、加蓮を助けられたのではないか、と……

 

「じゃが、いつまでも落ち込んでもおられんぞ、鬼太郎。美穂ちゃんと小梅ちゃん、凛ちゃんと奈緒ちゃんもじゃ」

 

「……そうですね、父さん」

 

 まゆの生霊と思しき妖怪が標的に定めているのは『Masque:Rade』のアイドルである。智絵里、李衣菜、加蓮がその毒牙にかけられたが、まだ標的は一人残っている。

 

「順番からいけば、次は美穂ちゃんだね……」

 

「わ、私がっ……!」

 

 小梅の一言に、顔を真っ青に染める美穂。智絵里、李衣菜、加蓮が妖怪の毒牙にかかった今、美穂が狙われるのも時間の問題なのだ。

 

「そうならないためには、妖怪を倒すしかない」

 

「鬼太郎の言う通りじゃ。そのためにまずは、妖怪の正体から暴かねばならん。凜ちゃんと奈緒ちゃんも、協力してくれるかね?」

 

「勿論だ!加蓮まであんな目に遭わされたんだからな」

 

「これ以上、犠牲者を増やすわけにはいかないからね」

 

「ウム。それではまずは、現場をもう一度確認してみよう」

 

「はい、父さん」

 

 美穂と小梅に加え、凜と奈緒という協力者を得た鬼太郎と目玉おやじは、先程の加蓮が襲われた場所へと、実地検証のために向かうことにした。

 加蓮が倒れた場所は、鬼太郎達が市民ホールへ入ってきた裏手にある関係者用の入口からほど近い場所にある廊下だった。控室が複数並ぶ場所とステージ袖とを繋ぐ通り道であり、横に扉等の無い、完全な一本道だった。

 

「あたし達はあの時、ステージに向かって移動してたんだ。そこの控室を出てから、この道を通ってな」

 

「確か、私、奈緒、加蓮の順番で部屋を出て行って……その途中で、一番後ろにいた加蓮が急に倒れだしたんだよね」

 

 どうやら、加蓮が妖怪に襲われたのは、ステージへの移動中らしい。三人一緒に行動していたが、二人が目を離した僅かな隙に、加蓮は毒牙にかかったのだろう。

 

「それで、私達は反対側の方から駆け付けてきたんだよね」

 

「つまりこの廊下は、両側から密閉されていたっていうことだね……」

 

 鬼太郎達四人が駆け付けてきたのは、加蓮が倒れてから十秒と経っていないタイミングである。そして加蓮を挟んで反対側には凛と奈緒がいた。小梅の言うように、加蓮が襲われたこの一本道は、両サイドが塞がっていたことになる。

 

「二人は妖怪の姿を見なかったのか?」

 

「加蓮の方を振り返った時には、何も見えなかったな。凜はどうだ?」

 

「私も……あの時は、あそこには何もいなかったと思う」

 

「妙じゃのう……妖怪が加蓮ちゃんを襲って間も無いのじゃから、現場から逃げることなどできん筈なのじゃが……」

 

「普通の人間ならともかく、妖怪が見える人間が集中している状態でしたからね」

 

 妖怪は、その存在を信じていない人間には見えることは無い。だが、この現場にいた、加蓮を含むアイドル五人は、いずれも妖怪と関わったことでその存在を認知できる状態にあるのだ。

 故に、妖怪が現れたのならば、その姿を見ていてもおかしくない。だが、鬼太郎達よりも早く現場に居合わせていた奈緒と凛は、何も見ていないという。

 

「加蓮ちゃんも、襲われるまで気付かなかったみたいだよね」

 

「恐らく妖怪は、非常に小さく、目にも止まらない速さで動き回れるような姿形なんだろう。でなければ、この場所から消え失せることなんてできる筈が無い」

 

「多分、そうだろうね。けど、それだけじゃ何の妖怪かなんて分からないんじゃ……」

 

 鬼太郎の推測は、概ね間違っていないだろうが、小さくて素早いというだけでは、対処のしようがない。一連の襲撃事件を起こした妖怪の正体に迫るには、情報が足りなかった。

 

「ねえ、智絵里の時と李衣菜の時って、どうだったの?」

 

「加蓮が襲われたこのケースだけじゃ、妖怪の正体なんて分からないもんな」

 

 加蓮より前に起こった、智絵里と李衣菜のケースについて尋ねる凜と奈緒に対し、美穂と小梅が先程鬼太郎に行ったのと同じ説明をする。

 一方の鬼太郎は、美穂と小梅の話を頭の中で反芻し、一連の事件に他に共通項が無いかと思考を巡らせる。

 

(二日前に襲われた智絵里という子は、化粧室で倒れていたという。昨日襲われた李衣菜という子は、バイクに乗っている最中に襲われた、か……)

 

 三つの事件共通することは、首筋を狙った刺し傷と、そこから妖毒を注がれたこと。だが襲撃の手段以外は、現場も時間も、当時の状況も、全てがバラバラなのだ。妖怪の正体に近づくための、決定打に欠ける。

 説明を聞いた凜も奈緒も、鬼太郎同様に手詰まりの様子だった。腕組みした状態で、「う~ん」と唸り声を上げて考え込んでいた。

 

「とりあえず、控室の方に戻ってみようか。加蓮が倒れるまでの行動を確認していけば、何か分かるかも」

 

「そうだな。被害者の行動を追うのは、探偵マンガの王道だもんな」

 

「……そうだな」

 

 凛の(一応、奈緒も)言っていることは尤もなので、皆で控室へ向かうことにした。控室がある場所は、鬼太郎達がいる場所から、それ程離れてはいない。だが、その時だった――――――

 

 

 

 

 

きゃぁぁああああ!!

 

 

 

 

 

『!!』

 

 突如として聞こえてきた、女性の悲鳴。しかも、聞こえてきた方向には、鬼太郎達が今まさに向かっている、控室がある場所である。

 

「な、何!?」

 

「まさか、妖怪が!?」

 

「……行くぞ!」

 

「ちょっ、鬼太郎さんっ!?」

 

 鬼太郎の妖怪アンテナは反応していないが、妖怪の襲撃があった直後である。妖怪との関連性を考えるより前に、鬼太郎は現場へ向かって走り出し、アイドル四人もその後を追った。

 

ぎょぇぇぇえええ!!

 

「こ、今度は何だ!?」

 

「あの部屋だ!」

 

 次に聞こえてきたのは、男性のものらしき、苦悶に満ちた悲鳴。悲鳴の出所は、鬼太郎達がいた場所のすぐ近くにある三つ並んだ扉の内の、鬼太郎達から見て一番手前側の部屋だった。扉には、『メロウ・イエロー様控室』と書かれている。

 

「あそこって……有香ちゃん達の控室じゃ!」

 

「行くぞ!」

 

 一体何が起こっているのか分からなかったが、アイドルの控室と聞いた鬼太郎は、扉の前へ行くと、躊躇なくその扉を開いた。そこには………………

 

「痛でぇえええ!痛でぇええええ!!やめでぐれぇぇえっ!!」

 

「そうはいかないわよ!あなたみたいな変質者、元婦警として見逃せないわ!!」

 

 警備員の姿をした男に関節技を極めている、小柄な女性がいた。二つに分けて結わえた髪型に、低身長に加えて童顔という容姿に見合わない豊満なバストの持ち主である彼女は、346プロのアイドルユニット『セクシーギルティ』の一員、片桐早苗である。

 

「さ、早苗さんっ!?」

 

「一体、何を……!?」

 

 予想外の光景に状況が理解できず、戸惑いとともに疑問符を浮かべて問い掛ける美穂と奈緒。凛と小梅も、どう反応すれば良いのか分からずにいた。すると、部屋の奥から出口へと、二人の少女が駆けてきた。

 

「奈緒ちゃん!」

 

「怖かったよ~!」

 

「え?ゆ、ゆかり!?」

 

「法子ちゃんもっ!?」

 

 少女二人は、出口の前に立っていた奈緒と美穂のもとへ来ると、そのまま二人へ抱き着いた。美穂に抱き着いているポニーテールの茶髪の少女は、椎名法子。奈緒に抱き着いているストレートの茶髪の少女は、水本ゆかり。この二人は、この控室を使用している346プロのアイドルユニット『イエロー・メロウ』のメンバーである。

 

「二人とも、何があったの?」

 

 状況がまるで分からない凜は、とりあえず事情を聞くことにした。美穂と奈緒に宥められた法子とゆかりは、少しずつ事の経緯ついて話し始めた。

 

「加蓮ちゃんが病院に運ばれてから……私達、一度控室に戻ったの」

 

「そしたら、そこの男の人が……私達の荷物を漁っていたんです……!」

 

「な、なんだって!?」

 

 ゆかりと法子の話によれば、控室に戻った二人は、自分達の荷物を物色していた警備員らしき服装の男と遭遇し、その場で悲鳴を上げたという。そして、悲鳴を上げられた警備員姿の男は、急ぎ部屋の中から逃げ去ろうとしたところ、ドアの直前で早苗に遭遇。警官時代に鍛えた関節技を見事に極めて捕縛し、現在に至るという。

 

「要するに、警備員の恰好で泥棒やってたそいつに驚いて、悲鳴を上げたってワケか」

 

「妖怪じゃ、なかったんだね……」

 

 妖怪の仕業ではなかったと知り、安堵する一同。だが、アイドルの控室を荒らす泥棒とて安心できるものではない。状況を把握した一同は、改めて問題となっている人物……関節技を極められている、警備員姿の泥棒へと視線を向ける。

 と、その時。警備員姿の泥棒が被っていた帽子が、床へと落ちた。すると、早苗が関節技を極めていたことで見えにくくなっていた男の顔が露になり……鬼太郎と小梅、美穂、そして鬼太郎の髪の中に潜んでいた目玉おやじは、驚愕にその目を見開いた。

 

「ねずみ男!」

 

 いつもの汚らしいぼろマント姿でなかったがために気が付かなかったが、禿頭の登頂に毛が三本、顔にはネズミを彷彿させる髭が両側に三本ずつ伸びていたその顔は、見間違えようがなかった。

 

「き、鬼太郎!た、助けてくれぇええっ!」

 

 早苗に締め上げられながらも、鬼太郎に助けを求めるねずみ男。だが、それに対する鬼太郎の反応は非常に冷ややかなものだった。

 

「ねずみ男……金に困って、遂にアイドルの財布まで狙うようになったのか?」

 

「ち、違ぇよ!俺は財布なんて、盗んでない!」

 

「嘘仰い!あんたが荷物を漁っていたのを、ゆかりちゃんも法子ちゃんも見てるんだからね!!」

 

 さらに強く締め上げる早苗の関節技に、再び悲鳴を上げるねずみ男。するとその時、ねずみ男の懐から、一冊の手帳が落ちた。

 

「何だこれは?」

 

「そ、それは……!」

 

 徐に手帳を拾い上げた鬼太郎。それを見たねずみ男は、顔を真っ青に染めた。その反応を見て、どうやら見られては拙い、疚しい内容なのだろうと察した鬼太郎は、手帳を開いて中身を見ることにした。ペラペラとページを捲っていくと、つい最近書いたと思われる末端の部分に、このような内容が書かれていた――――――

 

 

 

渋谷凛のピアス……75,000円

神谷奈緒の携帯ストラップ……18,000円

椎名法子のヘアゴム……31,000円

水本ゆかりのハンカチ……17,000円

中野有香のスポーツタオル(使用済)……65,000円

片桐早苗のコンパクト……32,000円

堀裕子のスプーン……18,000円

及川雫のリップクリーム……150,000円

etc……

 

 

 

『………………』

 

 その内容を見た鬼太郎と、脇から覗き込んでいたアイドル達が、皆一斉に沈黙した。手帳に一覧化されて書かれていたアイドルの名前と各種所持品、そして――金額。しかもそれらは、アイドルの肌、特に唇に触れるもの程、金額が跳ね上がっている。

そして、それらの中のいくつかには、『✓』のマークが付けられていた。

 

「……ねずみ男、お前まさか……」

 

「お、俺はそんなの知らねぇ!知らねえよっ!」

 

 手帳の内容を見たことで、ねずみ男がこの場で何をしていたかを理解し、呆れの視線を向ける鬼太郎。ねずみ男は尚も自分は無罪だと言い募るが、この場にいる誰もがその言葉を信用していなかった。

 そんな中、明らかに部屋を使用しているアイドルの所持品とは思えない、黒いバッグを見つけた凛が、それを拾い上げた。ねずみ男は「やめてくれ」と凜に対して必死に嘆願するも、当の凜はそれを無視すると、バッグの口を開いてひっくり返し、近くの机の上へと中身を広げた。

 

「あ!あたしのストラップ!それにこれ、凛のじゃないか!?」

 

「わ、私のハンカチもあります!」

 

「これ、有香ちゃんが使ってたタオルです!」

 

 バッグの中から出てきた品々を見るや、奈緒やゆかり、法子といった本来の持ち主達が次々に声を上げた。そんな彼女等の反応を見て、鬼太郎は確信した。

 

「警備員に化けてアイドルの楽屋から持ち物を盗み出して、売り捌こうとしていたというわけか……」

 

「い、いやっ……お、俺は……!」

 

「鬼太郎さん、これ……」

 

 尚も言い訳をしようとするねずみ男を遮り、小梅がスマートフォンを差し出した。小梅の持ち物ではなく、先程、凜がひっくり返したバッグの中から、アイドル達からの盗品と一緒に出てきたらしい。そして、小梅が鬼太郎に見せたその画面に映し出されていたもの。それは、ねずみ男がアイドル達の楽屋へ侵入し、持ち物を漁って次々盗み出す様子だった……

 

「ねずみ男、もう言い逃れはできないぞ」

 

 動画を見た鬼太郎は、深い溜息を吐いて、そう言った。スマートフォンに映し出されていた動画は、盗み出した物品が本物であることを証明するために、ねずみ男が自撮りで撮影したものらしい。しかし今、それはねずみ男の犯行を裏付ける決定的な証拠として、ねずみ男自身の首を絞めることとなっていた。

 

「あたしがまだ婦警やってた現役時代に聞いたことがあるわ。アイドルの所持品を違法に売り捌いている、闇のファンサイトがあるって!あなた、そこに雇われたんでしょう!?」

 

「な、何のこと……痛だだだだだぁぁああ!!」

 

 この期に及んで、まだ言い逃れようとして、早苗にさらに関節技を極められるねずみ男。現行犯で捕まった上に物的証拠まである以上、ねずみ男を庇う者など誰一人としておらず、皆一様にゴミを見るような視線を送っていた。付き合いの長い鬼太郎と、髪の中に潜んでいるに至っては、自業自得としか言いようの無いねずみ男の姿に、開いた口が塞がらずにいた。

 

「あなたみたいな犯罪的(ギルティ)な人は、譬え婦警を辞めていても見過ごせないわ!このまま、本物の警備員さんに引き渡すから、覚悟なさい!」

 

「ぐぐっ……こうなったら……!」

 

 尚も抵抗を続けるねずみ男が、早苗の拘束から逃れるために取った手段。それは……

 

ぶっ!!

 

「ぐはぁっ……く、くっさぁあっ!!」

 

 盛大な音と共に、強烈な悪臭を伴う放屁が早苗を襲う。そのあまりに強烈な悪臭と催涙効果に、それまで極めていた関節技を解除してしまう程だった。

 そして、影響を受けたのは早苗だけではなかった……

 

「く、臭い……っ!」

 

「うぐっ……!」

 

「……い、息がっ!」

 

 ねずみ男が発した、毒ガスと同レベルの屁を吸引してしまったアイドル五人――美穂、奈緒、凛、縁、法子が、喉と口元を押さえて悶え苦しんでいた。その悪臭から逃れるべく、窓へと殺到し、急いで鍵を外して全開にして換気を行った。窓枠に上半身を乗り出し、汗をびっしょりとかいて息も絶え絶えの四人は、九死に一生を得たかのような安堵の表情を浮かべていた。もし控室に窓が無かったら、命の危機に瀕していたかもしれない。

 そんな地獄絵図とも呼べる惨状を、鬼太郎と小梅の二人は鼻をつまみながら唖然とした様子で眺めていた。

 

「やったぜ!あばよ!」

 

 そして、早苗の拘束から逃れたねずみ男は、まんまと控室から逃げ出していった。至近距離で放屁を受けながらも、元婦警としての気力をもって立ち上がろうとする早苗だったが、ねずみ男を再び押さえるには至らなかった。早苗を振り切ったねずみ男は、現場から逃げるべく、裏口を目指して走り出そうとする。

 

「あれ?何で警備員さんがこんなところに?」

 

 だが、そんなねずみ男の目の前に、新たな障害が現れる。二つに分けて結んだおさげの黒髪の、小柄な少女。346プロ所属アイドル、中野有香である。法子とゆかり同様、『イエロー・メロウ』に所属する彼女は、自身の控室へ戻ろうとしていたところで、逃亡するねずみ男と鉢合わせすることになったのだった。

 

「有香ちゃん、止めて!!」

 

 控室入口で倒れている早苗が、朦朧とする意識の中で、必死に声を上げる。対する有香は、一体目の前で何が起こっているのか、状況がまるで分からずに半ば混乱していた。しかし、同じ事務所に所属するアイドルである早苗の頼みに応えることに、迷いは無かった。

 

「はっ!」

 

「ごふっ!」

 

 早苗を振り切って逃亡しようとしていたねずみ男の鳩尾に向けて、有香は躊躇なく正拳突きを叩き込んだ。

 

「とりゃぁぁああ!!」

 

「ぎゃぁぁああっ!!」

 

 さらに有香は、腹を押さえるねずみ男の頭部目掛けて、今度は回し蹴りを放った。立て続けに食らった拳撃と蹴撃の二撃に、ねずみ男は敢え無く撃沈した。

 ねずみ男の不運は、逃げようとした方向で出くわしたアイドルが、空手の黒帯有段者である武闘派アイドルの有香だったことだろう……

 

 

 

 

 

 

 

「全く……相変わらず懲りない奴ですね、父さん」

 

「こやつが起こす馬鹿騒ぎは、今に始まったではなかろう」

 

 呆れきった表情を浮かべながら、密かに呟く鬼太郎と目玉おやじの目の前には、ロープで簀巻きにされたねずみ男がいた。アイドルの控室で窃盗を働き、見つかるや否や、逃亡を試みて叩き伏せられたねずみ男は、こうして再び捕縛され、控室に連れ戻されることとなったのだった。

 

「それにしても……よくもまあ、あの短時間でここまで盗み出したもんだ」

 

「奈緒、関心するところじゃないよ、それ」

 

 控室のテーブルの上に並べられた盗品の数々に、奈緒は呆れを通り越して感心している様子だった。そんな奈緒を窘める凛も、内心では同じようなことを考えていたのだが。

 

「あの、早苗さん。これって、すぐには返してもらえないんですか?」

 

「ごめんね、法子ちゃん。この男を警察に突き出す時に、一応証拠品として提出する必要があるから、もうちょっと待っててね」

 

 有香と早苗によって捕縛されたねずみ男は、警察に引き渡されることとなっていた。警察には既に通報しており、パトカーが来れば、ねずみ男は逮捕・連行される。また、盗まれた物品は窃盗事件の証拠品として、一度警察が預かる必要があったので、こうしてテーブルの上に広げたままにしていたのだった。

 

「それにしても、悍ましいものですね……私達の持ち物が、こんな風に扱われるなんて……」

 

「アイドルという職業には、このようなことがあるとは聞いていましたが、まさか自分に降りかかる日が来るとは思いませんでした……」

 

「大丈夫ですよ!またこんな人が現れたら、私のサイキックパワーで即・撃退です!」

 

「もぉ~!こんなことばっかりする人がいたら、私も怒っちゃいますよっ!」

 

 控室荒らしたるねずみ男が捕縛された後。リハーサルに参加していたアイドル達は、逮捕現場である、『イエロー・メロウ』の控室へと集まり、盗まれた所持品の確認を行っていた。幸いと言うべきか、ねずみ男は盗み出した物について、手帳をもとに細かにチェックしていた。お陰で、確認作業はスムーズに進んだ。

 尤も、手帳に書かれていた盗品と、闇ファンサイトにおける取引金額を見る中で、皆非常に不快な表情を浮かべていたのだが……

 

「ええと……私のところから盗まれたのは、これで全部です」

 

「よし。これで全員分、確認できたわね」

 

 リハーサルに集まったメンバー全員にねずみ男の手帳を回しての盗品確認は、最後の有香が確認を終えたことで、完了した。

 

「あれ?これって、誰のものなのかな?」

 

 テーブルの上に、持ち主ごとに分けて置かれていた盗品の中。持ち主が誰か分からないものがあったことに気付いた美穂が疑問を口にした。

 

「ああ、それは加蓮ちゃんのものね」

 

「成程。それじゃあ、確認はできそうにないわね」

 

 妖怪に襲われて救急車で搬送された加蓮だけは、どうしても盗品の確認ができない。加蓮の分は立証できそうにないが、八人ものアイドルの所持品盗難が確認できているのだから、ねずみ男は完全な黒である。

 

「それにしても、加蓮は何を盗まれたんだ?」

 

 テーブルの上の片隅にある、ねずみ男が加蓮から盗み出したとされる物品へと視線を向ける奈緒。マニキュアや文房具等の物品が二、三個程あったが、その中の一つを見た奈緒が「ん?」と疑問そうな声を上げた。

 

「なあ……これって、本当に加蓮から盗んだ物なのか?」

 

「どういうことだ?」

 

 奈緒の疑問の意味が分からず、聞き返す鬼太郎に対し、奈緒は自身が指摘した物品を手に取り、仔細を説明する。

 

「今日、加蓮はこれを付けてリハーサルに臨んでいた筈なんだよ。荷物の中から出て来る筈なんて無いんだけどなぁ……」

 

「そういえばソレ、倒れる直前まで身に付けていたと思う」

 

 奈緒が指摘した物品については、凜も一応は認知していたらしい。奈緒が口にした説明について、捕捉するように付け加えた。

 

「話をまとめると、倒れる直前まで身に付けていた筈のものが、手荷物の中から見つかったということか?」

 

「そういうことだな。今日は衣装を着ない代わりに、これだけは本番と同じにしようって思ってたらしいんだ。そこのポスターみたいにな」

 

 奈緒が指差した先にあったのは、ライブのポスターだった。そこには、出演ユニットである奈緒達『トライアドプリムス』の写真もあった。

 

「!!」

 

 その写真を見たことで、鬼太郎はあることに気付いた。それと同時に、智絵里、李衣菜、加蓮の三人の被害者が襲われた際の共通点が見えてきた。

 

「小梅、少し調べて欲しいことがあるんだが、良いか?」

 

「何?」

 

「加蓮以外の、二人のアイドルが襲われた時の服装だ」

 

「鬼太郎さん、もしかして何か分かったんですか?」

 

「確証は無い。それに、僕が想像しているような妖怪の話は聞いたことがない。だが、一連の事件を引き起こした妖怪の正体としては、他に考えられないんだ」

 

 確定ではないと前置きしている鬼太郎だったが、妖怪の正体については想像しているもので間違いないという確信がある様子だった。

小梅と美穂は、鬼太郎の頼みを聞き入れ、スマートフォンを取り出して連絡を行い、確認を急いだ。一方の鬼太郎は、妖怪の正体について、髪の中にいる目玉おやじに相談し、対策を練るために動き出した。

 

 

 

 

 

 ちなみにその後、ねずみ男は気絶したまま無事に(?)警察へ引き渡されるとともに、ねずみ男が通じていた闇のファンサイトも一斉に摘発され、アイドルの所持品盗難事件は無事に幕を閉じるのだった。

 

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