数多の星が恒星によって輝く空の下、シノブは縁側に腰を下ろしていた。隣には、家の持ち主であるハルが座っている。
「……なぁ、義姉さん」
フロンティア産の米を使った清酒を飲むシノブは、頬を上気させながらハルに話しかけた。
「なに?」
そのハルも、清酒が注がれたぐい呑みを持っている。
「7年前、8か月いや、ウィンダミア独立戦争が起こった直後から、極秘任務とかでいなかったよな……」
「そうだったわね……」
「何処に行ってたんだ? オズマ隊長に聞いても『知らん』の一転張りだったしさ」
意を決した表情で話すシノブに対してハルは、微笑みを浮かべながら聞いている。
「ウィンダミアに行ってたのよ。観戦武官って言ったら古いけど、S.M.Sのマークから新統合軍のマークに張り替えたVF-19で空中騎士団と戦いながら、S.M.Sに戦況を報告する任務に就いていたわ」
「やっぱりな。だから……あの純白のメサイアが残ってたのか」
「ええ。当時、VF-25はまだフロンティアとごく一部の移民船団、後は、地球圏しか配備していなかったから、何処から来たかって、バレちゃうでしょ? だから、ワイルダー艦長がVF-19Aを宛がってくれたのよ」
「流石、我等の艦長……」
「ワイルダー艦長には、ホントお世話になったわね。私も、君も」
「ああ」
悪戯っぽく笑うハルに釣られ、シノブも笑みをこぼすのであった。
翌日
マクロス・エリシオンの大会議室には、ケイオス・ラグナ支部で働く人々が集められていた。もちろん、アルファからデルタまでの小隊とワルキューレもである。
「ラグナ星系自治組織連合からの要請だ」
巨大スクリーンの前に立つアーネストが口を開いた。
「今までの依頼は、ヴァールによる暴動の対応のみ。そこにウィンダミア王国侵攻に対する防衛が加えられた」
「つまり、ここから先は戦争ってことだ」
アーネストの言葉を簡単に言い直したアラドは、椅子に座らずに壁に寄りかかっているシノブを一瞬だけ見る。
「それに従い、私たちも契約の更新を行います」
「ケイオスは民間企業です。契約に納得いかなければ除隊も出来ますが――」
それに付け足すようにカナメが言った。
「無論、更新します!!」
「同じく」
「聞くまでもないわ」
「きゃわわ~なジークフリードちゃんを置いていけないもんね!!」
「ハンコ押す……」
「俺も……まだ誰ともデートしてないしね~!!」
デルタとワルキューレの半分以上が契約を更新すると言った。それに対して、アラドは「お前らは……」と、苦笑いを浮かべるのであった。
「ハヤテ、お前はどうする?」
「シノブはどうすんだよ?」
「残念ながら、俺に拒否権は無いのさ」
ハヤテの問いに、両手を挙げてシノブは答える。
「…………」
「まぁいい……考えておけ」
「フレイア。あなたはどうするの?」
「……正直、戦争って言われてもピンと来んし……」
「そう……でも一つ問題があるわ」
フレイアに対して美雲は自分の手を触りながら言う。
「ケイオス本部は、あなたをスパイではないかと疑っている」
「すっ、スパイ!?」
素っ頓狂な声を上げるフレイアであったが、美雲はお構いなしと言った感じで受け流した。
「美雲!!」
カナメが美雲を咎める。
「同じ声は、マスコミやファンからも上がっているわ」
「俺も、まだ信用できないな」
「シノブさん!!」
今度はシノブがカナメの叱責を受ける。シノブはチラッとカナメに視線を向けるが、直ぐにフレイアに戻す。
「シェリルも……最初はスパイだった」
「え……」
シノブが言い放った言葉に二の句が継げないフレイアは、ウィンダミア人特有のルンを青黒く染める。
「嘘じゃないさ。ただ、シェリルは疑われてもなお歌い続け、フロンティアに住む人々を勇気づけた。まぁ、歌い続ければ民衆って奴は勝手に信じてくれる。そうだろ? 美雲さん」
「ええ、そうね。ま、メンバーにスパイがいるくらいの方が面白いとは思うけど……」
シノブの言葉を肯定した美雲が不敵な笑みを浮かべながら話を続ける。
「大丈夫!! 一日も早く信じてもらえるようごりごり頑張ります!!」
「そう……楽しみにしているわ」
その夜、シノブは『裸久娘娘』のテーブルでチャック達と雑談をしていた。隣に座っているマキナは、タブレットにマルチドローンプレートであるシグナスのデータを映しながら何かをしている。
「精が出るねぇ」
「マルチドローンプレートの改良ですか?」
「そう……これからはデルタ小隊との連携がさらに重要になってくるからね」
ミラージュの質問に答えたマキナの口に、どんどんとクラゲ餃子がレイナの手によって放り込まれていく。
「食べるか、直すか、どっちかにしたらどうだ?」
「その時間も惜しいの!!」
「お、おう……」
頬を膨らませて怒りを露にするマキナにこれ以上言うまいと、シノブはその口を噤んだ。
「なぁ……ミラージュ、シノブ」
「お前ら、人間相手に戦争したことあるか?」
「ええ、新統合軍にいたころ……」
「あのゼントラ艦隊は例外か?」
緑茶の入ったコップを持つシノブがチャックに問う。
「あいつらは意思疎通してないじゃねぇかよ。で、どうなんだ?」
「勿論あるさ……」
「チャック少尉は?」
「似たようなもんだ」
「ウィンダミア独立戦争のことは? 先日の宣戦布告では統合政府が搾取しようとしたと……」
「新統合軍の目的は、ウィンダミアの地下に埋まってるフォールドクォーツだったはずだ。この広い銀河でも、フォールドクォーツが産出するとこなんて、ウロボロスかウィンダミアくらいだからな。フロンティアはもう取れないし、ウロボロスも極端に遠い。おまけに、可視化したフォールド断層の所為で外界との接触が出来なくなることがある惑星ときた」
シノブが住んでいたフロンティアは、2059年当時、バジュラがまだ銀河系にいた時は宝島であった。だが、バジュラ戦役が終結し、バジュラ達が銀河系を去った後、その‘供給源’が失われてしまったために宝島という夢は、夢のままで終わってしまう。
それでも、フロンティア新統合軍とS.M.Sフロンティア支社、L.A.I技研がシノブやハル達が倒したバジュラの亡骸を回収し、取り出されたフォールドクォーツはVF-25のISCやYF-29のコアユニット、フォールド断層を超えられる性能を持つスーパーフォールドブースターに使用されていた。
一方の惑星ウロボロスは、銀河辺境に位置し、惑星全体にゼントラーディや人類を作ったとされるプロトカルチャーの古代遺跡が点在している。そのため、フォールドクォーツが発掘されることも珍しくなく、銀河有数のフォールドクォーツ産出地であるのだが、如何せん、惑星の位置や『ウロボロスオーロラ』と呼ばれるフォールド断層によって外界との往来が途絶える事も多いため、開発に時間が掛かっているのが現状である。
2067年現在では、フォールド断層を超えられるFDR――フォールドディメンショナルレゾナンスシステムやスーパーフォールドブースターによって幾分かは、往来が楽になっている。
「随分……博識なんですね」
「アイシャの受け売りだ。そういえば……アイシャとはどっかで会ったことがあるんだよなァ……」
腕を組むシノブが天井を見上げる。何かを思い出そうとするが思い出せない。
「S.M.Sの支社長だった人だと聞いてますから、会議とかそんな時にお会いしたのでは?」
「一パイロットがウロボロス支社長の出る会議なんかに行かないよ。大体、支社長どうしの会議なんて見たことも聞いたこともないのにさ」
「よう。遅かったな。どこ行ってたんだ?」
「ちょっとね」
チャックの問いをあいまいに返したハヤテが椅子に座り込み、その青い髪をかきあげた。
「さて……と」
緑茶を飲み干したシノブが席を立ち上がる。
「何処行くんだよ」
「お前達の訓練メニューを組まなきゃいけないんだ」
そう言い残してシノブは二階へと上がっていく。
「……なんか、あいつ俺にだけ当たり酷くねぇか?」
「ハヤテが生意気だからじゃないですか?」
ミラージュの的確な指摘にハヤテは、ガックリと項垂れる他なかった。
「アクティブステルスを作動させての模擬空戦を入れるか……それとも、バトロイドでの格闘戦を重視するか、悩みどころだな」
ラップトップのキーボードを叩いていたシノブは、横に置いていたノートの一冊を取り、一ページずつ捲っていく。あるページを捲ったところで、写真が落ちた。
「……写真?」
拾った写真には、バルキリー乗りとしてのライバルであり、アグレッサーとして同じ職に就いていた友人達の懐かしい姿が映っていた。
どうもセメント暮らしです。
S.M.Sのアグレッサーは将来有望なエース格の若者が多かったということですから、マクロス30の主人公であるリオン・榊も該当しますよね? というか入れたい。
マクロス30がしたくなってきました……
感想や質問待ってます!!