マクロスΔ 漆黒の救世主   作:セメント暮し

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大変お待たせ致しました。


ACT.16

「あたしは、技術顧問の権限として、あなたをVF-31のパイロットとして不適当である、と艦長に進言せざるを得ません」

 ヴォルドールでの戦闘から二日後、マクロス・エリシオンの研究ラボには、二人の男と一人の女が居た。その中の一人、アイシャ・ブランシェット特務少佐が重い雰囲気の中、口を開き言い放つ。

 

「アイシャ、そこまでメッサーの体は酷いのか?」

 

「ヴァールが再発しかかっている。いや、もう再発しているわね」

 訳の分からない機械に腰を預けながらシノブはアイシャに質問する。いつに増して、真面目な声音であった。

 

「もし、次の戦闘でヴァールが発症したら……強制的に、ヴァール発生率の低い銀河系辺境星域で任務に就いてもらいます。新設される第十戦闘航空団<プリンシパティーズ>の指揮官……栄転だと思って欲しいわね」

 

「メッサー、一旦デルタを離れて体を直すことに専念したらいい。お前が死んだら元も子もないんだぞ」

 

「ですが……俺にはまだ──」

 

「カナメさんを守る事か?」

 不意にメッサーの瞳が鋭くなった。普通の人間ならば怖気づいてしまう程の眼力であったが、シノブはそれをするりと受け流す。

 

「他の奴に任せればいい。お前が離れている間は、俺がカナメさんを護る。もっとも、契約期間が戦争終結までになったから時間はあるさ」

 研究室の白い天井を見上げながらシノブは言う。

 

「ね? シノブもこう言ってるんだから……戦争が終わってから戻ってくればいいじゃない。だから、今はゆっくりワクチンライブを聴いて体を休めたらいいわ」

 

「新参者の俺が言うのもなんだが……俺達はチームなんだ。体調不良の奴がいればそいつの代わりに飛ぶ。それは当たり前のことなんだよ。お前も分かるだろ?」

 シノブの言葉にメッサーは言い返さない。

 

 ひどく、長い沈黙が流れた。

 

 もし、アイシャの手の中に、本当の煙草があれば、一本灰になるだけの時間。

 

「────了解しました」

 メッサーは敬礼をして部屋を出て行く。いつも冷静沈着なメッサーが、今回に限って拳を強く握りしめていた。それほどまでに重い通達であったのだ。

 

「悔しいだろうな……」

 

「仕方ないわ。ヴァール発症者がデルタにいること自体危険なのよ。もし、彼がジークフリードに乗ったまま発症したら、その戦闘力は計り知れないものになる。それこそ、あなたやアラドが本気を出さないと止められない程にね」

 憂鬱そうな瞳をシノブに向けながら、アイシャはふっと息を吐いた。

 

「本気ね……。コーヒーごちそうさん」

 ぬるくなったコーヒーを飲み干したシノブは、アイシャに礼を言ってラボを後にする。S.M.Sのジャケットがひらひらと揺れ、アシンメトリーの黒髪が蛍光灯の光を受け、艶やかに輝いた。

 

 

 三日後

 

 身体の不調という事で、アラドに休暇を取らされていたメッサーが任務に復帰した。

 

「メッサー・イーレフェルト中尉。只今より、任務に戻ります」

 アラドやシノブ、カナメに向けて敬礼をする。その瞳には、確かな意思が宿っていた。

 

「大丈夫なのかメッサー?」

 

「問題ありません。アイシャ女史からのデータはご覧になったと思いますが」

 訴えるようなメッサーの瞳にシノブは頷く他なく、アラドもやれやれと言わんばかりの顔を見せる。

 

 数時間後

 

 ミラージュのVF-31Cを先頭に、デルタ編隊を組んだ3機のジークフリードがラグナの空を飛んでいた。

 

 その直後、上空から降り注いだ機銃の一連射が3機のVF-31を襲う。

 

「ブレイク!!」

 三方に散ったジークフリードが上昇や降下を使い分けてメッサーに反撃を始めた。

 

 だが、メッサーの後ろを取ったミラージュの射撃もハヤテの射撃も当たらずに躱されてしまう。

 

「当たらねぇのかよ!? 3対1だってのに!!」

 

「この模擬戦まさか!?」

 

「ああ!! メッサーの奴、オレ達を白騎士に見立ててやがる。まだやる気なのかよ!! アイツ(白騎士)と!!」

 ハヤテがそんなことを言っている間に、3人が撃墜判定をもらってしまう。

 

『Δ3、4、6……撃墜されました』

 オペレーターであるミズキ・ユーリが驚きの声を上げつつ報告した。

 

 3対1の模擬空戦はあっという間に終わってしまい、メッサーの完全勝利で幕を閉じてしまったのである。

 

 

 演習をマクロス・エリシオンのブリッジで観戦していたシノブは、メッサーの動きに違和感を感じていた。以前にロッカールームでアラドとメッサーが話していた時と似たような感覚である。

 

 普段の演習よりもキレていたメッサーの動きにシノブは、演習後にアーネストが口ずさんだ鬼気迫るという言葉が妥当だという判断を下すとブリッジを後にし、格納庫へと足を運んだ。

 

「ヴァール……か」

 一通りの点検を済ませ、計器類に一切の灯りが灯っていないVF-25Xのコクピットに腰を落ち着けたシノブが口ずさむ。

 

「……罹らない保障はないが、出来れば罹りたくないよな? メサイア」

 装具に身を包んだシノブは、メサイアの計器盤から機体を始動させるスイッチを弾く。

 

 刹那、シノブの正面にある大型グラフィックディスプレイに淡い文字が映し出され、機体の何処からか作動音が響きだした。

 

「パーキングブレーキ解除」

 ラダーペダルをグッと踏み込んでパーキングブレーキを解除させると、するするとメサイアが超電導リニアモーターの力によって動き出す。

 

 機体が格納庫の扉をくぐり、飛行甲板へ飛び出していく。

 

『ブリッジよりΔ5。今朝のブリーフィングで伝えた通り、訓練空域の外れでは発達した積乱雲が確認されています。お気を付けて』

 オペレーターの通達事項に耳を傾けつつ、シノブはカタパルトラウンチバーが機体と接合した事をカタパルト要員であるカタパルトオフィサーから合図を受ける。

 

 起倒式のジェット・ブラスト・ディフレクターが起き上がり、反応エンジンの出力を上昇させた。

 

「行くぞ……」

 前方注視の合図を送ったシューターが右手を前方に伸ばし、しゃがみ込む。それから数秒で、機体が青い空へと射出された。

 

 

 

 洋上の訓練空域で、ハヤテ達が操る3機のVF-31が編隊を組み直す。いずれの機体もメッサーが放ったペイント弾で染め抜かれており、それが負けであることは誰の目から見ても明らかであった。

 

「……メッサー中尉、お身体の方は大丈夫なのでしょうか?」

 

「操縦に支障はない。俺の心配よりも己の技量の心配をしたらどうだ」

 

「その程度の腕では、次こそ空中騎士団に墜とされる」

 ミラージュの心配を辛辣な言葉で返すメッサーの身体は、ヴァールによってジワジワと蝕まれており、なんとかメッサーの強靭な理性で押さえつけている状態であった。

 

「……そこまで言わなくてもいいじゃねぇかよ」

 メッサーのすぐ左について飛行しているハヤテがミラージュをかばう。

 

「本当のことを言ったまでだ」

 

「まぁまぁ。帰ったらみんなで反省し直そうぜ」

 一触即発の場面で仲裁に入ったチャックの陽気な声が各々の無線機に入ってきた。

 

「……Δ2よりエリシオン。これより帰投する」

 

「エリシオンよりΔ2。Δ5がそちらの空域に進出中です。今しばらく待機を」

 

「了解」

 エリシオンからの無線を受け取ったメッサーは正面のパネルをタッチし、オートパイロットを作動させる。一連の戦闘機動を終え、肩で息をする程に消耗してしまっていた。

 

 いつもなら、疲れなど素知らぬ顔でトレーニングやシュミレーターを行う姿を見ていたハヤテにとって、今のメッサーは明らかに無理をしている。

 

「Δ5より2。到着まで3分程だ。メッサー、少し合わせよう」

 漆黒のボディを煌めかせるVF-25Xが空を翔ける。銀朱に黒のアクセントのVF-31Fを受領してから搭乗する頻度が少なくなったVF-25Xではあるが、依然としてシノブが愛してやまない機体であることに違いは無い。

 

「カリプソ・パスからロールしてレター8、少し距離とってからタッククロス、最後はコークスクリューで締めよう」

 スピーカーから響く演目名を、頭の中で描いたメッサーは息を整える。

 

「メッサー、ポイントナウ。上にいるぞ」

 VF-31Fに覆い被さるかのようにVF-25Xが浮かんでいた。背面飛行で一定のスペースを維持しつつ、メッサーに目線を向ける。そこからは鮮やかな機動の連続であった。

 

 背中合わせで飛行するカリプソ・パスから始まり、それぞれ反対方向にロール。真っ青な空に飛行機雲を描きながら2機は飛ぶ。

 

 機体を幾度も交差させるタッククロスから、メッサーを中心に据えてのコークスクリュー。

 

 観客のいないエアショーは最後の演目を終えた。

 

「異動になったとしても、お前はお前だ……腐るなよ」

 邪魔者のいない空の上で、シノブが紡いだ言葉。メッサーは目を伏せてシノブの言葉に耳を傾けていた。

 

 

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