マクロスΔ 漆黒の救世主   作:セメント暮し

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ACT.2

 フォールド中のVF-25Xのコックピット内には、銀河の妖精『シェリル・ノーム』と超時空シンデレラ『ランカ・リー』のデュエットナンバーが流れていた。

 

 軽快なテンポで流れる曲はシノブのお気に入りである。

 

 そんなシノブは、メサイアのモニターにケイオスから提供されたΔ小隊の隊員名簿を映し、閲覧していた。

 

「アラド・メルダース……アルカレリアの騎士殿にメッサ―・イーレフェルト……アルヴヘイムの死神、ジーナス家のミラージュ・ファリーナ・ジーナス……しかしまぁ……これじゃあ、簡単に人は集まらないな」

 データを一通り見終えたシノブは、曲者揃いのΔ小隊、という意味をフォールド中の機内で知ったのである。

 

「っと、そろそろフォールドアウトの時間だな」

 ラグナの衛星軌道上にデフォールドの座標を設定していたシノブは、フォールドゲートの先に見えてきていた青い海と白い雲に覆われた地球型惑星の姿に、8年前のバジュラ本星への降下時の自分の姿を重ねていた。

 

 L.A.I製のフォールド・ブースターと両翼下のマイクロミサイルポッド、エンジンポッドのカバーコーンを切り離し、大気圏へと己の愛機であるメサイアを突入させる。

 

 改修されARIEL-Ⅲとなった機体総合制御システムによって、常に最適な角度へと機体をコントロールするAIに操縦を任せつつ、シノブはオープン回線を開く。

 

「こちら、S.M.Sフロンティア支部所属、シノブ・風谷中尉。マクロス・エリシオン、着艦許可を求む」

 

『聞こえている。マクロス・エリシオン艦長のアーネスト・ジョンソンだ。長旅ご苦労、左腕のアイテールに着艦してくれ』

 

「了解」

 短い無線に答えながら、シノブはアイテールへの着艦コースへと進入を始める。

 

 一方、そのアイテールの甲板には午前中の訓練を終えたΔ小隊のメンバーが機体を降りて待っていた。

 

「トルネードパック装備のVF-25、ね……高くつきそうだな」

 隊長であるアラド・メルダースが、着艦してくる真っ黒なシノブのVF-25Xを目で追いながら独り言ちた。

 

「機体の改造の度合いではないでしょうか? 8年……でしたか、就役から」

 その隣に立っていたメッサ―・イーレフェルトがアラドの言葉に付け足す。

 

「それにしても、上手いな……海抜800m近い、乱気流が渦巻く飛行甲板で無駄な動きが無い。S.M.Sの中でも特に優秀な奴なのかもな」

 着艦を綺麗に成功させたシノブのVF-25Xが、アラド達の目の前に停止する。エンジンがカットされ、音が収まっていく。

 

「ジークフリードと同じエンジンを積んでいるの!?」

 VF-25のエンジン音に気付いたミラージュが声を上げた。

 

「……こいつは……ホントに高くつくな」

 アラドが溜息をつき、自分達の給料が減らされるではないか、と頭の中で一考した。

 

「本日付で、S.M.Sフロンティア支部より派遣されたシノブ・風谷中尉です。どうぞ、よろしくお願いします」

 ヘルメットを小脇に抱えたシノブがアラド達の前に立ち、敬礼をした。

 

「ようこそ、ラグナへ。Δ小隊隊長のアラド・メルダース少佐だ」

 

「……アルカレリアの騎士殿……ですね。お目にかかれて光栄です」

 シノブの言葉を聞いて不意にアラドの目が鋭く光った。

 

「何処で聞いたんだ? その名前」

 

「風の噂、というものです」

 

「そうか……じゃあ、こちらもそれ相応の挨拶が必要だな。ようこそ、フロンティアの荒鷲殿」

 アラドが不敵に微笑み、シノブに右手を差し出す。

 

「荒鷲……懐かしい名だ」

 それに応えるシノブは、自身が呼ばれていた二つ名を反芻した。

 

「よろしくな、シノブ中尉」

 

「宜しくお願いします、アラド少佐」

 

「さて、ウチのメンバーだが……」

 アラドの両脇に立っていた3人が、それぞれ前に歩み出た。

 

「メッサー・イーレフェルト中尉です」

 

「チャック・マスタング少尉です」

 

「ミラージュ・ファリーナ・ジーナス少尉と申します」

 それぞれと握手を交わし終えた事を確認したアラドは、シノブを手招きした。

 

「艦長室に行くぞ」

 アラドに連れられシノブは、S.M.Sの隊服に着替えた後、エリシオンの艦長室へと向かった。

 

 数分後

 

 マクロス・エリシオンの艦長室には、シノブを始めとした5人の男女が顔を見合わせており、その中心にはマクロス・エリシオンの艦長であるアーネスト・ジョンソンが特注の椅子に腰かけている。

 

「さて、諸君。我々に新しい仲間が加わった。シノブ中尉」

 

「は。では……S.M.Sフロンティア支部から参りました。シノブ・風谷中尉で――」

 

「サジタリウスワンとは知り合い?」

 シノブの声を遮って発語したのは、何件もの訴訟を抱えてケイオスに移籍してきたアイシャ・ブランシェット特務少佐であった。

 

「サジタリウス……アルトの事ですね? 知り合いも何も、美星から一緒でしたので」

 

「同級なのね……あぁ、技術部のアイシャ・ブランシェット。元S.M.S ウロボロス支社長よ」

 ピンク色の髪をしたアイシャはずれかけた伊達眼鏡を人差し指で戻すと、ぐっとシノブに近寄った。

 

「オズマ中佐から聞いてるわ。あなた、昇進の話があるたびに蹴っているそうね。そこまで、最前線にしがみついていたいのかしら?」

 

「……俺は味方の指揮をするより、前線で獲物を狩っていた方が性に合うんですよ」

 

「ふぅん……流石、あの荒鷲ね」

 すっと身体を引いたアイシャは用意されていたスツールに腰を下ろした。

 

「コホン……シノブ中尉、まずはこれを見てくれ」

 咳払いをしたアーネストは、机上にホログラム映像を展開する。

 

 そこに映し出されたのは、シノブが着任する前に発生した惑星アル・シャハルでのワクチンライブとアンノウンの映像であった。

 

「先日、ラグナから30光年隣の惑星アル・シャハルでヴァールシンドロームが発生した。幸い、ワルキューレの鎮圧ライブによってヴァールの被害は抑えられたが、そこにアンノウンの部隊が出現し、Δ小隊と交戦した」

 アーネストの話に耳を傾けつつ、シノブはジャミングが施されていた映像を凝視する。

 

「ダブルデルタ翼に単発……形状からして新統合軍系の機体とは違いますね」

 

「S.M.Sでも試験運用はしていないんだな?」

 

「はい。S.M.Sで今現在、試験運用している機体は無いはずです。確かに、一部の部隊ではVF-31 カイロスが試験運用の後、配備され始めていますが、今でもウチの主力はVF-25です」

 

「そうか……」

 腕を組んだまま椅子の背もたれへと身体を倒したアーネストは、そのまま深い溜息をついたが、直ぐに立ち上がり、姿勢を正した。

 

「シノブ・風谷中尉。只今をもって、貴官をデルタ小隊に配属とする。コールサインはΔ5だ」

 

「はっ!」

 ピシッとした敬礼をシノブは、アーネストへと向けた。

 

 30分後

 

 昼食を食べた後、シノブはアラドと共にアイテールの格納庫に来ていた。格納庫内には、Δ小隊が使用しているVF-31 ジークフリード、VF-19E/MF カリバーンとシノブの愛機であるVF-25X メサイアが佇んでおり、その周囲を大勢の整備兵が囲んでいる。 

 

「うぉおおー!! 可変翼サイコ―!!」

 

「ジークフリードやカリバーンもいいけど、一番はやっぱこれだな」

 

「こいつのエンジン、ジークフリードと同じらしいぜ」

 

「まんま一緒なのか?」

 様々な言葉が格納庫内を舞っていた。

 

「人気ですね……」

 自身の愛機を取り巻く整備兵達の姿を見ながらシノブが呟く。

 

「まぁ、こんな辺境にはあんまり無い機体だからな。で、あのメサイアはどれぐらい改造費掛かってるんだ?」

 

「よくは聞かされてませんね。元々はL.A.Iが、YF-24ファミリー最強を掲げて製作したほぼ、ワンオフの機体ですからね」

 

「超高純度のフォールドクォーツを搭載したエンジン、40Gに耐えられる強化フレーム、常時フル稼働できるエネルギー転換装甲、等々」

 

「40Gだと!? それはもう、ほぼ基礎から作り直した、って方が正しくないか?」

 アラドが驚嘆の声を上げ、その声に反応するかのようにVF-25を見ていた整備兵達が、一斉にシノブ達の方を振り向いた。

 

「実際、Block4からBlock6、Block7と段々とアップデートやら何やらを重ねていった結果、試しに搭乗した同僚からも<これは、VF-25じゃない>と言われました」

 

「…………」

 唖然とするアラドの隣で、シノブは格納庫の天井を見上げる。

 

「これが……あの当時、あれば……」

 ボソッと呟いた言葉は、誰にも聞かれる事無く整備兵達の声に紛れ消え去った。

 

 

 




どうもセメント暮らしです。
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