マクロスΔ 漆黒の救世主   作:セメント暮し

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ACT.4

「ん……うーん……」

 ピピっ、というアラームの音で目を覚ましたシノブは、サイドテーブルに置いていた携帯を手繰り寄せ、現在の時刻を確認した。

 

「ふぁああ……」

 ベッドから立ち上がり背伸びをした。S.M.Sの隊服である紺色のTシャツにジャケット、カーゴパンツに着替え、タオルを持って下の洗面所へと降りていく。

 

 

 洗面所には既に先客がいた。デルタ小隊の電子戦を担当しているチャックである。

 

「おはようさん」

 

「おう、早えーな」

 挨拶を交わし、チャックが顔を洗い終えるまで、近くの壁に寄りかかる。

 

「そういや……フロンティアってどんな星なんだ?」

 

「いい星だよ。空気も水も綺麗でさ、正直、地球よりいい所だな」

 

「ほー……」

 洗面台が空き、顔を洗ったシノブは、外へ出る。そして、軽く身体を動かし、走り出す。

 

 波のさざめき。

 

 ウミネコの鳴き声。

 

 土産物屋の店主達の会話。

 

 様々な音が走るシノブの耳に入ってくる。

 

「は、はっ……」

 海沿いと市街地を6㎞程走り、『裸喰娘娘』の前へと戻ってきた。首に掛けていたタオルで汗を拭きとりながら、シノブは店内へと入った。

 

「ただいま」

 

「おう、お疲れさん」

 シノブを出迎えたのは、カウンターで紙の新聞を読んでいたアラドであった。

 

「おはようございます、隊長」

 アラドの脇に腰を下ろしたシノブは、コップに注いだ水を飲んだ。

 

「あぁ、美味い」

 

「へっ、フロンティアの方が美味いんじゃないのか?」

 

「どっちもどっちです。そういえば、俺のジークフリードってどうなるんです?」

 

「何がだ?」

 読み終えた新聞をカウンターに置いたアラドは、シノブの話を聞きながら水を飲む。

 

「型式ですよ。俺的には、F型が良いんですけどね」

 

「機体は在るんだが……チューンがまだでな。色はどうする?」

 チャックが運んできた定食に手をつけながらアラドが聞いた。

 

「白地に銀朱と黒で」

 

「黒一色じゃないんだな」

 

「バックダンサーやるのに、そんな色じゃダメでしょう?」

 焼き魚をつつきながらシノブが答える。

 

「意図をくみ取ってくれてありがとさん」

 

 

 4時間後

 

 オーディションを受けに来た少女と報道陣でごった返すマクロス・エリシオン内のリニアラインを乗り継ぎ、シノブはアイテールの格納庫に飛び込んだ。

 

 愛機であるVF-25Xのコックピットに入り、パイロットスーツのチャックを引き上げながら、シノブはコックピットの計器を操作する。

 

 次々と計器に明かりが点り、VF-25Xが目覚た。

 

「武装は?」

 

「25㎜にペイント弾が装填されてる。今回はそれだけだ」

 

「上等だ」

 不敵に笑うシノブの姿にメサイアの機付長となった男が身震いする。

 

 5分後

 

 カタパルトへと引き出されたVF-25Xは、機体各部――垂直尾翼や主翼の動作を確認する。

 

「主翼、垂直尾翼、ベクタードノズル、フラップ……OK」

 シノブの掛け声と共に、ジェットエンジンの超高温の排気から人や甲板上の物を護る、ジェット・ブラスト・ディフレクターが作動した。

 

「Δ2、Δ5及びβ1、発艦準備完了」

 

「Δ2……発進」

 

「Δ5、発進する」

 カタパルトが作動し、3機の機体が滑り出す。

 

 機体が甲板から離れた瞬間、スロットルを開ける。2基の熱核バーストタービンエンジンが蒼い炎を噴き上げ、VF-25Xをさらに増速させた。

 

 ラグナの空に飛行機雲を描きながら3機の可変戦闘機が飛ぶ。

 

 その飛行機雲は、ラグナに降り立ったハヤテ・インメルマンとフレイア・ヴィオンの目にも写っていた。

 

「綺麗だ……」

 

「どしたん?」

 

「見てみなよ」

 ハヤテに促され、フレイアが空を見上げた。

 

 その後、2人はオーディションの会場であるマクロス・エリシオンへと向かうのであった。

 

 

 ラグナ沖の訓練空域へと進入したシノブとメッサーは、それぞれ左右に分かれ機体をバンクさせた。

 

『制限時間は5分。先に撃墜判定を加えたほうが勝ち。で、互いに真正面から突入してから戦闘開始だ。審判はハル大尉が務める』

 

「了解」

 2機の距離は、約1㎞。オペレーターのカウントダウンの声が始まる。

 

『……2……1……始め!!』

 合図と同時に、2機の機体がすれ違う。

 

 漆黒のVF-25Xがスロットルを全開にして上空へと飛翔する。

 

 空中戦で必要なのは、常に敵より高い位置にいることだ。機体が持つ推力と位置エネルギーをフルに使える事が大事なのである。

 

 シノブは、高度8000フィートまで上昇し、太陽を背にして急降下させる。

 

 対するメッサーも、シノブの行為に感ずき、急旋回からハイレートクライムと呼ばれる急上昇を行った。

 

「それくらいできなきゃなぁ!!」

 コックピットの中で薄く笑うシノブが、突っ込んでくるVF-31Fに銃撃をする。

 

 その銃撃は全弾躱されるが、シノブはそのまま海面まで降下し、再度上昇をかけた。

 

 先程と同じようにすれ違うが、ガウォーク形態でバック宙の如く機体を回転させ、メッサー機の後ろにつく。

 

 スティックのトリガーを引き、メサイアの主翼基部から曳光弾を交えたペイント弾が発射されるが、対するメッサーはジンキングと呼ばれる上下左右小刻みに機体を動かしペイント弾の奔流を躱し続ける。

 

「跳ね回るねぇ……でも!!」

 メッサーを執拗に追い続け、遂にシノブの銃撃がメッサー機の左尾翼、左主翼に命中した。

 

 赤色のペイント弾がVF-31Fを汚す。

 

「……くっ……!!」 

 だが、対するメッサーもやられ続けている訳では無い。ベクタードノズルによって無理矢理機体の軌道を変えシノブの後方へとついた。

 

「おっ!! やるねぇ!!」

 今度はシノブのVF-25Xが銃撃に曝されるが、巧みな操縦によって全弾を回避する。

 

「……何故当たらない!!」

 次の瞬間、メッサーの視界からシノブの機体が消えた。コンマ数秒程遅れて、VF-25Xの直上をペイント弾がすれすれで飛んで行く。

 

「なっ!!」

 驚きの声を上げるメッサーに対し、シノブは普段通りの声音で終わりだ、と告げた。

 

 水平に近い角度の機体をガウォークの状態で、270度回転させたシノブはVF-31Fのコックピット直下にペイント弾を叩き込む。

 

 実戦ならば、エネルギー転換装甲をオーバーロードさせられる程の攻撃をし、勝敗が決まった。

 

『――戦闘……終了です。帰投してください』

 オペレーターの声にも若干の驚きがあり、マクロス・エリシオンの艦橋では、誰もが信じられない、という表情をしていた。

 

「……なんていう奴だ……」

 歴戦の勇士であるアラドもこの結果には驚くほかなかった。

 

 

 再び上空で3機の可変戦闘機が並んだ。シノブを先頭にV字に編隊を組みなおし、母艦であるマクロス・エリシオンへの帰路へとつく。

 

「メッサー、何故俺がガウォークになって減速した瞬間を撃たなかった? 直ぐに引き金を引けば俺を屠ること出来たんだぞ」

 オートパイロットに設定し、操縦桿から手を放したシノブは、ヘルメットのバイザーを開く。

 

「自分でも、何故直ぐに引き金を引かなかったのか分かりません……」

 

「……そうか」

 それ以上の追及をしなかったシノブは再び操縦桿とスロットルを握った。

 

「なぁ、メッサー」

 

「何でしょうか?」

 

「エリシオンに着いたら編隊着艦してみないか?」

 

「了解しました」

 返答を返す傍ら、メッサーは己の拳を強く握った。

 

 

 アイテール飛行甲板

 

 青い髪を風に揺らしながら、ハヤテ・インメルマンはミラージュの愛機であるVF-31Cの機体を見ていた。ガイやハリーといった整備士達はハヤテの事を気にせずに作業に従事している。

 

「おっ、帰ってきたな」

 ちょび髭を生やしているガイが、ジークフリードとメサイアのエンジン音を聞き、周りで作業をしている部下達に注意を促す。

 

「お前ら、気をつけろよ」

 動き回る整備士達の横で、ハヤテは着艦体制に入っている2機の機体を見上げ、片方の機体に驚いた。

 

「VF-25!?」

 綺麗に編隊着陸を決めた2機の機体が甲板上で停止する。

 

 それぞれの機体を担当する整備士が、コックピットの下の装甲板から折り畳み式のラダーを引っ張り出し、シノブとメッサーがそれを伝って降りた。

 

「上手いもんだろう。二人とも」

 ハヤテはアラドの声で振り向いた。

 

「アンタは?」

 

「デルタ小隊隊長、アラド・メルダースだ」

 差し出された手を、ハヤテは反射的に握り返した。

 

「俺は――」

 

「ハヤテ・インメルマン、だろ?」

 顔に似合わない笑顔をアラドはハヤテに向けた。

 

 いつの間にか、シノブとメッサーも己のヘルメットを持ちながらアラドとハヤテを見ている。

 

「新人か?」

 

「アル・シャハルの鎮圧ライブ時に、VF-171でヴァール化したゼントラーディとダンスの如く格闘戦をしていたそうです」

 

「新統合軍にでもいたのか……」

 

「いえ、その当時はアル・シャハル宇宙港でワークロイドの操縦士をしていたそうです」

 手元のタブレットに表示されたハヤテの個人情報を見ながらメッサーが言った。

 

「……面白そうな男だな」

 青い髪を揺らすハヤテを見ながらシノブが呟いた。

 

 彼の――ハヤテの運命が変わる瞬間であった。

 

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