マクロスΔ 漆黒の救世主   作:セメント暮し

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ACT.7

 午前中、ラグナの衛星軌道上にデフォールドしてきたはぐれゼントラーディの艦隊を撃滅したシノブは、マクロス・エリシオンの食堂で昼食を食べていた。

 

「あの連中、何処からフォールドしてきたんだ……」

 愛機から取り出した戦闘の映像を見ながら、きつねうどんを頬張るシノブの横にマクロス・エリシオンの艦長であるアーネストが座る。

 

「ご苦労だったな」

 人間が使うサイズの箸で、これまた人間用の丼を持つアーネストの姿に驚きながらもシノブは、平静を保ったままで応えた。

 

「いえ、これも任務の一環です。それにしても……こっちに来る前にも、はぐれゼントラーディの艦隊を壊滅させたんですけど、俺は呪われてるんですかね?」

 

「ガハハハッ、それは君の所為ではあるまい。志を持つことなくうろつている奴らが悪いと、ブラックレインボーで指揮を執っていた私が言えることでは無いがな」

 アーネストが威勢よく笑いながら答えた。

 

「エイジス・フォッカー大佐の事はご存知で?」

 付け合わせの小皿に盛り付けられている銀河キュウリの浅漬けをポリポリと噛みながらシノブが質問する。

 

「あぁ、もちろん知っているとも。彼の指揮するVF-Xレイヴンズを壊滅寸前に追い込んだのは、私が指揮した部隊だ」

 玄米茶の入った湯飲みを持ちながら、アーネストの話を真剣なまなざしで聞くシノブは、新統合軍随一の特殊部隊であるVF-X レイヴンズを壊滅させかけた話に驚きを隠せなかった。

 

「まあ、結局は負けてしまったが、当時の新統合軍の提督に部下ともども生き延びさせてもらったから、私は今でもこうして軍服に袖を通しているわけだ」

 語り終えたアーネストは、食べ終えたどんぶりをお盆に乗せる。そして今度は、味噌汁の入ったお椀を持ち上げ、口元へと運び、一口すすった。

 

「フォッカー大佐には、私もいくらかお世話になりました。そして、S.M.Sでの上官の先輩でもあった人ですからね」

 

「ほぅ……オズマ・リー中佐か?」

 

「ええ。っと、急いだ方いいか。では、俺はこれで」

 手を合わせ、ごちそうさま、と言ったシノブはお盆を持ち上げ、食器の返却口へ行き、返却した後に、アイテールのワルキューレ・ワークスへと向かうのであった。

 

 

 5分後

 

 アイテールの格納庫の中に併設されているワルキューレ・ワークスはデルタ小隊が扱うVF-31 ジークフリードの改修を行う部署である。

 

 その部屋の中には、マキナとレイナしか居らず、備え付けのソファーで寛いでいた。

 

「シノシノ遅いね~」

 

「あんな男……どうでもいい。私はマキナだけいれば充分」

 

「レイレイ、そんなこと言っちゃダメだよ。シノシノだって仲間なんだからね?」

 

「マキナ、ごめん」

 素直に謝るレイナを諭すマキナは母親のように優しく、大人であった。

 

「悪い、遅れたか?」

 そのマキナは、息を切らしながら部屋に入ってきたシノブに振り向き、幼子のような笑みを浮かべるのであった。一方のレイナは、シノブに対して訝しい視線を向け続ける。

 

「ううん、大丈夫だよ~」

 

「ちょっと、アーネスト艦長と話し込んでて……それで、俺のジークフリードは?」

 はいはーい、と目の前のVF-31に駆け寄るマキナの後ろ姿を見ながら、シノブもその後に続き、ジークフリードの機首の目の前に立つ。

 

「これが……VF-31F ジークフリード シノブスペシャル!!」

 えへん、とその豊かな胸を強調しながら意気揚々とマキナは説明を始めた。

 

「この子は、シノシノの機動力を活かした戦いが出来るように、他のジクフリちゃんよりエンジンの推力が10パーセント高くチューンしてあるんだ~。もちろん、それに合わせて機体の構造も強化してるから思いっきり振り回しても問題ないよ~」

 

「さらにさらに~」

 含みを持たせた説明をするマキナは、ラダーを上りジークフリードの起動シークエンスを開始する。シノブも、ラダーを何段か上り、機体のカラーリングがよく見える体勢をとった。

 

 機体が、それまでのグレー一色から、白地に銀朱――ヴァーミリオンのラインにアクセントとして黒が加えられたカラーリングに変化し、その機体の上部中心には、獰猛な鷲の横顔のパーソナルマークが描かれていた。

 

「この……マークは……」

 久しく表示していなかったマークを見て、シノブの言葉が途切れ途切れになる。

 

「ふっふーん!! トルメサちゃんのAIが覚えてたマークを復元したんだよ~」

 

「マキナ、ありがとう……」

 ラダーから降り、床に立ったシノブは、古くからの日本の文化であるお辞儀をする。統合戦争によって地球上から日本という国が無くなって早67年余り、それまであった日本という名前が消えても、日本人が遺した文化は消えることなく、地球から遠く離れた宇宙の端っこで受け継がれていた。

 

「いいよ~、そんな深いお辞儀しなくても……私たちは、貴方達を思いっきり飛ばさせてあげたい。だから……その代わりに……この子で、私やレイレイ、カナカナやクモクモ……そして、フレフレを守って欲しいの」

 ぎゅっと、手を組むマキナの姿を見つめ、口では言い表せない何かを感じるシノブ、そのシノブに何故か苛立つレイナ、レイナの事を気にかけながらもシノブの事が気になって仕方ないマキナ。

 

 三者三様の思いを抱く3人の間に、トライアングルが出現する。

 

「分かった……確約する。必ず、ワルキューレを……護る。だから、力を貸してくれ」

 新たな約束を心に書き留め、シノブは右手を上に伸ばし、何かを掴むように拳を握った。

 

 

 シノブがワルキューレ・ワークスで、マキナやレイナに誓いを立てていた頃、ラグナ沖の空では、新人であるハヤテ・インメルマンとその教官役を仰せつかっているミラージュ・ファリーナ・ジーナスが、基礎的な飛行訓練をしていた。

 

「また失速?」

 速度が乗らないまま、機体を減速させたハヤテがストール状態に陥り、重力に引かれて落下していく。

 

 無論、そんな状態が長く続く訳が無く、AIが直ぐに機体を正常な状態へと復帰させる。

 

「AIのサポートが邪魔で、思うように動かせないんだよ!!」

 VF-1EXのコックピットの中で憤るハヤテにミラージュは、呆れていた。

 

「あなたが、思い通りに動かしたら即墜落です」

 

「何っ!?」

 

「……あっそ」

 ため息を吐いたミラージュは、ハヤテの飛行をサポートするAIをカットした。

 

 AIがカットされた瞬間から、ハヤテの機体が揚力を失い暴れだす。

 

「うわぁあああ!?」

 ハヤテの絶叫がラグナの青空に響き渡る。

 

「戦闘機は機動性を上げるため、わざと安定性を負にしているんです!!」

 

「まったく……身の程知らずが……」

 この日、既に10数回目のため息を吐いたミラージュは、落下していく青いVF-1EXを忌々し気な目で見つめるのであった。

 

 

「Δ5より、ブリッジへ。これより、試験飛行を行う。発艦許可を」

 

『こちら、ブリッジ、了解。発艦よろし』

 VF-31Fの前脚がカタパルトに接続される。

 

「風谷シノブ……出るぞ!!」

 一瞬の間を置き、カタパルトが作動する。8.6トン近い重量を持つVF-31Fが、アイテールの甲板から射出され、その翼が大気を切り裂きながら飛翔した。

 

 発艦早々、8ポイントロールと呼ばれる45度の静止を8回行うマニューバをいとも簡単にやってみせる。

 

『Δ5、チェイサーはどうします?』

 

「こちら、Δ5。海上で飛行訓練をしているΔ4とハヤテ候補生にやらせる」

 

『了解』

 オペレーターとの通信を終えると、シノブはジークフリードのスロットルを開け放つ。

 

 たちまち、VF-31Fが超音速の壁を突破し、一筋の矢となって海上へと消え去った。

 

 

 数分で海上の訓練空域に進入したシノブは、無線でミラージュとハヤテに指示を出した。

 

「Δ4、及びハヤテ候補生。飛行訓練中に申し訳ないが、俺の後方、左右それぞれについてくれ」

 

「そのVF-31はシノブ中尉の機体ですか?」

 ミラージュの質問に、そうだ、と答える代わりにシノブは軽くバンクを振って見せる。

 

「右の水平旋回、バレルロールをやる。Δ4は追従。ハヤテ准尉は、俺の機体の動きをよく見ろ」

 

「了解しました」

 

「……了解」

 気怠そうに答えたハヤテのVF-1EXを一瞥したシノブ。

 

「Δ4、カウント3で行く。いいな?」

 

「いつでもいけます」

 シノブのカウントが始まり、GOの合図と共に、2機の機体が500ノットで右水平旋回を行う。

 

 VF-31FとVF-1EXが右に瞬間的に傾くと、あっと言う間に腹を見せてたちまち小さくなる。

 

「旋回終了。次、バレルロール」

 水平飛行に戻ったシノブとミラージュの機体は、次にバレルロールを行った。

 

 見えない巨人の手によって放り上げられたかのように、2機の戦闘機は上向きに吹っ飛んで消え、太陽の中でクルクルと機体を軸回りに回転させる。

 

 そして、ハヤテの半マイル前方と半マイル右方の位置にふわっ、と舞い降り、水平に止まった。

 

「バレルロール終了。試験飛行は終わりだ。何かしたいことがあるなら付き合ってやるぞ」

 

「……模擬戦をしてくれ」

 口を開いたのはハヤテであった。

 

「ヒヨッコ以下の卵野郎にそんなお願いされるとはね……」

 

「誰が卵野郎だっ!!」

 侮辱されたハヤテから罵声が飛ぶが、そんなことはお構いなしに、シノブは一瞬でハヤテの後方につき、25㎜レールマシンガンでロックオンした。

 

「なっ!!」

 シノブの鮮やかな技術に見惚れると同時にハヤテは卑怯だと感じた。だが、その考えは後に行われるミラージュとの最終試験で木っ端微塵に砕かれるのだが、そんなことをハヤテはまだ知らない。

 




どうもセメント暮らしです。
遂に主人公が搭乗するVF-31Fが現れました!!
案外普通の仕様なのは、この後に出てくるライバル機の仕様がVF-25X並みにおかしいからです。
感想や質問待ってます!!
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