ハヤテの最終試験から5日後、チャック達家族が経営する飲食店船『裸久娘娘』では、フレイアとハヤテ、シノブのデビューを祝う大歓迎会が行われようとしていた。
アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ小隊のメンバーからワルキューレ、更には、普段表に出てこない裏方衆、ラボで何やら怪しげな研究をしているアイシャ等々、ケイオス・ラグナ支部で働く人間がお世辞にも広くない『裸久娘娘』のフロアに集まっている。
『ワルキューレの新星、フレイア・ヴィオン!! そのデビューステージが明日、惑星ランドールでのワクチンライブと大決定!!』
銀河ネットワークのアナウンサーが興奮冷めやらぬ勢いで言った。
皆それぞれの手に、ジョッキやグラス、タンブラー、コップを持ち、乾杯の音頭を今か今かと待っている。
「あー、思い起こせばワルキューレ結成を依頼されてから――」
「と言うわけで~」
「フレフレとハヤハヤ、シノシノのデビューをお祝いして~」
「「乾杯!!」」
アーネストの長ったらしい前口上を防ぐ形でマキナとニナが前に躍り出る。そして、そのまま乾杯まで繋げた。
「ようこそケイオスへ~」
フロアのあちこちからグラスを互いに打ち付ける音が響いてくる。
「フレイア・ヴィオン、命がけで頑張ります!!」
大仰な敬礼をするフレイアを見ながらハヤテは大げさ、と呟いた。
「ではではー、期待のルーキーとベテランからも一言!!」
隣に控えていたチャックがハヤテとシノブの肩を抱きながら言う。
「はぁ!?」
「聞いてないぞ?」
「いいからいいから、遠慮せずにビシッとかましたれ!!」
「メサイアとジークフリードの整備してやんねぇーぞー!!」
二人は揃って抗議の声を上げるが、外野からのヤジがシノブの心に火をつけた。
「シノブ・風谷だ。Δ5をやらせてもらってる。それと……今ヤジを飛ばしたイングは後で一緒にフライトな」
機付き長であるイングに笑えない冗談を飛ばしながらシノブはジョッキに注がれたビールを呷った。
「ハヤテ・インメルマン。やれるとこまでやってやる!!」
立派に言い終えたハヤテも並々に注がれたオレンジジュースをグイっと飲んだ。
歓迎会は更に盛り上がりを見せた。
そんな中、フレイアは神妙な面持ちで言った。
「ワ、ワクチンライブか……」
「ランドール自治政府からの要請。最近ヴァールの発生危険率が上がってきたからって」
「でも、そもそもなんでライブなんだ? 録音して放送とかじゃダメなのかよ?」
マキナの説明にハヤテが質問する。
「私たちが歌うと生体フォールド波っていうのが発生するの。で、それがヴァールに効くんだけど、録音したりデータ化したりすると効力激減」
「「へぇ~」」
ハヤテとフレイアの二人が揃って相槌を打った。
「確かに……8年前もシェリルとランカがバジュラ達に心を伝える為にアイランド1のステージで生歌を熱唱してたな」
レイナの横に座ってハイボールを飲んでいたシノブが思い出しながら語る。
「やっぱり、生が一番」
生きているクラゲを箸で掴み、口に運んだハッカーの歌姫が幸せそうな表情を零した。
「……って、シノブさん……シェリル・ノームとランカ・リーに会ったことあるんですか!?」
威勢よく立ち上がったフレイアがシノブに熱い視線を向ける。
「ああ。ランカはデビューする前から仲良かったし、シェリルの方は戦役中にSPやらされて、そっから親しくなったっけな」
カランカランと空になったグラスの中の氷を遊ばせながらシノブは言った。
「もしかして、シノブさんって凄い人?」
「いや、もっとスゴイ奴いるよ」
フレイアの言葉を否定したシノブは、含みを持たせた回答をして、グラスを持ったまま立ち上がり、席を離れるのであった。
「……誰なんやろ?」
顎に手を当て考え込んだフレイアを横目に、ハヤテはシノブの姿を目で追う。
「ねぇ!! ハヤテたちも歌うの?」
チャックの一番下の妹であるエリザベスが口元にソースを付けながら言った。ハヤテはソースを指で拭ってやりながら答える。
「いや、俺とシノブはエアショーをするんだと」
「例のアンノウンが現れる可能性もあります。気を抜かず私の指示に従うように!!」
「ほいなほいな」
「あー!! それもしかしてわたしの真似!?」
「……さぁね~」
フレイアとハヤテの掛け合いを見ながらミラージュは何故か目を逸らすのであった。
翌日
『アイテール、分離。重力制御、異常なし』
『フォールドエネルギー、順次コンデンサより解放』
『恒星間航行モード、始動』
ラグナの空が茜色に染まり始めた頃、ワルキューレとデルタ小隊を乗せた『アイテール』が惑星ランドールへと向けて飛び立っていった。
アイテール艦内の士官室では、隊長であるアラドとメッサー、シノブ、そして、ワルキューレのリーダーであるカナメがライブ前のミーティングをしている。
「ペアはいつも通りで、アクロバットの演目に変更は無し。で、万が一この間の〈ファブニル〉が現れた場合はそれぞれの判断で攻撃してくれてかまわん」
バレッタクラゲのするめを齧りながらアラドは言う。
「「了解」」
シノブとメッサ―がそれぞれ返事をした。
「カナメさん、他に何かありますか?」
「いえ、特にないです」
ミーティングが終了し、それぞれが準備へと入った。既に、フォールドから25分以上経過しており、あと少しで惑星ランドールの軌道上に着く予定である。
ミーティングを終え、長年愛用しているS.M.Sのパイロットスーツに身を包んだシノブは、自身の愛機であるVF-31Fのコックピットで発艦までの時間をタブレットで潰しはじめた。
ディスプレイには、L.A.IとS.M.Sに調査を依頼していた〈ファブニル〉の詳しい情報が写されている。既に、このデータはケイオス本部にも提出されており、アーネストやアラドもこの資料に目を通している。
「ギャラクシーの生き残りとはね……」
膨大な量のデータを流し読みしながら的確に情報を得るのはシノブの特技でもある。
『ランドール軌道上にデフォールド完了。デルタ小隊、及びシャトル、順次発艦してください』
オペレーターの声がヘルメットに搭載されたスピーカーから流れ、整備士達がエアロックに退避していく。
「Δ5よりΔ1へ。先に出ます」
アイテールの飛行甲板には5基のカタパルトしか設置されていない。そのため、誰かが先に離陸しなければいけないのである。
『おう』
アラドが気さくに返した。
「Δ5、発艦する」
浮かび上がる機体の周囲に黄色のガイドラインが現れ、機体を虚空へと打ち出した。
直ぐに、シノブ以外のジークフリードが射出され、ワルキューレが搭乗するシャトルを四方から囲む形で編隊を組み、ランドールの大気圏に突入する。
デルタ小隊によって護衛されているシャトルの中ではワルキューレの5人が向かいあい、それぞれが口上を述べていた。
「銀河のために」
「誰かのために」
「今、私たち」
「瞬間、完全燃焼」
「命がけで、楽しんじゃえ!」
5人の歌姫が、手を重ねる。
彼女たちのルーティンである。
「GO!! ワルキューレ!!」
ランドール宇宙港に設けられた特設ステージには、十万人を超える人々が集まっており、ワルキューレのライブ開始を今か今かと待ち望んでいる。
その人々に応えるかのように、ステージ上空に6機のVF-31が進入し、色とりどりのスモークを噴出させ、ステージの空を彩る。
そして、歌姫たちがスカイダイビングの要領で降下していく。が、フレイアただ一人はシャトルのドアで動きを停めていた。
「飛べば飛べる。飛べば飛べる。飛べば飛べる――――ゴリゴリ~~!!」
謎の言葉と共に、意を決したフレイアは飛び出す。降りる先には大勢のファンの人々とワルキューレの先輩たち。
着地を失敗しながらも見事ステージに降り立ったフレイアを待っていたのは、割れんばかりの大歓声であった。
司会も務めるカナメがフレイアを紹介し、早速ライブが始まった。
「……」
背面飛行をしながら、マルチドローンプレートであるシグナスを全機射出したシノブは、ワルキューレの歌に合わせてすぐさま次の演目に突入していった。
そんな中、ハヤテが編隊を乱し、ワルキューレのダンスに合わせてバトロイドの形態で踊りだした。ミラージュが怒りを露にするが、アラドやシノブは青と臙脂のVF-31が離脱した穴を埋めながらアクロバットを継続する。
「ヴァール発生率48パーセントに低下」
「フレイア、フォールドレセプターノンアクティブ」
カナメとレイナの声が無線を通じてシノブの耳へと入った。
『アイテールより、デルタ1へ!』
「?」
ニナからの通信にアラドは首を傾げるが、次の言葉でアラドの顔はライブのバックダンサーから歴戦の戦闘機乗りの顔になる。
『アンノウン、衛星軌道上に出現。大気圏に突入していきます』
「奴らか!!』
デルタの全員が遥か上空を見上げた。
機体を紅く染めながら7機のアンノウン――Sv-262ドラケンⅢがランドールの上空に現れた。
戦いの火蓋は切って落とされた。
どうもセメント暮らしです。
CHARAT様で作成したシノブのアバターを公開しました。
是非ともご覧ください。
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