弾と一夏の過去。
千冬がやってきてから半年、黒葉はIS学園に来ていた。あれから試験を受けるための勉強を重ね、一か月前に合格の通知が来たのだ。
無論、彼が通っていた中学校から起動させたというデータは送られており、実技試験で使用した打鉄を再び起動させた事で解決している。
教室へ入ると同時に突き刺さる女性からの視線、九割が女性なのだから仕方ないが、これは応える。
その中で一人だけ、こちらに向ける視線の中に明らかに違う相手がいた。そう、篠ノ之箒である。
「?まさか・・・な」
黒葉は彼女に何か感じるものがあった。強いて言えば同族を見つけた時の種族のようなものだ。他にもう一人からの視線があったが気づかず、しばらくして指定された席に座り、時間まで本を開いた。
内容はギターのコードの読み方だ。弾き方は教わっているが、コードを読むのがあまり得意ではないために本を読んでいるのだ。
メンバーを集めた人間いわく、俺達はプロデビューするぞ!と宣言してきたゆえにだ。
しばらくすると教室の教卓側の扉が開き、誰かが入ってくる。教師のようだが年上のお姉さんといった印象で男の目から見ても豊満なバストが目についてしまい、スタイルも良い。
「今日からみなさんの副担任になります。山田真耶です!よろしくお願いしますね」
挨拶はされるが生徒達はなんに返事もしない、それに耐え兼ねた真耶は自己紹介を始めるよう言い始めた。
出席番号順であるために次々と自己紹介がされていき、とうとう世界初の男性操縦者である織斑一夏の番になった。
「えっと・・・織斑一夏です。以上です」
自己紹介の仕方に全員がズッコケかけたが、それと同時にスパーンと小気味よい音が聞こえた。
「げえっ!関羽!」
「誰が三国志の英雄だ、馬鹿者」
彼の姉である織斑千冬であった。黒葉は彼女が現れたことよりも出席簿が何で出来ているのかが知りたくなっていた。
「葉くん、黒葉くん!自己紹介をお願いします」
「え?ああ、はい」
どうやら自分の番がいつの間にか回ってきていたようだ。
「黒葉将宗です。何故かISを起動できてしまったのでこの学園に入学してきました。趣味は音楽、バンドを組んでギターをやってます。よろしくお願いします」
クラスメート達は拍手しながら将宗を受け入れた様子だ。バンドをやっているという点も好印象だったのだろう。
◇
自己紹介が終わり、黒葉は一夏に話しかけられた。女性だらけの環境ゆえに話せる相手が欲しいのだろう。
「よう」
「確か、織斑一夏だったな?とある奴から聞いてる」
「奴?」
「ああ、バンド仲間の弾って奴からな」
「っ・・・!?そ、そうか・・」
弾の名前を出した瞬間に一夏の顔がほんの少し引きつった。彼と何か良くない出来事があったのだろう。
「まぁ、お互いに馴染めるようにしよう」
「そうだな!」
話していると一人の少女が話しかけてきた。その相手は篠ノ之箒である。
「ほ、箒?」
「ああ、そうだ一夏。すまないが今は黒葉将宗に用がある。二人きりにさせて欲しい」
「え、あ、ちょっと!」
箒は将宗と共に屋上へと向かい、話を始めた。もちろん恋愛などではなくライディーンに関することだ。
「何故、お前がここにいる?ライディーンクロウ」
「自己紹介で言った通りだ。まさか目覚めているとはな?ライディーンイーグル」
「ああ、完全ではないがライディーンとしての記憶も蘇っている」
黒葉は箒に自分の考えを話す事にした。それは今の彼女にとっては辛い事だと自覚しながらも話さなければならない。
「俺の考えを言おう。ISは予測だがゴッドライディーンを模倣して作られている可能性が高い」
「!なんだと!では、姉さんは!?」
「推測だけど、超魔に乗っ取られているかのしれない」
「そうか・・・今は戻るとしよう時間が無い」
「ああ」
◇
二人が話している間、一夏は友人であった弾の事を思い出していた。
「弾・・・」
あの日、IS学園に入学が決まった時、食堂へ食事に行った時だった。
「こんにちはー、ってあれ?」
「よう、坊主。注文はなんだ?」
「厳さん、弾いますか?」
「居るが刺激するなよ・・・」
巌がそう言った瞬間、奥からはものすごい音が響いた。奥で誰かが何かを叫んでいるようで口論している。
「お兄!聞いてるの!?」
「・・・いい加減にしろ。なぜ俺がお前の私物を買わないといけないんだ?」
「いいじゃない!可愛い妹の頼みぐらい聞いてよ!」
「いつまでも同じ言い方が通用すると思うなよ?蘭・・・お前は今の時代の被害者になった男の事を考えたことがあるのか?」
「そ、それは・・・!」
蘭には思い当たる節があった。自分が欲しいと思った女物のコスメを買ってきてくれるよう頼んだが、彼は別の女性がやった万引きの犯人にされそうになったり、エレベーターでの定員ギリギリの密室で痴漢の扱いなどを受けてしまったのだ。
「女物は自分で買いにいけ、俺にやらせようとするな。それに要件がそれなら出て行け」
「あ・・・」
初めて見る兄の冷たい視線に蘭は部屋から飛び出してしまい、一夏の事に気づかず走っていく。
「蘭ちゃん?おい、弾!?何があったんだよ?」
「一夏か、今日は飯でも食いに来たのか?」
「ああ、それとIS学園の入学が決まったからさ」
「そうか、世界初だものな」
弾の態度が冷たく感じる。以前はこんなに冷たくなく明るい奴だったのに何があったんだ?
「それより弾、蘭ちゃんと何があったんだよ?泣きながら走って行ったんだぞ?」
「そうか」
「そうかって・・・お前、妹じゃないかよ!?」
強く迫るが弾の表情に変化はない。むしろ何事もないかのような振る舞いに一夏は苛立った。
「兄妹喧嘩くらいするだろう?それで話はおしまいだ」
「おしまいじゃねえよ!なんで追いかけないんだよ!?大切じゃないのか!?」
「女尊男卑の現代に染まった奴は嫌いなんだよ。それが例え実の妹でもな」
「お前!」
一夏は弾の胸倉を掴み、押し倒して殴り飛ばそうとしたが、逆に手首を押さえ込まれひね上げられた。
「いててててて!」
「いつから他の家族に干渉するようになったんだ?これは俺と蘭の問題だ、お前は関係ないだろ?」
しばらく捻ったあと、すぐに手首を話し一夏を自由にする。その目には怒りしか宿っていない。
「俺が関係ないだと、俺はただ!」
「お前もいい加減にしてくれよ?お前が出しゃばって、どれだけ後先を考えていなかったのか自覚しろよ。お前が解決した事は裏で処理してくれていた人がいるんだぞ?」
「なんだよ、それ・・・」
「この際だから言っておいてやる。お前は自分がどれだけ恵まれていて、守られているのかを考えろ。お前の姉さんである千冬さんやその友人関係もな。俺はしがない一般人であり、お前はIS学園という今の時代で最高峰の場所に行ける事もな」
「弾・・・」
「飯を食ったら帰ってくれ、もうお前とは顔を合わせたくない」
そういって弾は部屋から一夏を追い出してしまった。誰にも会わないという意思が伝わってくるかのように。
「おい、弾!あれ?」
一夏は扉を開けたが、弾は既に部屋には居なかった。窓が開いており、そこから飛び降りたのかとも思ったがそんな形跡もない。
「いない?」
「・・・・俺は女尊男卑を許さない」
弾は鋼鉄の翼を背中から出して空にいた。浮かび上がるゴッドフェザーの紋様が彼がライディーンである事を示している。
「俺の今の仲間は将宗達だ。全ての女が女尊男卑じゃないっていうのは分かっている。それでも許さない」
飛んでいる最中、超魔の気配を感じ取り弾はそこへ向かう。
『すべてをぶっ壊す!』
「助けて、誰か助けて!」
「っ!超者!降ぉぉ臨!!」
ゴッドフェザーを出現させ、服が弾け飛び、弾の身体に太陽のプロミネンスを思わせる光が包まれていく。
「うおおおおおお!うああああああっ!!」
不死鳥の名を持つ、ライディーンフェニックスに変化し、そのまま超魔を殴りつけた。
『ぐげえ!?誰だ!?って!ライディーンか』
「俺が相手をしてやる、ちょうどイライラしてたんでな!」
『バカが!』
超魔はフェニックスを掴むと強く握り始めた。それはまるでアルミ缶を握りつぶすかのように。
「ぐあああああ!」
『このまま握り殺してやる!』
「ぐ、ううう!フェニックス、プロミネンス!!」
全身を太陽と同等にまで熱気を上げ、超魔の手を火傷させた。その熱さで脱出するとすぐに反撃に出る。
「フェニックスソーサー!」
炎のブーメランを投げつけ、超魔の体毛を焼くことで怯ませる。だが、超魔は己の爪を伸ばし、フェニックスに攻撃を仕掛ける。
『があああ!調子に乗るなぁ!』
「っ!俺のビートで燃えて眠れ!フェニックスジャベリン!!」
自分のベースを両刃の槍に変化させ、それを受け返しては反撃するが効果のある一撃にはならず、牽制にしかならない。
『もらったぁ!』
「ぐはああ!?」
フェニックスは地面に叩きつけられ、身体が衝撃で動けなくなってしまう。
「ぐ・・・う」
『ライディーンでも雑魚だな!死ねえ!』
「!!俺はやられる訳には!」
己を奮い立たせ、立ち上がると超魔の爪を受け止めた。だが、圧倒的に力が強く支えているのがやっとだ。
「フェニックス、プロミネンス!!」
再び自分自身を太陽と同等の熱さに変える技を使い、超魔の腕から脱出し空へと飛び上がる。
「ゴッドバード!チェェェンジ!」
フェニックスは己の名を示す不死鳥のような姿になり、炎を纏った鳥となって超魔へ突撃していく。
『がああああああ!?』
心臓が貫かれ、更には全身が内側から燃え始め、超魔を消滅させた。バード形態を解除するとフェニックスは瓦礫を退かし、その中にいた少女を救出した。
その少女は自分の妹である蘭であった。傷だらけで気を失っており、呼吸も弱々しい。
「フェニックスヒーリング・・・」
彼女を安全な場所に運ぶとフェニックスは蘭に自分の手のひらをかざし、全身を輝かせる。これがフェニックスの本当の力、傷や病気を癒すヒーリング能力である。
その光に包まれた蘭の全身の傷が消えるように癒えてゆく。全身の傷が無くなると同時にフェニックスは空へと向かっていった。
「俺も、甘いな」
フェニックスが飛んでいったと同時に蘭が目を覚ます。布か何かをかけられており、更に自分の身体に対して違和感を覚えた。
「傷が・・・無い!?それに前にケガした物も全部?」
僅かに見えたのはフェニックスらしきシルエットだけであり、声すらも聞けなかった。
「あれって、天使様だったのかな?」
蘭は帰路へと向かい、天使に傷を癒してもらった事を嬉しく思い、走っていくのであった。
この世界では弾が一夏と袂をわかっています。
蘭ちゃんとは仲直りの予定ですがしばらくはしません。
次回、青き雫の天使