「ただいま戻りました……?」
「あっ、ロキシーお帰りなさい」
「これは……?」
ロキシーが驚くのも無理はない。
仕事を終えて家に帰って来てみれば、家族が庭で泥沼に足を突っ込んでいたのだから。
「冷やし泥沼を始めてみました」
「沈んでいったりしないのですか?」
「深さが浅くなるように調整してありますので」
そもそも皆泥沼の縁に座っているので沈む事はないだろう。
皆泥沼に足を浸けるだけでなく、腕や顔に泥を塗ったりもしている。
「それほど冷たくて気持ちがいいのですか?」
「もちろんです。ついでですが、美肌効果があるかもしれないので試しているのです」
美肌の部分にロキシーがピクリと反応したのを、俺は見逃さなかった。
先生も女の子なのだ。
旦那の目の前で綺麗になろうとする嫁をいとおしく思わないはずがない。
「ささ、ロキシーも早く荷物を置いてきてください。そうしないと泥まみれの手で抱きしめてしまいそうです」
「え? は、はい!」
●
「これはなんとも、気持ちいいですね……」
「でしょう?」
ロキシーにも気に入ってもらえたようでよかった。
まあ、リリどころかララが気に入ってる時点でロキシーが気に入らないはずはないと思ってはいた。
女性陣は泥が髪に付かないように結い上げている。
エリスは久々だけど、シルフィが髪を結んでるのなんて初めて見たかもしれない。
拝んでおかねば。
「もう、ルディったら何してるの?」
「今年の夏も家族皆で乗り切れますように、って思ってたんだ」
「そっか……そうだね」
期間は短いし日本のように鬱陶しくはないけれど、シャリーアにも夏はある。
庭に水でも撒いたりしていれば乗り切れる程度ではあるけれど、あくまで俺の主観だ。
皆にとっては十分面倒な季節だろう。
雨が少ないと困る人も多いだろうし。
しかし作った自分で言うのもなんだが、実にさわり心地の良い泥だ。
魔術を使わずに綺麗な泥団子を作りたくなってくるな。
子供と泥の組み合わせと来たら泥団子。
……シルフィが嫌がったりするかな。
「……パパ見て」
「んー?」
ララの手には綺麗な球体を描いた泥団子が乗っていた。
清々しい程のドヤ顔で、フフンと鼻を鳴らしている。
「ララが作ったのか?」
「リリが作った」
まあリリが泥団子作りに夢中になっているのは見えてたけどな。
そんな事は関係ないから褒めろと、ララの顔に書いてある。
「ララが自分で作ったらよかったんだけどなあ」
「むう」
手にもった泥団子を沼の中にポチャンと捨てると、それを見ていたリリが「あー」と悲しそうな声を上げていた。
どう見ても力作だったもんな。
ララを叱るべきかと思ったが、ララもリリも自分の新しい泥団子を作り始めていた。
それどころか、ルーシー、ジーク。アルスにクリスも泥団子を作り出していた。
俺なんかにそんな褒められたいかね。
この後きっと我先に自分を褒めろと、子供達が俺の元に飛び込んでくるのか。
……かなり嬉しいな。
「よーし。一番綺麗な泥団子が出来た子はパパが空の旅に連れていってあげよう」
『ホント!?』
「お、おう」
声がハモった。
よく見たら大人げない人が三人ほど泥団子作りに参加してませんかね。
ご飯の準備に取りかかったりした方がいいんじゃないんですかねシルフィさんや。
●
元は子供の勝負だもの、一度妨害工作が起きれば止まらない。
気がつけば泥団子が宙を飛び交っていた。
結局一人づつ抱えながら土槍ジャンプで空を飛び、重力を弱めてゆっくり降りてくる空の小旅行で妥協してもらった。
抱き締めかたの一番人気はもちろんお姫様抱っこ。
カッコいいパパを演じるのも大変だぜ。
ちなみに泥団子は庭に飾り台を作って全員分並べておいた。
図工の作品発表みたいで、なんだか懐かしい。
こういう時間はもっと増やしていこう。