庭先で。
舞う二人は茶色と赤色。
ふわりふわりと泳ぎ、時折キリリと止まる。
夫婦────ではなく、父と末娘。
「ダンスの練習がしたい」というお願いを「パパが踊れたのなんて子供の頃だよ?」といなす事はなく「勿論いいよ」と了承はしたものの。
父を元気に振り回す姿は母親譲りのようで。
「……やっぱ俺、あんまり覚えてないな。こんなんじゃ練習にならないだろ?」
「ううん、大丈夫。パパと踊るのとっても楽しいもん!」
「……そっか」
末娘の言葉は嬉しいけれど、ダンスの練習をするって事は舞踏会で勿論お相手がいるわけで。
本番では例の王子様と手を繋いで踊っちゃうんだよなあ、分かってるんだけどなんか嫌だなあ、と父親の顔にはしっかり書いてある。
アンタだって子供の頃に将来の嫁さんとダンスを踊ったでしょーに。
「でもパパってママのダンスの先生もやってたんだよね? 私のダンス大丈夫?」
「俺は手伝いをしただけだよ…………。クリスのダンスはパパから見ても完璧だと思う」
「ホント!?」
「ああ、本当だとも」
お姫様をおだてるための言葉でも、子を褒めちぎる言葉でもなく、王国の要人として実はダンスを踊る機会があったりする男性として、評価をした。
ここでベタ褒めしても次女に言われた「パパの褒め方、嘘っぽいよ」という言葉を思い出して涙が出てくるからだろう。
父親とは報われない生き物である。
●
選手交代が行われていた。
反抗期をとうに通りすぎた長女が二人を見つけて「せっかくだからボクもパパと踊ってみようかな」と言い「お前には旦那様がいるでしょーが」と切り返すも「僕も是非叔父様に教えてもらいたいのですが」と言われ、娘夫婦と代わる代わる踊る大旦那。
そしていつの間にか連行されてきたおとぼけ青髪姉妹まで踊る始末。
「ララはこういうのやらないと思ってたわ」
「……最近のルー姉は白ママが怒った時みたいな雰囲気を出してくる」
「…………アイツも母親になってる、って事か」
気がつけば赤い息子も自分の嫁と踊っている────割には、視線が父親の方へ向いたりもしている。
年をとってからこそ、父親と話したくなるもんさ。
緑の息子は「パパ、僕と踊ってください!」と実に男らしい。
俺に男踊る趣味はないぞ、といいつつも親父の顔はすっかり緩んでいた。
ついでに下半身の筋肉も緩んでいたので、怪力息子に文字通り振り回された。
気分はジャイアントスイング。
フィニッシュと共に父親の体は間違いなく宙を舞い、お星さまになるだろう。
重力を操り羽根の様に華麗に着地するだろうが。
かくしてその時はきた。
フィニッシュの急制動に耐えきれず、親父の体が宙を舞う────事はなく、息子に抱き付く形になった。
それは一瞬で剥ぎ取られる。
たった今、散歩から帰って来た視界を埋め尽くす赤い色に、誰も見えない速度で。
「何よ、皆してルーデウスをイジめてるの?」
●
「ジークったら酷いんだ。俺はもう足腰立たないって言ってるのにやめてくれなくて」
「パパ絶対そんな事言ってなかったよね!?」
ルーシーとクライブ君はまだ悪ノリの範疇さ。
ララとリリは折角の機会だからと一緒におもちゃにされただけ……だと思う。
違ったらパパは嬉しいけど!
アルスはチャンスを逃して逆に正解だ。ジークみたいにこの後いい年こいて尻を叩かれなくて済むだろうから。
……いや。久々に腕を見てあげる、とかエリスが言い出して二人まとめてメッタメタのギッタギタにされるかもしれない。
助けてくれなかったし、仕方ないね!
「……パパ本当はママと踊りたいって言ってたよ」
「……本当に?」
「本当に」
クリスったら悪い笑顔で余計な事を言うようになってしまったのだわ。
フィリップ様は草葉の陰で微笑んでるかもしれないけれど、パパとしては悲しい限りなのだわ。
アスラで生きてくって大変な事なの……。
ルーシーがいつの間にか足に触れている。
治癒魔術でなんとかなる疲労じゃねーぞ。
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速度が違い過ぎる、事もなく。
リズムがズレ過ぎる事もなく。
子供達をお客に据えて二人だけの舞踏会が始まった。
演奏はない。
曲は二人の思い出の中にだけある。
相変わらずの適当なステップに剣術の稽古を合わせた感覚。
子供達が首を傾げるのも仕方ない。
これはとあるお嬢様とその家庭教師のダンスなのだ。
パーティーの主役は俺達なのだ。
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フィニッシュを決める。
サウロス爺さんの豪快な笑い声が聞こえたような気がした。
この後俺達を担いでシャリーアの街を走り回るに違いない。
俺もまだまだ若いけれど爺さんになってしまったんですよ?
恥ずかしいので勘弁してくださいな。
……言って聞くような人じゃないか。
「へ?」
ふわりと体が浮き上がる。
エリスが俺を持ち上げたのだ。
旦那を気楽にお姫様抱っこするんじゃないよ、全く。
エリスの顔には「分かってるでしょ?」って書いてある。
勿論分かってるさ。
同じ事を考えてたんだからな。
「走ってくるわ」とも告げずにエリスは駆け出した。
代わりに俺が「すぐに戻るから!」と子供達に叫ぶ。
全く意味を理解してない表情で了承した声が聞こえた。
エリスには当然聞こえてない。
今俺達二人は、街の誰よりも確かに子供だった。