最近のリリお嬢様のお気に入りはどうやら俺の髪のようだ。
俺がソファーに座っていると、静かに肩に乗り延々と髪をいじっている。
結んだ髪を解くことはせず、延々と触り、痛くない程度に時々引っ張る。
飽きて疲れたら俺の頭にしがみつくようにして寝る。
フェイスハガー後頭部verだ。
なんとも可愛い不思議生物である。
リリはパパの頭にヨダレを垂らさない良い子だが、そんな彼女を気に入らないとばかりに不満の表情を隠さない子がいる。
同い年の妹クリスだ。
リリがオレの髪を引っ張っていると「パパをいじめないで!」と飛び込んでくる。
するとリリは「いじめてないです」と言いつつ肩から降りる。
そして俺を挟んでクリスから距離をとるのだ。
ここで有無を言わさず飛び掛からないのが、エリスとクリスの違いかな、なんて思ったりする。
娘が俺を取り合って争うなんて!
とバカな事も考えたが、リリは毎回あっさりと引き下がる。
聞き分けが良いのか、そこまで執着がないのか分からないが、ちょっと寂しい。
まあリリは取っ組み合いをするような子じゃないしな。
ララとは違う意味でのほほんとしている。
残ったクリスは「パパを助けてあげたわ!」と得意気な表情だ。
そして誰も教えてないのにボレアスポーズ。
見たまんま小エリスだ。
家庭教師やってた頃を思い出しちゃうね。
そして勝利の報酬に俺の膝を要求する。
悪い気はしないけど、リリが可哀想だな、とも思ったり。
「パパは別にいじめられてないから、今度からはリリに怒らなくていいからな」
「……はぁい」
●
そういう事があったからか、膝の上でクリスが寝たのを確認した後、リリが頭に登頂するというパターンが出来上がった。
娘によって動きを封じられる「パパ殺し」
スタン持続時間は娘が起きるまで。
ここに機嫌のいいルーシーと、状況を分かっていて俺をおもちゃにしようとするララが揃ったら、完全試合になり、俺は死ぬ。
フッ、娘に囲まれてくたばるなら本望だぜ……。
「パパヤバい助けて!」
「パパはヤバくないから助けれません」
焦った顔で珍しくレオに乗らず全力疾走してきたのはララだ。
どうせまた誰かにイタズラを仕掛けて逃げてきたんだろう。
こういう時に救いの手を差しのべると、飛び火するのだ。
相手がシルフィかロキシーならちょっとスネた姿が見れて『ウフフ可愛いんだから』で終わる。
エリスだったら俺はベッドの中で灰になるだろう。
蘇生のチャンスを一度奪われた状態になってしまうのだ。
そしてそれは翌朝もう一度奪われて俺はロストする。
しかし俺にはロキシー神のご加護がある。
ロストからの復活が可能なのだ!
貢ぎ物は甘いもの。
「パパ今回は本当にヤバい。大好きだから助けて」
「しょうがねえなあ」
うーん自分がチョロい。
しょうがないじゃない。自分の娘って可愛いんだもの。るでを。
「ちなみに今日は何したんだ?」
「せつめいしてる時間はない。はよ」
ハイハイ、っとこたえてララをふわりと宙に浮かべる。
天井の隅に張り付けるようにして、逃がしてやるのだ。
上から家族を見守っている様な体制だが、ララの目からビームは出ない。
そもそも自力で張り付いてないし。
「ルーデウス!」
ドキリとしたのはやましい事があるからだ。
べ、別にエリスの大声にビビった訳じゃないんだからねっ!
「あんまり大きな声だすなよ……リリとクリスが起きちゃうだろ」
「あ…………悪かったわね」
「いや、大丈夫」
普段から家がにぎやかなお陰か、二人ともこの程度で目を覚ましたりはしないようだ。
問題はエリスのこの怒りっぷりだ。
マジギレまでは行かないが、ララは結構なイタズラをしてしまったらしい。
「そんなに大声を出す理由があったんだろ?」
「…………見たら分かるでしょ」
ええ分かりますとも。
だって顔に書いてあるんですもの。
『ルーデウス大好き』ってララの文字で。
「とりあえず消してきたらどうだ? 俺は嬉しいけど恥ずかしいんだろ?」
「イヤよ!」
嫌なのかよ。
「別に嘘が書いてある訳じゃないもの! ララには顔に落書きした事を怒るだけよ!」
……ウチの嫁カッコよすぎかよ。
エリスに堂々とされるとなんだか俺の方が恥ずかしくなってきちゃうんですけど。
「ちなみに、何で犯人がララって分かったんだ?」
「あの子が書きおわる瞬間に目が覚めたのよ」
そして寝ぼけた頭で段々と状況を理解し、鏡を見て気づいた、と。
「今回は捕まえても尻叩きじゃなくていいんじゃないか?」
「…………そうね」
よそ様に迷惑をかけた訳でもないしね。
エリスも昔と違って物分かりが良くなった。
ちゃんとお母さんをしてる証だろう。
という訳で大丈夫じゃないでしょうか、と天井に張り付けたララに首を動かさず、視線でお伺いをたてる。
静かに、けれど素早くララは首を横に振る。
だが、俺の目の前にいるのはエリスだ。
俺の視線の動きには当然気付いていた。
ゆっくりと振り返り、獲物がそこにいるのを確認する。
ララの喉がごくりと鳴るのが聞こえた。
「ルーデウス」
「はい」
「下ろしなさい」
「仰せのままに」
裏切り者だとか聞こえた気がするけど気にしなーい。
天井から一気に下ろすと危ないだろうしゆっくり下ろしてやろう。
決してララがエリスに捕まるのを楽しんで見ている訳ではないぞ。
おお。ララったら空中でバタバタしているだけかと思ったらよく見ると平泳ぎをしている。
年中喧嘩しているネコとネズミのコンビとか怪盗三世がよくやるやつだ。
俺が重力を軽くしてやってるせいで華麗に宙を舞っているが、浮き上がる事は出来ないようだ。
手足をバタつかせるだけでは、エリスにとって抵抗ですらなく、さっくりと御用になった。
「……パパ助けて」
「無理」
●
食事の時間になれば、家族は自然と集まる。
つまり『二人』の顔は皆に見られる事になる。
エリスは当然堂々しており、それどころか周りの皆と同じ様にニマニマとしている。
ララは見たことがないほど顔を真っ赤にしていた。
「今日のララはエリスとお揃いなのですね」
「その通りですロキシー。実に可愛らしいでしょう?」
「ええ、とてもよく似合っています」
小さい声で、ママうっさい……とか聞こえた気がする。
姉妹に見えるんだから仲良くしなさいっての。
「いいじゃんララ。お尻叩かれた訳じゃないんだし」
いいクスリだよね、パパ。と言うルーシーの耳は楽しげに揺れている。
口に出すことはないけど、シルフィとジークも耳が揺れているあたり、やっぱり親子だ。
俺が耳を動かそうとすると顔の筋肉だけが動く。
仲間外れは寂しいぜ。
ララの顔にはエリスの顔にしてある様に文字が書いてあった。
せっかくなのでエリスに書いてもらってある。
やられたらやり返すとは、エリスにしてはなかなか洒落た事をする。
「ねえねえパパ」
「お、どうしたクリス」
「私、ララ姉の顔に書いてある文字読めるよ!」
「そうかそうか、クリスは偉いな。なんて書いてあるんだ?」
「えっとね……」
────パパ大好き!