「兄さん、変な事を聞いてもいいですか」
「俺が答えられることならな」
変な事……なんだろう。
ノルンはちょっとドジだけど基本的に真面目な子だ。
敬虔なミリス教徒でお祈りも欠かさない。
努力が全て報われなくても妥協したりしない。
自慢の妹だ。
お兄ちゃんは嬉しい。
そのノルンが言う変な事。
想像もつかないが、アレがコレでソレみたいな事だろうか。
俺が答えられる事ならいいんだけど。
「その……長命な種族の方って性欲が薄いっていうのは本当なんでしょうか」
「うーん?」
「いえその、深い意味はないんです。でもこの街は学校のお陰もあって色んな種族の人がいるじゃないですか。姉さん達も種族がバラバラですし。学校でそんな事聞いて回るのも変ですし、兄さんは世界中を旅してきたからそういう事も詳しいかな、と思ったんです!」
「お、おう……」
ちょっと恥ずかしいのか、息もつかずにまくし立ててくる。
言いづらいならロキシーとかに聞けばいいのに。
先生なんだし。
保険の授業でちょっとエッチな事を聞かれて赤面しつつも真面目に答えるロキシー先生……。
実に見たい。
ロキシーとは実践授業でたまに先生と生徒になったり、立場が入れ替わったりとかしてるけども、それとは別でね!
「兄さん?」
「……ああ、ごめん。なんでもないよ」
種族の違いから生まれる寿命の差と性欲が反比例するかみたいな話だったか。
「ウチの場合エリスが一番なのは間違いない」
「分かりました。ウチで一番スケベなのは兄さんなんですね」
「……人の話聞いてた?」
「だってエリス姉さんが兄さんの事が大好きなのは分かりますけど、そんなイメージないですもん」
ノルンは野獣と化したエリスを知らないからそんな事が言えるのだ。
しゃぶられ、搾られ、枯れ果てる。
後には骨も残らない。
そんな経験はノルンにはないのだ。
経験しなくていいけれども。
「じゃあ俺が一番でエリスが二番でいいよ」
「二人は人族なので基準という事でお願いします」
「スケベな基準だなあ」
シルフィは…………長耳族の括りでいいかな。
ロキシーはもちろんミグルド族。寿命は200歳くらいだっけか。
混血とはいえシルフィの方が長生きしそうな気はするけど……。
「シルフィとロキシーはどっちが上とか考えた事ないからなあ」
「年齢……見た目相応って事でしょうか」
「そんな感じ」
結婚してすぐの休みの日なんかは朝も昼も関係ない爛れた大学生のような生活を過ごしたけど、あのくらいの年でそういう相手がいればそんな皆そんなもんじゃないかな。
俺高校中退してるから爛れた大学生の生活なんて知らんけど。
…………いや爛れた大学生活してたわ。
年齢で換算したら高校生だし、大学生なんて呼び方しないけど、『魔法大学』だもんな。
うへへ、皆さんすいやせんね。
「他の長命な知り合いの方とかはどうでしょうか」
「エリナリーゼは……長生きしてるけどアイツがスケベなのは呪いのせいもあるしなあ」
「エリナリーゼさんは嫌々そういう事をしてる訳ではないんですよね……?」
「そうだな、アイツは呪いと上手く付き合ってる」
魔道具で呪いを抑えられるようになってきたとはいえ、クリフ先輩が腹上死する可能性は消えないと俺は思っている。
「あとは不死魔族の面々……ノルンは面識なかったよな?」
「あ、はい」
バーディ陛下はあの性格もあるだろうけど、やることはやってたみたいだ。
キシリカ様は体が育ったらやることやるだろうし、アトーフェはバカだけど息子も孫もいる。武人気質だからそっちの方面がどうなのかは知らんけど人並みなんじゃなかろうか。
「やっぱり見た目相応というか……あんまり歳は関係ないんじゃないかな」
「なるほど……」
シャンドルだって息子も孫もいる。
アレクは少々アレだが、あいつもアトーフェみたいにそういう相手が出来たらやる事やるだろう。
多分。
オルステッドとペルギウスはどうなんだう。
そういう話なんか聞いてみようと思ったことないしなあ。
他に龍族なんか知らんし。
アホな事聞いて怒らせたくないし。
最近のオルステッドなら聞いたら教えてくれるかもしれないけど。
後は……。
「ルイジェルドさんはそういうのと無縁な気がするな」
「えっ」
「一緒に旅してた時は俺とエリスが子供だったから気を使ってくれてたっていうのもあると思うけど、あの人は一番そういうのとは無縁な気がする」
俺の知る最高の戦士。
確かもうすぐ600歳とか言ってたか。
10年以上先の事はもうすぐって言わないのよ普通。
「おじいちゃんみたいなイメージだな。いつも見守ってくれてるというか」
「それは……分かります」
まあこんなところか。
獣族の発情期はノルンだって分かってるだろうし。
他の種族なんて天人族のシルヴァリルくらいしか知らんけど当然そういう事なんて聞くような間柄ではない。
鬼族にもわざわざそんな事聞きにいけないし。
「なんか参考になった?」
「はい……ひとまずは」
ありがとう御座いましたと言って、ノルンが去ってしまう。
なんだったのだろうか。
●
「あの時の質問はそういう事だったんだなあ」
遊びに来たウチの庭で元気にはしゃぐノルンとルイジェルドの娘──ルイシェリアを見てそう思う。
「何の話だ?」
「ノルンがルイジェルドさんの所に嫁ぐ前の話なんですけどね」
ルイジェルドさんは結構なお年ですが今でも男性として現役なのでしょうかと、遠回しに聞いてきた事があったんですよ。
結果はご覧の通りだ。
二人の愛の結晶が今日のように遊びに来てはウチの6人兄弟姉妹の、さらに妹のように迎え入れられている。
善哉、善哉。
「……なるほどな」
何に理解がいったのかは分からないけれど、ルイジェルドが頷く。
お若いのが嫁だけでは勢いで乗り切るような事にもならないだろうから、きっと見ているだけでこっちが恥ずかしくなるような挙動不審のノルンをルイジェルドが優しく見守るような一幕があったに違いない。
ノルンは結婚するまでそういう相手もいなかったし、若さを武器にしてきた俺とはタイプが違う。
正しく母さんの娘らしいと言えるね。
「……そういう事なら俺もお前に聞いてみたい事がある」
「なんなりと」
「ノルンがその……そういった技術に明るいのはお前か誰かが教えてやったのか?」
あのルイジェルドが少し顔を赤くしてまで聞くことだろうか。
そういう顔はノルンに見せてやって下さいよ。
ノルンに見つかって変な誤解をされたら困るでしょうが。
「いくら俺でも妹とそんな話しませんよ」
「さすがにそうなるか」
「学校に行ってた時なんかは友達とそういう話をしてたかもしれないですし、後は……」
「エリス達か」
エリスがソッチの技術を教える程気にしているだろうか。
どちらかと言うとロキシーとシルフィだと思う。
「そういう事なら間接的に俺が教えているのかもしれませんね」
「であれば俺も納得がいく」
「ウチの妹が何か粗相を……?」
「いや、俺も別にそういう事に詳しい訳ではないが、俺も知らないような事を試してみようと提案してくるものでな」
俺はルイジェルドにスケベだと思われてるのだろうか。
……まあ旅の道中でエリスと思春期の応酬をしてたし、嫁の人数も子供の数も俺の方が多い。
毎晩やることやってるのはノルンも知ってるし、仕方ないか。
「あんまり変な事は教えないように言っておきますよ」
「…………そうだな。俺も尻を舐められた時は思わず変な声が出てしまった」
ノルン……恐ろしい子!