温泉回はあっても水着回はない。
皆さんご不満でしょうか。
俺は不満じゃないです。
だって皆下着姿どころか裸体を見たことあるんですもの。
もちろん服を着ているからこそのエロさは分かる。経験もさせてもらった。
でも別に水着はいいかなって。
水遊びは危ない事も多いし。
泳ぐ練習なら家でも出来るし。
そもそも泳ぐ必要ないかもしれないし。
なのでルーデウスは一人寂しく川の中。
ここまで走ってきて水に飛び込み汗を流し、誰も俺の裸なんて見たくないだろうから、今は服を着て足だけ川に突っ込んで涼をとっております。
「……お前が家から追い出されるとはな」
「自主的な外出です。まるで俺が喧嘩でもしてきたかのような言い方はやめてください」
「む……」
相変わらずウチの社長は口下手である。
部下が気にしている事をいきなりほじくったら泣いちゃいますよ。
「これはウチの子供達のためなんです」
「ほう」
「今日は俺が家中を涼しくせずに、各自で氷を作ったりして魔術の練習を兼ねつつ暑さ対策をしましょうね、という事になったのです」
それからどうしたと、オルステッドは俺の言葉を待つ。
この人俺が家族の話をしてる時結構楽しそうなんだよな……。
今までのループで産まれて来なかった人間の話だから興味があるのだろうか。
「そしたらクリスがこっそり俺のところに来て『パパの涼しいのがいい』なんて言うんですよ」
末っ子だからという訳じゃないけれど、素直に甘えられるとどうにも甘やかしたくなってしまう。
「次に氷を出すのをめんどくさがってたエリスが来て、ララが来て、アイシャが『あたしもー』なんて言う頃にはシルフィとロキシーにバレる訳でして」
「逃げ出してきたと」
「まあ、その、はい」
やれやれ、といった感じにオルステッドが深く鼻を鳴らす。
最近のオルステッドは相変わらず顔は怖いものの、感情表現が豊かになった気がする。
ノルンの娘が産まれた時も悪そうな顔で笑ってたし。
もうちょっと眉間の皺を減らさないと悪役にしか見えませんぜシャチョサン。
「……こういう時は早く戻ってさっさと謝らないと相手の怒りが増すのではないか?」
「……時間が解決してくれる場合もありますし」
「……お前がそれで良いのなら止めはせん」
オルステッドさんたら怖いこと言いなさる。
怖いのは顔だけにしといてくださいよって。
不安を煽られたせいで頭の中に嫌な予感が膨れ上がっていく。
こうしてここに逃げている時間が伸びるほど、シルフィに正座させられる時間も伸びていくような気がするのだ。
お家に帰りたいのに帰るのが怖い。
浮気みたいなやましい事をしたわけでもあるまいに。
帰ろう。
俺は一家の長だ。
胸を張って家に帰る権利があるはずだ。
横暴には屈する訳にはいかんのだ。
「やっぱりもう帰ります」
「それがいいだろう」
「俺が川から上がったら水温調整が無くなりますので、滅茶苦茶冷たくなるか、生ぬるくなるかするのでオルステッド様も適当にお上がりくださいね」
「この季節の水温程度なら気にもならん」
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街の外の川にいた俺の所にわざわざオルステッドが来たのは気を使われていたという事だろうか。
社長も意外と部下のメンタルケアをしようとしてくれていたのかもしれない。
アレクは悩みなんてなさそうだけど。
「……さて」
それはそれとして、だ。
どうかシルフィエット様がお怒りになっておられませんように。
大丈夫だ、気にするなとビートはいつも通りに俺を出迎えようとして門を開けてくれる。
それはつまり俺が帰って来たという事を庭にいる人に気付かせるという意味もあるわけで。
「おかえり、ルディ」
「……はい、ただいま戻りました」
心臓が口から飛び出さなかった事をほめてほしい。
だって門のすぐ横にシルフィが隠れてたんですもの。
「……ボク、別に怒ってないよ?」
「……本当に?」
「ルディが皆に甘いのも、甘えられて嬉しいのも分かってるよ」
確かにロキシーとシルフィにちょっと『コラ!』とお咎めを受けただけだった。
俺が勝手にスネて家を飛び出しただけだったかもしれない。
「あの後クリスもちゃんと氷の玉を自分で作ってたからほめてあげてね」
「そりゃもちろん」
あ、あとね、とシルフィが追加の報告を伝える。
「エリスがこっそりルディに着いていったんだけど、オルステッドがいたせいで合流出来なかったってむくれてたから、きちんとフォローしてあげてね?」
「了解」
怒っていないのならなんとかなる。
昔と違ってエリスも簡単に怒ったりしないけれど、巴板額エリス様だ。
フォローも早いうちに限る。
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結局その日は一日中エリスが引っ付いていて、俺が風を送るもんだから髪がなびいていて、それを見てカッコいいとか思ったのはナイショだ。
エリスはいつでもカッコよくて綺麗だしね。