魔法都市シャリーアには文字通りの空中庭園があるという噂がある。
そこへ至るには、朝早く、虹のようにうっすらと伸びる宙に浮かぶ階段を昇る必要があるとか。
宙に浮く階段などあり得ないと思うだろうが、地元の人に聞けば、空を歩いている人を見た事がある、という話は簡単に聞ける。
──ああ、それならグレイラットさん家の亭主でしょうね。
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やあ、皆! 人気投票を行ったら一位から五位まで独占するほど大人気な皆のヒーロー、ルーデウスおじさんだよ!
いや、一位は無いな。
一位は間違いなくロキシーだ。
シルフィやエリスもいるし。いいさ、俺よりも美人の嫁さん達が人気なのは分かってる。
おじさんは最近息子や妹が仕事を引き継いだからトレーニングと研究ばっかりの日々なのサ!
という訳で寄る年波に負けないように魔術を絡めたハードなトレーニングを自らに化している。
名付けて空中散歩。
土魔術で作った板を重力魔術で吹っ飛ばないように空中でバランスを取りながら浮かばせる。
それを階段状にしてひたすらのぼっていくのだ。
宙に浮いた階段をのぼるなんてRPGのラストダンジョンみたいでカッコいいが、慣れるまでは結構制御が大変だった。
とはいえ、慣れれば有り余る魔力を使いながらしっかりと走り込む事が出来る。
何もない空間に足を踏み出して、瞬間的に足場を作り宙に固定する。
通りすぎた場所は魔力を抜いてしまったら上空から岩の板を降り注がせてしまうので、消しておく。
こうする事で誰かが追っかけてくるのを防ぐ事も出来るのだ。
やっぱり安全第一じゃないとね。
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「私も連れていきなさい!」
どこに?
空にだろう。
「ルーデウス一人で行くなんてずるいわ!」
「いや、エリスは重力魔術なんて使えないし……何かあったら危ないだろ?」
「私なら足に力を入れれば、あのくらいの高さなら何とかなると思うわ!」
ホントかよ……。
いや、俺は闘気にご縁のない体なんで分かりませんけどね?
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「……上まで来ると結構高いのね」
俺の手を握るエリスの手に普段より強めの力がこもっている。
最近はこんな風に何かを怖がるエリスなんて見ることはなかったから懐かしい気分だ。
何かを怖がるエリス……あれ、どうだろう。誘拐事件の時くらいしか思い出せんぞ?
まあエリスはアタシのヒーローだもの。
こういう時くらいカッコいい旦那様になってあげないとね。
「ほらエリス。手より腕を組もう」
「そ、そうね」
差し出した腕におずおずとエリスが手をまわしてくる。
ウホッ……いいおっぱい……。
「いつもこんな高さまで来てるの?」
「いや、今日はちょっと調子に乗って普段より高めに来た」
シャリーアの街の全景が見渡せる高さだ。
空から世界を見てみよう、なんて事を自分で出来るようになるとは。
「他の皆は連れてこないの?」
「そんな事考えた事もなかったよ」
「シルフィもロキシーも絶対よろこぶわ! だってこんなに綺麗な景色なんだもの!」
ニシシ、と明るく笑うエリスがそういい放つ。
ちょっと強めの風に長い髪を気にせずはためかせている様は幾つになっても相変わらずカッコいい。
……どうもエリスと二人っきりになると、男女が逆転してしまいがちだ。
これ以上横顔を見つめていると俺の中の乙女な部分がキスをねだり出してしまうだろう。
「……そろそろ帰ろうか」
「そうね」
帰りは照れ隠しの意味も込めて、足場を作らずに重力魔術だけでゆっくりと降りていった。
エリスをお姫様抱っこしたのなんていつ以来だろうか。
今度は皆を連れてきたり、夜景を見るのもいいかもしれない。
もちろん他の街を見てみるのもいいだろう。
もしかしたらシルフィは高い所が苦手だったりするかもしれないけれど、その時は後ろから抱き締めてあげればいいかな。