「……ルーデウスもごまかしてキスしたりするの?」
「しない。俺はそんなに軟派な野郎じゃないからな」
空中城塞ケイオスブレイカー。
そこにあるナナホシに割り当てられた私室で、俺が暑さにやられて作り出したそうめんをさらりと食べながら、お前は昔のドラマに出てくる男のような事をするのかと聞かれた。
「そういう事をするのは俺じゃなくてルーク先輩とかだろ」
「ああ、アリエルの所にいた……」
そもそも俺はごまかすような事がない清廉潔白な男なのだ。
仮に後ろめたい事が見つかったとしても、素直に話し合う。
家族に対してごまかすという選択肢は俺の中に存在していないのだ。
だいたい、キスなんてしたらスイッチが入ってしまいそうなのがいるではないか。
弱味を突かれて、抵抗したら力で押さえ込まれる……。
あれ、なんかエリスが悪役みたいだ。
実際は全然そんな事ないけど。
むしろエリスには少々マゾの気を開発されている節がある。
別にいじめられてるとかじゃないけどね!
「でもルーデウスはアイツと従兄弟なわけでしょ?」
「中身を考えろ中身を」
「心が体に逆らえるの?」
「ビンビン逆らっております」
あんな数多くの女を泣かせて金で解決してきたようなヤツと一緒にするんじゃないよ。
まあ、若気の至りで今はどうだか知らんけど。
ルークよりアリエルの方が爛れた生活、性活をおくってるみたいだし。
お腹の子の父親が分からないと、ルークが青ざめる様が目に浮かぶよ。
「およそアスラ貴族の直系とは思えん発言だな」
相も変わらず、自然に、優雅に、音も立てずにペルギウスが席につく。脇にシルヴァリルを添えて。
「私めにはもったいない程美人の嫁が三人もおりますゆえ」
「……何その話し方」
「別にいいだろ」
フン、とペルギウスが鼻を鳴らす。
これは機嫌が良いときのやつだろう。
「欲に溺れてなすべき事から離れなければそれも良いのだろうよ」
さて。
ペルギウスの分はナナホシとは別に用意してある。
別にナナホシの食い意地を疑った訳じゃない。
「随分口触りの軽い麺なのだな」
「夏の暑い時期に食べる物ですからね。体の負担が少ないようにしてあるのです」
箸を器用に使いこなし、音もたてず麺を啜る。
使い魔じゃなくても絵になると思ってしまうね。
●
薬味まで綺麗に片付けてもらい、返礼の茶を味わう。
違いの分かる男ではないけれど、美味いという事くらいは俺にでも分かるのだ。
「さっきの話じゃないけど」
ナナホシが話を振りかけてくる。
「ルーデウスって家族と喧嘩したりしないの?」
「……家で問題起きたらだいたい俺が悪いから、俺が謝って終わりかな」
「ふうん」
後はエリスが力加減を誤ってしまうとかさ。
そういう所は昔から変わらない。
それも含めてお互い好きなんだけど。
「隠し事がバレた時なんかは大変だよ……シルフィの機嫌が悪くなって皆が批難の視線を向けてくるんだ『早く謝れ』ってね」
「ルーデウスでもシルフィに隠し事なんかしたりするんだ」
「隠し事っていうか、わざわざ言わなくてもいいかなーって思ってたら大変な事になったりとかさ」
ザノバと作った自動人形のアン然り、だ。
「どうせ後ろめたい事があったんでしょ……」
「まあ……その……はい」
「えっ、マジ?」
ナナホシそっくりのお人形におっぱいと女性器付けちゃいましたってね。
男だけで事を進めるのは危険かという事かもしれない。
魔導鎧はシルフィやロキシーにも手を貸してもらったのに、籠手の時は酔っぱらい三人だった。
結果的に丸く収まったからいいものの、アクシデントが起きていたら間違いなく二次災害に発展していただろう。
「浮気もしないのに隠すような事って……?」
「えーっと……ほら、アンの時みたいな……」
「ああ……」
ナナホシの視線があっという間に冷たくなっていく。
おかしい。今回は別に何かした訳でもないのに……。
「男子ってサイテーってやつ?」
「仰る通りでございます」
ペルギウスは当然助け船を出してくれるはずもなく、見世物になった俺をみて笑っている。
ちくせう。
「……次来る時は流しそうめんでもやるか」
「竹でコースでも作るの?」
「いや、氷で机に収まるくらいのちっこいのでも作ろうかなって」
子供用の電池動く流れるプールみたいなのでいいだろ。
「ルーデウスよ」
おっと。
サプライズペルギウスだ。
「我が城塞内で氷の道を作るのならば趣向をこらせよ」
俺はまた余計な事を言ってしまったらしい。