「脳に負荷がかかりすぎたから記憶を失ったり喋れなくなってしまったんでしょうかね」
ルーデウスが突然ゼニスとエリナリーゼの話を始めた。
いわく、二人について考えていた事があるのだと言う。
「二人が入っていた巨大な魔力結晶は普通の人間に後天的に能力を与える装置だったんじゃないでしょうか」
「……何のためにそんな事をする?」
「ヒトガミ……は考えすぎかもしれないですけど、何か強大な相手と戦おうとした時の一助にしようとしたのかもしれません」
考え方しては悪くない。
だとすれば。
「……何故構造に欠陥を残したままだと思う?」
「研究の途中、志半ばで命を落としてしまったか──」
闘神に引き裂かれたか。
「強化された人間が俺の子孫の位置に納まって、オルステッド様を助ける予定だったのかもしれません」
救世主となるララの位置に、今までは別の人間が居たように。
そうなった事が無い以上、ヤツの手出しがループの前にあったのかもしれないが。
「……今となっては分からん事だ」
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誰かを助けようと思って紡がれた想いが遥か未来で別の誰かに呪いになって降り注ぐなんて辛すぎるじゃないか。
…………いくら自分の母親と妻の祖母のことだからっておセンチになりすぎだろうか。
まあ俺も精神年齢だけなら還暦越えてる訳だしな。
若いのは息子だけ……。
いや、合計年数はロキシーと同じなのだ。
俺が老人気分では我が神まで腰が曲がってしまう。
いつも心は虹色に輝かせておかねば。
「母さんがエリナリーゼみたいに長生きだったらな……」
関係ないか。
エリナリーゼは長い年月を生きても記憶を取り戻した訳じゃない。
それでも生きていかなきゃしょうがないんだ。
例え体に呪いを受けていても。
母さんだってララや神子様とはよろしくやってる訳だし、他に優先するべき事の方が多いのも事実だ。
……でも自分の母親だし、考えるのは自由だよな?
●
ミグルド族の念話能力とゼニスが噛み合ったのなら、スペルド族のレーダー能力を後天的に手に入れる人間もいつか存在するのか。
固有の能力を持つ魔族は先祖をたどるとゼニスみたいな存在にたどり着くんじゃないか。
つまり、人工的に作られた種族なのではないか。
みたいにして答えの分からない思考がどつぼにハマっている内に時刻は夜。
今晩のルーデウス担当大臣はエリスです。
「そういう時は思いっきり泣いたり笑ったりすればいいんでしょ?」
疑問系ではあるが、エリスらしく単純で爽やかな答えだ。
「ルーデウスがそうすればいい、って言ったんじゃない」
「俺が?」
「ギレーヌと三人で街に出掛けてたりしてた頃だと思うわ」
つまり家庭教師をやっていた頃か。
言ったかな…………?
多分、休みの日はは思いっきり羽を伸ばすものです。みたいなニュアンスで言ったんだと思う。
それを噛み砕いて自分の言葉にしたのだろう。
エリスのそういう所もちゃんと成長しているのだ。
剣の腕と胸ばっかりじゃない。
昔ほど顔を赤らめずに俺の髪の匂いを堪能しているあたり、俺達の仲も成長しておられる。
けれど恥じらいは失ってはならぬ物なのだ。
デレデレに甘えられるのも好きだけど。
伸ばす前から俺の髪はエリスに好評絶賛だった訳で、尻尾のような俺の髪はもちろんエリスに受けがいい。
俺がエリスの髪に顔を埋めるよりも、エリスが俺の髪に頭を擦り付けた回数の方が多いだろう。
エリスにとってこの行動は、セルモーターを回す為の鍵の回転のような意味合いがある。
会話の時間はさっさと終われということだ。
「ルーデウス」
蛇に睨まれた蛙だ。
抵抗は許されているから、大型犬と小型犬か。
俺は噛みつかないけど。
エリスだって噛みついて血を出してしまったのに気がついたら舐めてくれるくらいの事はする。
喧嘩じゃないしね。
「しっかり鳴いて忘れなさい」
いや、完全には忘れなくていいんだけど。
「だったら、今夜だけ忘れればいいわ」
相変わらず男女が逆だ。
俺が女々しいのがイカンのだけど。
…………エリスは意味を知らないからやらないけど、もしも尻に指突っ込まれたらその時は本気で泣こう。
ひーん。