無職転生の幕間   作:綴りの違うウサギ

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言葉遣い

 我が家──グレイラット家──が子供達に課した教育方針として、7歳でラノア魔法大学へ一般生徒として入学させ、卒業と成人を迎えた後、アスラ王立学校へ3年通うというものがある。

 

 つまり何事もなく大学を7年で卒業出来れば1年ほどの長期休暇を手に入れる事が出来るのだ。

 

 それが末っ子コンビの番に回ってきたのだが。

 

 ●

 

 「もうやだルー姉がいじめる!!」

 「なっ……!? いじめてなんかないよ!」

 

 パパクリス捕まえて! と怒号ぎみの声がルーシーから飛び出す。

 パパとしてはご近所さんに心配されないか心配だけれども。

 

 「ほらクリス、ルーシーもお姉ちゃんとして心配だから、クリスがアスラで失敗しても大丈夫なように付き合ってくれてるんだから──」

 「……パパは私の事捕まえるの?」

 「どうぞお逃げください」

 

 末っ子の愛嬌に勝てなかった俺に娘達の叱責と感謝の声が同時に飛び込む。

 

 ごめんルーシー、クリスもお前と同じ愛娘である以上両方に助けを求められたらパパは逃げの選択を選ぶしかないのだ。

 庭先で追いかけっこでもしておくれ。

 

 「すまんな、クライブ君。せっかくの休暇に嫁を取り上げるような真似をして」

 

 長女と末っ子のやり取りを見ていたであろう、彼に謝罪をしておく。

 父と同じくミリス教団の神父となったとはいえ、未だに毎年家に顔を出してくれる程にフットワークが軽い。

 

 「気にしないでくださいおじさん。クリスティーナは僕にとっても妹のようなものですし、彼女の為に協力は惜しみませんよ」

 

 実際義妹だしな。

 クライブ君は小さい頃からウチの家族と一緒にいたせいで少々7人兄弟みたいな所もあるし。

 

 「ところでリリちゃんは一緒に勉強しておかなくてよいのですか? 彼女はクリスティーナと同い年でしたよね」

 「あー……」

 

 説明すればクライブ君はすぐに理解してくれた。

 リリの集中力が一点に向きすぎているせいで、周りに対する認識が疎かになる事が多々あるということを。

 

 ようやく憧れの地に行っても、周りの見えないリリが側にいればクリスは彼女を守る為に動くだろう。

 それはおそらく二人の為にならない。

 

 なのでリリだけは進路が違う。

 関心がある魔道具について触れて学び創ってもらう為にザノバに預かってもらう事にした。

 リリ本人にもそっちの方がいい、というちゃんとした意志があったし。

 ザノバもリリのように感覚の尖った子は好きらしく、お互い知った顔でもある故に重宝されているようだ。

 ジュリも付き合いの長い妹分と一緒に働けて嬉しそうだし。

 

 「こういう柔軟な対応が出来るようになったのも経験の力なのかね」

 「おじさんは昔から変わらず凄いままだと思いますよ」

 「俺なんかよりクリフ先輩の方がよっぽど凄いと思うけどね」

 「父が聞いたらきっと喜びますよ」

 

 よせよルーデウス、とか言うんだろうな。

 酒が入ってたらお互いのヨイショ止まらなくなるだろう。

 ところでウチの娘達はいつまで追いかけっこしているのだろうか。

 とか思った矢先。

 

 「クリスを捕まえたわ!」

 

 やはり母は強しと言うことか。

 

 ●

 

 「クリスが嫌がって逃げ出すような勉強って何なんだ?」

 「礼儀作法」

 

 ルーシーの言葉を聞いて、やはり血は争えないかと思いながらエリスの方を見たが、どうかしたかと言わんばかりの表情だったので、子供の頃の勉強の日々は忘れたんだろうなと諦める事にした。

 

 とはいえエリスも礼儀作法は体に染み付くまでに覚えさせられたのだ。

 少し思い出させてやれば、困ることはなかった。

 ズボンを履いているのに、無いはずのスカートを摘まんで挨拶してた事もあったし。

 

 「最低限パパの娘として恥ずかしくないようにはしないとダメでしょ!」

 

 そういうルーシーの雰囲気は怒っている時のシルフィそっくりである。

 当然逆らえるはずもなくクリスは俺にタ・ス・ケ・テのサインを送ってくるのだが。

 

 「パパの事なんか別に気にしなくてもいいけどなあ」

 

 そういう事の必要性が分かるのは、自分自身が挑戦して失敗でもしてみないと分からないだろうし。

 その為の学校なんだし。

 

 「いい訳ないでしょ! パパは静かにしてて!!」

 「はい」

 

 妻に逆らえるハズもなく、その次は娘に逆らえなくなっていく。

 夫であり父であるという事はこういう事なのだ。

 救出作戦は失敗。

 諦めてくれクリス。

 

 「言葉ひとつで馬鹿にされる事だってあるんだから……」

 

 それはシルフィからルーシーへと受け継がれた教え。

 正確にはフィッツ先輩か。

 

 フィッツ先輩は俺と話す時に、自分の事を『ボク』と言っていた。

 それはシルフィが俺の事を──あの時点では一方的ではあるが──分かっていたからだ。

 

 アリエル王女達の前でも『ボク』と言っていた。

 でもそれは彼女たちが親しかったからだ。

 

 公的な場──貴族のパーティー等では『わたし』を使っていたらしい。

 

 ボクっ子になんという仕打ちを!

 と、当時の俺が知れば憤慨しただろうが、これはシルフィが選んだ処世術である。

 外野だった俺は黙ってろってこった。

 

 そして娘は母を真似る。

 とはいえボクっ子は希少な存在だ。

 とやかく言うやつもいただろう。

 それで母を倣って使い分けをした。

 

 親しい人の前では『ボク』

 そうでない人の前では『わたし』と。

 

 こんなに綺麗な親子に揃って気を使わせるなんて嫌な世の中だ。

 これも全てヒトガミって奴の仕業に違いない。

 

 ルーシーに何があったかなんて掘り起こそうとは思わない。

 そんな事聞かれたくないだろうし、嫌な思い出ほど簡単に甦るのは俺自身がよく分かっている。

 思い出すのなんて綺麗な思い出だけで充分だ。

 

 「まあ、その、向こうに行ったら本物の王子様とかが居るのは本当だ。そういう人とも仲良くなるつもりならルーシーの話は聞いといた方がいいと思う」

 

 出来るだけネガティブな言い方はしないようにした。

 エリスは「私達の子なんだから大丈夫よ」とか言って手伝ってくれないだろうし、悪い印象を与えたくはないし。

 

 というか、クリスにアスラは結構大変な所なんだぞ、と説明したけれど笑い飛ばされちゃうし。

 

 だったらもう自身の目で確かめてもらうしかないじゃない。

 それでも身を守る術は必要じゃない。

 心配性と言われてもいいじゃない。

 愛と言う名の親心じゃない。

 

 「そっか、それもそうだよね」

 

 じゃあいっちょ頑張りますか! と、切り替えの調子の良さは母親譲りである。

 俺みたいにウジウジと悩まないのは良いことだ。

 

 ルーシーも「ありがと」と口だけを動かして伝えてくるので気にするな、と手を振っておく。

 

 ウチの最後のお姫様の先行きが明るいといいんだけれどな。

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