特別生にだけ許された、授業を受けない事を選べるお陰で出来る空き時間を、有効活用すると言っても人間限界がある。
そんな時はどうするのか。
嫁が頑張っている姿を見に行くのだ。
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「それでこんな所から授業を覗いていたのですか」
あきれたようにロキシーが言う。
「いいじゃないですか。夫婦なんですから」
「夫婦ならもっと堂々とするべきでしょう。隠れて覗き見るような必要は無いのでは?」
流石ロキシー痛いところを突く。
「シルフィ……ではなくフィッツとしてのイメージもありますからね。あまり学校で近付いていいものかと思いまして」
沈黙の魔術師が夫とイチャイチャしていたらアリエルの評判にも響くだろうとの配慮。
ロキシーをも嫁に迎え入れてからにどうにも浮かれ気分の俺としてはそこまで気が回せないのだが、シルフィが嫌がるので仕方ない。
家に帰れば娘共々好きなだけイチャつけるのだ。
我慢しようではないか。
「授業の内容も剣術ですし問題ないと思うのですが」
「僕がしゃしゃり出ても教師が授業をしづらくなるだけですよ」
遠目に見ても教師役の人物がエリスやギレーヌには遠く及ばない剣士であろう事は見てとれる。
それにアリエル御一行も剣を握っているのはルークだけで、アリエルやシルフィは体こそ動かしているものの、全く別の事をしている。
体育の授業で運動不足解消みたいなものか。
ああいう住み分けの融通がきく教師は中々いないだろう。
なので俺は邪魔をしないように遠くから『見』にまわっているのだ。
「そして授業が終わった後にさりげなく冷たいお茶とタオルを差し出して夫婦仲の良さをアピールするのです」
シルフィに悪い虫が寄ってきては困るからな。
しかし依然としてフィッツ先輩は女生徒人気の方が高い。
一児の母でありながらスレンダーな体型を維持しつつ王女の護衛もこなすのだから当然か。
あんな女性として眩しすぎる存在が俺の妻なのだ。
見捨てられないかビクビクである。
「だとしたらわたしはお邪魔虫ですね」
「ロキシーがお邪魔虫であるわけがございません!」
「ですが……」
「周りの目が気になるのでしたら俺が大きな声で公言しましょう。俺が夫であり、二人は妻であり、家族なのだと」
そうすれば非難されたとしても俺だけのハズだ。
ロキシーやシルフィにいちゃもんをつけるような輩は地平の彼方まですっ飛ばしてやる。
「……分かりました。そこまで言うのなら私も家族として一緒にシルフィを労いましょう」
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第二夫人と一緒に来るとはどういう事だとルーク先輩にこっそり言われたが、俺とシルフィはロキシーをそのように扱うつもりはないと説明しておいた。
リニアとプルセナもそういう風にとっていたし、世間の目というのは難しいものだ。
俺だけはなんと言われても構わないがロキシーにそういう思いはさせたくない。
もっと頑張らないとな。
ところでシルフィなのだが。
「つーん」
微妙にむくれていた。
「だってルディとロキシーってば僕が真面目に授業をうけている間にデートしてたんだもん」
「ホントに偶然会っただけだって……」
俺もロキシーも授業の合間が重なっただけで、他意はない。
不真面目な生徒と教師が空き教室で何かをしていたという事もない。
機会があればやってみたくはあるが。
「大丈夫、ちゃんと分かってるよ」
冗談であることをアピールするかのように、少し恥ずかしげではあるが、シルフィがペロリと舌を出す。
かつての少女からは想像できないような茶目っ気のある表情で。
「本気で怒ってるのかと思ったよ……」
「そりゃ前も言った通りボクも不安はあったけどさ」
でもね、とシルフィは振り返りながら続ける。
「ルディがちゃんとボクとロキシーを愛してくれてるのは分かるし、ロキシーも遠慮がちだけどボクとルディにしっかりと向き合ってくれてるのは分かるんだ」
だから、と言うその表情はまるで弟を安心させようとする姉のようで。
「ボク達はこうやってゆっくり進んでいけばいいんだよ」
「……うん」
本当に、俺には過ぎたお嫁さんだ。
「俺、心配し過ぎなのかなあ」
「ロキシーもね」
我が家への帰り道で、毎度毎度シルフィには慰めてもらってるというか安心させてもらってるというか。
「シルフィ」
「うん」
「俺、シルフィに見捨てられないように頑張るから」
「それはボクもじゃない?」
「俺がシルフィを見捨てるなんてあり得ない」
「それもボクもだね」
強いな、と。
泣き虫だったいじめられっ子の少女はもういないんだな、と思った。
「それならお互い頑張っていこうか」
「ロキシーやルーシーも一緒に、ね」
ロキシーが帰ってきたら今日が何かの祝い事かと錯覚するくらい盛大に出迎えてあげよう。
そして明日からもまた頑張ろう。