にゃーんにゃん、と声がする。
ウチには犬は居ても猫はいないはずだ。
もしかしたらレオが近所の野良猫を呼びつけて話でもしているのかもしれないけど。
レオは時々自分以外の犬なり猫なりと話しているのを見かけるのだ。
ララいわく、グレイラット家を中心としたレオの縄張りにいる犬なり猫なりの統率をとっている……らしいのだがよく分からん。
まあ、あまり買い物に行かない俺でも市場で盗みを働く犬猫が減ったような気がするんだし上手くいっているんだろう。
犬や猫にもそれぞれの世界があるというわけだ。
他に思い当たる猫というと……リニアとプルセナがエリスにオモチャにされているとかだ。
でもエリスも子供を産んでからリニプルコンビを抱き枕として呼びつけたりしなくなったしなあ……。
借金はアイシャにしっかり管理させているからわざわざ家に来る理由もないし。
そんな事を考えつつ、声の元が中にいると思われるリビングのドアを開いた。
「パパ!」
振り向きざまに一閃。
母であるエリスに負けず劣らずの速度で振り向いて、まぶしい笑顔で末っ子のクリスが俺を出迎えてくれる。
そのクリスを膝に乗せていたエリスは普段と違い、非常にゆっくりと振り向いた。
顔を真っ赤にして。
「……ルーデウス」
「あいさ」
「…………聞こえてた?」
「我が家にはずいぶんと可愛らしい猫がいたようで」
エリスの顔の赤みは最高潮だろう。
ゆらゆらと髪が揺れだしたが、膝の上のクリスを放り投げる訳にもいかず、手を握っては開いて、開いては握って。
「ママがね、にゃーんにゃーんって言いながら猫さんの事を教えてくれたの!」
「そりゃあよかった」
えへへ、と笑うクリスの頭を撫でつつエリスの横へ腰かける。
小難しい文章しか書かれていないとはいえ、猫の図鑑も写真の無いこの世界では読み手しだいで立派に絵本になりうるという事だ。
クリスもエリス程ではないようだが猫は好きらしい。
親子揃って好きなものを下地にして文字が勉強出来るのは良い事だ。
エリスの場合は新たに学習するというよりは思い出すという感じだけど。
「パパも一緒に読んで?」
「ああ、もちろん」
せっかくだから髪を解いてボレアス流のお願い術を実演してクリスにも伝授するべきだろうか。
クリスならきっとノリノリでにゃんにゃん言ってくれるだろう。
エリスはいい顔をしないかもしれないけれど、もうこのふざけたお願いの仕方を覚えているのも俺とエリスくらいだし。
ギレーヌがそんな事をする機会はないだろうし。
うん。
やろう。
●
親子三人でにゃんにゃん言ってたらいつのまにか人が集まり、大勢でにゃんにゃん言っていた。
エリスは、アレはとっておきだから嫌よ、と言って再演してくれなかったので、俺が代わりにツインテールを作りにゃんにゃん言っておいた。
クリスが大きくなったらどこかの誰かに使う時がくるのだろうか。
……今は想像したくないな。
その日の晩?
エリスににゃんにゃん鳴かされましたとも。
昔と違って彼も乱暴じゃ無くなってきたから、単純に体力負けしちゃってなんだか悔しいわ、アタシ。
●
「という訳で今パパにおねだりするならこの方法がアツイ……と思う」
「……いやボクパパにそんな事しないし……出来ないし」
ララがやれやれといった感じの仕草で首を振る。
別にパパにお願いしないと手に入らないような物を欲しいとも思わないし、パパを頼るのは我が家では本当に最後の手段なのだ。
それを選んで……がっかりされたらと思うと怖い。
だからもっと方法があるハズだと思ってしまう。
そもそもそんな状況になった事無いけど。
「……ルー姉がどう思ってるかは知らないけど溜め込んで爆発させてもパパが傷つくだけだと思うよ」
「……何それ。意味分かんない」