無職転生の幕間   作:綴りの違うウサギ

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不意をつかれる

 「ルーデウス」

 

 突然後ろから声をかけられたせいで心臓が口から飛び出した。

 可哀想なルーデウスハート。

 この後エリスはちゃんと元に戻してくれるのかしら。

 

 「なんだよエリ──」

 

 エリスが部屋に入ってきた時の気配には気が付かなかった。

 俺自身がソファーに座って気を抜いていたとはいえ、エリスみたいに背やら何やらが大きい人が部屋に入ってきて気付かないという事はまずない。

 恐らく俺が気付けないような速さで近付いてきたのだ。

 

 どうしてそんな事を。

 勢いよく押し倒されたりするのだろうか。

 こんな明るいうちから?

 

 そんな事を考えながら振り向いて、思わず声が出た。

 

 「ふぉわ!?」

 

 エリスの顔がすぐそこにあった。

 鼻が触れ合い、髪がかかるほど近いところに。

 シルフィの買ってきたカラフルで甘い匂いの石鹸の香りが漂ってくる。

 俺も同じ物を使っているはずなのにエリスからいい匂いがすると思うのはなんでだろう。

 

 「……何突然大きい声出してるのよ」

 「……振り向いたらすぐそこにエリスの顔があったから?」

 

 何故の疑問形なのか。

 視線が泳ぎ、顔が熱くなる。

 クソッ。ウブなネンネじゃあるまいし、今更何を動揺してるんだ俺は。

 

 「ふうん」

 

 分かったわ、とは言わない。

 目付きも狩る側のものへと変わっている。

 このまま押さえつけられるようになってズルズルと行為に至ってしまうのだろうか。

 誰が部屋に来るかも分からないのに。

 

 「んっ……」

 

 頬に手を伸ばされて息を吐いただけのような声が漏れる。

 シルフィやロキシーも俺に突然キスされそうになったらこんな風に微妙に緊張したりしてたっけか。

 

 「……あれ?」

 

 エリスの口は俺の口の横を通り抜けて頬へ向かい、軽く触れて離れていった。

 

 「お風呂。空いたから、ララとかと一緒に入ってちょうだい」

 「……あ、ああ、うん」

 

 拍子抜けとでもいうように体から熱が覚めていく。

 盛り上げるだけ盛り上げておいての、らしくない対応。

 

 「弄ばれた……?」

 

 ●

 

 「わたしが赤ママにやってみせてって言った」

 

 見せて貸して触らせてってか。

 

 「パパが恋する乙女みたいに赤面するところが見たかったのか?」

 「それは違う」

 

 ですよねー。

 

 「赤ママがパパに気付かれないように近付く事が出来るっていうから、見せてって言った」

 

 私ならそれくらい出来るんだから、って言ったんだろうか。

 言ったんだろうな。

 

 子供達にヨイショされて素直に言うことを聞いてしまうエリス。

 将来言いくるめられたりしないといいけど。

 

 「ララはどうしてそんなの見せてもらおうと思ったんだ?」

 「イタズラに活用出来ると思った」

 

 愛しの我が子はちっちゃな頃から悪ガキです。

 

 「真似出来そうかい?」

 「無理。レオでもあんなに早く動けない」

 

 そりゃそうだ。

 

 「エリスは剣王だからな。誰でも出来る事じゃないよ」

 「むぅ」

 

 遥かな実力差に対して諦めではなく悔しさを滲ませるララ。

 よしよし、その悔しさは次への原動力にしたまへ。

 

 「多分パパに気付かれずに近付くやつが出来ないと赤ママから合格が貰えないと思うから頑張る」

 

 ルーシーはそんな事しなかったけどなあ……。

 下の子達が真似すると俺は最低五人に驚かされる事になるんだけど。

 

 「俺じゃなくてエリスにやればいいじゃないか」

 「赤ママは切られそうになると思う」

 

 綺麗に寸止めを決められるか、素手であしらわれるだろうな。

 

 「シルフィやロキシーは?」

 「白ママはご飯に関わるから無理。青ママは普段どんくさいけどそういう時はしっかりしてるから無理」

 「……なんでパパはいいんだ」

 「パパは私達相手だと油断してると思う」

 

 なんと複雑な理由なんだ。

 

 「子供達の方から来てくれると嬉しいでしょ?」

 「……おう」

 

 俺の答えに対してララは小悪魔っぽく鼻を鳴らして応える。

 ……チョロいとか思われてんのかな。

 

 「パパからしてみれば子供達との触れ合いが増えるし、返り討ちにしてパパ凄いアピールも出来るじゃん?」

 「……お気遣いドーモ」

 

 ●

 

 「これでルー姉も騒ぎに便乗してクリスみたいに思いっきりパパに抱き付けるって訳」

 「そんな事しないし……」

 「ララ姉私はー?」

 「ん、クリスは今まで通りパパに引っ付いてあげな」

 「やった! ララ姉大好き!」

 「ほめても何も出ないよ」

 「別にいいもーん」

 

 そう言ってクリスは部屋から出ていく。

 きっとまたパパの所へ行くのだろう。

 

 パパいわく、赤ママの子供の頃とゼニスおばあちゃんを足したのがクリスの性格だという。

 でも赤ママの方は否定していたし、常にクリスみたいな感じゃ無かったとか、パパからはそう見えただけ、とかそんな感じだと思う。

 パパがママ達を好き過ぎるのは娘の私から見ても分かるし。

 そういう補正がかかって見えてても仕方ないよね。

 

 ゼニスおばあちゃんの方は「そうだったかしら」なんて言いながらニコニコしていた。

 私とレオ以外と上手く喋れないのは大変そうだけど孫が六人もいるお陰か毎日楽しそうで何よりだと思う。

 

 「ボクもうそういう事するような年でもないしね」

 「まーたそういう言い訳を……」

 「ララにはお姉ちゃんの悩みなんか分かんないよ」

 

 レオみたいな唯一無二の相談相手だっているし。

 たとえ事実でもそこまで言われるとちょっとカチンときた。

 

 「でもルー姉だって未来の救世主扱いされてる妹の悩みなんか分かんないよね?」

 「……ララに悩みとかあるの?」

 「なっ……あるし!」

 「たとえば?」

 

 たとえば……なんだろう。

 

 「効率的に授業をサボる方法……とか」

 「救世主関係ないじゃん。青ママに言っとくからね」

 「ちょ!? お姉様お慈悲を!」

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