無職転生の幕間   作:綴りの違うウサギ

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そんな物食べようとは思わない

 海産資源をそりに乗せてえっちらおっちら運ぶ自分のことをふと考えて、こういう食への執念は元日本人らしい所なのかな、と思ったりした。

 

 大して海に近くもない我が町に珍しく冷やされた魚が売られていたとしても、立地の都合上それはたいてい淡水魚で、制覇するのに対して時間はかからなかった。

 

 我が家の調理人達は、魚を刺身にして鬼水こと醤油に付けて食べるジャパニーズスタイルを『冒険者生活で産まれた雑な調理方法』と切り捨てた。

 

 俺に魚を綺麗に切って盛り付ける技術があればそんな事を言われることはなかっただろうが、日頃の包丁さばきですら敵わないのに俺にそんな事が出来る訳もなく。

 解毒に合わせて寄生虫対策の冷凍期間をしっかり挟んだ物ですら微妙な顔をされてしまう始末。

 

 元冒険者であり魔大陸飯を食してきたエリスとロキシーは、中々悪くないとの評価をしてくれたが、この二人は大抵の物は平らげてくれるから評価の基準にしづらい。

 

 レオなんかもうまそうに食べてくれたが、子供達はそうでもなくて。

 小さいうちからメイド親子とシルフィの手料理を食べていれば俺の用意する食事がハードモードに見えるのは仕方ない。

 

 だったら喜んでくれるヤツの所に持っていこう。

 

 ●

 

 「すっごい綺麗に切ってあったけどもしかしてスーパーのパックのお刺身でも買ってきたの?」

 「そんな訳ないだろ……」

 

 そんなもん売ってたら買い占めるわ。

 

 「アイシャがやってくれたんだよ。『お兄ちゃんがやるとグチャグチャになっちゃうから』って言ってさ」

 「アイシャちゃんならまあ、当然ってところね」

 

 刺身に食べなれていて、俺と同じくそれに飢えているだろうナナホシ。

 おまけにここには食にうるさいヤツもいる。

 「貴様は相変わらず戦の最中のような粗雑な食事を好むのだな」と嫌味を残しつつもきっちり完食して去っていったが。

 

 「刺身から刺身こんにゃくとか思い出しちゃったけど流石にアイシャちゃんでも無理よね……」

 「インターネットにさえ触れられれば出来そうだけどな」

 

 元引きこもりと女子高生がこんにゃくの複雑な製造方法を知っている訳もなく。

 

 いくらなんでもこれを食べるのはどうなんだとか、何をどうしたらコレを作って食べようと思ったんだろうなんて物は日本に限らず多くある。

 恐らく生活環境のいざこざが背景にあるんだろうが今の俺には知りようもなし。

 

 「美味しい物が食べられればなんでもいいわよ。私も、ペルギウスもね」

 

 ちゃっかり私もとか言ってんじゃねえ。

 

 最近のナナホシはウチの家族、主に子供達から見て遠い親戚のおばちゃんみたいというか、家族とは違う視点を仰ぐ相談窓口のようになっている。

 その分俺やシルフィに甘え気味というか。

 別に悪い気はしないし、いいんだけれど。

 

 「でも魚って言ったらやっぱりアレよね」

 「アレ?」

 「どら猫」

 

 ●

 

 流石にお魚咥えて逃げてみろとは言わない。

 

 少々おバカではあるが傭兵団を上手くまとめてくれてはいるし、ウチのレオのお世話係だし。

 お世話してるの見たことねえけど。

 

 「どうなんだデドルディア」

 「こういう魚の食べ方は悪くないとはおもうけどそれまでニャ」

 

 種族が猫っぽいからって好みが近いとは限らないか。

 というかこれ言い出したら人間なんて猿に近いんだから皆バナナ好き、みたいな暴論を振りかざしているのと同じ様な気がしてきた。

 

 「ボスは世界中飛び回ってるんだからそういう他種族への偏見は無くした方がいいと思うニャ」

 「言ってることは正しいけどお前に言われるなんかムカつく」

 「ニャ!?」

 

 ……こういうのもよくないか。

 

 「いや、すまん。勉強になったわ」

 「あちしがボスに何かを教えるなんて変な気分だけど素直に感謝されておくニャ」

 

 一言余計なヤツめ。

 

 「ウチの子に変な事教えたりすんなよ」

 「…………」

 

 目を反らしやがった。

 グレイラット家に悪巧みを仕掛けてもコイツに益は無いだろうし……。

 エリスの抱き締め方がだいぶ改善されてきたとはいえ怖いことには変わりないだろうし。

 

 「……ララあたりか」

 

 聞こえやすいように探りを入れてやると、実に分かりやすくリニアの目が泳ぐ。

 

 「言いたくないならしょうがない。エリスに来てもらおう」

 「後生ニャ、ボス。あちしはララ様の相談に乗っただけで直接悪い事はしてないニャ……」

 「言い訳はエリスが聞く」

 「話だけでも聞いてニャー!!」

 

 あまりにも嫌がるのでとりあえず話だけ聞いてやるとこうだ。

 正確にはリニアだけでなくプルセナも一緒に相談にのったと。

 二人の普段の素行と昔の話を聞いて、何かいいイタズラのアイデアは無いかと聞きに来たのだと言う。

 

 「それでどんなアイデアをくれてやったんだ?」

 「その……ボスが吠魔術の真似みたいな事が出来るからララ様も出来るんじゃないかニャ? って言ったのニャ」

 「実際問題ララは吠魔術を使えそうなのか?」

 「いやー、アレ慣れれば簡単ニャんだけど、慣れるまでけっこうかかるからそんニャ簡単には出来ないと思うニャ」

 

 口笛みたいなもんか。

 

 「レオからも教わったりしてると思うか?」

 「聖獣様も使えると思うけど……正直使ってるとこ見たことないから分からんニャ」

 

 それもそうか。

 

 「それなら今回はみのがしてやるが、もしも大きな被害が出たら一晩中エリスに抱き締めさせるからな」

 「そこらへんはあちしもプルセナもララ様もわきまえてるニャ。あちしだってボスに怒られるのは怖いからニャ」

 「それならいいけどよ」

 

 ●

 

 後日、ララが突然大きな声を出して家族がビックリするという事があった。

 

 ゼニスはちゃっかり自分だけ耳を塞いでいたので何をするのか事前にこっそり聞いていたんだと思う。

 

 吠魔術特有のふらつく感じがなかった事と、皆の視線を浴びて顔を赤くしながらなんでもないと言っていたララを見て失敗した事に気がついた。

 

 実はちゃっかりマスターしているのでもし相談されたらコツを教えてやろう。

 …………ミグルド族の声帯って人族とたいして変わらないよな?

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