本屋に行くとウン──大きい花を摘みに行きたくなるというのは、青木なんとかとかいう女性の名前から取った現象だっただろうか。
もちろんこの世界に彼女は居ないだろうけれど、図書館の入口近くにトイレがあった事からそういう生理的な感覚は世界共通なんだと思われる。この世界でも誰かの名前を拝借して現象名にしているのだろうか。俺は絶対にそんな事で歴史に名を残したくないが。
「フィッツ先輩もトイレに行かれたりするんですか?」
「えっ!?」
どうやら行かないらしい。
やはり学園規模とはいえアイドルというのは生物として違うようだ。
「いやトイレくらい行くから! ルーデウス君はボクをなんだと思ってるのさ……」
「王子様ですかね」
女生徒がフィッツ先輩に向ける眼差しはルークに対するそれとはまるで違う。
ルークは会いに行けるしお眼鏡にかなえば一晩を共にする事が出来るという距離感のバグったアイドル。
逆にフィッツ先輩は神々しさに溢れており、触れる事は愚か近付くことも許されない高貴な存在。
では今隣にいる俺はというと、関わったら殺されかねない冒険者上がりのバケモノ……とは言われなくなったが、友達百人作らなければいけない時であっても絶対にカウントしたくないヤツらしい。
俺だってお前らなんかに頼まれても富士山の上で一緒におにぎり食べてあげないんだからね!
「王子様って……ボクはそんなんじゃないよ」
「もうオーラからして神々しい。僕のような田舎の村生まれで冒険者上がりの下賤な輩とは違いますからね」
「そんな事ないと思うけどな……」
フィッツ先輩には珍しく、口を尖らせながら拗ねたように耳に触れる。持ち上げ過ぎて照れてしまったのだろうか。もしくは俺が卑屈過ぎて気に触ったか。
そうならここは謝らないのが正解。
俺という友人を貶されて怒ったのなら何か言った方がいいかもしれないが。
「ちゃんとルーデウス君の事を好きな人は、居ると思うよ」
「そうですかね」
童貞とお別れした以上前世よりも進歩はしているが、どうにも異性が絡むと今のところ失敗続きだ。この体で四半世紀も生きていないのにそっち方面のトラウマは増えるばかり。息子が再びリングに立つ日は来るのだろうか。
「…………例えばボクとか」
「…………フィッツ先輩は同性相手でもイケる口ですか」
「そういう意味じゃないよ!」
つまり親愛という事だ。
そういう意味なら特別生クラスのやつらもそんな感じかもしれない。
「でしたら僕もフィッツ先輩が好きですよ。同じですね」
「うえっ!?」
「驚くくらいなら自分で言わないでくださいよ……」
「あっ、ご、ごめん……?」
「謝らなくても大丈夫です」
要は元気付けてくれた訳だ。
キミは一人じゃないよ、と。
「処世術とはいえ卑屈過ぎてもいけませんね。次からはフィッツ先輩に気を使わせないよう頑張ります」
「ああ、うん。そうしてくれると助かるかな……」
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「好きって言って、好きって言われたのにまた勘違いされた……」
「つまりどういう事ですか?」
「シルフィはまた失敗した、という事です」