迷いは足手まといであるから捨てろ、だけどそれは考えることを止める事ではないとエリスは言う。
剣神流を体現した良い言葉だ。
これが水神流ならば慌てず乱れずとなり、北神流なら死をも恐れず唯勝つのみとなるのだろうか。極めた人に師事したことないから知らんけど。
やられる前にやる事を目指す剣神流は実にエリスにピッタリだ。だが全てその通りに出来るほど人生甘くはない。
そこでゴリアーデ……ではなく合理である。
合理主義の果てにたどり着く、一切の無駄を省いた必殺の一刀、光の太刀。
……これですら凌がれる事もあるんだから世界は広く恐ろしい。
ひとまずウチの夫は必殺の一撃を放つ事が出来る。俺は無理。だから状況の打開にまごつく。
だって名は体を表す代表作が泥沼だぜ? おまけに剣での実戦なんてほとんど無いといってもいい。
何故人が刃物より銃を使うようになったのか。自分が目の前の相手を殺したという罪の意識から逃れたいからだ。
だから俺も遠距離から攻撃できる魔術を覚えた……訳では当然無いが。
体質的にも性格的にも遠距離戦の方が向いてるのだ。北神三世相手に格闘戦を挑んだ俺が言うことじゃないかもしれないが。
そんな事が出来たのも魔道鎧のお陰だし。剥き身の俺が剣を振るう事態なんてのは最悪の状況なのだがそれはそれ。鍛えた体は裏切らないしね。
それでもルーシーに剣が吹っ飛ばされた時は驚いた。単純に力負けしてしまうアルスやジークではなく、ルーシーにだ。
「ボクだってちゃんと鍛えてるんだよ?」
自信満々に言った後、小さな声で「あっ」と漏らして少し気まずそうに頬を掻いた。
「別にパパの鍛え方が足りないとか思った訳じゃなくてさ……」
「分かってる。俺に無い物をルーシーが持ってる証じゃないか。よくやったな」
褒められ、照れて耳に触れる仕草はシルフィに瓜二つだ。髪の色は違えど、二人が親子である何よりの証だろう。
「家事の合間を縫って剣の稽古を?」
「もちろん、魔術もね。」
家族のために頑張ろうとするパパの気持ちがちょっと分かってきたよ、なんて言われると気恥ずかしい。後悔しないために全力で物事に取り組む事を信条にしたとはいえ、体を鍛える事を現実逃避の手段にしていた時もあったから。
ルーシーにとっては子供の頃からの習慣だったとはいえ、父や母のように肩書に直結するほどの成果を上げられなかったのは気にする所であったのかもしれない。
学校では何かしらの呼び名があったのかも知れないけれどそれは俺の知るところではないし、ルーシーも恥ずかしがって教えてくれないだろう。……シルフィ達は知ってそうだし、こういうのも父娘のコミュニケーション不足っていうのかな。
結果や成功の見つからない稽古ほどつまらない物は無いと思うが、理由が見つかればやる気を落とさずにいられる。
ルーシーとってそれは俺と同じで家族の為だったという事なのだろう。やはり母になった女性は強い。
「危ない事があったら無理せずパパを呼ぶんだぞ? 魔道鎧を着こんで街の一つくらいならブッ飛ばしてやるからな」
「パパはホントにやりそうだからやめてよね……」
本当にそんな事態になったら俺よりもエリスが憤慨するだろうから、俺はちょっと落ち着きを取り戻したりするんだろうけど。
「そんじゃ剣も作り直したし、もう一本やるか」
「木刀じゃなくて手製の石剣って事はもしかしなくても剣飛ばされたの気にしてるよね……?」
「……こんどは魔術アリでやるか」
「パパ卑怯! またアイシャ姉に怒られるよ!」
うるせえ、俺にも筋肉のプライドがあるんじゃ!
泥まみれになった庭の一つや二つ、俺が魔術でパパッと片付け……てもアイシャにはバレるんだよな。しかもしまいにはシルフィにチクるし。
まあ大丈夫だろ! アイシャがタイミングよく帰ってくる事なんてないだろうし!
「どろぬ──」
「たっだいまー! 皆元気にしてたー!? アイシャお姉ちゃんですよー!」
門の辺りから響く声。
さらば俺のプライド。