目は口ほどに物を言う、と聞く。
心を映す、とも。
これは俺の世界の言葉であるが、考え方としてはこの世界でも変わらないと思う。
エリスの様に感情表現のハッキリした人でなくとも、現在の目付きでどんな気分かある程度分か――いや、俺はエリスの事を分かっていると思っていただけで結局分かってなかった。
だからってこのことわざが間違っていると断じる事が出来るほど俺は自分の主張を持っている訳じゃないけれど。
目が釣り上がっている人がいれば不機嫌なのかもしれないと距離を置いたりするし。
「ルーデウス君はこの下、気になる?」
だからフィッツ先輩にこう言われた時はちょっと困ってしまった。
気になると言えば気になる。
人前で言葉を発する事が無いとまで言われているこの人が、俺の前では感情をあけっぴろげにしてくれている上に、やたらと距離感が近い。
長い付き合いでもないのにやたらと信用を得ていて、恐らく秘密にしているような事を打ち明けるような素振りのこの提案。
……怪しい。
王女の護衛という立場の人間が俺みたいな木っ端冒険者にわざわざ近付いてくるだろうか、という疑問もある。
入学試験のアレがやっぱり尾を引いているのだろうか。
戦力として利用できそうだ、みたいな。
今は自分の事で手一杯だし、我が息子の問題が解決したら今度は母を探して三千里という問題がある。悪いが王女様に構っている場合ではない。
「フィッツ先輩、これは僕の持論なのですが」
「普段眼鏡をかけている人の眼鏡をとるということは、その人の魅力を一つ欠くという事だと思うのです」
男同士なのになにやら緊張していたのか、身構えていたフィッツ先輩から気の抜けるような声が聞こえた。
「何か事情があってそのサングラスをかけているんでしょう?」
「えっと……まあ、そうだね」
「だったら無理に外すことはありませんよ」
視線を隠せるのは大きなアドバンテージになる。
どうせなら仮面でも付けて口元も隠しちゃえば? とか思うけど何か理由があるんだろう。
俺に貴族の思考は分からん。
「無理……じゃないんだけどさ」
「そうなんですか?」
わざわざ外して見せたがる理由が思いつかない。
もしかしてサングラスの向こうには相手の言うことをきかせる様に操る事が出来る魔眼があったりして俺相手に使うには後ろめたい気持ちがあるからこんな事を……無いよな。
王女の護衛なんだからそれくらい持っていても不思議じゃないが、だったら俺にこんなに入れ込まないハズだ。
自分が苦しくなるだけだし。
ただ、今まで俺に見せていた姿が全て演技で「君との友達ごっこは楽しかったよ」とか言われちゃったら泣く。
相棒どころか心が完全に再起不能ノックダウンだ。
「だからもしルーデウス君がサングラスを外して欲しくなったらいつでも言って」
「――――覚悟はしておくから」
「は、はい……」
覚悟が必要な事に深入りする心構えが俺にあるだろうか、と思いながらフィッツ先輩を見送る。
気にはなるけど、一周回って怖くなってきた。
もしかしてあのサングラスを外すことは俺にとってパンドラの箱を開ける事になるのだろうか。
ブルっちまうぜ。
●
「なんでそこまでいってサングラスを外さないんだ」
「そんなの無理だよ!」
「ちょっと手でズラすだけでいいだろうが……」
「ルークには分かんないよ!」
「……シルフィがルーデウスと再会できるのはまだまだ先のようですね」