無職転生の幕間   作:綴りの違うウサギ

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君に夢中

 洋風建築であるグレイラット邸には床に座るという文化が基本的にはなく、基本的には父親が正座をして嫁のお叱りを頂く時に見られる光景である。

 

 もしくは子供達が怒られる時。

 

 ●

 

 「リリはどうやってあそこまでシルフィ怒らせたんだ……?」

 

 怒耳、天をつくといった感じで耳が角のように上を向いている。

 

 「お皿を割っちゃったんだよ」

 「怪我がなくて良かったじゃないか」

 「一枚や二枚じゃなくて家のお皿ほとんどね」

 「え」

 

 説明してくれたアイシャもちょっぴり怒っているようだ。

 

 我が家の食器はルーデウス印の魔力原産となっているお陰で金銭的負担は無いものの、割るにしろ片付けるにしろ相当めんどくさい事は想像がつく。

 

 「しかしなんでまたそんな事を」

 

 早めの反抗期か。家の皿を壊しまわって卒業するつもりだったのか。

 成人もまだなのにパパは許さないぞ!

 

 「この前お兄ちゃんがお皿治してるのリリが見てたでしょ」

 

 どんなに気をつけていても形あるものはいつか壊れる。

 皆が怪我をしないようにそこらの皿よりは頑丈にしてあるつもりだが、限度があるのだ。

 頑丈にしすぎるとメチャクチャ重くなって筋トレ用とかになっちゃうし。

 

 「確かに遠巻きに見てたな」

 

 危ないから膝の上での見学を禁止し、肩から覗いたり脇から顔を出すのもNGとした。

 可愛いおめめに破片でも入ったら親御さんに合わせる顔がない、と言ったらようやく安全な距離とってくれた。

 その内保護メガネでも用意してあげようかね。

 

 「その作業がパズルみたいに見えたんだってさ」

 

 金継ぎ職人になったルーデウスを見て娘は弟子入りすることなく自分でやってみようとした訳だ。

 

 結果どうなるかまで想像してないうかつな感じがロキシーと俺の娘っぽい。

 

 新しい事に挑戦しようとして失敗したのとはちょっと違う。

 やり方が悪いという事はきちんと理解してもらわないといけない。

 

 「伝わるかな、ちゃんと」

 「伝わるよ」

 

 俺よりリリを見てきたアイシャの言葉には自信を感じる。

 

 「お兄ちゃんとロキシー先生の子だもん」

 

 ●

 

 リリが危なっかしいのは産まれてからずっとだ。

 

 興味を示した物はなんでも触り掴み、口に含んで吐き出す。

 ハイハイで縦横無尽に駆け回り、恐れず頭から飛び込む。

 剣の訓練をしない内から治癒と解毒のお世話になりっぱなし。

 傍から見ててハラハラするのは母親譲りか。

 落ち着きは全て姉のララに吸い取られてしまったのか。

 ララは落ち着き過ぎて尻を蹴られたりしてるが。

 

 「どうにかしないとな」

 「何をですか?」

 

 くりくりおめめが俺を見上げる。

 澄んだ瞳には悩みなんてなさそうだ。

 

 「怪我の防止」

 「白ママのお得意ですか?」

 「そうでもないさ」

 

 興味をうまく安全な方に誘導してやりたい。

 そういうモノが揃っていそうな所に協力を仰ぐ。

 

 「たのもーう!」

 

 ●

 

 「壊すことが本意でないのならそちらに注力できるようにしましょう」

 

 皿割り娘の悩みを相談に来たのはザノバ人形商店。

 壊しの先輩の話を聞こうと思ったのだ。

 

 割れた皿を治してほめられようとした訳ではなく、欠片の形状分析と再結合の達成感。

 突飛な行動に見えるが実に子供らしくて可愛いではありませぬかとザノバは笑い飛ばす。

 

 「こちらを」

 

 ザノバが差し出したの寄木のからくり箱……に見えるが木から作られたようには見えない。

 

 「余が強く握りしめても壊れぬ程の剛性です」

 「そんな材料があったのか?」

 「内側に魔法陣が掘られているのです。オルステッド殿が何かの助けになればと」

 

 リリの手に収まるサイズなのでたいした物は入れられないし、中の物を取り出そうにも時間がかかる。手慰みには丁度いいくらいか。

 

 「いくつか種類がありますので、まずはこれを分解し元通りに組み立てさせるのはどうでしょう」

 「魔術を使うのはダメですか?」

 「おそらく効果がないでしょうな」

 

 失礼、と言ってリリから箱を受け取ったザノバはリリから見えぬように箱を解きほぐしていった。

 

 「魔術なしでここまで分解できます」

 「わぁ……」

 

 かつてのザノバからは想像できないほど器用な分解っぷり。ここまで出来るには眠れない夜もあっただろう。

 

 「すごいな」

 「師匠とジュリのおかげです」

 

 褒められて悪い気はしない。

 余生と呼ぶには早すぎるが、ザノバも日々を楽しんでいるようだ。

 

 ●

 

 リリはそれから生返事がさらに増えた……ような気がするが、元からそんな感じだったかもしれない。

 

 パパも手伝おうか、なんて言っても箱に触れる事すら許してもらえなかった。

 

 休みの父親を構ってくれるのなんて一番下の子とペットだけって事さ。

 

 ●

 

 新しい仕事は来る。その間にも子供は成長する。

 

 リリが借りていたからくり箱はいつの間にか別の箱へと変わっていた。

 

 「ご覧ください、師匠」

 「これは……この前リリが借りてたやつか?」

 「ええ、面白い発見をいたしましたのでぜひ師匠に報告しようと」

 

 ザノバはあの時と変わらず昔の不器用さを感じさせる事なく滑らかな動きで箱を分解していく。

 

 「お分かりですか?」

 

 ……なんだろう。

 ザノバの分解速度が上がったとかだろうか。

 ルービックキューブみたいに大会があったりして、リリと一緒に出場しようとしてるとかそんな話だろうか。

 

 「仕掛けが増えているのです」

 「……マジ?」

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