音もなく切られた大王陸亀の首が落ちていく。
苦痛を感じる暇もなかっただろう。
もしかしたらアイツはまだ自分が死んだことに気づいていないかもしれない。
その証拠に切り落とされた首も残された四肢も何事もなかったように動こうとしている。
何度も食べた相手ではあるが相変わらずいい気分ではない。
でもこの気持ちは忘れなくていい。
グレイラット家の血肉となってくれ。
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亀の処理方法はアイシャ先生に師事してきた。
エリスなら甲羅を紙切れのようにスパスパ切ってしまえるだろうが、うっかり内臓までぶった切ってしまうと大惨事になってしまう。
アイシャ先生も「お兄ちゃん人の話聞いてた?」とお怒りになるだろう。
「ルーデウスに切れるの?」
「フッ、男の子の腕力を舐めちゃイカンよエリス君」
亀の甲羅は裏側の繋ぎが薄いところを金切りハサミでサクッと…………切れねえ。
「エリスさんや」
剣が収まる音と共に甲羅の裏側がペロリとめくれていた。後で頭を撫でてやろう。
首を落とされ甲羅も剥がされてしまったのに変わらずしぶとく手足を動かす大王陸亀君だったが、足を取り外し内臓を処理していく内に静かになっていった。
静かになっただけでいつまでたっても動き続けている部位はある。
心臓とか。
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煮ても焼いてもゴム長靴の底だった大王陸亀をおいしくいただこうリベンジ。
今宵は私ルーデウスが台所で頭を下げるシーンから始まります。
現地で寝食を忘れて熱湯での下処理を行いつつエリスに味見を手伝ってもらい、巨大な亀を持って帰れる大きさにまで減らしてきた。
なぜ持って帰ってきたかって?
皆にもこの味を味わってほしいと思ったからです。
エリスは優しいですね。
アイシャから「まだまだ下処理が甘い」とのお叱りを受け反省。
大王陸亀の大きさ的に処理が甘くなってしまった事を説明すると分かってもらえた。
妹の優しさが染みるぜ。
煮込まれた亀の肉からゴム臭さが抜けて肉らしく食欲を誘う香りがしてきた。
これが本当にあの大王陸亀なのだろうか。
荒廃した魔大陸から飛び出した大王陸亀君は初めて来る異国の地でかわいいメイドさんに調理され、色鮮やかな野菜に囲まれながら煮込まれてご満悦である。
首のない亀がご満悦なわけあるかってんだ。
素材は相変わらず悪いが、かつて俺が作った焼いた大王陸亀に香辛料をひたすらまぶした物に比べればはるかに食べられる味だ。
ロキシーもビックリ仰天大騒ぎ。
「これがあの大王陸亀とは想像できませんね」
魔大陸を飛び出してすっかり舌の肥えてしまったロキシーに褒められて大王陸亀も幸せだろう。
思い出の味とは違うけどこれでいいだろう。
思い出の味マズイもん。
家族からもおおむね好評であった。
マズい大王陸亀、ウマい大王陸亀。
どちらを食べさせても俺としては美味しい結果になったので、今回は良き父親の話としてよしとしよう。