「パパ、そろそろ街の外に出ない?」
この言葉はジークからの合図。
庭先での準備運動は終わったから、近隣住民に迷惑がかからないよう郊外で盛大におっ始めようというもの。
次男坊の遠慮が減った。
良い意味でも悪い意味でも。
街の外に出る前から勝負は始まる。
どちらが先に街の外にたどり着けるか。
男は何でも勝負したがるもんだ――アルスには否定されてしまったが。
でもエリスは理解してくれた。流石アタシの自慢の旦那サマ。話がわかるぅ。
……アルス最近どんどん王子様みたいになってんだよな。
ルークと違って一途だから少女漫画のキャラみたいでお父さんは眩しいぞ息子よ。
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子供の成長を喜んでいる内に俺の体はシャリーア郊外に降り立った。
毎度庭先に人間砲弾専用簡易カタパルトを作り出していては苦情が殺到していたので、重力をひっくり返す練習を兼ねてすっ飛んで来たのだ。
風を操り姿勢を制御するのはさほど難しくなく、音速の壁を破るのも時間の問題かと思っていたが、魔導鎧必須な上に高速で目にゴミが入ると超痛い事に気付いて断念した。
成層圏からダイブする勇気は俺にはない。
ジークの到着が俺より遅いのには理由がある。
障害物の少ない街の屋根上を駆け抜けてはいるが、踏み込みすぎて踏み抜かないよう慎重なのだ。
訓練で街に迷惑はかけない。
優しいね。
「人玉が飛んできたな」
緑色の残像が玉のあちこちに見える事から分かるようにあの玉はジークだ。
四肢を振り回してどこから岩砲弾を撃たれても迎撃する。
岩の柱でどついても粉砕する。
バケモンですぜありゃ。
だから俺は岩砲弾で玉の端の方を擦るように連射する。
相手が嫌がる事を積極的に行うのは勝負の基本だよ明智君。
この程度では平衡感覚を失ってはくれず、岩の剣山もほぼ意味がない。
無事に家へ帰りたいね、今日も。
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「門番さん、ありゃなんだい」
シャリーアの門番はこの街を初めて訪れた商人のよくある質問にいつも通りの返事を返す。
ありゃグレイラットさん家の大旦那だよ。
今日は緑色が見えるから相手は次男坊だね。
見に行ってもいいけど自己責任だぜ。
「いや、遠慮しとくよ。命は惜しいからね」
あれが魔導王か……と言いながら去っていくのもお決まりの流れ。
勇気があるやつは龍神様の度胸試しの話も聞いていく。
大の大人でも白昼堂々失禁できる人気コースだ。
あの区画じゃ野良の犬猫より人間の漏らした小便の方が多いだろう。
……向こうが静かになった。
今日の分は終わったようだ。
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「今日も俺の勝ちのようだな、ジーク」
「……素っ裸で恥ずかしくないんですか」
「俺の息子はどこに出しても恥ずかしくないからな!」
死闘だった。
いくら治癒魔術で身体を治しても、燃えたり切り裂かれた服は治らない。
失った物は元には戻らない。
「家まで隠れながら帰るしかありませんね……」
いや。
「吹っ飛んでいこう」
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「……なんで家の主が裏口から帰るんですか?」
「服を二人分オシャカにしちまった上に、明日から空飛ぶ二人の筋肉ダルマの噂が街に流れるかもしれないからな」
自然と一つになるんだジーク。
さっきビートに枝葉を強めに揺らして俺達の帰宅音が目立たないようにしておいてくれと頼んだ。
俺達が素っ裸だったせいで慌てて門を開けてくれた上に葉っぱを分けてくれたビート。
助かったけど俺達は葉っぱ一枚あれば良いわけじゃない。
「ジーク、マズそうだったら俺の部屋に直接――」
「直接、何?」
「シルフィ!?」
一番見つかってはいけない人に見つかった!
「待ってくれシルフィ! お叱りは聞くからせめてジークだけは……」
「ジーク? どこにもいないけど?」
「あれぇ?」
俺が頼むまでもなくジークはどこかへ逃げていた。
ウチの子なら隠れ家の一つや二つ持っているのだろう。
俺も馬鹿正直に家にまっすぐ帰るんじゃなかった。
「じゃ、正座ね」
「先に服を着させてもらったりとかは……」
「葉っぱで隠したら?」