最近のエアコンという物は実に便利になった。
家に居る間は24時間365日。暑い寒いとご要望があれば即座に稼働を開始する。
おまけに光熱費はゼロ。
……いやまあ、俺が魔術で空調管理してるんだけどね。
つまりお買い得品ではなく、展示のみの非売品だ。
うっかり手を出そうものなら美人の嫁と子供達に袋にされる事でしょう。
俺が。
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冬の日の朝は当然グレイラットさんちの新型エアコンがフル稼働だ。
朝、トイレに起きた子供達は、パパの部屋を覗いて、裸の人がいなかったらベッドへ潜り込む。
ここが一番暖かい事を分かっているのだ。
出遅れて足元に入るのは危険だ。
寝ぼけたパパに蹴られてしまう可能性がある。
湯たんぽ代わりにされた旦那様は「なんかあっついぞ……?」となって目が覚める。
冬なのに汗を拭い、布団の中で自分の体にしがみつく子供達を見て軽く笑みをこぼし、少し暖かさを緩めながらまた眠りにつく。
夏ではこれが逆になるかと思えばそうでもない。
「パパあっつい~」
「だったら俺の膝から離れなさい」
「それは無理~」
ルーデウスの大旦那の膝には綺麗な赤と青。
同じ年に産まれた末っ子コンビのリリとクリスティーナ。
大きなソファーを大胆に使って二人でパパの膝枕を独占している。
ソファーの後ろにはパパに引っ付くのはもう恥ずかしいけどここが涼しいと分かっている3人。
ルーシー、アルス、ジークがアイシャ特性の氷菓子をパクついていた。
ルーデウスの足元はレオに抑えられ、その上にはララがいる。
ちゃっかり良いポジションをとるのが彼女らしい。
ママ達は夜にパパを一人占めするんだから昼は私達にちょーだい、というのが子供達の言い分である。
お陰で白ママと青ママは隣のソファーで寄り添うようにのびている。
ルーデウスには二人がハンカチを噛み締めているように見えるかもしれない。
全然そんな事はないのだけれど。
ゼニスとリーリャ、ノルンとアイシャもそれぞれ別のソファーでうたた寝をしている。
夏の暑さを忘れるような穏やかな時間だ。
ただし、ここには暴風かくあれかしとでも表現するべき彼女の姿がない。
もうすぐ水浴びを終えて戻ってくるはずだけれど。
「ルー! デウス……」
昔のようにドタドタと大きな音で部屋に入ってはきたが、今の彼女のには家族を思いやる心が備わっている。
「……髪を乾かして欲しいんだけど」
いつの間にか寝ていた子供達に阻まれてエリスはルーデウスに近づけない。
ルーデウスも二人の娘を膝枕している以上立ち上がる事ができない。レオとララはそれが分かっている上で足元で寝たのだ。
ん、と伸ばされたエリスの手をルーデウスが握るがそこから動く事はない。
家族はここにいるけれど、意識が無いからか、普段よりも少々甘え気味だ。
繋いだ手を通してエリスの正確な位置にルーデウスから魔力が送られ、髪を乾かす為の風が、部屋を涼しくする風とは別に吹き出す。
下から風を受けて、そこに大きな花が咲いたかの様にエリスの髪が広がる。
花の中心にいるエリスの顔も少々赤いようだ。
それを見つめるルーデウスは子供の頃のようにニコニコとしている。
二人にしては珍しく、文字通りの夫婦をしていた。
いつの間にかそれを見つめる視線が一つ。
「──ふひっ」
エリスの髪が風以外の要因で、大きく跳ね上がる。
驚いても大きな声を出したりしないあたり、彼女も大人と言うべきか、流石剣王と言うべきか。
「──ララ、アンタいつから見てたの」
「待って欲しい。パパと赤ママが突然目の前でイチャつきだしただけで、私はパパの足元で涼んでいただけ。むしろ被害者とも言うべき」
ララの両頬がエリスの片手にムギュっと潰されて、突き出てきた口からぶへっ、と息が漏れる。
しばらくララの柔らかな頬を堪能すると、エリスの手はララを解放した。
髪が乾いたのか、エリスは手を放すとどこからか椅子を持ってきて、ルーデウスの前に座った。何故かララを自分の膝に抱えて。
ララは何故だ、と抗議し手足を動かしたが体格と筋力の差の前にはなすすべもなく、助け船を出してくれなかったレオとパパを恨めしそうに見つめた。
手──足慰みとでもいうのか、レオが退いたルーデウスの足に二度三度自分の足を絡ませたあと、抱えたララの頭が顎を乗せるのに丁度いい高さだったので、エリスも微睡みに身を委ねた。
ララは抵抗したが意味がなかった。
夏なのにセミの声があまり聞こえない事で、ここは昔自分が居たところとは違う。
なによりここには家族がいると、ルーデウスは再確認した。
「……こりゃ皆夜眠れなくなるな」
花火でも打ち上げてやったら皆はしゃいで疲れて寝やすくなるだろうか。
そんな事を考えながら、夏の日の午後は過ぎていく。