はい死にましたー。
たった今おれは死にましたー。
久しぶりに外へ出たと思ったら死にましたー。
トラックに轢かれて死にましたー。
別に道路に飛び出した子供を助けようとして死んだわけじゃないんだよ?
ちょっと近道をしようとして、左右を確認せず道路に入ったら死にましたー。
右からのライトがまぶしかったです。
というわけで死にましたー。
死にましたー、死にましたー、死にまみたー…………
……はぁ、空しいからもうやめよう。
俺は今、白い空間の中にいる。
前後左右、どこを向いても視界には白しか映らない。
下を見ようが影もない。
こうなると宙に浮いている気さえする。
というか、白ばっかりで気が狂いそうだ。
――それは困りますね――
「ひぃ!!」
いきなり声が聞こえてきたので、つい情けない声をあげてしまった。
全速力で首を回し、あたりを見渡したが誰もいなかった。
「だ、誰だ! どこにいる!?」
未知なる恐怖に、頭がパニックになる。あぱやー。
――落ち着きなさい、サイトウ タケルよ。周りを探しても、私はいませんよ――
そこに私はいなくて、眠ってもいないんですねー。アジャッター。
――まだ混乱していますね…… よろしい。私の話を聞けるようになるまでこの空間にいるといいでしょう――
「そ、それは嫌だ! これ以上ここにいたら頭がおかしくなる! それだけはやめてくれぇ!」
ズビビと鼻を垂らして乞い願っている姿は、さぞ滑稽だろうな。おれのことだけど。
――正気に戻ったようですね。では話を戻しましょうか、サトウ タケルよ。私は今あなたの頭の中に直接話しかけています。だから私の姿は見えないのです――
「あ、あんたはいったい何者なんだ。何でおれをこ、こんな所に閉じ込めたんだ!?」
――私が何者であろうと、小心者であるあなたには関係がないことです。ただ、あなたの理解が及ぶ言葉でいえば、神が該当するでしょう――
「か、神!? え、は、もう意味が分からない」
――わからなくて結構。話を進めます。閉じ込めた理由は、あなたに話を聞いてもらうためです。そのためだけにこの簡易な空間を作って、あなたを放り込みました――
「もしかしてこの空間が真っ白な理由って、簡易だから?」
――そうです――
「ふざけるなよ! もうちょっと真面目に作れよ! こっちは頭がイカれそうになったんだぞ!」
――知ったことではありません。その時はそれまでのことです。いい加減、本題に入りますよ。サイトウ タケル、あなたには転生をしてもらいます――
「それまでって…… って転生?」
――そうです。あなたが引きこもって、仕事も探さず毎日あさるように読んでいる、あのネット小説の設定によくある、前世の記憶を持ったまま生まれ変わる転生です――
「と、ところどころグサッとくる言い方…… なんでおれなんだ?」
言い方が悪いと思うが、人なんて毎日死んでいるだろう。その中から誰が選ばれたって不思議じゃないはずだ。どうしておれなんだ、とても気になる。
――それは宝くじで一等が当たって何故自分が一等を引き当てたのかを考えるのと同じくらい無駄なことだと言っておきます――
つまり、因果とか関係なく偶然なわけね。あまりの拍子抜けに言葉も出なかった。
――ちなみに一等を当てたのはあなただけではありません。計5人、転生者として選ばれることになっています。ついでに言いますと、あなたは拒否することはできません。すべては確定事項ですから――
そうですか、もうどーにでもなーれ♪ という精神状態になるのを踏みとどまって質問する。
「そ、それで、転生先はどこなんだ?」
これは重要だ。記憶がないのなら、こういうものなんだと世界観を受け入れられるけど、前世の記憶があると前の世界と比較しカルチャーギャップのあまり絶望してしまうかもしれない。
――魔法少女リリカルなのはです。原作を知らなくとも、二次創作は読んでましたよね?――
確かにアニメとか見たことはないが、二次創作で読んだことがあるから知ってる。現代の話だったな。途中で異世界に行っちゃうけど。これなら身分差別とかトイレ格差とかそういうものに煩うこともなさそうだ。現代だし。現代だし! パソコン、クーラー、黒い炭酸飲料♪
――後ろ向きながらも納得したようですね。次の工程へ移ります。あなたにとっては待ってましたのお楽しみではないでしょうか? 特典の話です――
特典。転生の物語では選択が難しい、普通の人を差し置いて大きくスタートダッシュをかけられる、前世の記憶と同じアドバンテージだ。
数・制限によるが、うまく選べばマイナスなことにはならないだろう。ふふ、何にしようかな?
とりあえず本当にもらえるか、念を押しておくかな。クールにね。もらえるとわかって舞い上がっている姿を見せるのはちょっと恥ずかしい。冷静に、冷静に。
「ほ、本当にもらえんの? へへ、ふふ、へへへ」
――不快な笑みはやめなさい。取り繕えてないです。もう知っているでしょうが、特典は普通の人間の努力程度では得られない架空の才能や能力を得ることができる、転生者ならではのボーナスです。今回の転生者には3つ差し上げることになっています。さぁサイトウ タケルよ、あなたの望む特典を言いなさい――
さて、どうするか。
――早くしなさい。二次創作を読んでいる間妄想していたではありませんか。なぜ決まらないのです。まだ迷うというのなら、特典の話はなかったことにします。そのまま転生――
「ま、待った! 決めるから、今すぐ決めるからっ! 特典なしで転生開始は勘弁してください!」
もう迷ってる時間はないぞ、サイトウタケル。選択の刻は来た。考えが求まらないなら、もう直感で言おう。自分を信じるんだ!
「お、おれが求める特典は、
①他の転生者の情報が常時欲しい
②一撃必殺が欲しい
③不健康な生活をしても大丈夫な体が欲ちい!」
最後少し噛んでしまったが言ってやったぞ! どうだ神様。
――ふむ、少し意外ですね。あなたはもっと具体的な特典をお願いするかと思っていたのですが。王の財宝や無限の剣製などはいらないのですか?――
「あ、ありきたりなものだと対策を立てられてしまうから、いらない。でも具体的なものも思いつかなかったから、こ、こんな感じになった」
――なるほど。しかし困りましたね。特典はほとんどの場合、作品に出てくる能力・才能だったので、あなたの願いのような抽象的で原作のない特典は難しいです――
「だ、ダメか?」
くそぅ。何らかの作品を例に挙げられたら何とかなったもしれないのに…… 自分の頭の瞬発力が恨めしい。あ、写輪眼とかもよかったかな。
ん、待てよ? ダメだったらどうなるんだ? そのまま転生はないだろう。一応望みは言ったわけだし、無慈悲に放り出されないはず。……多分。
となると、やり直しか? しめた! 言い直すことができるならもっと具体的にすごいものをもらっちゃおう。
「あ、あの…… さっきのやつが無理ならまた考えるんで、もう少し時間w……」
――いえ、その必要はありません。こちらとしても長年魂を転生させてきた意地があります。それに、あなたのケースは過去なかったわけでもありません。アニメや漫画、ゲームを知らずに生きてきた人間を送った実績もあります。こちらの解釈で付加することになりますが、あなたの特典を受理します。それではサイトウ タケル、あなたの二度目の人生に幸あらんことを――
「へ? 受理? そっちの解釈でって…… そんなんでおれの人生大丈夫なのかぁーー!!」
かくして、おれの目の前は真っ暗になった。所持金は半分になるのかと、こんな時でもくだらないことを考えてしまう自分が恨めしい…………
1話終了。2話へ。