サモンナイト4 カルマエンド クリアデータ   作:( ◇)

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三話 ドキドキ、はじめての同僚

 俺がこの世界に来て、テイラーさんの所で勉強を兼ねて仕事をし始めてから一年経った。……そう、一年も経っていた。

 宿の業務は再開できていない。研修期間は少しだけと言っていたのは何だったのか。

 

 ぴしり、ぴしりとひび割れる音が時折聞こえていた。無理やり組み上げた精神が崩れていくような、そんな音だ。

 前に『壊れた』のは相手の命を奪って、それがだんだん普通になってきて、敵を探し始めた頃だっただろう。止めてくれた御使いたちには感謝している。

 ふと見れば手に血が染まっているように見える。……だから何だと言う話だけど。娘とそれ以外を見たら後悔はあるはずがなく、今は血肉溢れるステーキだって食べられる。

 だけど、今の俺はどうなんだと考えてしまう。フェアのそばに居る資格はあるか、この場所に居てもよいのか、そんなことをひび割れていく音を聞きながら考えてしまったんだ。

 

 ソレを『彼女』に話したのは無意識の内だ。彼女の似たような後悔を知ってしまっていたから、もしかしたら俺は同意が欲しかったのかもしれない。

 

『以前の俺との落差が広すぎてさ、此処にいていいのかって思う時があるんだ。意味は無い仮定だけどな』

 

 過去に過ちがあった自分は此処に居ていいのか、ソレを遠回しで愚痴交じりに言ったとき、彼女はこう返答した。

 

『そうですか……自身の過去の暗い出来事に囚われてしまうのは、考える余裕があるからなのだと思います。旦那さまに言ってお仕事増やしていただきますね』

 

 俺の仕事量は二倍になった。

 ふざけんなあのメイド! って、思いながら俺は館を駆けまわった。

 

――

 

「ああもう! 終らないぞ!」

 

 ブロングス邸の客間は初めて来たときはその豪奢さから圧倒されただけだったけれど、掃除をする立場になってみれば厄介でしかない。置いてある家具一つでもいい値段がするんだから、宿の掃除をするようにはできなかったりする。

 そんな作業も彼女は鼻歌交じりに片付けてしまうから、今はもう自分の分を終わらせてこちらを眺めているだけだ。

 

「口より先に手を動かしましょう? ライさん。今日は徹底的に掃除するって決めたんですから」

 

「この量を一日で全部やるとは思わないだろ!? ……いや、いつもの作業量を考えたら思うべきだったんだ」

 

「帰れなかったらフェアちゃん泣いちゃうかもしれませんねー、大変ですねー」

 

「悪魔かお前は!?」

 

「半魔ですよー」

 

 クスクスと笑う彼女――ポムニットに俺は歯噛みすることしかできなかった。

 

 初めの頃は書類作成やトレイユについての情報管理、その辺りの手伝いをしていた。宿屋の店主としての仕事はできるか、その確認だけだったはずだ。ポムニットにその辺りをだと言うのに俺がポムニットに愚痴を言ってしまった結果、徹底的に教え込むと言わんばかりに仕事をさせられている。

 子供のときは分からなかったけど、ポムニットさんはほぼ一人であの館を管理していたのだ、仕事の出来も凄かったのだろう。

 忘れじの面影亭に住ませてもらってはいるけれど、このままだと管理だけしか行えず業務再開は遠そうだ。

 

「それに一端になってきたとはいえ、ライさんはブロングス家の使用人。そんな言葉使い、ダメですよ?」

 

「使用人じゃなくて宿屋の店主だっての、たっく。それに初めの頃ポムニットに敬語を使ったら気持ち悪いって言ったじゃないか」

 

「ですけど本当のことですし……」

 

「はははは……しまいにはブロングス姉弟にあること無いこと言ってやるぞ」

 

 ポムニットをジト目で見ながら口を開く。クロスカウンターでフェアにあること無いこと言われる可能性があるけれど、痛み分けには持っていけるだろう。

 

「そんなこと言って本当にいいのでしょうかライさん……? 貴方の給料は私の査定次第なんですよ?」

 

「本当に最悪だなこのメイド!?」

 

「まあ殆ど冗談なんですけどね」

 

「いったいどれが冗談じゃないんだ……?」

 

「それは……ライさんが気持ち悪いこと?」

 

「『の敬語』はどこ行った!?」

 

 小さくため息をつくもポムニットはクスクスとおかしそうに笑うだけだ。まぁどちらも軽口でしかないのは分かっているから、思わず俺も苦笑が漏れた。

 

 ポムニットとは軽口が叩ける程度には仲がいいとは思っている。少しと言うには長い時間同僚をやっているのだから。

 そしてお互いが面倒ごとを抱えている者同士であることを知っていた。ポムニットから見れば俺が常人から外れた行いをしていたことをテイラーさんから聞いている。そして俺は、ポムニットが半魔であることを知っていた。

 先に言うなら半魔であることを切り出してきたのはポムニットからだ。俺の愚痴を聞いて、散々に使い走らされた後、考える余裕も無くなったころにこう言ったんだ。

 

『ライさんも、私が半魔であり、過ちを起こしてしまったことはケンタロウさんや旦那様に聞いていると思います。私は、自分が納得できるまで時間を経つことしかできませんでした』

 

『……え?』

 

『意地悪で仕事を増やすわけじゃないんですよ? ただ、がむしゃらになって忘れて、時間が経つまで待つしかないんです。そうしたら少しだけ、此処に居てもいいって思えるかもしれませんよ?』

 

『……そういうもの、だったな』

 

『ええ、そういうものなのです』

 

 そう言って儚げに微笑むポムニットに、俺は上手く言うことはできなかった。言う余裕がなかった。突然出された衝撃の事実(カミングアウト)に必死に頭を動かした。

 後に落ち着いてから考えると、俺に対してポムニットが勘違いする要素はあった。ケンタロウの伝手で来て、過去にやらかしたことがあって、テイラーさんには半魔(ポムニット)を雇ったという実績がある。そんな俺が意味深なこと言ったのだから、俺が半魔であることを知っているのを前提で話していたと勘違いしてもおかしくは無かった。

 実際知っていたけど知っていたらおかしいだろ!? 今更ポムニットに、それ誰にも聞いていないんだけれど、なんて言えるほど俺の胆は強くは無かった。口裏を合わせてくれとテイラーさんの所へ頼みに行ったとき、貴様は何をやっているんだと言わんばかりの表情は忘れられない。

 

 ただまぁ、ポムニットの言っていることは正しくて、時間が少しだけ解決してたのは事実だ。寝て、起きて、フェアと話して、仕事をして、フェアと戯れて、寝て。余計なことを考えないぐらい我武者羅にやって、少しずつだけどマシにはなったんだ。

 

 仕事をすべて終えた頃になると日は傾き始めていた。帰りの道中で食材を買って、家で夕食を作っても十分な時間だ。

 

「時期が時期だから魚もいい、付け合わせはアレにして……フェアはもう帰ってるかな?」

 

「お嬢様が帰ってなさらないので、まだフェアちゃんも一緒にいるのではありませんか?」

 

 伸びをしながら言った俺の独り言じみた言葉にポムニットは返してくれた。

 

「まーた泥だらけの傷だらけで帰ってくるんだろうな」

 

「分かっているならライさんもフェアちゃんにお淑やかに過ごすように言ってくださいまし! ……いえ、お嬢様に巻き込まれているのはフェアちゃんでしたね……」

 

「巻き込まれていると断言していいのは弟の方だけな気がするけどな」

 

 はぁ、と。互いが面倒を見ている問題児たちを思い出して同時に溜息を吐いた。

 俺が見る限りだとフェアは良い子だと思った。俺との約束を守るって言って一日でも早く一人前になろうと頑張っている。だけど外で幼馴染と一緒になるといろいろ暴走してくるんだ。

 俺も子供の頃はこんな感じだったなぁ、と。具体的な内容を覚えていないけれど思うことがある。そしてポムニットと一緒に迷惑をかけた場所に謝りに行くのは日課みたいなものになっている。

 

「今はお嬢様達の教育係から少しだけ外れているので、私も強くは言えませんけれど」

 

 もともと俺がブロングス邸で働き、その面倒をポムニットが見るのは短期間の予定だった。それが俺の愚痴からポムニットの提案につながり、長期間拘束されたのだから、一因は俺にもある。

 

「あー。それなら迷惑をかけちゃったかもしれないな」

 

「気になさらないでくださいまし。旦那さまから任されたのが黄金から爆弾になろうとも、勤め上げるのがメイドというものですから」

 

「ああ、そう言ってくれると助かるけれど、自然に人を爆発物扱いしやがったなお前?」

 

 危険物である自覚はあるけどな。

 というより爆発物二つをまとめて管理するテイラーさんの胆の据わり具合も凄ぇ。

 

「それに、もうすぐ宿の管理の方へと辞令が来ると思いますよ? そうすれば私も教育係に専念できますから」

 

「あれ、そうなのか?」

 

「近いうちにファナンで会合がありまして、それを区切りにするとおっしゃっていました。確かライさんも連れていかれるそうです」

 

「へぇ…………え、俺を? どうしてまたそんな所へ?」

 

「さぁ? 武器にでもなさるのでしょうか?」

 

「爆弾扱いはそろそろやめろ。たっく、人を何だと思ってんだよ」

 

「危険人物ですよね?」

 

「間違っちゃいないけどさ。まぁその辺りは後日聞くとするよ」

 

 本格的に宿の業務の方に入れれば、こうして軽口を言い合う時間は減るだろう。清々するけれど悪くない時間だとは思っていた。

 じゃあな、と。軽く手をあげてブロングス邸を後にする。数歩踏み出そうとしたとき、ポムニットは後ろから言葉を投げかけた。

 

「私としてはライさんのことは信じたいとは思っています。ですが」

 

 足を止めて肩越しに振り返る。ポムニットの赤い瞳と視線が合った。

 

「旦那様とお嬢様達に害を為すと言うのなら、()が許しませんから」

 

 その言葉を聞いて、彼女がどうしようもなく俺に似ていると思った。なぜなら、

 

戻る(・・)なら、あの子(フェア)が居ないところでやってくれよ」

 

 きっとどんなに親しくなろうとも、互いの最優先は絶対に代わることが無いのだから。




ポムニットがケンタロウに救われたのは、エリカと旅に出る前か後か分からなかったので、この小説では前に設定してあります。
それに伴い設定改変のタグを入れさせていただきます。
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