サモンナイト4 カルマエンド クリアデータ   作:( ◇)

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四話中 厳格な雷鳴、落下前

 きっとそれは過去の夢だ。見覚えがある光景が目の前に広がっていた。

 一人の女性と(オレ)が居る。泣きそうな表情な女性とは対照的に、俺の表情は相変わらずの無表情だった。

 

『もう、無理なのかな。みんなで一緒に居ることはできないのかな』

 

『……やる必要、無いだろそれ。俺も、お前も、もう大人だろ? いつまでガキみたいなこと言ってるんだよ』

 

 親父と、妹と、そして自分でまた一緒に暮らす。それは幼いころの俺が昔から見ていた夢で、もう曇りだらけになって光は無くなった。

 何の治療をしたのかは知らない。ただ病気が治り俺と話すことができるようになった妹は、その言葉にひどく傷ついたようだった。

 それを見たとき、俺は『何も思わなかった』。

 

『お兄ちゃんは、怒ってる?』

 

『……? どうして?』

 

『だって! 私ばっかりお父さんと一緒に居て、お兄ちゃんは……』

 

『ああ、そんなことか。仕方ないことだって分かっているよ。俺だって親父と同じ判断をするし、否定するつもりもないさ』

 

 単に優先順位の問題だ。放っておいても勝手に育つ俺と、確実に死んでいた妹。そのどちらを優先すると言えば後者だろう。

 それに昔の家族以上に守りたい娘が居る。だから、それ以外のことに目を向ける余裕も意義も存在していなかったのだろう。

 

「怒ってるとか、嫌いとか、そういうことを向けるつもりは無いんだ。家族とかどうとか、お前も俺に気にしないで勝手に生きてくれ」

 

 俺も勝手に生きるから、と。そう言うと妹はきっと視線を強くする。

 

『そんな風に言わないで! 私は、またみんなと家族になりたいよ!』

 

 妹の強い言葉に俺は少しだけ困っていた。自分はどうしようもないほど変質してしまった。かつての俺がイメージしていた家族、という区切りに当てはめることはできないと理解していたからだ。

 

『お前、なんて言わないでよ。名前で呼んでよ、お兄ちゃん!』

 

 ぽろぽろと涙を流す妹に、その時の俺は軽く頭を掻く。その言葉に対して何の響きもなく、無表情で淡々と。それこそ道でも聞くように妹へと聞いた。

 

『……なぁ、お前の『名前』、なんだったっけ?』

 

 だってそれすらも、その時の俺は擦り切ってしまい忘れていたのだから。

 

 

「――夢か」

 

 ファナンへと向かう当日、少しでも長く寝て体を休めるために少しだけ遅く起きた。服を着替え、保管していたサモナイト石を取り出した。緑が一つ、紫が二つの、宝石のような石は俺が手に取ると、ぼう、と淡く光ったような気がした。

 そのまま下へと向かおうとして、踏みとどまって再度戻る。サモナイト石が保管してあった場所にはまだ一つ、無色のものがありそれも取り出して懐に仕舞った。

 

 下に降りるとそこにはもう朝食が作られていた。起きたのが普段より遅い時間とはいえ、まだ朝と言える時間帯だ。フェアと一緒に作ってから行こうと思っていた身としては出鼻をくじかれた感覚だった。

 

「フェア、……居ないのか? って」

 

 厨房にいると思い呼ぼうとするけど、テーブルの上にメモ書きがあることに気が付いた。『リシェルの所に行ってくるので朝ごはん食べてください』とのことだ。

 

「……こんな朝早くから? 昨日は何も聞いていないし、また姉の方となんか仕掛けるのか?」

 

 と言っても町を出る時間は決まっている。何か問題が起きても行ってやることはできないだろう。……重大なことなら話は別だけど、この平和な街でそれが起きたり起こしたりするのは考えにくい。気にしても仕方ない、と。朝食を終わらせて朝の身支度を整えることにした。

 

顔を洗って歯を磨いて身だしなみを整える。どんなに櫛で梳かしても跳ねるくせ毛に辟易しつつも最低限直していく。鏡を見てみれば、半目で不機嫌そうな俺の顔があった。

 フェアが先に外へ行ってしまったため、見送りしてくれないのか、と少し残念な気持ちになっていたり、朝見た夢が見ていて気持ちのいいものではなかったなんかの理由はある。

 

「……エリカ、泣いてたな」

 

 客観的に見てあの時の俺は狂っていた。そんな状態で会ってしまったのだから、あの光景にもなる。結局あれから会うことは無くなったけれど、元気でやっているんだろうか?

 ()ももう少し言葉を選んでいたら、子供の頃あれだけ望んでいた家族っていうのにもう一度なったのだろうか。あの二人(・・)の光景を見る限りそれは――

 

「……二人?」

 

 自分で考えていたけれどソレはおかしい。

 だって、俺が見ていたのはエリカと()が居る光景だ。ならその光景を見る視点は何処から来た?

 

「どうして()がエリカの名前を憶えていたんだ?」

 

 だってそれは俺がすでに記憶から磨り潰して忘れてしまったことだ。ミルリーフが行った儀式がその辺りの補完をしてくれたと、俺は思いこんでいるだけなんじゃないのか?

 

 からん、と。懐からサモナイト石が落ちる。無色の、契約はされているのに名前は分からず、何も宿さないソレが光に反射して鈍く光った。

 

「……お前は()なんだ?」

 

 それは落ちたサモナイト石に言ったのか、鏡に映る俺に言ったのか分からなかった。

 

――

 

 数日前、テイラーさんとポムニット、俺の三人で打ち合わせを行った。旅の行程や役割、必要な費用や支給金などについてだった。

 俺に求められているのは護衛としての役割で、あとは付き人としてポムニットの補助。それらを一通り読み込んだ後顔を上げて一言呟いた。

 

「……これ、本当に俺要りますか?」

 

 その言葉に隣に居たポムニットは苦笑し、対面のテイラーさんは相変わらず憮然としたままだ。

 

「ポムニット、ライには一通り付き人としての作法は教えたはずだな?」

 

「はい、旦那様。ブロングス家の使用人として恥ずかしくない程度には、仕上げさせていただきました」

 

「いや、俺は雇われ店主であって使用人っていうわけじゃ」

 

「あの宿の店主はフェアで、貴様はあくまでも現管理者であり私の部下だ。そこを間違えるな」

 

 宿の管理だけでまともに運営を再開したのはつい最近だから確かにそうだ。一言で切り捨てるテイラーさんの言葉がどうも俺には腑に落ちない。護衛、という意味では召喚師には護衛獣が居るし、付き人としてはポムニットが居れば十分だ。旅の費用だって一人分出すのは安くは無いのだから。

 悩んでいると隣からポムニットが小声で耳打ちする。

 

「旦那様はライさんに気を使っていらっしゃるんですよ」

 

「俺に?」

 

 よく分からず内心で首をかしげる。テイラーさんは小さくため息を吐くと、掌を組んで口を開く。

 

「ライ、貴様は今あの子(フェア)の保護者替わりをしているが、その父親が帰ってきたら貴様はどうするつもりだ?」

 

「……あ」

 

「……その様子では考えていなかったな? 馬鹿者が」

 

 言われて気が付いた。俺はケンタロウがエリカの治療を終えるまで十数年かかることを知っている。しかし治療法が見つかれば直ぐにケンタロウも帰ってくるのだから、それが近日中だと他の人が考えるのが当たり前だ。

 俺だって家族団欒している中に居つくほど厚かましくない。フェアが一人前になったらすぐに出ていくつもりだった。その未来は数年後だから、行き先についてはまだ全く考えていなかった。

 

「貴様は所詮あの宿の雇われ管理者に過ぎない。本来管理していた者が帰ってきたのなら貴様は無用になる。あの場所で仕事をさせる理由も無いだろう?」

 

「そう、ですね」

 

 無用、と言われるのは流石にきついな。元々テイラーさんとはそういう契約で仕事をしているのだけれど。

 そんなことを考えていると、ポムニットが再び耳打ちをする。

 

「あの、ライさん? 旦那様はちょっと言葉が足りなかったのですけれど、『宿の業務が無くなれば暫くは使用人業務(こちら)に戻るのだから、その仕事も追加で覚えろ』ということだと思いますよ?」

 

「え、そうなのか?」

 

「ライさんの立場って旦那様の部下ですし……その、旦那様も少し素直じゃないと言いますか、」

 

「そろそろ話を戻す。………なんだライ、表情を引き締めんか」

 

「いえ、……ありがとうございます、オーナー」

 

 どうも俺の表情は緩んでいたらしい。子供の頃の記憶は掠れてしまったけれど、テイラーさんに認められるのは今も昔も同じように嬉しかった。

 

「ある程度の実績を積めば他の場所でもやっていけるだろう。半端者がブロングス家の部下であったなど言わせるものか」

 

「『ここ以外の場所でも働けるように、今回しっかり仕事をこなしたという実績を作るのだぞ』とのことですよ、ライさん」

 

「ポムニット! 余計なことを言わんでいい!」

 

「失礼いたしました、旦那様」

 

「ははは……」

 

 金の派閥の召喚師、その護衛を務めあげたことがある、というのは確かに実績としては大きい。後でポムニットに聞いた話だと、ファナンでは金の派閥の本部があり、そこで顔を売っておけば俺がこれから食いはぐれることは無いだろうとのことだ。本当にテイラーさんには頭が上がらない。

 ただし、俺を護衛として着けたのは、俺にかかっている疑いを晴らすためでもあるのだろう。数人での旅など暗殺や謀殺をするのには絶好の機会なのだから、それをこなしたのなら改めて信頼できる、ということだと思う。最悪手を出されてもポムニットと相打ちできるか、その辺りの計算も入れているのかもしれない。

……俺が気が付くことをポムニットが分からないわけがないから、本人もその役割を理解していてこの仕事をするわけだ。

 

「意図はわかりました。ただ護衛をするにしても、召喚獣の制限がかかるのは痛いですね」

 

「仕方あるまい。聖王国では召喚術を大々的に民衆に広めてはいないのだから」

 

 護衛が主になるなら戦力は確保するに越したことは無い。ただ俺は戦い方が召喚術と近接戦闘の半々だから、その半分が無くなるのは痛いな。

 

「……獣属性の高位召喚術が使用できるなら、知人(ナイア)の弟子として誤魔化すこともできなくはない。だが緊急時まで使用は控えろ。状況の見極めは任せる」

 

「分かりました。ただし安全を優先で」

 

 嘘は重ねれば重ねるほどボロが出やすくなる。テイラーさんの知人である召喚師も派閥に属していない人物であるらしく、嘘に使うのは俺もテイラーさんも避けたい。

 

「召喚獣の貸し出しは必要か?」

 

「いえ、以前見せた者たちが居るのでそれで大丈夫です」

 

「ならばあの『空』のものも持って行け。フェアが宿に居る以上、弄って事故が起こる可能性もある」

 

「了解です」

 

召喚獣の『コバ』、『プラム』、『ポット』、三人ともこの世界に来てから再契約することができた。前の世界で契約されたサモナイト石は縁はあるが、本人たちとは初対面だったから多少の混乱があった。今は快く力を貸してくれるとのことだ。

……前は、プラムには苦々しい表情をさせてしまっていたから、できれば正しく力を使いたい。

 そして……空になった無色のサモナイト石。あれは何が契約されていたのだろう。

 

「……あの、旦那様もライさんも荒事を前提に話していますけれど、平穏無事に旅が終わるなんてことは」

 

「いや、多分ないだろ。はぐれが出る可能性もあるんだから」

 

「私は聖王国の治安にそこまで期待はしておらん」

 

 ですよねぇ、と。ポムニットはがっくりと肩を落とした。ポムニットも護身術程度は収めていても、本職と渡り合えるほどではないのだろう。

 

「ライさん! 旦那様の安全が最優先ですけれども、是非とも私も守ってくださいまし!」

 

「あのなぁ、そんなこと当たり前だろ? それぐらいできなくて何が護衛だっての」

 

「……そ、そうですか? その、茶化すようにいって申し訳ありません」

 

 ポムニットとしては冗談交じりに言ったのだろうが、それは俺にとって当たり前のことだ。

 

「いや、お前になんかあったらフェアが悲しむしな」

 

 7割ほど本音の言葉をポムニットに返す。3割は恥ずかしくなったからその誤魔化しだった。

 言った瞬間ポムニットは笑みを作った。ただ目が笑ってない。

 

「…………そういうところは本当に無神経というか、アレですよね、ライさん。たぶん将来フェアちゃんから『大っ嫌い!』って言われる時が来ますよ?」

 

「うるせー。来ないし来させねーよ」

 

 そうなったら比喩表現では死ぬ。ミルリーフにはそう言われたことが無かったから、フェアに言われたら衝撃も大きいに違いない。

 

「そろそろ良いか二人とも?」

 

 小さく咳払いをしたテイラーさんに俺もポムニットも小競り合いをやめて向き直る。

 

「話は以上だ。仔細は書類に記した通り期限までに支度を済ませろ。では、業務に戻れ」

 

――

 

 当日になり旅路へと出ている最中、馬車での空気は悪かった。俺は勿論のこと、テイラーさんも表情には出さないが落ち込んでいる雰囲気がある。

 天気は快晴で障害物も無い、野盗などの問題も発生していない。旅の出はじめとしては好調だった。荷物が木箱三個分と邪魔なのは確かだが、十分に快適な部類だろう。なのにこうして気分が落ち込んでいるか、理由は一つ。

 

「……あの、ライさんも旦那様もそろそろ立ち直って頂いて宜しいですか? もちろんフェアちゃんやお嬢様が見送りに来てくれなくて、残念なのは分かりますけれど」

 

「残念なんかじゃない。単純に警戒しているだけだ」

 

「リシェルに次期当主としての自覚が足りていないのを嘆いているのだ。そんな俗な理由ではない」

 

 この時点で俺を含めて三人とも相手に対して嘘をつけ、と考えているだろう。ポムニットは「男の人って面倒くさいですね」とぼやいていた。

 

「ほら、ライさんは御者の仕事を教えますからこっちに来てください。この辺りは道も舗装されていますから」

 

「おいおい、オーナーが居るのに俺の練習をついでにやっていいのか?」

 

「ああ、構わんぞ。元々それもついでに教えさせるつもりだったのだからな」

 

 馬車の操車はポムニットに基礎程度は教わったけれど、まだまだ稚拙だ。というか宿の業務をするのに必要ないと考えていたから力を入れていない。

 御者の席まで来ると、ポムニットが隣によって手綱を俺に手渡した。ふわりと良い香りが漂い、その元へと視線を向けると、ポムニットと視線が合った。見過ぎたか、と視線を前の道に戻すと、ポムニットが再度此方へ寄せて座り直した。

 

「……なぁ、ポムニット。少し近いし暑くないか? そこ」

 

「そういうことはその危なっかしい操車を止めてからにしてくださいまし」

 

 そうポムニットが言うと同時に、俺の手ごと手綱を動かされる。見れば道に少し段差があり、馬に引く速度を少し下げさせたようだ。

 

「と、この通りです。貴人をお連れしているときは、特に揺れを感じさせないようにしてくださいませ」

 

「……すごいな」

 

 それこそ必要なことは何でもやってきたつもりだけれど、使用人として簡単にこなしているように見せるポムニットには素直に尊敬する。

 

「こう見えても敏腕メイドですから」

 

「自分で言うなよ……よし、やってやるか!」

 

 悪戯気に笑みを見せるポムニットに苦笑し、少しだけ気合を入れなおす。

 思ってみれば新しく何かに力を入れる、というのは久しぶりな気がする。勿論普段の仕事で手を抜いているわけではないけどな。好き好んで頑張ろうとするのなら……そうだ、これが『楽しい』だったか。

 

 ぴしり、ぴしりと音がする。ああ、本当に煩い。

 

 

 まぁ、楽しいと言っても集中をずっと続けることは不可能だ。日も高い位置にあり、俺が何度か段差で大きな揺れを出したところで休憩することになった。

 朝からずっと御者をしていたため、疲労の溜まり具合が思ったより大きい。ただこれは心地よい疲労という奴だ。悪くない。

 

「やっぱり筋は良いですよ? ただ他の来賓を迎える時にはもう少し腕を磨かないといけませんね」

 

 干し肉で作ったスープを配りながら、ポムニットは俺の操車についてそんな感想を返した。

 

「腕を磨く機会自体があまりないんだけどな。今回はありがとうございます、オーナー」

 

「ふん、礼を言う前に早く身に着けるのだな。日程には余裕があるのだから貴様の稚拙な操車でも十分間に合うだろう」

 

 相変わらず憮然とした表情でテイラーさんは、ポムニットから受け取ったスープに口を付けた。

 隣に居たポムニットが俺に耳打ちをしようとしたが、それを手で制して止める。多分テイラーさんが言いたいのは、『時間はある、私に気にせず学べ』ということだろう。

 

 ……ポムニットさん(・・)がテイラーさんの子供であるリシェル達に、あれだけ強い思いを持っていたのが分かるような気がする。厳しく言うが、此方の頑張りを認めてくれて背中を押してくれる、そんな人だ。子供の時は反発の方が大きかったけれど、直属の部下となってその有難さが良く分かる。

 そしてそんな人物から自分の宝とも言える子供の教育を任されていたんだ。頑張るし何を賭してでも守りたいと思うだろう。

 そう考えるとポムニットには悪いことをしたな。一時的とはいえ俺のせいで教育係から外れたんだし。本人は気にしなくてもいいと言っていたから、あえて言うつもりはないけれど。

 

「ただあまり揺れがひどいと、持ってきた荷物が崩れちゃいますね」

 

「気を付けるから勘弁してくれ。……荷物と言えば、どうしてあんなに持ってきたんだ? 木箱三個分って流石に旅支度としては多すぎないか?」

 

 ファナンまでの旅なら一人分ならバックパックに背負える程度の量にまとめられるだろう。俺の荷物は手元にあるから、ポムニットとテイラーさんで二人分だと考えても聊か荷物が多い。

 ポムニットは大きく目を開き、驚いたような表情をした。その間に質問に対してテイラーさんが応えた。

 

「あれは本部へと持っていく研究成果だ。量が多かったからポムニットがいくつかに分けたのだろう」

 

「ああ、そういうことですか」

 

 今回の旅は金の派閥の本部での会合や研究報告、そして他の召喚師との縁作りも兼ねている。そのための荷物であるのなら馬車で行くのも納得できた。

 

「……あの、ライさん? 木箱の数ですけど、二つ、の間違いですよね?」

 

「? いや、三つだ。流石の俺だって荷物の数まで間違えないぞ?」

 

「いえ、茶化しているわけではなくてですね。たしか、私荷物は木箱二つに纏めたのですが……」

 

「……なんだと?」

 

 沈黙が訪れる。ここで誰かが追加で木箱を置いた覚えがあるのなら違和感はない。だがそんなこと誰も心当たりがあるわけもなく。

 

「ライ、来い」

 

「はい」

 

 非常に嫌な予感がするけれど、一度木の食器を置いてテイラーさんと共に馬車へと向かう。そして後部にある木箱の前に来ると、視線でテイラーさんから指示が出された。空けろ、とのことだ。

 一つ一つ箱を開けていく。一個目は衣服類、二個目は書類などのテイラーさんの私物。そして……三つ目に来たとき、かた、と小さく箱が動いた。

 

 ……なんか、居る。

 

 もう一度テイラーさんへと視線を向ける。指示はまた空けろ、だった。

 止める理由も無い、木箱の蓋を開けた瞬間に青い瞳と視線が合った。

 

「「……あ」」

 

 少女たち(・・)の声が届く。片方がブロングスの姉、そしてもう片方の白い髪の少女がフェアであると分かった。どうしてここに、と。そう思うより先に俺の隣で雷が落ちた。

 

「貴様らはいったい何をやっているかぁああ!!!!」

 


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