かなりの臭気を放つ、機械人形の残骸。いや、機械人形にされた者達の遺体と言うべきか。
無数の機械人形に群がられつつも、バゼット、キング、ドクターカオス、マリア達は大広間で激闘を繰り広げていた。
機械人形達の一体一体の強さは、彼らにとってさほどでは無い。また、集団になったとしても機械人形達には全く連携はとれておらず、常人ならばそれでも脅威と成っていたかも知れないが、ドクターカオスの的確な指示によってバゼットとキング、そしてマリアの連携によって機械人形達はことごとく破壊されて行った。
戦闘能力よりもむしろ破壊された後に腐って行く遺体の腐敗臭とガスが問題だった。
とにかくすざまじい臭いであり、広い大広間とはいえ、室内に充満するそれに的確な判断と行動が遮断されそうになる。
「マリアー!窓じゃ、窓を全部ぶち抜けい!!」
「イエス・ドクターカオス」
タタタタタン!!タタタタタン!!
ドクターカオスの指示でマリアが窓ガラスを腕に内蔵された短機関銃で破壊した。
だが、窓から入る空気は新鮮な空気では無く、何かが燃えているような、煤や煙の臭いが混ざった空気だった。
「くっ、なんじゃ?!これは?!」
「……遠くで・大規模な・火災が起こっているようです。都市災害・レベル!この城・に火災は・無い模様」
「かぁ~っ、外じゃ一体何が起こっとるんじゃ?!」
「この城の・異常事態との・関連性は・不明」
焦臭い空気でも、腐敗臭よりはマシではあるが、しかし、都市災害レベルというのは尋常ではない。
「くっ、前回の聖杯戦争と同じ現象が起こっているというの?!というかもうすでに戦争自体終わっていたとでも?!」
バゼットは驚愕した。
バゼットが言っている前回の聖杯戦争とは、第四次聖杯戦争をさす。第四次聖杯戦争は、最後には『冬木大火災』と呼ばれる大災害が起こっている。
だが、バゼットは知らない。
いつの間にか自分達が過去に戻って……いや、過去の時間軸である冬木市、フィニス・カルデアの言うところの『特異点・F冬木』にいつの間にか転移している事に。
しかしそんなドクターカオスとバゼットの驚きなど一瞬のこと、押し寄せる自動人形の群れが雪崩の如く殺到する。
「ぐっ、まだこんなに……っ?!どれだけの人を殺めたというのか?!」
キングが攻撃を仕掛けてきた自動人形の一体の腕を取り、その攻撃の勢いを利用して押し寄せる他の人形達にぶんなげる。
投げられた自動人形にぶち当たって数体の自動人形が砕け散ったが、しかし焼け石に水、すぐに周りを取り囲まれ、四方八方から斬撃、突き、蹴りを浴びせられる。
統率のとれていない群れとはいえ、交わすのは至難の技である。バゼットもキングもその俊敏さでなんとか対応出来ているが、たとえマリアの的確な援護射撃やドクターカオスの遠隔からの破壊光線があったとしても、このまま行けば必ず押し切られるだろう。
「くっ、このままじゃジリ貧じゃ!!」
ドクターカオスがシャツをはだけさせて破壊光線をぶっ放しつつ叫ぶ。
(くっ、平穏な病床生活しとったからマリアの武装もマシンガン以外外しとった!!せめて精霊石か爆弾、いや、ロケット弾でもあれば!!)
今のドクターカオスの聡明な頭脳はもはや撤退するしか無いと計算していたが、しかしそれをするにもこの群がる自動人形の群れをなんとかせねばならない。
そう、少なくとも距離を離せねばこの自動人形の機動力はスペック的にかなりの脅威である。撤退しようと背を向けた瞬間に一斉に高速で飛び込んで来るだろう。
幸いといって良いのか、この自動人形の目的は攻撃から割り出せている。この自動人形は人を殺すのが目的では無い。いや、不幸にもというべきかも知れないが。
ドクターカオスが先ほど機能停止した自動人形を調べた際に、その一体一体一体一体がその内部に予備のパーツを持っている事がわかったが、しかしそれはあまりにも不可解だとドクターカオスは思っていた。
何故ならば、自動人形達はどれだけ損傷しても自分達で修理したような形跡は無いのだ。
今、ドクターカオス達を取り囲んでいる自動人形にも古い損傷や行動に支障のあるような破損が見られるものが混ざっており、だが補修も修理もされてはいない。
では自分達の修理に使わない予備パーツは一体何のためにあるというのか。
ドクターカオスには、もうその答えがわかっていた。
(こやつらは被害者をその場で自分達の仲間にするための部品を持ち歩いとるのじゃ!)
そう、その予備パーツは生きている人間を切り刻んでその場で自動人形に改造するために搭載されているのだ。故に自動人形達は人間を即死させるような攻撃はしてこない。急所を避けて手や足をまず切り裂こうとするのだ。
「命は奪わんが、命という部品を狩ってこやつらは仲間を増やしとるのか……!!」
そのおぞましさにドクターカオスは顔をしかめた。
ギチギチギチ……!自動人形達は群をなし、関節を軋ませつつ後から後からわいてくる。果たして一体何体いるというのか、懸命にカオス達が壊しても壊してもその数は一向に減りはせずむしろ増えている。
「ぐっ、撤退しかないが、このままではそれも出来ん!!、一発、そう、ドデカい一発、必殺技とかぶちかませんか、二人とも!!」
「そんな事言われてもすぐには無理ぃぃっ!!周りの対処で精一杯よ!!」
バゼットも家伝の宝具はあるが、こう囲まれ、隙を見せられない状況ではそのためのルーンすら刻めない。また、キングはルチャドーラーであり、飛道具を撃てる格闘家とは戦った事はあるが自分で出すのは無論、無理である。
「くっ、万事休すか!」
だが。
バン!と自動人形達が入って来ている扉とはその向かい側の扉から勢いよくヘルメットを被った男と空手道着の男が飛び込んで来た。
「ベラボー参上っ!!ベラボーキック!!」
「おぉぉっ!真空ぅぅっ!波動拳っっっ!!」
飛び込みつつ二人の男が技を放つ。
ボーーーン!!ドゴーーーン!!とベラボーキックと真空波動拳によって、自動人形達が吹き飛んだ。
「ぬぉっ?!誰じゃ?!」
驚くドクターカオス。だがキングが見知った二人の名を呼ぶ。
「リュウ!ベラボーマン!」
「キングさん、それにそこのお二方!早くこちらに!こちらに脱出口があります!!」
乱入して来たリュウは自分達の入って来たドアを死守するように波動拳を連発する。ベラボーマンも前に出て手足を伸ばして強烈なパンチやキックを繰り出し、三人とアンドロイドの退路を確保する。
「おおっ、地獄に仏じゃ!マリア、キング、嬢ちゃん、行くぞ!」
「わかったわ!!」
4人はリュウとベラボーマンの来た扉へと走り抜けた。それを確認すると同時にリュウが気を溜める。
「雷迅っ…!波動拳っっっ!!」
追いかけようと群がる自動人形達に、強烈な雷プラズマを含んだ波動拳が放たれた。
バヂバヂバヂバヂバヂバヂバヂ!!
自動人形は連鎖的にその放電を受け、中から弾け飛んで行く。
「リュウさん、早く!!」
「応っ!」
リュウが廊下へ出ると、ベラボーマンがその扉を締めそして五人は長い廊下を走り抜けて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さて、一方こちらは南極のカルデアである。
有栖零児と小牟はようやく藤丸立香の部屋の隣の空き部屋で落ち着く事が出来た。
「ふふーん、ベッドの柔らかさでホテルの質はわかるのじゃー!」
そう言って、ぱふーん、と小牟はベッドへダイブする。
「ここはホテルじゃない。というか、通信機器を借りて本部に報告しなければ。というかワケのわからん事態だからな」
零児はそう言うが、
「うーっ、長旅でワシャ疲れとるんじゃー。つか連絡ぐらい零児だけで良かろう?身体休めたい~っ!!」
と、小牟はベッドの上で駄々を捏ねる。小牟のこういう怠け癖はいつもの事ではあるが、しかしまだ任務中なのである。
零児は額に手を当てコメカミを揉むようにすると、溜め息を吐いた。
「……はぁっ、お前なぁ……」
いつもならば、尻百叩きだ、などと言うのだがしかし、急に小牟はベッドからガバリと起き出し、そして耳をピクリと動かした。
「これは……!」
その直後、ドカーン!と、遠くから爆発音が聞こえた。
「零児!」
小牟はベッドから降りる。零児も小牟に言われるまでもなくすぐさま自分のトランクへ手を伸ばし持った。
ガチャガチャガチャっ。
トランクの外装が外れ、彼の仕事道具である『護業』が現れる。
護業は、有栖零児が使う退魔用の武器を纏めたラックである。
納められている武器は、ショットガン『柊樹(ハリウッド)』、拳銃『金(ゴールド)』、刀『火燐(かりん)』『地禮(ちらい)』『霜燐(そうりん)』。
それぞれに陰陽五行に則った力が込められており、零児はそれを駆使した『護業抜刀法』によって悪霊や妖怪、様々な怪異と戦うのである。
……むろん、人間相手でもやたら使ったりしているわけなのだが。
「行くぞ、小牟!」
「合点承知の助じゃ!」
二人はドアの向こうへと駆け出して行った……。
⬅To be Continue
次回、全員合流……な、ハズ。
お待たせしていた方、すみません。趣味にかけている時間が全くない状況だったもので……。