こちらのファントムはコロラトゥーラを作らない方のギャグ畑の方に迷い込んだファントムです。
なお、アマゾーナの子には原作でもなむクロでも名前がありませんので、仮に名前をつけました。
「おおお……これは夢か……」
怪人は薄暗い玄室で声を聞いた。明るく希望に満ちた歌声。
歌の技法はまだ熟練とは言えないが、その声には光があり、それはかつて彼が愛した歌姫のものと同じく、彼の魂を揺さぶった。
「我が心を照らす光よ……クリスティーヌ……ああ、クリスティーヌ……」
おおおお……。
手を伸ばし、彼はその光へと誘われるかのように表の世界へと地下から這い上がり、冬木ドリームシアターの劇場のパイプオルガンの裏、その巨大な音響盤の隙間から舞台を覗いた。
舞台の上では、三人の少女がいた。
被り物とプロテクターをつけた少女に、女戦士のようなビキニアーマーをつけた少女。そして、猫耳の少女である。
怪人はそれが演劇の稽古であるのがわかった。
なにしろ台本片手にそれぞれが立ち位置を確認しつつ、そして客席の方で演出家というか監督というのかが指示をしつつ、セリフ回しや殺陣を入れながら、ゆっくりとした身振りや動作をしていたからだ。
(あの声……クリスティーヌは……どこだ……)
怪人は舞台の裏から狂気じみた目を見開き、耳を済ませて、かつての自分が愛した者がどの少女なのかを見定めようとしていた。
だが。
舞台に立つ一人の少女が、その気配に気付いて振り返った。
目と目が合い、怪人は歓喜した。
「おおおお、クリスティーヌ……!クリスティーヌ!!我が歌姫!!我が愛しのクリスティーヌゥゥゥッ!!」
歓喜の余り、怪人は自分が忍んでいた事すらも忘れ、パイプオルガンの音響盤の隙間、そのメンテナンスハッチを開けて飛び出した。
「キャーーーーッ!!」
怪人がクリスティーヌと呼んだ少女は、ビキニアーマーを付けた戦士、アマゾーナ役の少女、天野蒼奈(あまの・そうな)だった。
蒼奈は後ずさりしたが、ここは高い舞台の上であり、すぐ後ろは客席であり、それ以上は下がることができない。
怪人はパイプオルガンを背に、優雅な仕草で蒼奈に一礼をし、彼女の前にひざまずいて、そして。
「クリスティーヌ、恐れないでおくれ、我が美姫よ……。我が愛しの人、ああ……もっとその声を聞かせておくれ……。あの時のような恐れの声ではなく、初めて会った時のような希望の声、清らかで明るい日差しのごとき声を……!!」
怪人は愛しの歌姫の顔を見るために頭を上げた。
だが、その瞬間、怪人の視界にはものすごい勢いで顔面に迫る大剣が写った。
みぎゃっ!!
「ぶべらっ?!」
アマゾーナが持っていた剣を力いっぱい怪人の顔面に振り下ろしたのだ。
「来んな変態っ!!」
嗚呼、不幸なりし怪人。
彼がクリスティーヌと認定した少女は、本物の元悪の女戦士の力を持つアマゾーナだったのだ。
剣が演劇用のプラスチック製だったとしても、そのダメージは一般人ならば顔面骨折していてもおかしくは無い。
「ぐおおおお……、何をするクリスティーヌ……。もしや、あの時の事をまだ怒っているだろうか?しかしあの時は……」
しかしそこは流石に怪人、顔面を押さえつつ痛がっているようだがまだ普通に話している。
「何わけわかんない事いってんのよ!あんたでしょ?!このシアターに出てくる変態って!」
天野蒼奈は剣を上段に構えつつ、フーーーッ!!と気が立っている猫のごとく唸った。
これには怪人も慌てた。
「ま、待ってくれ、クリスティーヌ!私は君に危害を加えるつもりはない!それに変態でもない!!」
また剣で顔面を殴られては敵わないとばかりに怪人は手を突き出して後ずさりする。見ればマスクに罅が入っており、半分顔が見えている。
普通ならば常人の攻撃など通じないはずなのだ。
「アマゾーナ、ちょっと待って!もう相手は戦意喪失してるみたいだし、話ぐらいは聞いてもいいんじゃないかしら?」
モモが被っていたヘルメットを小脇に抱え、アマゾーナと怪人の間に割って入る。
「そうそう。とはいえ油断はしちゃだめよん?この人人間じゃないからにゃん?」
猫耳の少女がその手から爪を伸ばしてにやり、と怪人に笑顔を向けながら怪人が出てきたパイプオルガンのメンテナンスハッチの前に立った。逃走経路を遮断したのである。
「……話を聞いてくれるのはありがたい……。お前はサーヴァント?いや……違うのか?しかしお前こそ人間ではない。何者か?」
怪人はその猫耳の少女、いや、フェリシアを見て首を捻る。怪人が訝しむのも仕方はない。このフェリシアも人間ではない。ワーキャット、つまりダークストーカーなのである。
「あー、やっぱりわかるぅ?あたしはダークストーカーのフェリシアだよ。でもあんたはダークストーカーじゃない。悪霊か悪魔の類かとも思ったけど、全然匂いが違うね。あなたこそ何者?」
「この変態、人間じゃないの?」
「いや、アマゾーナ、変態は少し可哀相な気が……」
かの怪人も変態呼ばわりである。怪人はがっくりと凹んだ。それはそうだろう。全くの人違いであるものの彼はアマゾーナを自分がかつて愛した人であると思い込んでいるのである。それに変態呼ばわりされて落ち込まないわけはない。
普通の亡霊や悪霊ならばとっくに成仏しているほどのダメージである。
とはいえ怪人は亡霊や悪霊ではない。さらに成仏もないのだ。
「変態……うううっ、クリスティーヌ……あんまりだ」
しくしくしくしく。
「あー、メチャクチャショック受けてるよ~」
彼女達が話を彼から聞き出せるのは、もう少し時間が経たないと無理のようである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リュウは髑髏の騎士の指差した方向へと進んでいた。
東西に伸びる街道を進んでいたのだが、それはいつの間にかうっそうと生い茂る木々に覆われた森の、道無き場所へと変わっており、そしてその木々の隙間から、西洋風の城が見えていた。
「…………」
リュウは無言で進み続ける。
こういう事は前も数度あった。
異世界にいつの間にか紛れ込み異世界の強豪やゾンビ、怪物、果ては巨大な怪獣まで様々な相手と闘う羽目になるなど、もう両手に数えることすらできないほど体験してきた。
故に、リュウは異空間とも言うべき土地をそれが当たり前だと言うように平然と道無き道を進み、山籠もりをしていた頃に学んだ、木の枝の生い茂る方向で方角を読みつつ、正確に真っ直ぐと進み続けた。
全く慣れというものは怖いというのか、リュウが異常なのかはわからないが、この場合、冷静さを欠きむやみやたらと動き回る事の方が危険である。
幸い、向かう方向の手掛かりはとうに髑髏の騎士が示してくれたのである。
リュウは全く疑いもせず、真正直に東へ進み続ける。良くもまぁあのような不気味で奇妙な者の言ったことが信じられるものだと思ってしまうが、これも経験から得たリュウの人を見る目によるものだろう。
それにそれしか手掛かりは無く、選択肢も無いのだから仕方ないと言えばそうだろう。
そうして進み続け、ようやく広い土地へとリュウはたどり着いた。
「む?これは……城?」
そう、城としか形容出来ぬ建物、それも西洋の城である。その城は古いようでまだ建てられたようでもあり、不思議な質感を伴ってそこにあった。
「……この城が、あの髑髏の騎士が言っていた場所、なのか?」
リュウがそう呟くと、あたかもリュウを待って居たかのように。
ギギギギギギ……とその城は入り口の戸を開いた。
「中へ入れ、と言うことか」
リュウは険しい表情を浮かべるも、誘われるままにその城へと入って行った。
城の内部は暗く、僅かに日の光が差し込んでいる。入ってすぐの所は吹き抜けになっており、正面には階段があった。
「……この手の城は、デミトリとモリガンの城ぐらいしか知らないが、あの時程のプレッシャーは無いな」
人間、慣れというものは(ry
「あれ?あなたはリュウさん!」
と、柱の影から、声がした。
その影はひょっこりと姿を現すと手を振りながらリュウの前へとやってきた。
どう見てもサラリーマン。それもアタッシュケースを持った、黒縁眼鏡の典型的な営業職。
「……ベラボーマン?」
「あー、いえいえ、今は変身しておりませんし中村とお呼びください」
そう、彼は中村等。普段は見た目は平凡だが凄腕の営業サラリーマン。しかしてその実体は正義のヒーローベラボーマンである。
リュウはとある事件に巻き込まれた際に、このベラボーマンや他のヒーロー、様々な戦士達と世界を救う冒険を繰り広げた事があったのだが、その時にベラボーマンの正体も見知っていた。だが、変身ヒーローの正体を明かすのはルール違反である。リュウは素直に彼の本名で呼ぶことにした。
「うむ、わかった。中村さん、ここは一体……?」
「はぁ、私もとんとわかりかねます。というかリュウさんが来たので私もそれをお聞きしようと思ったのですが、どうやらお互いにここがどこなのかわからないと言うことですね」
「ふむ……」
「ええ、おそらくここに何かがあって我々が巻き込まれたと考えるべきでしょう」
「ではこういう時は……」
「まずはこの城の調査、ですかね」
異世界転移慣れしている二人である。せねばならないことはもう分かり切っている。
二人はお互いにここに来るまでに何があったのかを話しながら、城の奥へと進んで行った。
ファントム・オブ・ジ・オペラ。
現在の冬木ドリームシアターに現れたのはアサシンのファントムです。ですが、人形に向かってクリスティーヌの名を呼んでいたファントムも目撃されているわけで……。
なお、有栖零児は南極でオルガマリー所長に怒鳴られてたり。
待て!次回っ!!